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現代日本の安全保障とマス・メディア95小泉軍縮2

 

第1節  「安全保障と防衛に関する懇談会」

 

小泉内閣総理大臣は「安全保障と防衛に関する懇談会」を設けた。

 

座長は東京電力顧問の荒木浩氏、

 

座員は

 

張富士夫・トヨタ自動車社長、

 

五百旗頭真・神戸大学教授、

 

佐藤謙・元防衛庁事務次官、

 

田中明彦・東京大学教授、

 

西元徹也・元統合幕僚会議議長、

 

樋渡由美・上智大学教授、

 

古川貞二郎・前内閣官房副長官、

 

柳井俊二・前駐米大使、

 

山崎正和・東亜大学長であった。

 

「安全保障と防衛に関する懇談会」は、2004年10月15日に答申を出した。

 

第1部には新たな日本の安全保障戦略と題して、21世紀の安全保障環境、統合的安全保障戦略、新たな安全保障戦略を支える防衛力を打ち出した。

 

21世紀の安全保障環境において、

 

「2001年9月11日、安全保障に関する二十一世紀が始まった。国家からの脅威のみを安全保障の主要な課題と考えていればよい時代は、過去のものとなった」と述べた。

1970年代からすでに始まっているテロの脅威に対して遅すぎる指摘である。

 

一方で「他方の極によるきわめて古典的な戦争の可能性がある。その中間にあらゆる組み合わせによる危険が存在している。」

と極めて常識的な視点で述べている。

 

統合的安全保障戦略においては、大きな目標として、

 

「第一には日本に直接脅威が及ぶことを防ぎ、脅威が及んだ場合にその被害を最小化することである。第二の目標は、世界の様々な地域において脅威の発生確率を低下させ、日本に脅威が及ばないようにすることである。」

 

と述べ、これらの目標を達成するために、「国家からの脅威のみ対象にしていた『基盤的防衛力』の概念は、安全保障環境の変化を踏まえて見直す必要がある」と指摘している。

 

新たな安全保障戦略を支える防衛力として、「多機能弾力的防衛力」を提案している。情報収集・分析能力と伝統的な脅威に対応するために「一定程度の『基盤的』能力を持たなければならず」、また「非国家主体からのテロなどへの対応能力も持たなければならない。」としている。また、国際的安全保障環境改善のために「有効な国際平和協力活動を行う能力が必要」と指摘している。これら多機能弾力的防衛力の要は「情報収集・分析力」であるとしている。

 

第2部は新たな安全保障戦略を実現するための政策課題として、統合的安全保障戦略の実現に向けた体制整備、日米同盟のあり方、国際平和協力の推進、装備・技術基盤の改革をあげている。

 

統合的安全保障戦略に向けた体制整備には緊急事態対処、情報能力の強化、安全保障会議の機能の抜本的強化、テロの未然防止に必要な法制度の整備、を指摘している。日米同盟のあり方においては、時代に適合した新たな「日米安保共同宣言」や「日米防衛協力のための指針」の策定を提案している。国際平和協力の推進では自衛隊の本来任務化、武器使用権限の付与、治安維持のための警察的活動の検討を提案している。装備、技術基盤の改革においては、国産追求の見直し、弾道ミサイル防衛における武器輸出三原則の見直しの必要をあげている。

 

第3部は防衛力のあり方について述べている。

 

「本格的な武力進攻を行いうる脅威は当分の間存在しないと思われる」

 

とし、

 

「むしろゲリラや特殊部隊による重要施設等への攻撃や国内のかく乱、島嶼部への侵略、周辺海空域における軍事的な不法行為など烈度の低い軍事力行使に対して即応しうる必要がある」

 

としている。また、国際的な脅威の予防のため平和協力活動に参加しうるよう長距離・大量の輸送機能の充実を求めている。

 

防衛力の具体的な構成について、陸上防衛力は

 

「対機甲戦を中心とする本格的着上陸対処のための編成・装備・配置を見直し、烈度の低い多様な軍事行動への即応体制の構築に重点を移す。戦車・特科等の重装備部隊を中心思い切った縮減効率化を図る」

 

と提言している。

 

海上防衛力は

 

「対潜水艦戦闘を中心とした編成・装備・配置から、島嶼防衛や弾道ミサイルの監視・対処、武装工作船による不法行為対処等に重点を移す。艦艇部隊、航空機部隊については、その体制を縮減・効率化する。その際、護衛艦を活用してミサイル防衛能力を整備する。」

 

とした。航空防衛力は

 

「戦闘機を含む航空機部隊の縮減・効率化を図る。誘導弾部隊については、ミサイル防衛力を整備する。」

 

とした。

 

また、「統合の推進」として「統合運用に必要な中央組織を整備する。」ことを提言した。ミサイル防衛について「法改正を含め必要な措置を講ずべきである。」とし、策源地への攻撃能力を持つことが適当か否かは、「慎重に検討し」、「総合的に判断すべきである。」としている。

 

必要最小限の「基盤的防衛力」から、あらゆる脅威に対応する「多機能弾力的防衛力」への変更を訴え、テロへの対処を明言するなど新機軸を打ち出した提言であるが、具体的な防衛力においては削減ありきの結論で、新たなる危機、古典的な紛争にも対応していない。(注1)