日本の国家安全保障とマス・メディアに関する論文です。

「日本の国家安全保障」

2000年代

田中大介

 

  日本の国家安全保障 

        2000年代

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     田中大介

 

 

 

 

 

2000年代の日本の国家安全保障

 

 

 

 

 

 

 

第1章 2000年に入ってからの情勢


 

ジョージ・ウォーカー・ブッシュ大統領と小泉純一郎首相の誕生と、「アル・カイダ」によるテロの発生

 

アメリカ合衆国では2000年の大統領選挙で、民主党の第42代大統領ウィリアム・ジェファーソン・クリントン(ビル・クリントン)に次いで、第43代大統領に共和党のジョージ・ウォーカー・ブッシュが選出された。民主党大統領候補の現職副大統領アル・ゴアとは激戦であった。アル・ゴアの外交ブレーンはズビグニュー・ブレジンスキーで、ブレジンスキーは97年の『フォーリン・アフェアーズ』において日本を「保護国」(属国)と定義し、中国を北大西洋条約機構(NATO)と同等のパートナーとして扱うと述べるなど、日本にとって受け入れがたい政策を掲げていた。そのため、ジョージ・ウォーカー・ブッシュが大統領に選出されたことは日本にとって朗報であった。

 ジョージ・ウォーカー・ブッシュは国務副長官にリチャード・アーミテージ(元国防次官補)、国防副長官にポール・ウォルフォウィッツ(元国防次官)を指名した。リチャード・アーミテージとポール・ウォルフォウィッツは「アーミテージ・リポート」において、日本をイギリスと同等に扱うよう提言しており、日本の国際的地位向上につながることが有望視された。

 国務長官にはロナルド・レーガン政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官、ジョージ・H・W・ブッシュ政権で合衆国軍統合参謀本部議長、陸軍大将だった保守穏健派のコリン・パウエルが、国防長官にはネオ・コン派で、リチャード・ニクソン政権で大統領首席補佐官、ジェラルド・フォード政権の国防長官、ドナルド・ラムズフェルドが就任した。国家安全保障担当大統領補佐官にはスタンフォード大学教授のコンドリーザ・ライスが就任した。

 日本では第86代内閣総理大臣・森喜郎に代わり、第87代内閣総理大臣に小泉純一郎が選出された。

 

 

第2章 小泉構造改革の一環としての防衛計画の大綱見直し

 

小泉純一郎内閣総理大臣は、郵政民営化をはじめ各種の「構造改革」に乗り出した。そのひとつに防衛も含まれることとなった。

中国の大軍拡はますます勢いを増し、北朝鮮の情勢不安定と軍事的挑発は続き、韓国の日本に対する軍事的挑戦が強まり、経済が復調したロシアは極東での権益を増すため軍事力を強化していた。

 日本の防衛力増強は必至であった。しかし小泉政権は軍縮を目指したのであった。

 

第1節   「安全保障と防衛に関する懇談会」

 

小泉内閣総理大臣は「安全保障と防衛に関する懇談会」を設けた。座長は東京電力顧問の荒木浩氏、座員は張富士夫・トヨタ自動車社長、五百旗頭真・神戸大学教授、佐藤謙・元防衛庁事務次官、田中明彦・東京大学教授、西元徹也・元統合幕僚会議議長、樋渡由美・上智大学教授、古川貞二郎・前内閣官房副長官、柳井俊二・前駐米大使、山崎正和・東亜大学長であった。

「安全保障と防衛に関する懇談会」は、2004年10月15日に答申を出した。

 

第1部には新たな日本の安全保障戦略と題して、21世紀の安全保障環境、統合的安全保障戦略、新たな安全保障戦略を支える防衛力を打ち出した。21世紀の安全保障環境において、「2001年9月11日、安全保障に関する二十一世紀が始まった。国家からの脅威のみを安全保障の主要な課題と考えていればよい時代は、過去のものとなった」と記述した。1970年代からすでに始まっているテロの脅威に対して遅すぎる指摘である。一方で「他方の極によるきわめて古典的な戦争の可能性がある。その中間にあらゆる組み合わせによる危険が存在している。」と極めて常識的な視点で記述している。

統合的安全保障戦略においては、大きな目標として、「第一には日本に直接脅威が及ぶことを防ぎ、脅威が及んだ場合にその被害を最小化することである。第二の目標は、世界の様々な地域において脅威の発生確率を低下させ、日本に脅威が及ばないようにすることである。」と述べ、これらの目標を達成するために、「国家からの脅威のみ対象にしていた『基盤的防衛力』の概念は、安全保障環境の変化を踏まえて見直す必要がある」と指摘している。

新たな安全保障戦略を支える防衛力として、「多機能弾力的防衛力」を提案している。情報収集・分析能力と伝統的な脅威に対応するために「一定程度の『基盤的』能力を持たなければならず」、また「非国家主体からのテロなどへの対応能力も持たなければならない。」としている。また、国際的安全保障環境改善のために「有効な国際平和協力活動を行う能力が必要」と指摘している。これら多機能弾力的防衛力の要は「情報収集・分析力」であるとしている。

第2部は新たな安全保障戦略を実現するための政策課題として、統合的安全保障戦略の実現に向けた体制整備、日米同盟のあり方、国際平和協力の推進、装備・技術基盤の改革をあげている。

統合的安全保障戦略に向けた体制整備には緊急事態対処、情報能力の強化、安全保障会議の機能の抜本的強化、テロの未然防止に必要な法制度の整備、を指摘している。日米同盟のあり方においては、時代に適合した新たな「日米安保共同宣言」や「日米防衛協力のための指針」の策定を提案している。国際平和協力の推進では自衛隊の本来任務化、武器使用権限の付与、治安維持のための警察的活動の検討を提案している。装備、技術基盤の改革においては、国産追求の見直し、弾道ミサイル防衛における武器輸出三原則の見直しの必要をあげている。

第3部は防衛力のあり方について述べている。「本格的な武力進攻を行いうる脅威は当分の間存在しないと思われる」とし、「むしろゲリラや特殊部隊による重要施設等への攻撃や国内のかく乱、島嶼部への侵略、周辺海空域における軍事的な不法行為など烈度の低い軍事力行使に対して即応しうる必要がある」としている。また、国際的な脅威の予防のため平和協力活動に参加しうるよう長距離・大量の輸送機能の充実を求めている。

防衛力の具体的な構成について、陸上防衛力は「対機甲戦を中心とする本格的着上陸対処のための編成・装備・配置を見直し、烈度の低い多様な軍事行動への即応体制の構築に重点を移す。戦車・特科等の重装備部隊を中心思い切った縮減効率化を図る」と提言している。海上防衛力は「対潜水艦戦闘を中心とした編成・装備・配置から、島嶼防衛や弾道ミサイルの監視・対処、武装工作船による不法行為対処等に重点を移す。艦艇部隊、航空機部隊については、その体制を縮減・効率化する。その際、護衛艦を活用してミサイル防衛能力を整備する。」とした。航空防衛力は「戦闘機を含む航空機部隊の縮減・効率化を図る。誘導弾部隊については、ミサイル防衛力を整備する。」とした。また、「統合の推進」として「統合運用に必要な中央組織を整備する。」ことを提言した。ミサイル防衛について「法改正を含め必要な措置を講ずべきである。」とし、策源地への攻撃能力を持つことが適当か否かは、「慎重に検討し」、「総合的に判断すべきである。」としている。

必要最小限の「基盤的防衛力」から、あらゆる脅威に対応する「多機能弾力的防衛力」への変更を訴え、テロへの対処を明言するなど新機軸を打ち出した提言であるが、具体的な防衛力においては削減ありきの結論で、新たなる危機にも古典的な紛争にも対応していない。 

 北朝鮮の核開発、ミサイル開発、特殊部隊・ゲリラの脅威、朝鮮労働党の工作員がクローズ・アップされた2000年代初頭。

1990年代から中国の軍拡、中国の脅威は明らかになっていた。中国はロシアからスホーイSu-27戦闘機、スホーイSu-30戦闘爆撃機をを輸入するとともに中国国内でライセンス生産も開始、MiG-19戦闘機、殲撃7戦闘機など第2世代戦闘機、殲撃8戦闘機、殲撃8Ⅱ戦闘機など第3世代戦闘機、スホーイSu-27戦闘機、スホーイSu-30戦闘爆撃機など第4世代戦闘機、戦闘機を3000機以上配備、爆撃機140機とともに海軍力も大幅に増強していた。ロシアの軍事力も復活し、韓国はボーイングF-15K戦闘爆撃機とAGM-84H SLAM-ERスタンド・オフ陸上攻撃ミサイル射程距離延伸型を導入、さらに国産巡航ミサイルを搭載する駆逐艦も大幅に増強するなど脅威になっていた。中国の軍拡、中国の脅威、ロシアの軍事力復活、韓国の大軍拡と攻勢が明らかになって久しい2004年、小泉純一郎政権の「安全保障と防衛に関する懇談会」は自衛隊装備の削減、軍縮、を志向していた。(注1)

注1 安全保障と防衛力に関する懇談会『安全保障と防衛力に関する懇談会報告書』(平成16年)

 

 

第2節   防衛計画の大綱の見直し

 

  

 「安全保障と防衛に関する懇談会」の答申を受けて、防衛計画の大綱の見直しが始まった。小泉純一郎内閣総理大臣は、防衛計画の大綱の見直しに、「小泉構造改革」を反映させようとした。その結果、小泉総理大臣は財務省に主導権を持たせた。

小泉総理大臣と財務省首脳の意向をうけた片山さつき財務省主計官は独自の発想に基づく防衛計画の大綱見直し案を提案してくる。片山さつき財務省主計官は「陸上兵力で言えば戦車、火砲、対戦車用ヘリ。海上兵力では護衛艦、対潜哨戒機。航空兵力では、戦闘機などの作戦用航空機など。冷戦型の正面装備になる。」、「日米同盟を強化するなら、なぜ自衛隊を強化する必要があるのか」と的外れな思い込みが激しかった。

テロ対策、ゲリラ・コマンド対処にしても「施設に人を張り付ける非効率な守り方から、情報能力を高めて、敵に張り付ける効率的な方法に変更するというのが、RMAの考え方」、「対象国として想定されている北朝鮮の特殊部隊2500人が日本に向け侵攻し、接岸するとの想定が、アメリカはじめ、わが国も含め周辺各国が情報衛星などを含めてあらゆる方法で集中監視している国から、これまでのような少人数ならいざ知らず、2500人もの大規模部隊が、移動を始めたことすら探知も捕捉もされないほど、甘い国際環境に北朝鮮はおかれていない。」と甘い考えを表明している。特殊部隊の作戦能力、特殊部隊の浸透能力、特殊部隊の輸送能力、を知らないと思われる財務省の片山さつき主計官。(注1)

 

 

1995年防衛計画の大綱では陸上自衛隊現有定員は16万人(実際は16万7千人)、常備編成定員は15万8千人、予備自衛官と即応予備自衛官9千人、戦車979両であった。

 財務省と片山さつき財務省主計官は陸上自衛隊の編成定数を12万人、うち常備編成定数を11万人、予備自衛官及び即応予備自衛官を1万人とし、戦車は425両と半減した。また北海道の2個師団・2個旅団4万3千人を1個師団1万3千人にするなど、大幅な削減を提案した。これは日本の国土の2/3で、人口は1/2、さらに友好国、同盟国に囲まれたイギリス陸軍(ブリティッシュ・アーミー)の現役兵力より少ない数で、予備役を含めるとさらに少ない数となる。また、装甲厚700mm以上(均質圧延防弾鋼板換算)に及ぶ複合装甲と、装軌・1500馬力のエンジンによる走破性・機動力、120mm砲の圧倒的な火力によって戦場のパトロールをはじめゲリラ・コマンド対処、機甲戦などで有効であるとともに、戦車があまり役に立たないと思われていたアフガニスタン山岳地帯でも戦車が最も有効な兵器とされカナダ軍が戦車を増備するなど、近年のあらゆる紛争で戦車の有効性が証明されているのに、財務省の片山さつき主計官は数を半減させている。

 また、片山さつき財務省主計官は「他国は少数精鋭化している。この事実を防衛庁側はいまだみとめようとはしない」としているが、陸上自衛隊は国土面積38万平方km、人口1億2700万人の大国でありながら、編成定数16万人の少数精鋭である。また、近年の紛争頻発、激化によって各国は陸上兵力を増加させている。災害には、「自衛隊、警察、消防、自治体が協力して対応すべき」と言いながら、災害救援に当たる警察の機動隊の削減、消防庁予算の削減も要求され続けている。(注1)

1995年防衛計画の大綱では海上自衛隊の護衛艦数は54隻であった。

 財務省の片山さつき主計官は、海上自衛隊の護衛艦数は38隻と主張した。

 ロシアは原子力潜水艦と水上戦闘艦の戦力を維持し続けていた。

中国が海軍力を大軍拡し、1988年にはベトナムを攻撃・侵略、1995年にはフィリピンを攻撃・侵略し、尖閣諸島、南沙諸島、中沙諸島を領海と主張し、武力行使を宣言、ミスチーフ礁(美済礁)、ジョンソン・サウス礁(赤爪礁)、ヒューズ礁(東門礁)、スビ礁(渚碧礁)、クアルテロン礁(華陽礁)、ファイアリー・クロス礁(永暑礁)、ガベン礁(南薫礁)を実効支配するなか、片山さつき財務省主計官は海上自衛隊の大幅軍縮を主張した。

航空自衛隊の戦闘機数は編成定数300機、実際は295機であった。

財務省の片山さつき財務省主計官は航空自衛隊の戦闘機数は216機と主張した。

航空自衛隊のこの数字は北海道より人口も面積も小さいイスラエルの469機(F-15A/B戦闘機47機、F-15I戦闘爆撃機60機、F-16A/B/C/D戦闘機362機)、発展途上国のトルコ484機(F-16C/D戦闘機270機、F-4E戦闘機214機)、サウジ・アラビア325機(F-15C/D戦闘機98機、F-15S戦闘爆撃機72機、トーネードADV防空戦闘機60機、トーネードIDS戦闘攻撃機45機、F-5E/F戦闘機50機)、九州程度の大きさで人口が2000万人しかいない台湾575機(F-16A/Bブロック20戦闘機150機、ミラージュ2000戦闘機60機、IDF経国戦闘機150機、F-5E/F戦闘機215機)よりも少ない数である。

さらに15年以上前年度比10%以上の軍事費増加を続け、スホーイSu-27戦闘機とスホーイSu-30戦闘爆撃機を輸入とライセンス生産するとともに、旧世代戦闘機を3000機、爆撃機を140機保有し、近隣諸国への侵略と覇権の姿勢を見せる中国や、スホーイSu-27戦闘機、スホーイSu-30戦闘爆撃機、ミコヤンMiG-29戦闘機、ミコヤンMiG-31戦闘機、ツポレフTu-22爆撃機、ツポレフTu-95爆撃機、ツポレフTu-160爆撃機を200機を保有し、歴史的に覇権主義、拡張主義の国防体制をとるロシアに接する、人口1億2700万人、国土面積38万平方km世界でも有数の領空・排他的経済水域を持つ日本では、従来の編成定数でも不足する。それでも財務省の片山さつき主計官は航空自衛隊の戦力を大幅に削減・軍縮しようとした。

一方、防衛庁は陸上自衛隊の編成定数を16万2千人、うち常備自衛官を15万2千人、予備自衛官及び即応予備自衛官を1万人、戦車の数は678両と提案、海上自衛隊の護衛艦数を50隻、航空自衛隊の戦闘機数を282機と提案した。ゲリラ・コマンド対処に必要なマン・パワーを増加させているが、戦車、護衛艦、戦闘機を削減ありきで削減している。

小泉内閣総理大臣は2004年12月1日の参議院予算員会で、「防衛予算も聖域はない。前年度以下に抑制するように、増やすべきは増やしていいが、それに見合った削減も考えてくれと言っている。」と発言した。(注2)

 

細田博之・内閣官房長官は2004年12月8日に、東京・赤坂全日空ホテルで与党安全保障に関するプロジェクトチームの額賀福志郎氏に対して、「定数は抑制的にしてほしい。私の感触として小泉首相はそうだ。」と述べ、小泉純一郎・内閣総理大臣と細田博之・内閣官房長官は高まる脅威の中、軍縮と防衛費削減を指示した。(注3)

  小泉内閣総理大臣は2004年12月1日の参議院予算員会で、「防衛予算も聖域はない。前年度以下に抑制するように、増やすべきは増やしていいが、それに見合った削減も考えてくれと言っている。」と発言した。(注2)

細田博之・内閣官房長官は2004年12月8日に、東京・赤坂全日空ホテルで与党安全保障に関するプロジェクトチームの額賀福志郎氏に対して、「定数は抑制的にしてほしい。私の感触として小泉首相はそうだ。」と述べ、小泉純一郎・内閣総理大臣と細田博之・内閣官房長官は高まる脅威の中、軍縮と防衛費削減を指示した。(注3)

新しい防衛計画の大綱では、軍縮傾向政策と防衛費削減を主張する小泉純一郎内閣総理大臣と細田博之・内閣官房、大幅な軍縮と防衛費の大幅な削減を主張する財務省と財務省の片山さつき主計官、若干の軍縮と若干の防衛費削減を主張する防衛庁だったが、結局は折衷案的なものに仕上がった。

新しい防衛計画の大綱において陸上自衛隊は、陸上自衛隊編成定数15万5000人、うち常備自衛官定員14万8000人、即応予備自衛官定員数7000人(中期防完成時編成定数16万1000人程度、うち常備自衛官定員数15万2000人程度、即応予備自衛官定員数8000人程度)とした。戦車は約600両(中期防完成時790両)とされた。主要特科装備は約600門/両(中期防完成時には約830門/両)とされた。

新しい防衛計画の大綱において海上自衛隊は、護衛艦部隊(機動運用)は4個護衛艦群(8個隊)32隻とされ、護衛艦部隊(地域配備)は5個隊(約15隻、中期防完成時に6個隊)とされた。

新しい防衛計画の大綱において航空自衛隊は、航空自衛隊の作戦用航空機は約350機、うち戦闘機は約260機とされた。

国土面積が日本の1割程度の広さで、人口も1600万人のオランダは1995年、F-16A/B戦闘機だけで210機保有していた。オランダより領土、領海、領空、排他的経済水域がはるかに大きい日本は2004年、戦闘機がわずか260機とされた。

 中国、ロシア、北朝鮮、韓国が日本に敵意を向け大幅に軍拡をするなか、日本は大幅に軍縮し防衛費を削減した。小泉純一郎・内閣総理大臣、細田博之・内閣官房長官、財務省、財務省の片山さつき主計官は軍縮、防衛費削減に成功した。高まる脅威の中、日本は人口と国土面積、排他的経済水域に対して大幅に不足する防衛力となった。

 

 

 

注1 片山さつき「自衛隊にも構造改革が必要だ」『中央公論』中央公論社2005年1月        

注2 参議院予算委員会2004年12月1日

注3 読売新聞朝刊2004年12月9日

 

 

 

第1節   平成17年度以降に係る防衛計画の大綱における防衛力 

 

 

 

  

第1項   平成17年度以降に係る防衛計画の大綱における防衛力 陸上自衛隊

 

 

 

  

 増加された常備自衛官定員数は北朝鮮などのゲリラ・コマンド部隊対処に必要なマン・パワーの確保のため増加された。平時地域に配備する部隊は8個師団・6個旅団とされた。第1師団(南関東・静岡)、第2師団(道北)、第3師団(近畿)、第4師団(九州北部)、第6師団(東北南部)、第7師団(機動運用部隊・機甲師団)、第8師団(九州南部)、第10師団(中部)と第5旅団(道東)、第9旅団(東北北部)、第11旅団(道央、道南)、第12旅団(北関東・甲信越)、第13旅団(中国)、第14旅団(四国)である。沖縄は第1混成団が防衛するが、将来的には第15旅団に格上げされることになった。第9師団は第9旅団になる予定だった。

 機動運用部隊には第7師団(1個機甲師団)、中央即応集団があてられた。

第7師団は第3世代戦車の三菱重工業 90式戦車を装備する部隊である。

三菱重工業90式戦車は均質圧延防弾鋼、チタニウム合金、セラミックで構成される複合装甲、日本製鋼所でライセンス生産されるドイツ・ラインメタルの120mm滑腔砲、パッシブ赤外線暗視装置、レーザー照準装置、デジタル・コンピューターなどの最新センサーと演算装置を装備する。三菱重工業 90式戦車には三菱重工業 89式装甲戦闘車(均質圧延防弾鋼装甲、エリコンKDE35mm機関砲と川崎重工業79式対舟艇対戦車誘導弾を装備、乗員3名・搭乗普通科隊員7名)、三菱重工業 73式装甲車(アルミニウム合金装甲、乗員3名・搭乗普通科隊員8名)、三菱重工業 87式自走高射機関砲(エリコンKDA35mm機関砲とレーダー、赤外線映像装置、TVカメラ、レーザー距離測定装置を装備)などが随伴し三菱重工業 90式戦車を守る。

第7師団(本部:北海道・千歳駐屯地)は北部方面隊に配備され、第71戦車連隊、第72戦車連隊、第73戦車連隊を核に、第7化学防護隊、第7飛行隊、第7偵察隊、第7通信大隊、第7施設大隊、第7後方支援大隊、第7高射特科大隊、第7砲兵連隊、第11普通科連隊を擁する。

 

中央即応集団は第1空挺団、中央即応連隊、中央特殊武器防護隊、第1ヘリコプター団、特殊作戦群、を隷下に置く。

 

第1空挺団は千葉県習志野駐屯地に駐屯し、団本部、団本部中隊(偵察小隊、降下誘導小隊)、第1普通科大隊、第2普通科大隊、第3普通科大隊、空挺特科大隊、空挺後方支援隊、空挺通信中隊、空挺施設中隊、空挺教育隊、対テロ中隊、からなる2000人の部隊である。(注2)

第1空挺団の隊員の多くは空挺レンジャー資格保有者で占められ精強を誇る。

 

 中央即応連隊は2008年3月26日に栃木県宇都宮駐屯地で正式に発足した。国内での各方面隊への増援や、国際平和協力活動における先遣隊の役割を果たす。隊員はレンジャー資格保有者や第1空挺団出身者が多く、錬度も非常に高い。700人で構成され、本部管理中隊と3個普通科中隊からなる。

 

 中央特殊武器防護隊は第101特殊武器防護隊として2007年3月28日に埼玉県大宮駐屯地で発足した。2008年3月26日に中央特殊武器防護隊に名称変更している。

 基になったのは第101化学防護隊である。中央特殊武器防護隊は隊本部、本部中隊、第102特殊武器防護隊と第103特殊武器防護隊を隷下に置く。装備は化学防護車(82式指揮通信車ベース)、化学剤監視装置、除染車3型B、除染装置、携帯除染器2型、発煙機3型、生物偵察車、液体散布車、生物剤対処用衛生ユニット、防護マスク4型、化学防護衣4型、空気マスク、火災防護衣、ガス検知器2型、CR警報機、化学剤検知器AP2C、線量計3型、携帯線量計セット、携帯生物検知器、生物剤警報器、携帯気象計1-3型、携帯気象計2型、中性子線用線量率計などである。(注1)

 対特殊武器衛生隊は朝霞駐屯地に駐屯し、方面隊を支援する。

 

 

 第1ヘリコプター団は千葉県木更津駐屯地に駐屯し、団本部、本部管理中隊、第1輸送ヘリコプター群(第103飛行隊、第104飛行隊、第105飛行隊、第106飛行隊)、第102飛行隊、特別輸送ヘリコプター隊、第1ヘリコプター野整備隊、連絡偵察飛行隊を隷下に置く。

 第1ヘリコプター群にはボーイングCH-47JAチヌーク輸送ヘリコプターが配備され、大量輸送を行う。第102飛行隊にはユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーUH-60JA多用途ヘリコプター、マクドネル・ダグラスOH-6D観測ヘリコプターが配備される。ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーUH-60JA多用途ヘリコプターは、合衆国陸軍のユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーMH-60L特殊作戦ヘリコプターに匹敵する事実上の特殊作戦ヘリコプターである。第102飛行隊は合衆国陸軍の第160特殊作戦航空連隊「ナイト・ストーカーズ」のように、特殊作戦を航空支援する部隊となる。特別輸送ヘリコプター隊はユーロコプターEC225LP輸送ヘリコプターを装備する要人輸送部隊である。連絡偵察飛行隊は三菱重工業LR-1連絡偵察機、レイセオン・エアクラフト(ビーチ・エアクラフト)LR-2連絡偵察機で偵察、連絡を行う。(注3)

 陸上自衛隊特殊作戦群は2004年3月、千葉県・習志野駐屯地で正式に発足した。

 

陸上自衛隊特殊作戦群は対テロ、対ゲリラ、対コマンド/対特殊部隊を担当する陸上自衛隊最強の部隊である。陸上自衛隊特殊作戦群は戦闘部隊が200人、支援部隊が100人の300人と発表された。

陸上自衛隊特殊作戦群は当初、空挺レンジャー資格保有者、部隊レンジャー資格保有者を中心に選抜された。その後も空挺レンジャー資格保有者、部隊レンジャー資格保有者を中心に構成されるものの、レンジャー資格が無くても特殊作戦群のセレクションに呼ばれることがある。

米ソ冷戦時代にもテロ・ゲリラ・コマンド・特殊部隊の危機は存在していたのだが、テロ対処・ゲリラ対処・特殊部隊/コマンド対処には治安の要素があるため、陸上自衛隊が任務とすることに警察庁の反対があった。 

陸上自衛隊が特殊部隊を創設しテロ対処・ゲリラ対処・特殊部隊/コマンド対処を実施すると、左派マス・メディア、左派市民運動家、左派政治家が「国民に銃を向けるのか」、「戦争の準備をしている」、「市民が巻き込まれる」という反対の声を上げる可能性が高かった。

陸上自衛隊がテロ対処・ゲリラ対処・特殊部隊/コマンド対処を本格化させること、特殊部隊を創設することは躊躇われてきた。

しかし、ソ連が崩壊し、機甲部隊の衝突の可能性が低くなったため、相対的にテロ対処・ゲリラ対処・特殊部隊/コマンド対処の比重は高まった。

また、1992年からはじまった北朝鮮による大量破壊兵器保有に対する国際的な制裁問題で、1994年、北朝鮮の暴発・崩壊の可能性が高まり、世界有数の特殊部隊・コマンド部隊、ゲリラ部隊・テロ部隊を有する北朝鮮の脅威が切迫したものとなった。

以前からソ連の日本進攻時に真っ先に投入されるソ連軍参謀総局特殊任務部隊(スペツナズ)を考慮はしていたが、こうした経緯で防衛庁、陸上自衛隊のなかでもゲリラ・コマンド対処の重要性が再認識された。

陸上自衛隊は第1空挺団にゲリラ・コマンド研究班を設立、合衆国陸軍特殊作戦コマンド、合衆国陸軍特殊部隊コマンド、合衆国陸軍特殊部隊群(グリーン・ベレー)、合衆国陸軍第1特殊部隊作戦分権隊D(デルタ・フォース)、ジョン・F・ケネディ特殊戦センター・アンド・スクールに要員を派遣し、部隊運用、作戦、訓練のノウハウを学んだ。

長期間の準備を経て遂に2004年3月、陸上自衛隊特殊作戦群が正式に発足した。

 

 

 中央即応連隊は2008年3月26日に栃木県宇都宮駐屯地で正式に発足した。国内での各方面隊への増援や、国際平和協力活動における先遣隊の役割を果たす。隊員はレンジャー資格保有者や第1空挺団出身者が多く、錬度も非常に高い。700人で構成され、本部管理中隊と3個普通科中隊からなる。

 

 

 

2002年3月には西部方面隊直轄の組織として西部方面普通科連隊が長崎県・相浦駐屯地で発足した。島嶼部、山岳の多い西部方面隊の地形に対応する部隊で、敵が占領・潜伏した離島の奪還、情報収集、テロ・ゲリラ・特殊部隊/コマンド対処がおもな任務である。水路からの潜入、山中機動、ヘリコプターを使っての空路からの侵入など難しい戦術をこなす。レンジャー資格保有者が多数を占める。一方、新兵も比較的多く採っている。(注4)

西部方面普通科連隊は本部管理中隊と3個普通科中隊からなる660人の連隊である。非常に重い81mm迫撃砲を担いでの険しい山中の機動や、装具を身につけての長距離水泳での水路侵入など任務は過酷を極める。

 

 

北海道の防衛を担う北部方面隊(総監部:北海道・札幌駐屯地)には、2個師団・2個旅団が置かれた。

機動運用・機甲師団とされた第7師団と、歩兵師団である第2師団、歩兵旅団の第5旅団、第11旅団がある。

第2師団(本部:北海道・旭川駐屯地)は、第2戦車連隊、第3普通科連隊,第25普通科連隊,第26普通科連隊を基幹に道北に配置される。

第5旅団(本部:北海道・帯広駐屯地)は、第5戦車大隊、第5特科隊、第4普通科連隊、第6普通科連隊、第27普通科連隊を基幹に道東に配置される。

第11旅団(本部:北海道・真駒内駐屯地)は道央、道南を防衛地域とし、第11戦車隊、第11特科隊、第10普通科連隊、第18普通科連隊、第28普通科連隊を基幹とした部隊である。

第1戦車群は90式戦車、74式戦車を装備する精強な部隊であったが、徐々に規模を縮小された。

また、第1特科団にはLTV/ローラル・ヴォート・システムズM270多連装ロケット発射システム、ゼネラル・ダイナミクスM110 203mm自走りゅう弾砲、88式地対艦誘導弾が配備され、強力な火力で敵を撃滅することが期待された。

東北は東北方面隊(総監部:宮城県・仙台駐屯地)が担当する。

南東北は第6師団(本部・神町駐屯地)が防衛する。第20普通科連隊、第22普通科連隊、第44普通科連隊を基幹とした約9000名の甲師団である。

北東北は第9師団(本部:青森県・青森駐屯地)が、第5普通科連隊、第21普通科連隊、第39普通科連隊を基幹とする師団が置かれた。

第9師団は第9旅団となる計画だった。

関東・甲信越・静岡の防衛は東部方面隊(総監部:埼玉県・朝霞駐屯地)が担当した。

南関東と山梨県、静岡県は第1師団(本部・市ヶ谷駐屯地)が担当し、即応近代化師団の政経中枢師団とされた。第1普通科連隊、第31普通科連隊、第32普通科連隊、第34普通科連隊、第1戦車大隊を基幹とする師団である。

北関東と新潟県は第12旅団(本部・相馬原駐屯地)がおかれた。第2普通科連隊、第13普通科連隊、第30普通科連隊、第12ヘリコプター隊を基幹とする旅団であった。

第12師団から戦車と普通科が大幅削減され、ヘリコプターを大幅増強する空中機動旅団となる予定だった第12旅団だが、ヘリコプターは若干の増加にとどまり、戦車と普通科が大幅に削減されただけの軍縮となってしまった。

日本の面積の30%を防衛するのは中部方面隊(総監部:兵庫県・伊丹駐屯地)である。西部本州と四国が担当地域である。

近畿地方を防衛するのは第3師団(本部:兵庫県・千僧駐屯地)で、第7普通科連隊、第37普通科連隊、第36普通科連隊、第3戦車大隊を基幹とする師団で、第45普通科連隊が廃止され定員・9100人の甲師団から定員・7000人の即応近代化師団の政経中枢師団となった。

中部地方を防衛するのは第10師団(本部:愛知県・守山駐屯地)で、第14普通科連隊、第33普通科連隊、第35普通科連隊第10戦車大隊などに加え、第49普通科連隊が新設され約8800人の戦略機動師団となった。有事の際、第10師団は即応近代化師団の戦略機動師団として政経中枢師団の第1師団、第3師団を支援することになった。

中国地方を防衛するのは第13旅団(本部:広島県・海田市駐屯地)で、第8普通科連隊、第17普通科連隊、第47普通科連隊、第13戦車大隊から規模が大幅に縮小された第13戦車中隊、第13特科連隊から規模大幅に縮小された第13特科隊を基幹とする4100人の旅団である。

 

四国を防衛する第14旅団(本部:香川県・善通寺駐屯地)は、第15普通科連隊に加えて第50普通科連隊が新設された。

 

 

 九州・沖縄を防衛するのは西部方面隊(総監部:熊本県・健軍駐屯地)である。

北部九州を防衛するのは第4師団(本部:福岡県・福岡駐屯地)で、第16普通科連隊、第19普通科連隊、第40普通科連隊、第41普通科連隊を基幹部隊とし、さらに対馬警備隊が対馬海峡を警戒する。第40普通科連隊、第41普通科連隊は、北朝鮮ゲリラ・コマンド部隊に対処するため、早い時期から市街地における戦闘を想定した訓練を開始している。

南部九州を防衛するのは第8師団(本部:熊本県・北熊本駐屯地)で、第12普通科連隊、第24普通科連隊、第42普通科連隊、第43普通科連隊を基幹にしている。

西部方面隊には西部方面普通科連隊も創設された。

沖縄は、第1混成群と第101飛行隊を基幹に防衛を担当していた第1混成団(本部:沖縄県・那覇駐屯地)が第15旅団に昇格する。

 

普通科部隊の装備は、豊和工業 89式小銃(5,56mm×45弾)、豊和工業 64式小銃(7,62mm×51弾)、5,56mm機関銃MINIMI(ファブリック・ナショナールFN MINIMI軽機関銃を住友重機械工業でライセンス生産、5,56mm×45弾)、住友重機械工業 62式7,62mm機関銃(7,62mm×51弾)、12,7mm重機関銃(ファブリック・ナショナール ブローニングM2機関銃、住友重機械工業でライセンス生産、12,7mm×99弾)、84mm無反動砲(ボフォース カール・グスタフM2無反動砲)、110mm個人携帯対戦車榴弾(ダイナマイト・ノーベル パンツァーファウスト3)、ロイヤル・オードナンス 81mm迫撃砲L16、トムソン・ブラント 120mm迫撃砲RT、ミネベア 9mm拳銃(シュバイツイッシュ・インダストリー・ゲゼルシャフト/SIGザウエル SIG P220拳銃をミネベアでライセンス生産、9mm×19弾)、ミネベア 9mm機関拳銃(9mm×19弾)、豊和工業 96式40mm自動てき弾銃、川崎重工業 01式軽対戦車誘導弾(赤外線画像誘導)、川崎重工業 96式多目的誘導弾システム(光ファイバー・トラック・ヴィア・ミサイル誘導)、川崎重工業 87式対戦車誘導弾(セミ・アクティブ・レーザー誘導)、川崎重工業 79式対舟艇対戦車誘導弾(光学照準・有線誘導)、が主な装備である。

 

特科部隊の装備には、ラインメタル/ヴィッカーズ・シップビルディング・アンド・エンジニアリング・リミテッド/OTOメララ FH-70 155mm榴弾砲、LTV/ローラル・ヴォート・システムズ M270多連装ロケット発射システム(MLRS)、日本製鋼所/三菱重工業 99式自走155mm榴弾砲、日本製鋼所/三菱重工業 75式自走155mm榴弾砲、ゼネラル・ダイナミクス M110 203mm自走榴弾砲、日立製作所 87式砲側弾薬車、日立製作所 99式弾薬給弾車、などがある。

 

 

施設科部隊の装備は、三菱重工業 グレーダ、日立建機 油圧ショベル、コマツ 油圧ショベル、キャタピラー 油圧ショベル、神戸製鋼所コベルコ建機 油圧ショベル、コマツ 掩体掘削機、タダノ トラック・クレーン、神戸製鋼所コベルコ建機 トラック・クレーン、コマツ 中型ドーザ、キャタピラー 中型ドーザ、コマツ 大型ドーザ、キャタピラー 大型ドーザ、コマツ 75式ドーザ、諸岡 資材運搬車、オノデラ 資材運搬車、IHI/IHI建機 小型ショベルドーザ、長野工業 小型ショベルドーザ、ヤンマー建機 小型ショベルドーザ、クボタ 小型ショベルドーザ、コマツ 施設作業車、川崎重工業 バケットローダ(装輪式)、川崎重工業KCM バケットローダ(装輪式)、三井三池製作所 坑道掘削機、住友軽金属/ナルコ岩井 81式自走架柱橋、日立製作所 07式機動支援橋、三菱重工業 91式戦車橋、日立製作所 92式浮橋、三菱自動車工業 92式浮橋、三菱ふそうトラック・バス 92式浮橋、ジャパンマリンユナイテッド/JMUディフェンスシステムズ 92式浮橋、今治造船 92式浮橋、石原造船 92式浮橋、飯作造船 92式浮橋、住友軽金属/ナルコ岩井 軽徒橋、ウィリアム・フェアリー パネル橋MGB、ジャパンマリンユナイテッド/JMUディフェンスシステムズ 94式水際地雷敷設車、IHI/IHIエアロスペース 92式地雷原処理車、川崎重工業 89式地雷原探知機セット、三菱重工業 92式地雷原処理ローラ、三菱電機 対人障害システムズ、石川製作所 対人障害システム、アイチコーポレーション/いすゞ自動車 道路障害作業車、日立建機 83式地雷敷設装置、富士重工業SUBARU 87式地雷敷設装置(ヘリコプター用)、IHI/IHIエアロスペース 70式地雷爆破装置、などがある。

 

 

機甲部隊には、三菱重工業 90式戦車(重量50,2トン、V10水冷ディーゼル・エンジン/1500馬力、複合装甲、ラインメタルRh120 120mmL44滑腔砲/DM33APFSDS弾・JM33APFSDS弾、パッシブ赤外線暗視装置、光学照準システム、デジタル・コンピューター、YAGレーザー距離測定装置)、三菱重工業   74式戦車(重量38,5トン、V8空冷ディーゼル・エンジン/720馬力、均質圧延防弾鋼装甲、ヴィッカーズL7 105mmライフル砲/93式APFSDS弾、アクティブ赤外線暗視装置、光学照準システム、アナログ・コンピューター、ルビー・レーザー距離測定装置)、89式装甲戦闘車(均質圧延防弾鋼装甲、エリコンKDE35mm機関砲と川崎重工業79式対舟艇対戦車誘導弾を装備、乗員3名・搭乗普通科隊員7名)、三菱重工業 73式装甲車(アルミニウム合金装甲、乗員3名・搭乗普通科隊員8名)、三菱重工業 87式自走高射機関砲(エリコンKDA35mm機関砲とレーダー、赤外線映像装置、TVカメラ、レーザー距離測定装置を装備)などが配備される。

また、2010年に10式戦車として制式採用されるTK-Xが開発中であった。 

陸上自衛隊が導入する三菱重工業 10式戦車(重量40トン、戦闘重量44トン、V8水冷ディーゼル・エンジン/1200馬力、モジュール複合装甲、日本製鋼所120mmL44滑腔砲/DM33APFSDS弾・JM33APFSDS弾・10式APFSDS弾、パッシブ赤外線暗視装置、デジタル光学照準システム、データ・リンク、基幹連隊指揮統制システム、レーザー距離測定装置、)は、データ・リンクやデジタル光学照準システムなど新機軸の技術が多く取り入れられたが90式戦車より価格が抑えられた。10式戦車は重機を運搬する民間のトランスポーターを利用することを想定している。民間のトランスポーターは積載量40トンのものが多いので、10式戦車の重量はモジュール複合装甲を取り外した状態で40トン以内に抑えることとした。

10式戦車は74式戦車の後継とされた。方面隊の防空として第1高射特科群、第2高射特科群、第3高射特科群、第4高射特科群、第5高射特科群、第6高射特科群、第7高射特科群、第8高射特科群がある。

 

方面隊の防空として第1高射特科群、第2高射特科群、第3高射特科群、第4高射特科群、第5高射特科群、第6高射特科群、第7高射特科群、第8高射特科群がある。

高射群特科の装備に、三菱電機 03式中距離地対空誘導弾(アクティブ・レーダー誘導)、レイセオン/三菱電機/東芝 MIM-23改良ホーク地対空誘導弾(セミ・アクティブ・レーダー誘導)が導入されている。

03式中距離地対空誘導弾はレイセオン/三菱電機/東芝 MIM-23改良ホーク地対空誘導弾を更新するものとされていた。03式中距離地対空誘導弾は当初、1年につき0,5個群(2個中隊)の導入予定で、8個高射特科群のMIM-23改良ホーク地対空誘導弾を約16年前後をかけてゆっくりと置き換える予定されていたが、次第に1年につき0,25群(1個中隊)の導入とに変更され当初予定から導入数が半減、03式中距離地対空誘導弾の配備がほとんど進まなかった。

配備が進まない03式中距離地対空誘導弾、防空能力を高めるため03式中距離地対空誘導弾(改)の開発が進められた。

 

03式中距離地対空誘導弾(改)は、コスト削減とともに、巡航ミサイル・空対地ミサイル対処能力を高めている。

 

師団・旅団の防空として、東芝 81短距離地対空誘導弾(赤外線誘導)、東芝 81式短距離地対空誘導弾(C)(電波弾:アクティブ・レーダー誘導、光波弾:赤外線可視光画像誘導)が配備された。

東芝 81式短距離地対空誘導弾の後継に2011年に制式採用される東芝 11式短距離地対空誘導弾が開発されていた。11式短距離地対空誘導弾はアクティブ・レーダー誘導で、アクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーで捜索する。

 

近接防空には、東芝 93式近距離地対空誘導弾(赤外線誘導+CCDカメラ画像誘導)、東芝 91式携帯地対空誘導弾(赤外線誘導+CCDカメラ画像誘導)が配備されている。FIM-92スティンガー携帯地対空ミサイル(赤外線誘導+紫外線誘導)、エリコン L90 35mm高射機関砲も配備されていたが次第に数を減らしている。

 

 

 レーダーには、NEC 85式地上レーダー装置JTPS―P11、NEC 地上レーダー装置1号(改)JTPS-P23、富士通 地上レーダー装置JPPS-P10、富士通 地上レーダー装置(改)JPPS-P24、東芝 対迫レーダー装置JMPQ-P13、東芝 対迫レーダー装置JTPS-P16、三菱電機 低空レーダー装置JTPS―P18、三菱電機 対空レーダー装置JTPS-P14、三菱電機 対空レーダー装置JTPS-P25、航法支援システムには東芝 着陸誘導装置JTPN―P20、国際電気 航法援助装置JMRN-A2、がある。

 

汎用ヘリコプターには、ベル・ヘリコプター・テキストロン UH-1Hイロコイ汎用ヘリコプター、ベル/SUBARU富士重工業 UH-1J汎用ヘリコプター、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH-60JAブラック・ホーク汎用ヘリコプター、がある。

ベル・ヘリコプター・テキストロン UH-1Bイロコイ汎用ヘリコプターは19998年に全機退役し、陸上自衛隊ではベル・ヘリコプター・テキストロン UH-1Hイロコイ汎用ヘリコプター、ベル/富士重工業 UH-1J汎用ヘリコプターが主力になった。

 

陸上自衛隊ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーUH-60JAブラック・ホーク汎用ヘリコプターは、合衆国陸軍ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーUH-60A/L/Mブラック・ホーク汎用ヘリコプターと違い、合衆国陸軍ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーMH-60L/Mブラック・ホーク特殊作戦ヘリコプターのように、赤外線暗視装置、気象レーダー、増加燃料タンクを装備するため高価になり、さらに財務省(大蔵省)の単年度会計による少量生産・少数購入、防衛費縮減のための少量生産・少数購入のため価格がさらに高価になり、導入数が少ない。

 

 

対戦車ヘリコプターには、ベル・ヘリコプター・テキストロン AH-1S(AH-1F)ヒューイ・コブラ攻撃ヘリコプター、ボーイングAH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターがある。

ベル・ヘリコプター・テキストロン AH-1S(AH-1F)ヒューイ・コブラ攻撃ヘリコプターは、対地装備としてM197 20mm機関砲、BGM-71TOW空対地ミサイル8発、ハイドラ70ロケット弾38発を装備する。

ベル・ヘリコプター・テキストロン AH-1S(AH-1F)ヒューイ・コブラ攻撃ヘリコプターの後期導入型はAH-1S C-NITE攻撃ヘリコプターで、夜間作戦能力が大幅に向上している。

 

ボーイングAH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターは、対地装備として、M230 30mm機関砲、AGM-114ヘルファイア空対地ミサイル8発とハイドラ70ロケット弾38発、またはAGM-114ヘルファイア空対地ミサイル16発とハイドラ70ロケット弾0発を装備する。対空装備としてAIM-92スティンガー空対空ミサイル2発を装備している。

 

 

観測ヘリコプターには、マクドネル・ダグラス OH-6Dカイユース観測ヘリコプター、川崎重工業 OH―1観測ヘリコプターがある。

マクドネル・ダグラス OH-6Dカイユース観測ヘリコプターは、ヒューズ500小型ヘリコプターとヒューズを買収したマクドネル・ダグラスMD500小型ヘリコプターがベースである。

合衆国陸軍では、マクドネル・ダグラスMD500小型ヘリコプター、MDヘリコプターズ MD500小型ヘリコプターをベースに、マクドネル・ダグラス MH-6リトル・バード特殊作戦ヘリコプター、マクドネル・ダグラスAH-6キラー・エッグ攻撃ヘリコプターを開発、合衆国陸軍第160特殊作戦航空連隊「ナイト・ストーカーズ」において使用している。

合衆国陸軍の観測ヘリコプターは、ベル・ヘリコプター・テキストロン OH-58Dカイオワ・ウォリアー観測ヘリコプターが主流で、後継としてシコルスキー・ボーイング   RAH-66コマンチ偵察攻撃ヘリコプター、ベル・ヘリコプター・テキストロン ARH-70武装偵察ヘリコプターが開発されていたが計画中止となった。

川崎重工業 ОH-1観測ヘリコプターは、川崎重工業が1990年代から開発していたもので、ヒンジレス・ローター・ハブ、繊維強化プラスティック複合材、ダクテッド・テイルローターなど新機軸の技術を採用し、ハワード・ヒューズ賞を受賞している。攻撃ヘリコプターと同じタンデム配置の座席、防弾構造コックピットとなっている。91式携帯地対空ミサイル4発を搭載できる。

 

輸送ヘリコプターには、川崎重工業/ボーイング・ヴァートル KV-107中型輸送ヘリコプター、ボーイング CH-47J/JA輸送ヘリコプターがあった。

川崎重工業/ボーイング・ヴァートル KV-107中型輸送ヘリコプターはヴァートルV-107中型輸送ヘリコプターを川崎重工業でライセンス生産したもので、合衆国海兵隊ではボーイング・ヴァートル CH-46シー・ナイト輸送ヘリコプターとして採用されていた。KV-107中型輸送ヘリコプターは2002年に全機退役している。

 

ボーイング CH-47J輸送ヘリコプターは、大型輸送ヘリコプターである合衆国陸軍 ボーイング CH-47Dチヌーク輸送ヘリコプターを川崎重工業でライセンス生産したものである。1984年から川崎重工業でライセンス生産を開始し、1986年から陸上自衛隊に配備された。その後、改良型のCH-47JA輸送ヘリコプターが導入される。

 

 

 

 

 練習ヘリコプターは、マクドネル・ダグラス ОH-6D観測ヘリコプターを使用していたが、後継にエンストローム TH―480B練習ヘリコプターの採用が決まった。

エンストロームはその後、中国企業に買収される、倒産する、など紆余曲折があった。

政府専用ヘリコプターは、中型ヘリコプターであるアエロスパシアル AS332L政府専用ヘリコプターを導入していた。 AS332L政府専用ヘリコプターの後継にはユーロコプター EC225LP政府専用ヘリコプターが導入された。ユーロコプター EC225LP中型ヘリコプターはアエロスパシアル AS332L中型ヘリコプターの改良・発展型である。

連絡偵察機には、ビーチクラフト LR-2連絡偵察機、三菱重工業LR-1連絡偵察機、がある。

 

 

装甲車には、三菱重工業 89式装甲戦闘車、三菱重工業 73式装甲車、三菱重工業 60式装甲車、コマツ 96式装輪装甲車、コマツ 87式偵察警戒車、コマツ 82式指揮通信車、がある。

戦術車には、トヨタ自動車 高機動車、がある。

小型戦術車には、三菱自動車工業 1/2トン・トラック、三菱自動車工業 73式小型トラック、がある。

新しい戦術車として、コマツ 軽装甲機動車が開発された。

コマツ 軽装甲機動車は、2001年度予算から計上され、配備された。軽装甲機動車は重量4,5トン、水冷ディーゼル・エンジン、160馬力、乗員4人で、普通科部隊の新たなる戦術に沿うものである。軽装甲機動車は普通科部隊の装甲化に大いに貢献することとなった。

 

戦術トラックには、トヨタ自動車 1・1/2トン・トラック、トヨタ自動車 1・1/2トン救急車、トヨタ自動車 73式中型トラック、いすゞ自動車 3・1/2トン・トラック、いすゞ自動車 3・1/2トン有蓋車、いすゞ自動車 3・1/2トンダンプ、いすゞ自動車 3・1/2トン水タンク車、いすゞ自動車 3・1/2トン燃料タンク車、いすゞ自動車 73式大型トラック、三菱自動車工業 7トン・トラック 三菱ふそうトラック・バス 7トン・トラック、三菱ふそうトラック・バス 特大型ダンプ、三菱自動車工業 74式特大型トラック、三菱自動車工業/三菱ふそうトラック・バス 特大型運搬車、三菱重工業 重装輪回収車、三菱重工業 重装輪回収車ベース派生型トラック、三菱自動車工業/三菱ふそうトラック・バス  73式特大型セミトレーラ、三菱ふそうトラック・バス 特大型セミトレーラけん引車、三菱自動車工業/三菱ふそうトラック・バス 重レッカ、三菱自動車工業/三菱ふそうトラック・バス 燃料タンク車(10000l航空用)、がある。

 

業務トラックには、いすゞ自動車 業務トラック、日野自動車 業務トラック、三菱自動車工業 業務トラック、三菱ふそうトラック・バス 業務トラック、日産ディーゼル工業 業務トラック、がある。

業務車には、日産自動車 業務車1号、トヨタ自動車 業務車1号、富士重工業SUBARU 業務車1号、日産自動車 業務車2号、トヨタ自動車 業務車2号、がある。

高官輸送車には、トヨタ自動車 業務車3号、日産自動車 業務車3号、がある。

人員輸送車には、日野自動車 人員輸送車1号、Jバス 人員輸送車1号、日産自動車 人員輸送車2号、三菱自動車工業 人員輸送車2号、トヨタ自動車 人員輸送車2号、日野自動車 人員輸送車2号、がある。

 

オートバイには、川崎重工業 オートバイ(偵察用)、ヤマハ発動機 オートバイ(警務用)がある。

 

 

地対艦ミサイル部隊として、第1地対艦ミサイル連隊、第2地対艦ミサイル連隊、第3地対艦ミサイル連隊、第4地対艦ミサイル連隊、第5地対艦ミサイル連隊、第6地対艦ミサイル連隊がある。

地対艦ミサイル部隊には三菱重工業 88式地対艦誘導弾(慣性航法装置+アクティブ・レーダー誘導)が導入された。88式地対艦誘導弾は慣性航法装置とともに、事前にプログラムされた経路を飛行し、終末はアクティブ・レーダー誘導となる。

88式地対艦誘導弾の後継として、88式地対艦誘導弾(改)が開発され、2012年に12式地対艦誘導弾として制式採用された。

 

陸上自衛隊特殊作戦群、第1空挺団、西部方面普通科連隊、第3師団、第6師団、第14旅団の順に対人狙撃銃が配備された。合衆国陸軍の制式狙撃ライフル・システムのレミントンM24 SWS(スナイパー武器システム)を対人狙撃銃として配備している。陸上自衛隊M24 SWS対人狙撃銃は、レミントン M700ボルト・アクション・ライフル(.308ウィンチェスター弾=7,62mm×51弾)、光学照準器、レーザー距離測定装置、三脚、収納ケースを中心とした狙撃システムである。

 

 

 

 2000年代、陸上自衛隊は北朝鮮ゲリラ・コマンド(北朝鮮の朝鮮労働党作戦部の工作員に指揮される朝鮮総連の有志ゲリラ部隊、親北朝鮮の在日韓国人と日本人によるゲリラ部隊、北朝鮮の朝鮮人民軍コマンド特殊部隊)対処をもっとも重視していた。

特殊作戦群が創設され、第1空挺団は1500人から2000人に増強された。北朝鮮ゲリラ・コマンドのテロ、ゲリラ戦を想定し、対テロ戦、対ゲリラ戦に力が入れられる。

普通科連隊も北朝鮮ゲリラ・コマンドとの戦闘を重視し、市街戦訓練、屋内戦闘訓練、検問訓練、重要防護施設警備訓練を開始した。

西部方面普通科連隊も島嶼部、山岳地帯での戦闘とともに、市街戦訓練、屋内戦闘訓練に力が入れられる。西部方面普通科連隊では中国語とともに朝鮮語の教育を重視した。

警察庁のSAT(特殊急襲部隊)は日本赤軍などテロリストのハイジャック対処、テロ対処に加え、北朝鮮ゲリラ・コマンドのゲリラ戦対処のため野戦訓練を強化する。

 陸上自衛隊は特殊作戦部隊や普通科部隊を強化した反面、機甲部隊、特科部隊(砲兵)は縮小された。

各師団の戦車大隊は縮小され、3個戦車中隊の戦車大隊から2個戦車中隊の戦車大隊への縮小、3個戦車中隊の戦車大隊から1個戦車中隊の戦車中隊となった部隊もある。

特科大隊も特科隊への縮小が計画され、政経中枢師団である第1師団と第3師団の普通科連隊の重迫撃砲中隊は解隊が計画された。

 2000年代に入って、豊和工業89式小銃、FN MINIMI軽機関銃の調達数が急激に増えだした。

 

北朝鮮ゲリラ・コマンド対処に必要なマン・パワー増加/普通科部隊強化のためである。

 

 

 

 

 

 

注1 https://www.mod.go.jp/gsdf/crf/chutokubou/cnbc/2-1ninmu.htm

   https://www.mod.go.jp/gsdf/crf/chutokubou/cnbc/2-2soubihinsyaryou.htm

   https://www.mod.go.jp/gsdf/crf/chutokubou/cnbc/2-3soubihinkagakukizai.htm

注2 ジャパン・ミリタリー・レビュー『軍事研究』2007年3月号

   高井三郎「自衛隊特殊部隊の編制装備、運用原則」P58

注3 所属航空機 (mod.go.jp)

   朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2002-2003』

   朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2007-2008』

   朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2019-2020』

注4 ジャパン・ミリタリー・レビュー『ワールド・インテリジェンスVOL9特集 特殊部隊と心理戦の最先端』

   陸上自衛隊西部方面普通科連隊連隊長・若生明智「若生明智・連隊長に聞く島嶼防衛で潜入・対ゲリラコマンドウも見据えた陸上自衛隊西部方面普通科連隊の任務とは」

 

 

 

 

第2項    

 

 平成17年度以降に係る防衛計画の大綱における防衛力 海上自衛隊

 

 

シー・レーン防衛の中心として、機動運用にあたる護衛艦部隊には4個護衛艦群が当てられている。1個護衛隊群には8隻の護衛艦と8機の対潜哨戒ヘリコプターが配備され、海上防衛を担っている。

護衛艦隊(神奈川県・横須賀基地)のもとに第1護衛隊群(横須賀基地)、第2護衛隊群(長崎県・佐世保基地)、第3護衛隊群(京都府・舞鶴基地)、第4護衛隊群(広島県・呉基地)がおかれている。

 

 

DD122「はつゆき」を1番艦とするはつゆき級汎用護衛艦は、昭和53年中期業務見積もりによって計画され、1979年に起工、1982年に竣工、就役している。基準排水量2950トン、満載排水量4000トン、ガス・タービン推進で、兵装はOTOメララ 76mmコンパクト砲1門、Mk112アスロック発射機(Mk46魚雷搭載アスロック8発)、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk29発射機(RIM-7シー・スパロー艦対空短距離ミサイル8発)、68式3連装短魚雷発射管2基、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム、である。また、対潜哨戒ヘリコプター1機を搭載し、汎用護衛艦としてバランスのとれた艦となっている。当初、上部構造物はアルミニウム合金であったが、1975年のアメリカ空母CV-67ジョン・F・ケネディと巡洋艦CG-26ベルナップの衝突事故でアルミニウム合金の脆弱性が指摘され、さらに1982年のフォークランド紛争でアルミニウム合金製上部構造物艦船が相次いで攻撃によって炎上、沈没したことから、はつゆき級汎用護衛艦8番艦DD130「やまゆき」からは上部構造物が鋼鉄製に変更され、ダメージ・コントロールが向上している。はつゆき級汎用護衛艦は1987年までに12隻建造された。

 

 

 昭和56年中期業務見積もりによって計画された汎用護衛艦DD151「あさぎり」を1番艦とするあさぎり級汎用護衛艦は1985年に起工し、1987年に竣工、1988年から就役している。基準排水量は3500トン、満載排水量は4900トンである。兵装はOTOメララ 76mmコンパクト砲1門、Mk112アスロック発射機(Mk46魚雷搭載アスロック8発、予備弾8発)、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、短SAM発射機(RIM-7シー・スパロー艦対空短距離ミサイル8発)、68式3連装短魚雷発射管2基、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム、である。また、対潜哨戒ヘリコプター1機を搭載する。あさぎり級汎用護衛艦は、はつゆき級汎護衛艦の発展型とされ、はつゆき級汎用護衛艦よりレーダーや射撃管制装置などが向上し能力的には大きく発展したものとなっている。このあさぎり級汎用護衛艦は1991年までに8隻建造され、これによって護衛隊群の汎用護衛艦は完備された。

 

新しい概念の汎用護衛艦として、汎用護衛艦DD101「むらさめ」を1番艦とするむらさめ級汎用護衛艦の導入が1990年代からはじまっている。むらさめ級汎用護衛艦の1番艦である「汎用護衛艦DD101「むらさめ」は、1993年起工、1994年進水、1996年竣工である。基準排水量4550トン、満載排水量6200トン、ガス・タービン推進、兵装は、Mk41垂直発射システム16セル(Mk46魚雷搭載RUM-139A垂直発射対潜ロケット16発)、68式三連装短魚雷発射管2基(Mk46魚雷、97式魚雷など6発)、OTOメララ 76mmコンパクト砲1門、90式艦対艦ミサイル6発/8発、Mk48垂直発射システム16セル(RIM-7シー・スパロー短距離艦対空ミサイル16発またはRIM-162発展型シー・スパロー短距離艦対空ミサイル最大32発)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御システム2基、である。射撃統制装置はフェーズド・アレイ・レーダー型の射撃統制装置3型(FCS-3)は搭載されず、従来型の射撃統制装置2型31(FCS-2-31)という改良型にとどまった。また、こんごう級護衛艦と同様にステルス性を意識した船型を採用しているが、傾斜角はそれほどではなくステルス性は限定的なものであると思われる。搭載ヘリコプターはユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー/三菱重工業 SH-60Jシー・ホーク対潜哨戒ヘリコプターである。2002年までに9隻が導入され、1982年に導入の始まった汎用護衛艦はつゆき級護衛艦の多くを地方隊へ追いやった。

 

 2003年にたかなみ級汎用護衛艦(1番艦DD-110 たかなみ)が就役した。船体はむらさめ級汎用護衛艦に似ているが、細かいところでステルス性が徹底されている。1番艦DD-110 たかなみ起工2000年、進水2001年、竣工2003年、基準排水量4650トン、満載排水量6300トン、ガス・タービン推進、兵装はOTOメララ 127mmコンパクト砲1門、Mk41垂直発射システム32セル(RUM-139A垂直発射対潜ロケット16セル、RIM-162発展型シー・スパロー・ミサイル短距離艦対空ミサイル16セル最大64発)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基、3連装短魚雷発射管2基、90式艦対艦ミサイル(SSM-1)6発/8発である。射撃統制装置はFCS-2-31射撃統制装置、対空レーダーはOPS-24B対空三次元レーダー、対水上レーダーはOPS-28D対水上レーダー、航海レーダーはOPS-20航海レーダー、ソナーはOQS-5ソナー、OQR-2ソナー、OQR-2曳航ソナーである。戦術情報処理システムはOYQ-9戦術情報処理システム、電子戦システムはNOLQ-2電子戦装置、戦術データ・リンクはLINK16である。搭載航空機はSH-60K哨戒ヘリコプター2機である。たかなみ級汎用護衛艦は2006年までに5隻が就役した。(注1)

 

 2003年にたかなみ級汎用護衛艦(1番艦DD110「たかなみ」)が就役した。船体はむらさめ級汎用護衛艦に似ているが、細かいところでステルス性が徹底されている。1番艦DD110「たかなみ」起工2000年、進水2001年、竣工2003年、基準排水量4650トン、満載排水量6300トン、ガス・タービン推進、兵装はOTOメララ 127mmコンパクト砲1門、Mk41垂直発射システム32セル(RUM-139A垂直発射対潜ロケット16セル、RIM-162発展型シー・スパロー・ミサイル短距離艦対空ミサイル16セル最大64発)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基、HOS-302 68式3連装短魚雷発射管2基、90式艦対艦ミサイル(SSM-1)6発/8発である。射撃統制装置はFCS-2-31射撃統制装置、対空レーダーはOPS-24B対空三次元レーダー、対水上レーダーはOPS-28D対水上レーダー、航海レーダーはOPS-20航海レーダー、ソナーはOQS-5ソナー、OQR-2ソナー、OQR-2曳航ソナーである。戦術情報処理システムはOYQ-9戦術情報処理システム、電子戦システムはNOLQ-2電子戦装置、戦術データ・リンクはLINK16である。搭載航空機はSH-60K哨戒ヘリコプター2機である。たかなみ級汎用護衛艦は2006年までに5隻が就役した。(注1)

 

 

 

艦隊防空ミサイル護衛艦DDGはDDG168「たちかぜ」を1番艦とするたちかぜ級ミサイル護衛艦3隻であった。1番艦のDDG168「たちかぜ」は、1973年に起工し、1976年に竣工している。基準排水量3850トン、満載排水量5200トン、蒸気タービン推進、兵装はMk13発射機(RIM-66スタンダード1艦対空ミサイル40発、エリア・ディフェンス:艦隊防空用)、Mk42 127mm砲2門、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk112発射機(Mk46魚雷搭載対潜ロケット8発、予備弾8発)、68式3連装短魚雷発射管2基、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基、68式三連装短魚雷発射機2基である。防空以外にも対潜、対艦能力も有している。

 

 

1983年に起工、1986年に竣工したDDG171「はたかぜ」を1番艦とするはたかぜ級ミサイル護衛艦2隻もある。1番艦DDG171「はたかぜ」は、起工1983年、進水1984年、竣工1986年、基準排水量4600トン、満載排水量5900トン、ガス・タービン推進、兵装はMk13発射機(RIM-66スタンダード1艦対空ミサイル40発、エリア・ディフェンス:艦隊防空用)、Mk42 127mm砲2門、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk112発射機(Mk46魚雷搭載対潜ロケットを8発、予備弾8発)、68式3連装短魚雷発射管2基、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基、68式三連装短魚雷発射機2基である。

さらに旗艦能力とヘリコプター離発艦能力を有していた。

 

イージス護衛艦DDG173「こんごう」を1番艦とするこんごう級イージス・システム搭載艦隊防空ミサイル護衛艦は、1番艦DDG173「こんごう」が1990年に起工し、1993年に竣工、就役した。

ガス・タービン推進、基準排水量7250トン、満載排水量9500トン、となっている。兵装は、OTOメララ 127mmコンパクト砲1門、Mk41垂直発射システム90セル(RIM-66スタンダード艦対空ミサイル、RIM-156SM2艦対空ミサイル、RIM-161SM3弾道ミサイル迎撃艦対空ミサイルなど艦対空ミサイル74発、RUM―139A Mk46搭載垂直発射対潜ロケット16発)、ミサイル装填用クレーン6基、68式三連装短魚雷発射機2基、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基、である。

イージス・システム搭載艦隊防空ミサイル護衛艦に搭載されているイージス・システムは、ソ連の圧倒的数量のミサイル攻撃から艦隊を守るために1960年代から開発が始まったもので、1973年から試験が開始され、1978年に採用された。1983年就役のアメリカ海軍CG-47「タイコンデロガ」を1番艦とするタイコンデロガ級巡洋艦から搭載された。イージス・システムのフェーズド・アレイ・レーダーは従来型レーダーより格段に能力が向上しており、さらに戦闘情報処理能力は従来艦の比ではないとされている。さらにMk41垂直発射システムにより、多目標同時攻撃が可能となっている。またこんごう級イージス・システム搭載艦隊防空ミサイル護衛艦はアメリカ海軍DDG-51「アーレイ・バーク」を1番艦とするアーレイ・バーク級イージス駆逐艦と同様、ステルス(低発見性)的な船体を取り入れている。3番艦「みょうこう」によって護衛艦群は完成したが、さらに4番艦DDG176「ちょうかい」が建造され、4個護衛艦群すべてにイージス・システム搭載艦隊防空ミサイル護衛艦が配備されることとなった。

 

 2007年には平成14年度計画イージス・システム搭載艦隊防空ミサイル護衛艦(14DDG)、あたご級艦隊防空ミサイル護衛艦(1番艦DDG177「あたご」、2番艦DDG178「あしがら」)が就役した。AN/SPY-1Dレーダー4基で捜索、Mk41垂直発射システムからのミサイル同時発射、艦隊防空を担う。満載排水量は10000トン、基準排水量は7700トン、ガス・タービン推進、兵装はMk41垂直発射システム96セル(RIM-66艦対空ミサイル、RIM-161SM3弾道ミサイル迎撃艦対空ミサイル、RIM-156SM2艦対空ミサイルなど艦対空ミサイル80発、RUM-139A Mk46魚雷搭載垂直発射対潜ロケット16発)、127mm単装砲1門(DDG-177「あたご」はOTOメララ 127mmコンパクト砲、DDG178「あしがら」はMk45 127mm砲)、HOS-302 68式短魚雷発射管2基、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御システム2基、90式艦対艦ミサイル(SSM-1B)6発/8発である。FCSはAWS Mk7イージス武器システム ベースライン7,1J、AN/SQQ-89(V)15統合対潜システム、Mk99ミサイルFCS、Mk160砲FCS、Mk116対潜攻撃指揮装置である。電子戦装置はNOLQ-2、戦術データ・リンクはLINK11/14/16である。ヘリコプター格納庫はあるが、搭載ヘリコプターはない。(注2)

 

 

 

 

 

 

 

対潜哨戒ヘリコプター搭載護衛艦DDH141「はるな」(1970年起工、1973年竣工)、DDH142「ひえい」(1972年起工、1974年竣工)、DDH143「しらね」(1978年起工、1980年竣工)、DDH144「くらま」(1979年竣工、1981年竣工)があたっていた。はるな級対潜ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)は基準排水量5200トン、満載排水量7200トンで蒸気タービン推進、Mk42 127mm砲2門、Mk29発射機(RIM-7シー・スパロー短距離艦対空ミサイル8発、ポイント・ディフェンス:個艦防空用)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基、Mk112発射機(Mk46魚雷搭載対潜ロケット8発、予備弾8発)、68式三連装短魚雷発射機2基、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイルを8発)などが主な兵装である。対潜戦には対潜哨戒ヘリコプター3機搭載でこれにあたった。

DDH143「しらね」を1番艦とするしらね級ヘリコプター搭載護衛艦もはるな級ヘリコプター搭載護衛艦に準じる能力である。対潜能力とともに、個艦防空も充実した艦船である。特に対潜哨戒ヘリコプターを3機搭載することで、対潜水艦戦に秀でている。電子機器なども逐次更新され、第一線の護衛艦として遜色の無い物となっていた。しらね級対潜ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)は基準排水量5200トン、満載排水量7200トンで蒸気タービン推進、Mk42 127mm砲2門、Mk29発射機(RIM-7シー・スパロー短距離艦対空ミサイル8発、ポイント・ディフェンス:個艦防空用)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基、Mk112発射機(Mk46魚雷搭載対潜ロケット8発、予備弾8発)、68式三連装短魚雷発射機2基、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイルを8発)などが主な兵装である。対潜航空機には対潜哨戒ヘリコプター3機を搭載している。

 

 

 2009年には平成16年度計画ヘリコプター搭載護衛艦(16DDH)、ひゅうが級ヘリコプター搭載護衛艦が就役した。基準排水量13500トン、満載排水量19000トン、ガス・タービン推進、兵装はMk41垂直発射システム16セル(RUM-139A垂直発射対潜ロケット12セル12発、RIM-162発展型シー・スパロー・ミサイル艦対空ミサイル4セル16発)、Mk15ブロック1Bファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基、HOS-303 3連装短魚雷発射管2基である。搭載ヘリコプターはSH-60J/K哨戒ヘリコプター、MCH-101掃海輸送ヘリコプターなど8機である。FCSはFCS-3射撃統制装置、ソナー・システムはOQQ-21、情報処理装置はOYQ-10、電子戦装置はNOLQ-3C、艦内統合ネットワークはNOYQ-1、戦術データ・リンクはLINK11/16である。ひゅうが級ヘリコプター搭載護衛艦は1番艦DDH-181「ひゅうが」と2番艦DDH-182「いせ」が配備される。(注3)

 

  最新のDEはDE229「あぶくま」を1番艦とするあぶくま級護衛艦の6隻である。1988年に起工、1989年に竣工、就役している。基準排水量2000トン、満載排水量2900トン、ディーゼル及びガス・タービン推進、兵装はOTOメララ 76mmコンパクト砲1門、Mk112発射機(Mk46魚雷搭載対潜ロケット8発、予備弾8発)、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、68式3連装魚雷発射機2基、である。近接防御武器システムにはMk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム1基を装備している。DEとしてはじめて対空レーダーを搭載し、防空能力を強化した。

 

Mk49発射機の搭載スペースがある。Mk49発射機はRIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイルを運用できる。

 

 

 

1979年に起工、1981年に竣工、就役したDE226「いしかり」を1番艦とするいしかり級護衛艦1隻がある。いしかり級護衛艦の基準排水量1250トンである。ディーゼル、ガス・タービン推進で、兵装は、OTOメララ 76mmコンパクト砲1門、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、ボフォース4連装対潜ロケット1基、である。

 

 

 

DE227「ゆうばり」を1番艦とするゆうばり級護衛艦2隻は、基準排水量1450トンで1981年に起工、1983年に竣工している。ディーゼル、ガス・タービン推進で、兵装は、OTOメララ 76mmコンパクト砲1門、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、ボフォース4連装対潜ロケット1基、である。

 

ミサイル艇には、はやぶさ級ミサイル艇とミサイル艇1号型がある。

ミサイル艇1号型は、1991年起工、1992年進水、1993年竣工、基準排水量50トン、満載排水量60トン、ガス・タービン、ディーゼル推進、兵装はJM61 20mm機関砲1門、90式艦対艦ミサイル2発である。ミサイル艇1号型は、3隻が建造された。

 

はやぶさ級ミサイル艇は、2000年起工、2001年進水、2002年竣工、基準排水量200トン、ガス・タービン・ウォータージェットポンプ推進、兵装はОTОメララ 76mmコンパクト砲1門、90式艦対艦ミサイル2発である。はやぶさ級ミサイル艇は、6隻が建造された。

 

潜水艦部隊は6個隊・16隻体制と定められていた。

 

三菱重工業神戸造船所(兵庫県神戸市中央区)と川崎重工業神戸工場(兵庫県神戸市中央区)において隔年ごとに建造され、就役期間は16年と短く、能力を高く保っている。また、訓練・予備に2隻がある。

 

1984年3月に就役した、ゆうしお級潜水艦5番艦「なだしお」からは、533mm魚雷発射管から発射可能なUGM-84ハープーン潜対艦ミサイルを装備し、対艦戦闘能力を向上させている。

 

アメリカと同様に高張力鋼の品質は世界最高である。主電池はGS YUASA,潜望鏡はニコン、電子戦装置は三菱電機、レーダー・通信装置はJRC日本無線が製造している

 

1990年に就役したSS-583「はるしお」を1番艦とする、はるしお級潜水艦(基準排水量2450トン、水中排水量3200トン、ディーゼル・エレクトリック推進、533mm魚雷発射管6門)で、運動性重視の涙滴型船体である。

 

船殻には高張力鋼NS80、NS110が使用され、潜行深度も向上している。

 

1998年に就役したSS-590「おやしお」を1番艦とするおやしお級潜水艦(基準排水量2750トン、水中排水量3500トン、ディーゼル・エレクトリック推進、533mm魚雷発射管6門)からは従来の運動性重視の涙滴型船体から、静粛性に優れる葉巻型船体に変更された。さらに音響のステルス化をはかるため吸音タイルを多用した。フランク・アレイ・ソナー、コンフォーマル・アレイ・ソナーを搭載し、捜索探知能力を向上させている。船殻には高張力鋼NS80、NS110が使用さている。

 

 平成16年度計画2900トン型潜水艦として、2009年3月にそうりゅう級潜水艦SS501 そうりゅうが就役した。そうりゅうは水中排水量4200トン、ディーゼル・エレクトリック推進に加え、AIP(大気独立推進)のスターリング機関を備え、水中での作戦期間が大幅に伸びることになった。兵装は533mm魚雷発射管6門(89式魚雷、UGM-84ハープーン潜対艦ミサイル)である。(注4)

 

 ちはや級潜水艦救難艦は、ASR403「ちはや」が1997年に起工、1998年に進水、2000年に竣工している。基準排水量5450トン、ディーゼル推進、DSRV1隻、深海救難装置、深海潜水装置、捜索用ソナー、海底調査装置、自動艦位保持装置、手術室、医務室、レントゲン室を装備している。

 

 掃海部隊には掃海母艦として、うらが級掃海母艦がある。うらが級掃海母艦にはMST-463「うらが」が1995年起工、1996年進水、1997年竣工、MST-464「ぶんご」が1996年起工、1997年進水、1998年竣工である。うらが級掃海母艦は基準排水量5650トン、ディーゼル推進、兵装はОTОメララ 76mmコンパクト砲1門、機雷敷設装置3型、である。1個掃海隊群・掃海艇12隻へ支援・補給し、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーMH-53Eシー・ドラゴン掃海ヘリコプター、アグスタ・ウェスタランドMCH-101掃海ヘリコプターを運用して、高性能機雷敷設能力を保有する。

潜水艦を狙う深深度敷設機雷の処分用に導入されたMSO-301「やえやま」を1番艦とするやえやま級掃海艦が1993年から1994年に3隻導入されている。基準排水量は1000トン、ディーゼル推進、

うわじま級掃海艇は、基準排水量510トン、ディーゼル推進、兵装は、JM61 20mm機関砲、О型係維掃海具一式、DYAD感応掃海具一式、PAP-104機雷処分具一式、TYPE-2093機雷探知機一式、情報処理装置一式、である。1番艦MSC681「うわじま」が起工1989年、進水1990年、竣工1990年した。うわじま級掃海艇は9隻が建造された。

すがしま級掃海艇は、基準排水量510トン、ディーゼル推進、兵装は、JM61 20mm機関砲、О型係維掃海具一式、DYAD感応掃海具一式、PAP-104機雷処分具一式、TYPE-2093機雷探知機一式、情報処理装置一式、である。1番艦MSC681「すがしま」が起工1996年、進水1997年、竣工1999年した。すがしま級掃海艇は12隻が建造された。

 ひらしま級掃海艇は、基準排水量570トン、ディーゼル推進、兵装は、JM61 20mm機関砲、О型掃海具一式、S-10水中航走式機雷掃討具、である。1番艦MSC601「ひらしま」が起工2005年、進水2006年、竣工2008年した。すがしま級掃海艇は3隻が建造された。

 いえしま級掃海管制艇は、基準排水量490トン、ディーゼル推進、兵装は、JM61 20mm機関砲、遠隔操縦式掃海具操縦装置、である。1番艦MSC601「いえしま」が起工1995年、進水1996年、竣工1996年した。いえしま級掃海管制艇は2隻が建造された。

 

輸送にはおおすみ級輸送艦、1号型輸送艇、エアクッション艇が担当する。

 

おおすみ級輸送艦は、1番艦LST4001「おおすみ」が、1995年に起工し、1996年に進水、1998年に竣工している。

基準排水量8900トン、満載排水量14000トン、ディーゼル推進、兵装はMk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基である。

エアー・クッション揚陸艇LCAC2隻、陸上自衛隊隊員330人、90式戦車を搭載できる。

航空機用エレベーターは無いのでヘリコプターは艦内に収容できない。

ヘリコプターは全通甲板の後部で運用される。

 大蔵省は日本が軍事大国化すると言い海上自衛隊艦艇の大型化に反対し、輸送艦の基準排水量を10000トン未満とするよう強く要請した。

そのため基準排水量が増えるLST戦車揚陸艦タイプの外観ではなく全通甲板のあるLHDドック型揚陸艦タイプの外観となった。

全通甲板があるので、左派マス・メディア、左派言論人は空母保有、日本の軍事大国化、アジアへの脅威、と批判した。

おおすみ級輸送艦を全通甲板のある揚陸艦にしたことで、平成16年度計画ヘリコプター搭載護衛艦(16DDH)ひゅうが級ヘリコプター搭載護衛艦を全通飛行甲板のある護衛艦にしやすくなった。

 

 1号型輸送艇は、1番艦LCU1「輸送艇1号」が1987年起工、1987年進水、1988年竣工、である。基準排水量420トン、満載排水量540トン、ディーゼル推進、兵装はJM61 20mm機関砲1基である。

 

 とわだ級補給艦は、1番艦AOE422「とわだ」が1985年に起工、1986年に進水、1987年に竣工している。

基準排水量は8100トン、ディーゼル推進、洋上補給装置、補給品艦内移送装置を搭載している。

とわだ級補給艦は3隻建造された。

合衆国海軍の補給艦のようにMk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システムは搭載されていない。

 

 ましゅう級補給艦は、1番艦AOE425「ましゅう」が2002年に起工、2003年に進水、2004年に竣工している。

 基準排水量13500トン、ガス・タービン推進、洋上補給装置、補給品艦内移送装置を搭載している。

ましゅう級補給艦は2隻建造された。

合衆国海軍の補給艦のようにMk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システムは搭載されていない。

 

あすか級試験艦は、ASE6102「あすか」が1993年に起工、1994年に進水、1995年に竣工している。

基準排水量4250トン、ガス・タービン推進で、各種試験装置を搭載する。

 

くろべ級訓練支援艦は、ATS4202「くろべ」が1987年に起工、1988年に進水、1989年に竣工している。

基準排水量2250トン、ディーゼル推進で、兵装はОTОメララ 76mmコンパクト砲1門で、艦上評価装置を装備し、CICを設置している

 

てんりゅう級訓練支援艦は、ATS4203「てんりゅう」が1998年に起工、1999年に進水、2000年に竣工している。

基準排水量2450トン、ディーゼル推進で、兵装はОTОメララ 76mmコンパクト砲1門で、対空射撃訓練支援装置、艦上評価装置を装備し、CICを設置している

 

 ひうち級多用途支援艦は、1番艦AMS4203「ひうち」が2001年に起工、2001年に進水、2002年に竣工している。

基準排水量980トン、ディーゼル推進で、クレーン装置、曳航装置、消防装置を装備する。

 

ふたみ級海洋観測艦は、1番艦AGS5103「ふたみ」が1978年に起工、1978年に進水、1979年に竣工している。

基準排水量2050トン、ディーゼル推進で、海象、気象、海底地質、水質、地磁気、音響を観測する。

 

にちなん級海洋観測艦は、AGS5105「にちなん」が1997年に起工、1998年に進水、1999年に竣工している。

基準排水量3350トン、ディーゼル・エレクトリック推進で、海洋観測装置、音響観測装置、無人潜水装置を搭載している。

 

ひびき級音響測定艦は、1番艦AOS5201「ひびき」が1989年に起工、1990年に進水、1991年に竣工している。

基準排水量2850トン、ディーゼル・エレクトリック推進で、曳航式ソナーSURTASSを搭載している。

東芝機械が対共産圏輸出統制委員会COCOM違反であるソ連への工作機械輸出をおこなった。それによりソ連の潜水艦が静粛性向上、アメリカで批判された。そのため、ソ連潜水艦静粛性向上に対して日本も責任を取ることになり、ひびき級音響測定艦が導入された。

 

砕氷艦しらせは、1981年起工、1981年進水、1982年に竣工している。基準排水量11600トン、ディーゼル・エレクトリック推進、ヘリコプター3機搭載、南極観測支援に使われる。

 

砕氷艦しらせ(二代目)は、2008年起工、2009年進水、2010年に竣工している。基準排水量12650トン、ディーゼル統合電気推進、ヘリコプター2機搭載、南極観測支援に使われる。

 

 航空機も大幅に更新されていく。

 

護衛艦に搭載される対潜哨戒ヘリコプターは当初、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー(三菱重工業でライセンス生産)HSS-2対潜哨戒ヘリコプター(SH-3シー・キング対潜哨戒ヘリコプター)であったが、1980年代後半に入って、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー(三菱重工業でライセンス生産)SH-60Jシー・ホーク対潜哨戒ヘリコプターに順次切り替えられ、対潜水艦戦能力が向上し、運用性も向上となった。

 

ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー/三菱重工業SH-60J哨戒ヘリコプターの後継として新たに設計・開発されたのが三菱重工業SH-60K哨戒ヘリコプターである。

SH-60K哨戒ヘリコプターは2001年9月13日に初飛行、2002年6月24日に海上自衛隊第51航空隊に引き渡された。

SH-60K哨戒ヘリコプターはSH-60J哨戒ヘリコプターに比べ若干大型化され、コックピットは操作、状況認識しやすいようグラス・コクピット化、さらに搭載センサーは小型化されながら高性能化された。

これまでのHQS-103ディッピング・ソナーに代わり、新型低周波アクティブ・ソナーが装備された。また、対水上戦用に捜索レーダーに代わり、逆合成開口レーダーが装備される。またFLIR機能とレーザー誘導機能のあるレイセオンAN/AAS-44 ILDRTS(赤外線・レーザー探知測距追跡セット)を装備する。

三菱重工業SH-60K哨戒ヘリコプターは対水上戦に74式車載7,62mm機関銃とAGM-114Mヘルファイア対戦車ミサイルを装備し、北朝鮮の工作船などに対応できるようになった。

工作船などからの攻撃に備え、自衛システムとしてEADS AN/AAR-60 MILDミサイル発射探知システムとBAEシステムズAN/ALE-47 CMDSカウンターメジャー・ディスペンサー・システムが装備された。(注5)

 

救難ヘリコプターにはユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーUH-60J救難ヘリコプターがある。ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーUH-60J救難ヘリコプターは気象レーダー、赤外線暗視装置、慣性航法装置、燃料タンク、などを装備している。

 

 掃海・輸送用に2006年からアグスタ・ウェストランドEH-101(現AW101)をMCH-101掃海・輸送ヘリコプターとして川崎重工業でライセンス生産をはじめた。

前任のシコルスキーMH-53Eシー・ドラゴン掃海ヘリコプターはアメリカ合衆国政府からのFMS(対外有償軍事援助)のため稼働率に問題があったが、ライセンス生産であるMCH-101掃海・輸送ヘリコプターは稼働率の向上が見込まれた。(注6)

 

 2009年、ユーロコプターTH-135練習ヘリコプターの初号機が海上自衛隊に引き渡された。

ユーロコプターTH-135練習ヘリコプターは、練習ヘリコプターとして使用していたマクドネル・ダグラスОH-6D観測ヘリコプターを代替するものである。

 

1977年に国防会議で、ロッキード P-2Jネプチューン対潜哨戒機の後継としてロッキード P-3Cオライオン対潜哨戒機に代替されることが決定された。対潜能力は向上していくことになる。

ロッキード P-3C対潜哨戒機もロッキード P-3Cオライオン対潜哨戒機アップ・デート2、ロッキード P-3Cオライオン対潜哨戒機アップ・デート2,5からロッキード P-3Cオライオン対潜哨戒機アップ・デート3へと性能が向上していった。ロッキード P-3C対潜哨戒機は101機が導入され、アメリカに次ぐ対潜哨戒機を保有するに至った。

ロッキード P-3Cオライオン対潜哨戒機はロッキード P-3Cオライオン哨戒機へ名称が変更される。

また、ロッキード P-3Cオライオン哨戒機をベースに、新装備テストベッドに使われるUP-3C多用機、電子戦訓練に使われるUP-3D多用機、画像情報収集任務に使われるОP-3C多用機、電子情報収集任務に使われるEP-3多用機、が製造された。

連絡機にはホーカー・ビーチクラフト LC-90連絡機がある。

練習機にはホーカー・ビーチクラフト TC-90練習機、SUBARU富士重工業 T-5練習機がある。

 ロッキード P-3Cオライオン哨戒機の後継として川崎重工業P-1哨戒機が開発中であった。

 

 1999年3月の北朝鮮工作船事件を発端に、対ゲリラ、対テロ、対コマンド特殊部隊のために特殊部隊・海上自衛隊特別警備隊が発足した。

海上自衛隊特別警備隊は豊和工業 89式小銃(5,56mm×45)、H&K HK416ライフル(5,56mm×45)、H&K MP5サブ・マシンガン(9mm×19)、SIG P226拳銃(9mm×19)などを装備している。

イギリス海軍(ロイヤル・ネイヴィー)の特殊部隊・特殊舟艇部隊SBSに学んだ精鋭である。(注7)

 

 支援船には、YDT-01級水中処分母船、YT-75級曳船、YT-58級曳船、YW-19級水船、YO-25級油船、YG-203級油船、YB-01級廃油船、YL-09級運貨船、YC-09級起重機船、YF-1029級交通船、YF-2088級交通船、YR-01級設標敷設救難船、YD-04級作業船、YS-01級清掃船、YTE-13級練習船、SB-01級特別機動船、SB-07級特別機動船、YAL敷設船、B-4017級機動船、B-4018級機動船、C-5001級カッター、T-6081級伝馬船、Y-7021級ヨット、Y-7023級ヨット、などがある。

 

車輌には、日産ディーゼル工業 8000l燃料給油車、三菱自動車工業 20000l燃料給油車、三菱ふそうトラック・バス 20000l燃料給油車、日野自動車 トラック2 1/2トン、いすゞ自動車 トラック3/4トン、トヨタ自動車 トラック1/4トン4×4、日野自動車 楽器運搬車、日野自動車 大型人員輸送車、Jバス 大型人員輸送車、日産自動車 人員輸送車、トヨタ自動車 人員輸送車、日産自動車 業務車、トヨタ自動車 業務連絡車、三菱自動車工業 1/2トン・トラック、トヨタ自動車 1 1/2トン・トラック、いすゞ自動車 3 1/2トン・トラック、などがある。

 

 

 

 

 

 

 注1 護衛艦「たかなみ」型|水上艦艇|装備品|海上自衛隊 JMSDF オフィシャルサイト (mod.go.jp)

    朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2002-2003』

    朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2007-2008』

    朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2019-2020』

注2 護衛艦「あたご」型|水上艦艇|装備品|海上自衛隊 JMSDF オフィシャルサイト (mod.go.jp)

    朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2019-2020』

 注3 護衛艦「ひゅうが」型|水上艦艇|装備品|海上自衛隊 JMSDF オフィシャルサイト (mod.go.jp)

    朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2019-2020』

 注4 潜水艦「そうりゅう」型|潜水艦|装備品|海上自衛隊 JMSDF オフィシャルサイト (mod.go.jp)

    朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2019-2020』

 注5 哨戒機「SH-60K」|航空機(回転翼)|装備品|海上自衛隊 JMSDF オフィシャルサイト (mod.go.jp)

    朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2019-2020』

 注6 掃海・輸送機「MCH-101」|航空機(回転翼)|装備品|海上自衛隊 JMSDF オフィシャルサイト (mod.go.jp)

     朝雲新聞社『自衛隊装備年鑑2019-2020』

 注7  高井三郎「自衛隊特殊部隊の編制装備、運用原則」P55

 

 

 

第3項    

 

 

 平成17年度以降に係る防衛計画の大綱における防衛力 航空自衛隊

 

 航空総隊(府中基地)のもとに北部航空方面隊、中部航空方面隊、西部航空方面隊、南西航空混成、航空支援集団、航空教育集団、航空開発実験集団が設置された。

北部航空方面隊には第2航空団(千歳基地)、第3航空団(三沢基地)、北部航空警戒管制団(三沢基地)、第3高射群(千歳基地)、第6高射群(三沢基地)がある。

中部航空方面隊には第6航空団(小松基地)、第7航空団(百里基地)、中部航空警戒管制団(入間基地)、第1高射群、第6高射群がある。

西部航空方面隊には第5航空団(新田原基地)、第8航空団(築城基地)、西部航空警戒管制団(春日基地)、第2高射群がある。

南西航空混成団には第83航空隊(那覇基地)、南西航空警戒管制団(那覇基地)、第5高射群(那覇基地)がある。

航空支援集団には航空救難団(入間基地)、第1輸送航空隊(小牧基地)、第2輸送航空隊(入間基地)、第3輸送航空隊(美保基地)、航空保安管制群(入間基地)、航空気象群(府中基地)がある。

航空教育集団には第1航空団(浜松基地)、第4航空団(松島基地)、第11飛行教育団(静浜基地)、第12飛行教育団(防府北基地)、第13飛行教育団(芦屋基地)、航空教育隊(防府南基地)がある。

補給本部は十条基地(十条駐屯地)にある。

 

戦闘機が配備されている基地には基地防空隊が設置されている。

基地防空隊には、第2基地防空隊、第3基地防空隊、第4基地防空隊、第5基地防空隊、第6基地防空隊、第7基地防空隊、第8基地防空隊、第9基地防空隊、がある。

以前は基地防空群としてレーダー・サイト防空なども担当していたが、戦闘機配備基地のみの防空を担当する基地防空隊となった。

基地防空隊には81式短距離地対空誘導弾、91式携帯地対空誘導弾、VADS(バルカン防空システム)が配備されている。

81式短距離地対空誘導弾は赤外線誘導短距離地対空ミサイルである。

91式携帯地対空誘導弾は赤外線誘導とCCDカメラ画像誘導の個人携帯地対空ミサイルである。

VADS(バルカン防空システム)は、M61バルカン20mm機関砲の地上配備型であるM167機関砲、F-104スター・ファイター戦闘機に搭載されていたM61バルカン20mm機関砲を取り外し対空機関砲に改造したもの、がある。

以前はFIM-92スティンガー携帯地対空ミサイル(赤外線誘導+紫外線誘導)も配備されていたが、91式携帯地対空誘導弾に代替されていった。

81式短距離地対空誘導弾の後継には、2011年に基地防空地対空誘導弾が開発された。

 

航空団は団司令を頂点に副団司令、副官と続く。航空団は監理部、人事部、防衛部、装備部、衛生班と、群本部と飛行隊からなる飛行群、そして群本部と検査隊、装備隊、修理隊、車輌機材隊、補給隊からなる整備補給群、および群本部と、飛行場勤務隊、施設隊、監理隊、業務隊、会計隊、衛生隊からなる基地業務群で構成される。

 

航空警戒管制部隊には北部航空管制団(三沢基地)、中部航空管制団(入間基地)、西部航空管制団(春日基地)、南西航空管制隊(那覇基地)が担当した。

北部航空管制団隷下には北部防空管制群(三沢基地)、警戒通信隊(三沢基地)、整備隊(三沢基地)、第1移動警戒隊(三沢基地)、第8移動警戒隊(千歳基地)と各レーダー・サイトがおかれた。

中部航空管制団隷下には中部防空管制群(入間基地)、整備補給群(入間基地)、基地業務群(入間基地)、第2移動警戒隊(入間基地)と各レーダー・サイトがおかれた。

西部航空管制団には隷下に西部防空管制群(春日基地)、整備業務群(春日基地)、基地業務群(春日基地)と土佐清水通信隊(土佐清水分屯基地)と各レーダー・サイトがおかれた。

南西航空警戒管制隊隷下には南西防空管制群(那覇基地)、警戒通信隊(那覇基地)、防空管制隊(那覇基地)と第4移動警戒隊(那覇基地)、奄美通信隊、整備隊がおかれた。

 

レーダーは、NEC 固定式3次元レーダーJ/FPS-2、NEC 固定式3次元レーダーJ/FPS-3、東芝 固定式3次元レーダーJ/FPS-4、三菱電機 固定式3次元レーダーJ/FPS-5、ベンディックス 固定式2次元レーダーAN/FPS-20・J/FPS-20S、NEC 移動式3次元レーダー装置J/TPS-102があり、NEC 移動用多重通信装置(ОH)J/TRQ-502、NEC 移動用多重通信装置(ОH)J/TRQ-504、NEC 移動用多重通信装置(ОH)J/TRQ-50、NEC ラプコン(レーダー・アプローチ・コントロール・システム)装置、NEC 移動式ラプコン(レーダー・アプローチ・コントロール・システム)装置J/TPQ-701、NEC 移動式ラプコン(レーダー・アプローチ・コントロール・システム)装置J/TPQ-702、NEC タカン(タクティカル・エア・ナヴィゲーション)装置、日立国際電気 無線機J/GRC-506、JRC日本無線 気象用レーダーJ/FPH-8、東芝 気象用レーダーJ/FPH-8、JRC日本無線 気象レーダーJ/FPH-9、移動式気象レーダー装置J/TPH-702、明星電気 高層用気象観測装置J/FMQ-10、気球製作所 高層用気象観測装置J/FMQ-10、NEC 多重無線装置(ОH)J/TRQ-503、が地上からの警戒管制に使用される。

 

警戒航空隊には第601飛行隊に、グラマン E-2Cホーク・アイ早期警戒機13機、ボーイング E-767空中警戒管制システム機4機、がある。

 

三沢基地に配置されるグラマン E-2Cホーク・アイ早期警戒機は、合衆国海軍の空母での運用を前提に開発された早期警戒機で、小型の機体となっている。

 

1976年のミグ25戦闘機亡命事件では、地上レーダー、マクドネル・ダグラス f-4EJファントムⅡ戦闘機ともにソ連から亡命してきたミコヤン MiG-25戦闘機を見失い、函館空港に強行着陸された。

そのため空中早期警戒システムの導入が急がれた。

グラマン E-2Cホーク・アイ早期警戒機、ボーイング E-3セントリー空中警戒管制システム機の導入が検討され、価格が安いグラマン E-2Cホーク・アイ早期警戒機が採用された。

 

ボーイング E-767空中警戒管制システム機は、浜松基地に配備される。

合衆国空軍 ボーイング E-3セントリー 空中警戒管制システム機の導入を計画していた航空自衛隊だったが、ボーイング E-3セントリー 空中警戒管制システム機のベースとなるボーイング707が製造中止となりボーイング E-3セントリー 空中警戒管制システム機の導入は不可能になった。

そのためボーイングは、ボーイング E-3セントリー空中警戒管制システム機のレーダーと管制システムをボーイング767に搭載するボーイング E-767空中警戒管制システム機を開発、航空自衛隊が導入することになった。

 

マクドネル・ダグラス F-4EJファントムⅡ戦闘機(初飛行1958年、自重13500kg、総重量18818kg、推力79,62kN×2)140機(注1)は1971年からライセンス生産された。

マクドネル・ダグラス F-4EJファントム戦闘機の要撃戦闘機部隊は第301飛行隊(宮崎県・新田原基地)、第302飛行隊(沖縄県・那覇基地)に配備され、で南西に偏っていた。

 

レーダー・サイトを中心とした警戒管制部隊28個警戒隊と1個警戒航空隊で構成されるJADGE(自動警戒管制組織)システムは、日本の各地(第18警戒隊:稚内分屯基地・NEC J/FPS-2、第28警戒隊:網走分屯基地・東芝 J/FPS-4、第26警戒隊:根室分屯基地・NEC J/FPS-2、第36警戒隊:襟裳分屯基地・ベンディックス J/FPS-20S(AN/FPS-20改)、第45警戒隊:当別分屯基地・NEC J/FPS-3改、第42警戒隊:大湊分屯基地・三菱電機 J/FPS-5、第33警戒群:加茂分屯基地・NEC J/FPS-3改、第37警戒隊:山田分屯基地・NEC J/FPS-2、第27警戒隊:大滝根山分屯基地・NEC J/FPS-3改、第35警戒隊:佐渡分屯基地・NEC J/FPS-3改、第23警戒隊:輪島分屯基地・NEC J/FPS-3改、第44警戒隊:峯岡山分屯田基地・東芝 J/FPS-4、第1警戒隊:笠取山分屯基地・NEC J/FPS-3改、第5警戒隊:串本分屯基地・ベンディックス J/FPS-20S(AN/FPS-20改)、第35警戒隊:経ヶ岬分屯基地・NEC J/FPS-3改、第7警戒隊:高尾山分屯基地・東芝 J/FPS-4、第9警戒隊:下甑島分屯基地・三菱電機 J/FPS-5、第17警戒隊:見島分屯基地・NEC J/FPS-2、第19警戒隊:海栗島分屯基地・NECJ/FPS-2、第43警戒隊:背振山分屯基地・NEC J/FPS-3改、第15警戒隊:福江島分屯基地・東芝 J/FPS-4、第13警戒隊:高畑山分屯基地・ベンディックス J/FPS-20S(AN/FPS-20改)、第56警戒隊:与座岳分屯基地・三菱電機 J/FPS-5、第54警戒隊:久米島分屯基地・東芝 J/FPS-4、第55警戒隊:沖永良部島分屯基地・ベンディックスJ/FPS-20S(AN/FPS-20改)、第53警戒隊:宮古島分屯基地・NEC J/FPS-2)に配置されたレーダー・サイトと中央管制システム、グラマン E-2Cホーク・アイ早期警戒機、ボーイング E-767空中警戒管制システム機からなる。

 

マクドネル・ダグラス F-4EJファントムⅡ戦闘機は改修されF-4EJ改ファントムⅡ戦闘機となった。

マクドネル・ダグラス F-4EJ改ファントムⅡ戦闘機のレーダーはロッキード・マーティン F-16A/Bファイティング・ファルコン戦闘機と同様のAN/APG-66に換装、アナログ方式セントラル・コンピューターからデジタル方式セントラル・コンピューターへの換装、レーダー警戒装置はマクドネル・ダグラス F-15Jイーグル戦闘機と同様のAN/ALR-56Cに換装されている。

搭載ミサイルは80式空対艦ミサイル(ASM-1)、AIM-9Lサイドワインダー空対空ミサイル,AIM―7F/Lスパロー空対空ミサイルが搭載可能になっている。(注2)

 

マクドネル・ダグラス F-4EJ改ファントムⅡ戦闘機はデジタル・データ・バスが無いため、ミサイル発射後ただちに現場から離れられ安全なAIM-120AMRAAM空対空ミサイル、AAM-4空対空ミサイルが運用できない。マクドネル・ダグラス F-4EJ改ファントムⅡ戦闘機は長期的な使用は不可能になると考えられた。

 

初飛行1958年のマクドネル・ダグラス F-4EJ改ファントムⅡ戦闘機では相対的な戦力低下は否定できず、後継機の早期配備が望まれた。

  

1977年に国防会議で導入が決定し、1980年から導入されたマクドネル・ダグラスF-15J/DJイーグル戦闘機(初飛行1972年、自重12973kg、総重量20244kg、最大重量30845kg、推力105,7kN×2)。F-15J/DJイーグル戦闘機は225機の導入が計画されたが、計画はは200機に縮小、総生産数は213機となった。(注2)

 

F-15J/DJ戦闘機は1981年に西部航空方面隊の新田原基地に第5航空団隷下に「F-15臨時飛行隊」が結成され配備されたのをはじめに、第202飛行隊に続いて配備され、1984年に第2航空団隷下に第203飛行隊へのF-15J/DJが配備されたことでF-104Jの更新を完了、第204飛行隊(茨城県・百里基地)、第305飛行隊(石川県・小松基地)、第304飛行隊(福岡県・築城基地)と配備が続いていった。

 

F-15J/DJイーグル戦闘機は、大型にもかかわらずチタニウム合金を従来機より大幅に使用したため重量が抑えられ、大推力による高機動、高速巡航が可能で空戦において圧倒的に優位に立つ。

電子装備も大型な機体を生かし、大型ゆえ高性能なAPG-63レーダー火器管制システムを搭載している。

電子戦装置はアメリカ議会の反対で導入できなかった戦術電子戦システムTEWS(AN/ALR-56レーダー警戒装置、AN/ALQ-135電子妨害装置、AN/ALQ-128電子戦警戒受信装置、AN/ALE-45チャフ/フレア・ディスペンサーなどで構成)に代えて、日立製作所が開発した国産電子戦装置J-TEWS(J/APR-4レーダー警戒装置、J/ALQ-8電子妨害装置、AN/ALE-45Jチャフ/フレア・ディスペンサー、J/APQ-1後方警戒装置などで構成)を装備し、20世紀では超一流の性能を誇った。

 

F-15イーグル戦闘機203機で、生産時期によって使用が異なる。1985年生産分からはセントラル・コンピューターが新型化され、1991年生産分からは電子制御式F100エンジンを搭載している。後期生産分はMSIP(段階的改良計画)機として、前期生産機分(PRE―MSIP)機とは異なった機体となっている。

 

宮崎県・新田原基地の第202飛行隊は航空教育集団隷下の第23飛行教育航空隊に改変された。

 

防衛庁は1997年度からマクドネル・ダグラスF-15J/DJ戦闘機に対して近代化能力向上改修の実施を開始した。改修が実施しやすい設計のF-15J/DJイーグル戦闘機MSIP機(多段階改良計画機、F-15J戦闘機67機、F-15戦闘機DJ36機)が対象である。

防衛庁は「F-15が既存の装置のままでは、2010年度以降に予想される脅威に対処することが困難であることから、これに対処し得るために、電子戦環境下でのミサイル戦における優勢の確保と、戦況把握および表示能力の向上を図ることが必要である。」とし、「防空要撃能力については、将来における技術的水準の動向に対応して、現有の要撃戦闘機(F-15)を今後とも有効活用するため、近代化の改修を確保する」とした。

 

2002年にはF-15Jイーグル戦闘機に対する試改修を開始、2003年7月18日に初飛行した。10月21日には防衛庁に納入され航空自衛隊飛行開発実験団が作業に入った。F-15量産改修機は2004年度に予算化され、2機分・98億円が予算化された。2005年度には4機、2006年度には2機、2008年度には20機・609億円が予算化された。2009年度には22機と38機分のレーダーが予算化された。

 

F-15J近代化改修機形態Ⅰ型はレーダーがAN/APG-63レーダーからAN/APG-63(V)1レーダーに換装された。これによって平均故障間隔が2倍以上の150時間となり、信頼性が向上した。AN/APG-63(V)1レーダーはボーイング/マクドネル・ダグラス F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機に搭載されているAN/APG-70レーダーからフィード・バックしたものである。

アクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーのAN/APG-63(V)2レーダーは量産化されず、F-15J近代化改修機形態Ⅰ型への搭載は不可能となった。

アクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーのAN/APG-63(V)3レーダーはマクドネル・ダグラスF-15J/DJ戦闘機の近代化能力向上改修が決定された1997年はまだ開発中で、F-15J近代化改修機形態Ⅰ型への搭載に間に合わなかった。

 

F-15J近代化改修機形態Ⅰ型は、セントラル・コンピューターはAP-1RからVHSICに換装された。処理速度が大幅に向上され、記憶容量も容量に余裕がある。また、基本ソフト・ウェアも更新された。

 発電機と冷却システムはアヴィオニクスの増加による電力需要の増大や、発生熱大に対応するためジェネレーターを75kVAの発電能力のある新型に換装され、冷却能力が向上した高圧除湿装置が導入された。

戦術データ・リンク向上のために、戦術データ交換システム端末(MIDS-FDL)としてLINK16戦術データ・リンクが搭載された。無線通信装置は電波妨害対処能力が付加され、飛行記録装置(FDR)も搭載され、機体管理能力が強化された。

 

また、F-15J近代化改修機形態Ⅰ型はにAAM-4(99式空対空誘導弾)空対空ミサイルやAAM-5(04式空対空誘導弾)空対空ミサイルの搭載能力が付与された。AAM-4空対空ミサイルはアクティブ・レーダー誘導中距離空対空ミサイルで、複数同時処理、撃ちっ放し(ファイア・アンド・フォーゲット)能力、視程距離外(BVR)戦闘能力を持ち、大幅な作戦能力の向上となる。そのために運用飛翔プログラムの改修、指令送信機の搭載がされた。AAM-5空対空ミサイルは赤外線画像誘導短距離空対空ミサイルで、オフボアサイト能力を持つ。そのために、ヘルメットのバイザー部分に情報表示できるヘルメット・マウンテッド・ディスプレイが導入される。ヘルメット・マウンテッド・ディスプレイは島津製作所のヘルメット・マウンテッド・ディスプレイとJHMCS統合ヘルメット装着キューイング・システムが検討された。

 

F-15J近代化改修機形態Ⅱ型では、電子戦環境下での能力向上のため、統合電子戦システム(IEWS)が導入される予定だった。チャフ/フレア・ディスペンサーはAN/ALE-45からIEWSに統合可能なAN/ALE-47に換装される。

また、赤外線捜索追跡装置(IRST)も試改修1号機に搭載改修作業がなされている。2003年度から「戦闘機搭載用IRST装置」の開発が技術研究本部で始まり、2008年度までに技術・実用試験が完了した。IRSTはパッシブ赤外線センサーで、電子戦環境下にも強く、ステルス機にも対応が期待されている。

マクドネル・ダグラスF-15J/DJイーグル戦闘機は、最終的には量産改修機88機、試改修機2機が近代化改修機になる予定とされた。

   

支援戦闘機部隊は3個飛行隊ある。

 

第8飛行隊(青森県・三沢基地)は三菱重工業 F-1支援戦闘機からマクドネル・ダグラス F-4EJ改ファントムⅡ戦闘機に機種更新された。

 

第3飛行隊は次期支援戦闘機FSXとして開発された三菱重工業/ロッキード・マーティンF-2支援戦闘機に機種更新された。

 

三菱重工業/ロッキード・マーティンF-2支援戦闘機(旧称・F-16SX-3)は、自重9527kg、離陸最大重量22100kg、エンジンはゼネラル・エレクトリックF110-GE-132で、推力131,2kN×1である。(注3)

 

第3飛行隊の戦力は向上している。

第6飛行隊も2005年までにF-2支援戦闘機に機種更新された。

 

三菱重工業/ロッキード・マーティンF-2(旧称・F-16SX-3)支援戦闘機は、次期支援戦闘機FSXとして、三菱重工業とゼネラル・ダイナミクスが共同開発することになった。

次期支援戦闘機FSXは当初、機体は日本単独開発、エンジンはアメリカ製を導入する計画であった。

アメリカでは、日本の航空機開発能力は低いと主張する合衆国空軍、国防省、日米貿易摩擦により日本の対アメリカ貿易黒字縮小を求めるアメリカ議会、自動車だけでなく航空宇宙防衛産業でも日本が力をつけることを懸念するアメリカ商務省、産業界の批判があった。

その結果、機体の開発にもアメリカ企業が関与することになる共同開発が最適という結論になった。ベースとなる機体はゼネラル・ダイナミクス F-16C/Dブロック40ファイティング・ファルコン戦闘機となり、機体の開発にはゼネラル・ダイナミクスが関与することが最適とされた。

FSXはゼネラル・ダイナミクス F-16C/Dブロック40ファイティング・ファルコン戦闘機をベースに三菱重工業とゼネラル・ダイナミクスが共同で開発することになった。

しかし、クライド・プレストウィッツ元・商務省次官補代理が「アメリカの航空機開発能力、航空機技術が日本に奪われる、盗まれる」とマス・メディアにおいて強く主張し、FSXはFSX問題としてアメリカ議会で取り上げられることになり、アメリカ議会での議論は紛糾した。

 

 三菱重工業が全開発の60%、ゼネラル・ダイナミクスが全開発の40%を担当することになった。その後、ゼネラル・ダイナミクスの戦闘機部門はロッキードに売却され、ロッキードはマーティン・マリエッタと合併しロッキード・マーティンとなる。

FSX(F-16SX-3、F-2支援戦闘機)には3重デジタル・フライ・バイ・ワイヤ1重アナログ・フライ・バイ・ワイヤの日本独自フライ・バイ・ワイヤFBW、炭素繊維複合材CFRP、三菱電機 J/APG-1アクティブ・フェイズド・アレイ・レーダー、液晶グラス・コックピットなど、日本独自開発の最新の技術が投入されている。

エンジンはゼネラル・エレクトリックF110-GE-132ターボ・ファン・エンジンが導入され、石川島播磨重工業IHIでライセンス生産している。推力はアフター・バーナーを使用した最大推力が131,2kNである。

 

航空偵察機部隊、航空輸送部隊は新・防衛計画の大綱においても旧・防衛計画の大綱と同じくそれぞれ1個飛行隊、3個飛行隊が維持され、機種も同様である。

 

 航空偵察部隊は1個飛行隊とされ、マクドネル・ダグラス RF-4EJ偵察機が13機配備され、後にマクドネル・ダグラス F-4EJ戦闘機を偵察機改造したうえで追加され、航空偵察部隊は17機となった。

 

練習機には、川崎重工業 T-4中等練習機、富士重工業SUBARU T-7初等練習機、レイセオン・エアクラフト・カンパニー T-400輸送機・救難機等基本操縦練習機、がある。 

 

 航空輸送部隊は3個飛行隊とされ、川崎重工業 C-1輸送機が27機(ペイロード8トン)、ロッキード C-130Hハーキュリーズ輸送機(ペイロード18トン)が16機、日本航空機製造 YS-11が9機配備されていた。

 また、ボーイング747政府専用機が要人輸送に充てられた。

 川崎重工業 C-1輸送機の後継には、川崎重工業 C-2輸送機が開発され、鳥取県・美保基地に配備された。

 

  航空自衛隊の支援航空機として、BAEシステムズ U-125飛行点検機、ガルフストリーム・エアロスペース U-4多用途支援機が配備された。

 資材の運搬にはボーイング CH-47J輸送ヘリコプターが使用されている。

 

 救難飛行隊にはユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH-60J救難ヘリコプター、ブリティッシュ・エアロスペース(現BAEシステムズ) U-125A救難捜索機が導入された。

 

救難ヘリコプターとしてユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーUH-60Jヘリコプターが導入された。

UH-60となっているが汎用ヘリコプター(ユーティリティ・ヘリコプター)ではなく、合衆国空軍ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー HH―60Gぺイヴ・ホーク救難ヘリコプターに相当する機体である。

赤外線暗視装置、気象レーダー、慣性航法装置、燃料タンク、空中給油装置、を装備し救難任務仕様となっている。

 ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH-60J救難ヘリコプターは救難専用として目立つように白を中心とした塗装にしていたが、戦闘捜索救難CSARを考慮するようになりロービジ(低視認性)塗装に変更される。

 

救難機として、ブリティッシュ・エアロスペース(現BAEシステムズ) U-125A救難捜索機が1995年に導入された。ブリティッシュ・エアロスペース BAe125-800に捜索レーダー、赤外線暗視装置が追加装備されている。 U-125A救難捜索機もロービジ塗装に変更された。

 

 地対空誘導弾部隊には6個高射群とされた。

 

装備は、1989年からMIM-104 PATRIOT(Phased Array TRacking to Interceptor Of Target)防空システムが配備された。

 

MIM-104C PAC2(PATRIOT能力向上型2)に改良されている。若干の弾道ミサイル迎撃能力を持つようになった。

 

弾道ミサイルを迎撃できるMIM-104F PAC3(PATRIOT能力向上型3、旧称ERINT)の配備には時間がかかり、2007年からの配備になった。

 

1個高射群は指揮所運用隊、整備補給隊と4個高射隊からなり、24個高射隊が航空自衛隊基地や航空自衛隊分屯基地にある。

 

   北海道・千歳基地に第3高射群、青森県・三沢基地に第6高射群、埼玉県・入間基地に第1高射群、岐阜県・岐阜基地に第4高射群、福岡県・芦屋基地に第2高射群、沖縄県・那覇基地に第5高射群、が配置されている。

 

 第1高射隊は千葉県・習志野分屯基地、第2高射隊は神奈川県・武山分屯基地、第3高射隊は茨城県・霞ヶ浦分屯基地、第4高射隊は埼玉県・入間基地、第5高射隊は福岡県・芦屋基地、第6高射隊は福岡県・芦屋基地、第7高射隊は福岡県・築城基地、第8高射隊は福岡県・多良台分屯基地、第9高射隊は北海道・千歳基地、第10高射隊は北海道・千歳基地、第11高射隊は北海道・長沼分屯基地、第12高射隊は滋賀県・餐場野分屯基地、第13高射隊は岐阜県・岐阜基地、第14高射隊は三重県・白山分屯基地、第15高射隊は岐阜県・岐阜基地、第16高射隊は沖縄県・知念分屯基地、第17高射隊は沖縄県・那覇基地、第18高射隊は沖縄県・知念分屯基地、第19高射隊は沖縄県・恩名分屯基地、第20高射隊は北海道・八雲分屯基地、第21高射隊は青森県・車力分屯基地、第22高射隊は青森県・車力分屯基地、第23高射隊は北海道・八雲分屯基地、第24北海道・長沼分屯基地、に配置されている。

 

 高射隊は基地や分屯基地から各地に展開するが、広大な領土領海領空、広大な排他的経済水域、の防空には高射隊、MIM-104 PATRIOTがかなり不足している。

 

 航空自衛隊は、朝鮮半島有事において航空自衛隊基地への攻撃を懸念した。

北朝鮮のコマンド部隊/特殊部隊による航空自衛隊基地への攻撃および北朝鮮・朝鮮労働党作戦部の工作員が朝鮮総連の有志と日本人、在日韓国人の協力者を指導しゲリラ部隊を編成し航空自衛隊基地を攻撃する可能性が高まった。

航空自衛隊は基地警備部隊の能力向上のため基地警備教導部隊の研究を始め、2008年3月に基地警備教導隊を発足させる予定であった。

2008年3月の発足予定から3年遅れて2011年3月に航空自衛隊基地警備教導隊が発足した。

航空自衛隊基地警備教導隊は航空自衛隊の各基地の基地警備部隊を教育訓練する部隊であるとともに対ゲリラ・コマンド特殊部隊で、北朝鮮のコマンド部隊/特殊部隊、ゲリラ部隊に対応する。

航空自衛隊の基地警備教導隊は、豊和工業 64式小銃(7,62mm×51)、FN MINIMI5,56mm機関銃(5,56mm×45)、ミネベア 9mm機関拳銃(9mm×19)、SIGザウエル/ミネベア SIG P220 9mm拳銃(9mm×19)などの小火器が装備されている。

車輌は陸上自衛隊と同じコマツ 軽装甲機動車が配備されている。陸上自衛隊ではオリーブ・ドラブとライト・ブラウンの迷彩となっているコマツ 軽装甲機動車だが、航空自衛隊基地警備教導隊はオリーブ・グリーン一色のコマツ 軽装甲機動車を装備する。

 

車輌には、三菱自動車工業 1/2トン・トラック、トヨタ自動車 1・1/2トントラック、いすゞ自動車 3・1/2トン・トラック、いすゞ自動車 トラック2・1/2トン4×4カーゴ(2トンクレーン付)、日産ディーゼル工業 トラック8トン(4×2)、

UDトラックス トラック8トン(4×2)、ダイムラー/メルセデス・ベンツ 射場多目的車、日野自動車 施設作業車、日野自動車 自活車、東洋電機工業 救難車、東洋電機工業 救難車(改)、トヨタ自動車 場外救難車1型、三菱自動車工業 トラクタ6トン(6×4)給水車用、いすゞ自動車 2000リットル燃料タンク車、三菱自動車工業 2000l燃料タンク車、日野自動車 2000G燃料給油車、UDトラックス 2000G燃料給油車、日産ディーゼル工業 2000G燃料給油車、東邦車輛 20キロリットル燃料給油車、東邦車輛 セミトレーラ5000G燃料給油車、いすゞ自動車 2・1/2トン散水車、日野自動車 2・1/2トン散水車、三菱自動車工業 除雪トラック(6×6)、三菱ふそうトラック・バス 除雪トラック(6×6)改、三菱ふそうトラック・バス 残雪除去器材(プラウ付)、三菱ふそうトラック・バス/新明和工業 大型融雪散布車、日野自動車/加藤製作所 ランウェイスイーパー、日野自動車 バリヤ作業車、三菱ふそうトラック・バス バリヤ作業車、いすゞ自動車 バリヤ作業車、日野自動車 爆弾作業車、コマツ 軽装甲機動車、いすゞ自動車 除染車、三菱自動車工業 レッカ車、三菱ふそうトラック・バス レッカ車、ダイムラー/メルセデス・ベンツ 山林多目的車、三菱自動車工業 ミサイル運搬車、三菱ふそうトラック・バス ミサイル運搬車、三菱重工業/日産ディーゼル工業 起動車(自走式)、神戸製鋼所/神鋼電気 AE-3電源車、神戸製鋼所/神鋼電気 C-5電源車、大阪精密電気工作所 C-5電源車、東急車輛製造 中型バキュームスイーパ、三菱ふそうトラック・バス 大型人員輸送車、三菱自動車工業 大型人員輸送車、日野自動車 大型人員輸送車、日産自動車 サイト用人員輸送車、三菱自動車工業 サイト用人員輸送車、トヨタ自動車 小型人員輸送車、三菱自動車工業 小型輸送車、などがある。

 

 2008年度から退役の始まるマクドネル・ダグラスF-4EJファントムⅡ戦闘機140機の後継として、次期主力戦闘機策定がはじまった。

 

後継機の候補にはロッキード・マーティンF-22Aラプター戦闘機(三菱商事)、ロッキード・マーティンF-35ライトニングⅡ戦闘機(三菱商事)、ボーイングF-15FX戦闘機(伊藤忠商事)、ボーイングF/A-18E/F戦闘攻撃機(双日)、ユーロファイター・タイフーン(住友商事)が候補に挙がった。

 

ロッキード・マーティンF-22ラプター戦闘機はYF-22初飛行1990年、F-22A初飛行1997年、自重19700kg、推力156kN×2。異機種間戦闘訓練(DACT)でほぼ無敗を誇り、20世紀最強の戦闘機マクドネル・ダグラス F-15Cイーグル戦闘機をも圧倒する世界最強の戦闘機である。

ロッキード・マーティン本社には日の丸ラウンデルが描かれたF-22Aラプター戦闘機の小型模型が展示されている様子が撮影されている。

ロッキード・マーティンF-22ラプター戦闘機は、レーダー断面積0,0001平方メートル(ロッキード・マーティン F-117ナイト・ホーク戦闘爆撃機のレーダー断面積は0,025平方メートル、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機のレーダー断面積は0,001平方メートル)という高度なステルス性能、統合電子戦能力、推力偏向制御システムの採用による画期的な機動、最高速度マッハ2,4、アフター・バーナーを使用せずにマッハ1,58での超音速巡行が可能なスーパー・クルーズ能力、高性能なAN/APG-77アクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダー、秘匿性を重視した通信データリンク・システム、など最高機密の技術で製造されているため、国防技術流出防止法(2006年解除)や1998年国防歳出法オービー修正条項(デイヴィッド・オービー下院議員提出、2009年下院削除)、2010会計年度予算権限法案で輸出が禁止されていた。また、機体の価格が非常に高価(合衆国空軍フライ・アウェイ価格1機155億円、F-22A戦闘機の対日F-22Aラプター戦闘機輸出賛成派であるダニエル・イノウエ上院議員の提案で1機250億円)であることも問題になると思われた。

 

ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機はX-35初飛行2000年、F-35A初飛行2006年、自重13300kg、エンジンはユナイテッド・テクノロジーズ・プラット・アンド・ホイットニーF135-PW-100ターボ・ファン・エンジンで、推力は173kN×1である。

ロッキード・マーティン F-35ライトニングⅡ戦闘機は開発が遅れ2005年初飛行予定が2006年12月の初飛行となった。F-35Aライトニング戦闘機は初期作戦能力の獲得がかなり遅くなると考えられた。

ロッキード・マーティン F-22ラプターA戦闘機が最高速度マッハ2,4、アフター・バーナーを使わずにマッハ1,58で超音速巡行できるスーパー・クルーズ能力、推力偏向制御システムによる画期的な機動が可能であるのに対し、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機は最高速度マッハ1,6、スーパー・クルーズ能力は無い、推力偏向制御システムは無い。

ロッキード・マーティンF-35ライトニングⅡ戦闘機もロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機と同様に第5世代戦闘機として画期的な機動が可能となる推力偏向制御機能、アフター・バーナーを使用せずに超音速巡行が可能なスーパー・クルーズ能力が付与される計画と発表されていたがコストの問題などで変更となった。

 

ステルス性は、ロッキード・マーティン F-22ラプターA戦闘機のレーダー断面積は0,0001平方メートルに対し、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機のレーダー断面積は0,001平方メートルで、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡのステルス性はロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機より劣る。

ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機のレーダーAN/APG-81アクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーは、ロッキード・マーティン F-22ラプター戦闘機のAN/APG-77レーダーを簡易化させたもので半導体素子の数は大幅に減らされている。

一方、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機にはロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機にはないAN/AAQ-40電子光学ターゲティング・システム、AN/AAQ-37電子光学配給開口システムがある。

AN/AAQ-40電子光学ターゲティング・システムのIRST赤外線サーチ・アンド・ターゲット機能によりレーダーを使わず赤外線での捜索が可能となり被発見性が低下、安全性が向上し、AN/AAQ-40ターゲティング・システムのレーザー・ターゲティング機能によりレーザー誘導爆弾の運用が可能になっている。

AN/AAQ-37電子光学配給開口システムにより、光学画像、赤外線画像がJHMCS統合ヘルメット装着キューイング・システムのヘルメット・バイザー部に表示され、常時360度監視可能となり状況認識、安全性が向上している。

ロッキード・マーティンF-22Aラプター戦闘機のコックピットはファンクションスイッチ(ボタン)式グラス・コックピットとヘッド・アップ・ディスプレイであるが、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機は大型2面タッチ・センサー液晶パネル・コックピットとJHMCS統合ヘルメット・キューイング・システムとになり、状況認識、操作性が向上している。ヘッド・アップ・ディスプレイを廃止しヘルメット・マウンテッド・ディスプレイであるJHMCS統合ヘルメット装着キューイング・システムの採用により状況認識、操作性を向上させ、大型2面タッチ・センサー液晶パネル・コックピットも状況認識、操作性向上となっている。

 

ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機は当初、ロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機と同じくチタニウム合金を多用することで軽量化を目指していたが、価格を抑えるためチタニウム合金よりアルミニウム合金の多用に変更され重量が増加した。一方でロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機は大型油圧アクチュエーターの無いパワー・バイ・ワイヤの採用で軽量化している。

 

ロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機の対空装備はAIM-120C/D AMRAAM先進中距離空対空ミサイル8発、AIM-9Mサイドワインダー空対空ミサイル2発、M61A2バルカン20mm機関砲であるのに対し、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機の対空装備はAIM-120C/D AMRAAM先進中距離空対空ミサイル4発、GAU-22/Aイコライザー25mm機関砲、となる。

GAU-22/Aイコライザー25mm機関砲は対空より対地を念頭に開発されているため対空を重視する航空自衛隊ではロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機の採用は不利になると考えられた。

しかしロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機はJHMCS統合ヘルメット装着キューイング・システムの採用によって将来的にはAIM-9Xサイドワインダー2000空対空ミサイルの効果的な運用が可能になった。JHMCS統合装着キューイング・システムとAIM-9Xサイドワインダー2000空対空ミサイルの採用は、短距離、近距離での空対空戦闘で有利になると考えられた。

ロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機の対地攻撃能力はGBU-32 1000ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界13m)2発またはGBU-39 250ポンドSDM小直径爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界5m)8発の搭載に限られるが、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機はGBU-32 1000ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導)、GBU-39 250ポンドSDM小直径爆弾GPS/INS誘導)だけではなく、GBU-31 2000ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導)、GBU-38 500ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導)、GBU-54 500ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-55 1000ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー/GPS/INS9誘導)、GBU-56 2000ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-12 500ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー誘導)、GBU-10 1000ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー誘導)、GBU-16 2000ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー誘導)、AGM-154 JSOW統合スタンド・オフ兵器(滑空兵器、GPS誘導)、AGM-88C/D HARM高速対電波源ミサイル(パッシヴ・レーダー誘導、対レーダー兵器)、AGM-88E AARGM先進対電波源誘導ミサイル(パッシヴ・レーダー誘導/GPS誘導/INS誘導、対レーダー兵器)、AGM-158 JASSM統合空対地スタンド・オフ・ミサイル(GPS誘導/赤外線画像誘導)など多様な対地攻撃兵器の使用が可能で、JSM統合打撃ミサイルによる対艦攻撃も可能となり、マルチ・ロールを念頭に置くとF-35AライトニングⅡ戦闘機は使えると判断された。

 

ハイ・ロー・ミックス構想(のちにフォース・ミックス構想に言い換えられる)では、ハイ-高価格・高性能のマクドネル・ダグラス F-15Cイーグル戦闘機の後継機となるハイ-高価格・高性能はロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機である。

ロー-低価格それなりの性能にあたるロッキード・マーティン F-16ファイティング・ファルコン戦闘機の後継となるロー・低価格それなりの性能の戦闘機はロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機である。ロー・数をそろえるための低価格・それなりの性能な戦闘機がロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機である。

 

ハイ-高価格・高性能のマクドネル・ダグラス F-15A/B/C/Dイーグル戦闘機894機をロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機750機で代替、ロッキード・マーティン F-16A/B/C/Dファイティング・ファルコン戦闘機2241機をロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機2000機以上で代替する計画だった。

軍事大国にならないという日本の政治の意味不明・理不尽な要求によって戦闘機の数を少なくしなければならなかった航空自衛隊は、戦闘機の高価格・高性能のハイに当たる戦闘機による少数精鋭でやってきた。

航空自衛隊の構想にあてはまるハイ-高価格・高性能の戦闘機はロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機で、ローにあたるロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機は支援戦闘機である三菱重工業/ロッキード・マーティン F-2戦闘機に近い。

ハイ-高価格・高性能の戦闘機であるマクドネル・ダグラス F-4EJファントムⅡ戦闘機、マクドネル・ダグラス F-15J/DJイーグル戦闘機に続く主力戦闘機にロー・低価格それなりの性能であるロッキード・マーティン F-35ライトニングⅡ戦闘機はあまり適当と言えなかった。

ハイ・ロー・ミックス構想のハイを要求する航空自衛隊はロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機を求めていた。

しかしロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機は合衆国空軍フライ・アウェイ価格が105億円、最終的な合衆国空軍フライ・アウェイ価格が95億円になる計画でかなり安く、防衛費の縮減を求められた場合はロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機が優位となる。

 

 

 

ボーイング F-15FX戦闘機は、合衆国空軍のボーイング F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機を航空自衛時次期主力戦闘機隊仕様にするとされた。

F-15FX戦闘機の源流となるとなるマクドネル・ダグラス F-15Aイーグル戦闘機は初飛行1972年、F-15FX戦闘機の原型となるマクドネル・ダグラス F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機は初飛行1986年。ボーイング/マクドネル・ダグラス F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機は最高速度マッハ2,5、自重14379kg、エンジンはユナイテッド・テクノロジーズ・プラット・アンド・ホイットニーF100-PW-129ターボ・ファン・エンジンとゼネラル・エレクトリックF110-GE-129ターボ・ファン・エンジンから選択でき、ともに推力は129kN×2である。

ボーイング F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機はGBU-28 バンカー・バスター5000ポンド貫徹型爆弾の搭載に耐えるようフレームを強化したため、F-15Cイーグル戦闘機より重量が増加している。

源流となるマクドネル・ダグラス F-15Aイーグル戦闘機の初飛行が1972年、原型のマクドネル・ダグラス F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機の初飛行1986年と古く、ステルスという概念のない時代に生まれた戦闘機で、今後20年以上使用するには将来性に疑問が残った。

また、ボーイング F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機の原型であるマクドネル・ダグラス F-15C(F-15J)イーグル戦闘機を1980年から三菱重工業でライセンス生産していたことからF-15Eも日本国内でライセンス生産は可能であると思われたが、機体が古い割には価格が高額でF-15Jのライセンス生産価格と同様、1機あたり100億円以上の高額になると思われた。

さらにマクドネル・ダグラス F-15Jイーグル戦闘機でのライセンス生産の経験があるので、ボーイング F-15FX戦闘機を日本国内でライセンス生産してもチタニウム合金を多用する機体技術くらいしか新たに技術的なものを多く得られないと考えられた。

制空戦闘機を求めている航空自衛隊だが、ボーイング F-15FX戦闘機はボーイング F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機と同様の複座型または複座型の後席を撤去したもののみの提案で、制空戦闘機用の単座型は用意されなかった。

空対空戦闘での装備はAIM-120C/D先進中距離空対空ミサイル、AIM―9Xサイドワインダー2000空対空ミサイル、M61A2バルカン20mm機関砲となる想定されたと。日本製のAAM―4空対空ミサイル(99式空対空誘導弾、アクティヴ・レーダー誘導中距離空対空ミサイル)、AAM-5空対空ミサイル(04式空対空誘導弾、赤外線画像誘導短距離空対空ミサイル)の搭載も容易と考えられた。

レーダーは、マクドネル・ダグラス F-15C/Dイーグル戦闘機の最新改良型「ゴールデン・イーグル」に搭載されているアクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーのAN/APG-63(V)3レーダー、ボーイング F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機の改良型に搭載予定の最新のアクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーであるAN/APG-82レーダーが検討された。

ボーイング F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機はGBU-32 1000ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界13m)、GBU-31 2000ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界13m)、GBU-38 500ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界13m)、GBU-39 250ポンドSDB小直径爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界5m)、GBU-54 500ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-55 1000ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-56 2000ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-12 500ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-10 1000ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-16 2000ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-28 バンカー・バスター5000ポンド貫徹型爆弾、AGM-154 JSOW統合スタンド・オフ兵器(GPS/INS誘導、滑空爆弾)、AGM-88C/D HARM高速対電波源ミサイル(パッシヴ・レーダー誘導、対レーダー・ミサイル)、AGM-88E AARGM先進対電波源誘導ミサイル(パッシヴ・レーダー/GPS/INS誘導、対レーダー・ミサイル)、AGM-158 JASSM統合空対地スタンド・オフ・ミサイル(GPS/INS/赤外線画像誘導)と非常に多く対地攻撃兵器は搭載できるが対艦ミサイル、特に日本国産のASM-2空対艦ミサイル、XASM-3空対艦ミサイルの搭載は想定されておらず、ボーイング F-15FX戦闘機に対艦ミサイルを搭載する場合には追加費用が必要になると思われた。

 

ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は、原型YF-17初飛行1974年、源流F/A-18A初飛行1978年、F/A-18E初飛行1995年、自重14009kg、最高速度マッハ1,6、エンジンはゼネラル・エレクトリックF414-GE-400ターボ・ファン・エンジンで、推力97,86kN×2。

海軍機であるため空中給油方式が異なる(航空自衛隊 ボーイングKC-767空中給油・輸送機のフライング・ブーム方式でない)、空軍機として使用するには無駄な装備(主翼自動折り畳み機構など)が多い。

ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は、基本設計が原型YF-17初飛行1974年、と設計コンセプトが古く、ステルス性もボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機はマクドネル・ダグラス F/A-18A/B/C/Dより大型化されているにも関わらずレーダー断面積は小さくなっているとは言え、本格的ステルス戦闘機の第5世代戦闘機と比べるとステルスとは言い難い。

対地攻撃・対艦攻撃に使用する戦闘攻撃機にはロッキード・マーティン F-16ファイティング・ファルコン戦闘機を発展させた三菱重工業 F-2支援戦闘機がすでにある。 

ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は原型のYF-17が初飛行1974年、源流F/A-18A戦闘攻撃機初飛行1978年と古く、高度な技術で生産されていないためライセンス生産しても得るべきことが少ない。

ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は、AIM-120C/D AMRAAM先進中距離空対空ミサイル(アクティヴ・レーダー誘導)、AIM-7Mスパロー空対空ミサイル(セミ・アクティヴ・レーダー誘導)、AIM―9Xサイドワインダー2000空対空ミサイル(赤外線画像誘導)、AIM-9Mサイドワインダー空対空ミサイル(赤外線誘導)、AGM-84ハープーン空対艦ミサイル(アクティヴ・レーダー誘導)、AGM-84E SLAMスタンド・オフ陸上攻撃ミサイル(GPS誘導/赤外線画像誘導)、AGM-84H SLAM-ERスタンド・オフ陸上攻撃ミサイル・射程距離延伸型(GPS誘導/赤外線画像誘導)、AGM-65マーヴェリック空対地ミサイル(TV画像誘導/赤外線画像誘導)、AGM-114Mヘルファイア対戦車ミサイル爆風破砕型(レーザー誘導)、GBU-31 2000ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界13m)、GBU-32 1000ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界13m)、GBU-38 500ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界13m、)、GBU-39 250ポンドSDM小直径爆弾(GPS/INS誘導、半数必中界5m、)、GBU-54 500ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-55 1000ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-56 2000ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー/GPS/INS誘導)、GBU-12 500ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー誘導)、GBU-10 1000ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー誘導)、GBU-16 2000ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー誘導)、GBU-28 バンカー・バスター5000ポンド貫徹型爆弾、AGM-154 JSOW統合スタンド・オフ兵器(GPS/INS誘導、滑空爆弾)、AGM-88C/D HARM高速対電波源ミサイル(パッシヴ・レーダー誘導、対レーダー・ミサイル)、AGM-88E AARGM先進対電波源誘導ミサイル(パッシヴ・レーダー/GPS/INS誘導、パッシヴ・レーダー誘導)、AGM-158 JASSM統合空対地スタンド・オフ・ミサイル(GPS/INS/赤外線画像誘導)など、合衆国海軍が使用するすべての航空機搭載兵器が使用できたが、ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は21世紀の合衆国海軍の「フロム・ザ・シー」戦略に適合するよう対地攻撃任務が基本で、制空・要撃任務が主任務でありFX次期主力戦闘機として制空戦闘機を求める航空自衛隊には不適である、など問題があった。

そして、ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘機に搭載されるAN/APG-79アクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーは空中電子攻撃機能など非常に高度な技術をもつもので、国防技術流出防止法など機密保持を意識しているアメリカが日本に供給するどうかの問題があった。ダウン・グレードされたAN/APG-79廉価版か、日本国内でライセンス生産できずアメリカからの輸入品にされる可能性が考えられ、その場合日本にとって技術導入のメリットが無かった。

 

 

 

 ユーロファイター・タイフーンは原型EAP初飛行が1986年、ユーロファイター・タイフーン初飛行1994年と古く、ステルスの概念もあまりない。

ユーロファイター・タイフーンは、コンピューター制御のフライ・バイ・ワイヤ技術重視ではなくカナード翼を重視しておりアメリカ、日本と航空機技術の考え方、方向性が違った。

レーダーは日本やアメリカで主流となっているアクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーの開発が遅れており完成の目途が立っていなかった。

ユーロファイター・タイフーンが旧態化していることは否めなかった。またアメリカ製戦闘機を導入してきた航空自衛隊で、ヨーロッパ製戦闘機を導入するとなると治具の変更など現場での混乱も予想された。

 

 

2008年12月、第8飛行隊からマクドネル・ダグラスF-4EJファントムⅡ戦闘機が退役した。

マクドネル・ダグラス F-4EJファントムⅡ戦闘機の後継が決まらないまま、マクドネル・ダグラス F-4EJファントムⅡ戦闘機の退役が始まり、航空自衛隊は戦闘機の配備数が減っていくことになった。

 

航空自衛隊の戦闘機数、航空自衛隊の戦闘機数が防衛計画の大綱より多くなることは絶対に許されない日本の政治、マス・メディアだが、航空自衛隊の戦闘機数が防衛計画の大綱より少なくなることに対しては何の反応もない日本。

 

ロッキード・マーティン F-22Aラプター戦闘機はアメリカ議会での輸出許可は下りず、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機がFX次期主力戦闘機に決定したが、開発に難航して完全作戦能力獲得に時間がかかっており、その後の紆余曲折が予想された。 

 

 

1972年から140機が導入されたF-4EJファントムⅡ戦闘機は初飛行1958年、配備1971年で、老朽化が激しい。早期に後継機ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機の増備が望まれたが、ロッキード・マーティン F-35AライトニングⅡ戦闘機は年6機の導入にとどまる。

 

1981年から配備されたマクドネル・ダグラス F-15J/DJイーグル戦闘機の1984年までの導入分である非MSIP機100機はデジタル・データ・バスが無く、アクティヴ・レーダー誘導のAIM-120先進中距離空対空ミサイル、AAM-4空対空ミサイル(99式空対空誘導弾)が使用できず、現代戦では通用しなくなっていた。

マクドネル・ダグラス F-15J/DJイーグル戦闘機の非MSIP機100機の後継機導入も急がなければならなかった。

 

 

 

 

 

第4   統合幕僚長と統合幕僚監部

 

2006年3月27日、統合幕僚会議は統合幕僚監部に改編された。機能は強化され、統合幕僚会議議長も統合幕僚長となった。

 

統合幕僚会議議長は、アメリカから統合参謀本部議長に相当する職を日本でも設けてほしいと言われて作られた。

 

当時、防衛庁の内局は大蔵省、警察庁からの出向が多く、外務省、通商産業省などからの出向も多かった。

 

防衛庁の内局に多く出向し影響力を行使する大蔵省、警察庁と、防衛庁内局に出向してる大蔵省、警察庁、外務省、通商産業省出身の官僚と防衛庁内局の官僚は、自衛隊(制服組)の地位向上阻止、内局優位維持のため、統合幕僚会議議長に調整権限すら与えず、お飾りの名誉職にした。

 

統合幕僚会議議長にまったく権限はなく統合運用に関して無力だった。

 

その反省から統合幕僚長は統合運用に関して権限を持つことになった。防衛省設置法第22条で、「統合運用による円滑な任務遂行を図る見地からの防衛及び警備に関する計画の立案に関すること」と明記され、実質的権限を持つようになった。

 

 

 

 

 

 

第3章 2008年の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」

 

 安倍晋三・内閣総理大臣は、2007年4月17日、時代状況に適合した実効性のある安全保障の法的基盤を再構築するために「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を開催することにした。座員には柳井俊二(国際海洋法裁判所判事、元・外務省)、岡崎久彦(NPO法人 岡崎研究所理事長・所長、元・外務省)、佐藤謙(財団法人 世界平和研究所副会長、元・防衛庁事務次官)、西元徹也(元・防衛庁統合幕僚会議議長)、葛西敬之(東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長)、佐瀬昌盛(拓殖大学教授、防衛大学校名誉教授)、北岡伸一(東京大学教授)、田中明彦(東京大学教授)、西修(駒沢大学教授)、村瀬信也(上智大学教授)、岩間陽子(政策研究大学院大学准教授)、中西寛(京都大学教授)が選ばれた。

 

 安倍内閣総理大臣は2007年5月18日の第1回会合で、共同訓練などで公海上において自衛隊艦船と米軍艦船が近くで行動している時に米軍艦船が攻撃された場合の自衛隊艦船の行動、同盟国・米国が弾道ミサイルに向かうかもしれない弾道ミサイルを日本がレーダーで捕捉した場合の日本の行動、国連PKOに参加している自衛隊の武器使用の問題、国連PKOに参加することにおいて後方支援で「武力行使と一体化」しないという条件が課される現状、について新たな安全保障政策構築のため新しい時代の日本が何をおこない、何をおこなわないのか、明確な「歯止め」を国民に提示することが重要、と述べた。

 

 懇談会は2008年6月24日、安倍・前総理大臣が指示した安全保障における法的基盤の再検討について、自衛権に関する問題である公海における米艦防護、弾道ミサイル防衛についての問題、国際的な平和活動に関する問題であるPKO活動等における自衛隊の武器使用、PKO活動等における他国への後方支援、の4つにおいて基本認識と提言を報告書として福田内閣総理大臣に提出した。

 

報告書では日本国憲法制定時から大きく変化した日本の安全保障環境を踏まえ、現行解釈に固執することは法的に合理的でない解釈の連鎖を生みだしかねないとし、安全保障環境の変化に適合し、法的に見ても一貫した論理に基づいた国際的にも適切と考えられる新しい解釈の必要性を説いている。

公海における米艦防護については、個別的自衛権及び自己の防護や自衛隊法第95条に基づく武器等の防護により反射的効果として米艦の防護が可能であるというこれまでの憲法解釈及び現行法の規定では米艦防護ができないため集団安全保障の行使を認める必要があるとしている。

 

米国に向かうかもしれない弾道ミサイルについては、従来の自衛権概念や国会手続きを前提としていては充分な実効的対応ができないとし、個別的自衛権や警察権によって対応する従来のやり方から集団自衛権の行使を必要としている。

 

国際的な平和活動における武器使用について、憲法で禁止された武力行使に抵触しないため自己の防護や武器等の防護のためしか認められないとされる現在の憲法解釈や現行法では国際非難の対象となるため、国連PKO等の国際的な平和活動への参加は憲法9条で禁止されないと整理されるべきとし、自己防衛に加え他国部隊や要員への駆けつけ警備及び任務遂行のために武器使用を認めるべき、としている。

 

PKO等に参加している他国への後方支援について、憲法9条で禁止されている武力行使と一体化に抵触する恐れがあるとされてきたことに対し、政策的妥当性の問題とし総合的に検討して政策決定するべき、とした。

 

 

 

 

東アジア各国の戦力

 

 

 

第1章 東アジア各国の戦力 アメリカ合衆国太平洋軍 2000年代

 

アメリカ合衆国軍は世界各地に展開しており、地域コマンドとして欧州軍、太平洋軍、中央軍、南方軍、北方軍があるが、東アジアは太平洋軍(United States PAcific COMmand,U.S.PACOM、現・インド太平洋軍)が受け持っている。太平洋軍はハワイ州オアフ島のキャンプ・H・M・スミスで司令官は海軍大将である。

アメリカ太平洋軍は傘下に太平洋艦隊、太平洋陸軍、太平洋海兵隊部隊、太平洋空軍がある。地域統合軍は在日米軍(USFJ)、在韓米軍(USFK)、アラスカ軍、ハワイ陸軍、太平洋特殊作戦軍がある。

 

 

 第1節      合衆国陸軍

 

 

 

ハワイ州スコフィールド・バラックスには合衆国陸軍第25歩兵師団「トロピック・ライトニング」が駐留している。

2006年までは第25歩兵師団(軽)「トロピック・ライトニング」という軽歩兵師団で、3個旅団で構成されていた。

2006年までの第25歩兵師団(軽)「トロピック・ライトニング」の時代は、非防弾のM998ハマー高機動装多目的装輪車HMMWV、7,62mm×51ライフル弾防弾のM1114装甲強化型ハマー高機動装多目的装輪車アップ・アーマードHMMWVを主装備とする軽歩兵師団だった。

2006年に第25歩兵師団「トロピック・ライトニング」に名称を変更してからは、非防弾のM998ハマー高機動装多目的装輪車HMMWV、限定的な防弾のM1114装甲強化型ハマー高機動装多目的装輪車アップ・アーマードHMMWVに加え、全周14,5mm徹甲弾防弾の装甲車であるGDLSカナダ M1126ストライカー歩兵輸送車、全周14,5mm徹甲弾防弾でM68 105mmライフル砲(ヴィッカースL7ライフル砲)搭載のGDLSカナダ M1128ストライカー機動砲システムも装備する歩兵師団に変更となった。第25歩兵師団「トロピック・ライトニング」は4個旅団で構成される。

第25歩兵師団「トロピック・ライトニング」の第1旅団戦闘団と第2旅団戦闘団は、ロッキード・マーティン C-130E/Hハーキュリーズ輸送機で輸送可能で緊急展開できるGDLSカナダ M1126ストライカー歩兵輸送車を主装備とする「ストライカー旅団戦闘団」である。第25歩兵師団「トロピック・ライトニング」の他の旅団戦闘団は軽歩兵旅団の緊急展開部隊である。また、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH-60Lブラック・ホーク汎用ヘリコプターも保有している。

アラスカ軍(アラスカ州フォート・リチャードソン、現エルメンドルフ・リチャードソン統合基地)には、合衆国陸軍第6歩兵師団第1旅団から改編された第172歩兵旅団(独立)「スノー・ホークス」(アラスカ州フォート・ウェインライト 定員3800人)があった。第172歩兵旅団は第25歩兵師団第1旅団戦闘団に改編された。

 

日本にはキャンプ座間に合衆国陸軍第9軍から改編された合衆国陸軍第9戦域陸軍地域コマンド司令部がおかれるものの、あとは補助部隊で太平洋陸軍の実戦部隊は置かれていなかった。

しかし、特殊作戦軍(United States Special OperationCOMmand U.S.SOCOM)のもとにおかれる合衆国陸軍第1特殊部隊群(1stSFG、グリーン・ベレー、司令部:ワシントン州フォート・ルイス)第1大隊(沖縄県トリイ・ステイション)が日本に駐留する。

日本有事、日本周辺有事で合衆国陸軍の特殊部隊は、第1特殊部隊群第1大隊の他に、合衆国陸軍第1特殊部隊群作戦分遣隊D(デルタ・フォース、400人、ノース・キャロライナ州フォート・ブラッグ)、合衆国陸軍第1特殊部隊群第2大隊、合衆国陸軍第1特殊部隊群第3大隊、合衆国陸軍第19特殊部隊群が投入される。

また、特殊部隊では無いが合衆国特殊作戦コマンド隷下に精鋭部隊である合衆国陸軍第75レンジャー連隊が日本有事、日本周辺有事において特殊作戦に投入される。

 

合衆国陸軍特殊部隊群(グリーン・ベレー)は第1特殊部隊群、第3特殊部隊群、第5特殊部隊群、第7特殊部隊群、第10特殊部隊群があり、合衆国陸軍53万人の志願者から選び抜かれた7500人の精鋭で、対テロ戦、対ゲリラ戦、心理戦、偵察、情報支援活動、捕虜救出、爆撃誘導、敵重要防護施設破壊、敵基地破壊、敵装備破壊、直接行動(敵要人の暗殺、敵要人を拉致し尋問により情報収集)などあらゆる特殊作戦、合衆国陸軍への協力者の獲得、協力者への軍事教育・軍事訓練、協力者による軍事作戦の指導、協力者による軍事作戦の指揮、同盟国軍・友好国軍の指導、教育、訓練などを担当する。

合衆国陸軍の州兵にも第19特殊部隊群、第20特殊部隊群というグリーン・ベレーがある。

 

 

合衆国陸軍第1特殊部隊作戦分遣隊D(デルタ・フォース)は1977年11月に創設、1980年10月に正式発足した。

1970年代、各国国内では共産党の関係者・共産党の出身者や左翼過激派など左翼勢力が航空機ハイジャック、政治家・経営者の誘拐人質事件、無差別爆弾テロ、殺人・拉致人質事件をともなうデモ・暴動を多発させ、国際社会では日本赤軍、西ドイツ赤軍派、イタリア赤い旅団、フランス直接行動、ベルギー戦う共産主義者細胞など左翼国際テロリストとパレスチナ解放人民戦線PFLP、パレスチナ解放人民戦線総司令部派PFLP-GCなど社会主義パレスチナ・ゲリラが共闘し航空機ハイジャック、大使館・領事館人質占拠事件、政治家・経営者誘拐事件、無差別爆弾テロなど国際テロリズムを多発させた。

アメリカでも対テロ戦の重要性が認識された。

合衆国陸軍第1特殊部隊作戦分遣隊D(デルタ・フォース)は対テロ戦、対ゲリラ戦、人質救出作戦、捕虜救出作戦、敵重要防護施設の破壊、要人警護、国外での情報収集、直接行動(敵要人の暗殺、敵要人を拉致し尋問で情報収集)が主な任務である。

合衆国陸軍第1特殊部隊作戦分遣隊D(デルタ・フォース)は第75レンジャー連隊の在籍隊員や一般部隊のレンジャー資格保有者などの志願者から選び抜かれた400人の部隊である。

合衆国陸軍第1特殊部隊作戦分遣隊D(デルタ・フォース)は、1980年のイラン大使館人質占拠事件人質救出イーグル・クロー作戦、1982年にイタリア左翼テロリスト赤い旅団による合衆国陸軍の准将誘拐人質事件、1985年にイスラム聖戦によるTWAトランス・ワールド航空ハイジャック事件、パレスチナ解放人民戦線総司令派PFLP-GCから分派したパレスチナ解放戦線PLFによるアキレ・ラウロ号シー・ジャック事件、1989年にパナマ侵攻ジャスト・コーズ作戦におけるノリエガ将軍身柄拘束、1993年にソマリアでの国連平和維持活動UNOSOMⅡにおけるアイディード将軍派幹部捕獲、などで出動している。

 

第1特殊部隊群、第19特殊部隊群、第1特殊部隊作戦分遣隊D、第75レンジャー連隊など日本有事、日本周辺有事で投入される特殊部隊、レンジャー部隊の輸送、特殊作戦での航空支援任務は第160特殊作戦航空連隊「ナイト・ストーカーズ」が担当する。

 第160特殊作戦航空連隊「ナイト・ストーカーズ」は、赤外線暗視装置、気象レーダー、空中給油装置、ミサイル警戒装置、ミサイル防御装置を装備するユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー MH-60Mブラック・ホーク特殊作戦ヘリコプター、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー MH-60Lブラック・ホーク特殊作戦ヘリコプター、小型で狭所に着陸・飛行可能なマクドネル・ダグラス MH-6リトル・バード特殊作戦ヘリコプター、小型で狭所に着陸・飛行可能で、ハイドラ70 70mmロケット弾14発と、7,62mm×51弾を毎分2000発から6000発ほど発射できるM134ミニガン電動ガトリング砲を装備するマクドネル・ダグラス AH-6キラー・エッグ攻撃ヘリコプター、定員55人で赤外線暗視装置、気象レーダー、地形追従レーダー、空中給油装置を装備、また大量の燃料を搭載でき他の特殊作戦ヘリコプターに給油できるボーイング MH―47Eチヌーク特殊作戦ヘリコプター、などを保有する。

第160特殊作戦航空連隊「ナイト・ストーカーズ」は夜間飛行、超低空飛行、匍匐飛行を徹底して訓練している。

第160特殊作戦航空連隊「ナイト・ストーカーズ」は、1980年のイラン大使館人質占拠事件の人質救出作戦イーグル・クロー作戦において空軍C-130Hハーキュリーズ輸送機と海軍RH-53Dシー・スタリオン掃海ヘリコプターが接触、墜落し死者8名を出しイーグル・クロー作戦が失敗したことで、特殊作戦ヘリコプター部隊が必要と考えられたことから生まれた。

第160特殊作戦航空連隊「ナイト・ストーカーズ」は、第159航空大隊などを核にタスク・フォース160として結成された。第160特殊作戦航空連隊「ナイト・ストーカーズ」は、1983年に第101空挺師団(空中強襲)「スクリーミング・イーグルス」で使われていたユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH―60Aブラック・ホーク汎用ヘリコプターを受領し、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH-6Aブラック・ホーク汎用ヘリコプターに赤外線暗視装置、気象レーダー、ミサイル警戒装置を取り付けMH-60Aヴェルクロ・ホーク特殊作戦ヘリコプターへ改造、部隊に配備した。

 

合衆国陸軍第75レンジャー連隊(3個大隊2300人、司令部:ジョージア州フォート・ベニング)は緊急展開できる小規模の部隊である。

第75レンジャー連隊には第75レンジャー連隊第1大隊(ワシントン州ルイス・マッコード統合基地)、第75レンジャー連隊第2大隊(ジョージア州ハンター陸軍飛行場)、第75レンジャー連隊第3大隊(ジョージア州フォート・ベニング)がある。テロ・ゲリラ・コマンド対処などに迅速に行動できる態勢をとっている小規模緊急展開部隊で、18時間以内に全世界に展開できる。(注2)

 

合衆国陸軍第82空挺師団「オール・アメリカン」(1万6000人、ノース・キャロライナ州フォート・ブラッグ)、合衆国陸軍第101空挺師団(空中強襲)「スクリーミング・イーグルス」(1万6000人、ケンタッキー州フォート・キャンベル)、合衆国陸軍第10山岳師団「マウンテナーズ」(ニュー・ヨーク州フォート・ドラム)を擁する合衆国陸軍第18空挺軍団(ノース・キャロライナ州フォート・ブラッグ)があり、合衆国陸軍第82空挺師団「オール・アメリカン」、合衆国陸軍第101空挺師団(空中強襲)「スクリーミング・イーグルス」、合衆国陸軍第10山岳師団「マウンテナーズ」が大規模緊急展開部隊として派遣される。

 

合衆国陸軍第18空挺軍団には、ゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ M1A2システム拡張パッケージSEPエイブラムス戦車(複合装甲+劣化ウラン装甲)、ユナイテッド・ディフェンス M2A3ブラッドレー歩兵戦闘車(防弾アルミニウム装甲+爆発反応性装甲)を装備する合衆国陸軍第3歩兵師団(機械化)「ロック・オブ・ザ・マルヌ」(ジョージア州フォート・スチュアート)という機械化歩兵部隊もある。合衆国陸軍第3歩兵師団(機械化)は西ドイツ駐留だったが、アメリカ本国に移動した。

 

増援が必要となった場合には、ゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズM1A2システム拡張パッケージSEPエイブラムス戦車(複合装甲+劣化ウラン装甲)、BAEシステムズ M2A3ブラッドレー歩兵戦闘車(防弾アルミニウム装甲+爆発反応装甲)、ボーイング AH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターを装備する第1機甲師団「オールド・アイアンサイド」、第1騎兵師団「ファースト・チーム」、第1歩兵師団(機械化)「ビッグ・レッド・ワン」、第4歩兵師団(機械化)「アイヴィー」が投入される。

第1騎兵師団「ファースト・チーム」、第1歩兵師団(機械化)「ビッグ・レッド・ワン」、第4歩兵師団(機械化)「アイヴィー」はベトナム戦争に投入されていた。

第1機甲師団「オールド・アイアンサイド」は西ドイツ駐留からアメリカ本国に移動した。

 

合衆国陸軍は2000年代、ゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ M1A1HA重装甲エイブラムス戦車/M1A2エイブラムス戦車/M1A2システム拡張パッケージSEPエイブラムス戦車を7620両、ユナイテッド・ディフェンス M2A3ブラッドレー歩兵戦闘車/M3A3ブラッドレー騎兵戦闘車を6719両、フード・マシナリー・アンド・ケミカル・コーポレーション M113A2/A3装甲兵員輸送車を1万4300両、GDLSカナダ M1126ストライカー歩兵輸送車を600両、マクドネル・ダグラス AH-64Aアパッチ攻撃ヘリコプター/ボーイング AH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターを732機、ベル・ヘリコプター・テキストロン AH-1Sヒューイ・コブラ攻撃ヘリコプターを370機、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH-60A/L/Mブラック・ホーク汎用ヘリコプターを1484機、ベル・ヘリコプター・テキストロンUH-1Hイロコイ汎用ヘリコプターを447機、ボーイング CH-47Dチヌーク輸送ヘリコプターを440機、ベル・ヘリコプター・テキストロン OH-58カイオワ観測ヘリコプターを463機、ベル・ヘリコプター・テキストロン OH-58Dカイオワ・ウォリアー観測ヘリコプター(レーザー・ターゲティング・システム搭載)を375機、保有していた。

 

陸上自衛隊は2000年代後半、第3世代戦車・三菱重工業 90式戦車が292両、旧型の第2世代戦車・三菱重工業 74式戦車が893両、歩兵戦闘車である三菱重工業 89式装甲戦闘車が68両、装甲兵員輸送車である三菱重工業 73式装甲車が338両、装輪装甲歩兵輸送車であるコマツ 96式装輪装甲車が217両、ボーイング AH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターが2機、ベル・ヘリコプター・テキストロン AH-1Sコブラ攻撃ヘリコプターが90機、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH―60JAブラック・ホーク汎用ヘリコプターが40機、ベル・ヘリコプター・テキストロン UH-1H/J汎用ヘリコプターが131機、ボーイング CH-47JAチヌーク輸送ヘリコプターが50機、マクドネル・ダグラス OH-6Dカイユース観測ヘリコプターが193機、であった。

 

合衆国陸軍の戦力の大きさがよくわかる。

 

2005年、合衆国陸軍第9戦域陸軍地域コマンドに代わり合衆国陸軍第1軍団がキャンプ座間に駐留すると報道されたが、実際、キャンプ座間に駐留したのは合衆国陸軍第1軍団前方司令部となった。合衆国陸軍第1軍団はアジア・インド太平洋の合衆国陸軍の指揮を担当する。

 

 韓国には合衆国陸軍第8軍がソウルに司令部を置き、傘下に第2歩兵師団「インディアン・ヘッド」(第1旅団戦闘団、第2旅団戦闘団、第3旅団戦闘団)、第6騎兵旅団、第17航空旅団などを置いていた。

しかし第2歩兵師団第2旅団戦闘団、第2歩兵師団第3旅団戦闘団はワシントン州フォート・ルイス配備に変更、第6騎兵旅団、第17航空旅団は解隊され、在韓アメリカ軍は大幅に縮小されている。

主力である第2歩兵師団第1旅団戦闘団はゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ M1A1HA重装甲エイブラムス戦車(複合装甲+劣化ウラン装甲)、ユナイテッド・ディフェンス M2A3ブラッドレー歩兵戦闘車(防弾アルミニウム装甲+爆発反応装甲)を配備する機械化歩兵部隊である。

第2歩兵師団第2旅団戦闘団はユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH-60Lブラック・ホーク汎用ヘリコプターによる空中強襲作戦部隊であったがGDLSカナダ M1126ストライカー歩兵輸送車、GDLSカナダ M1128ストライカー機動砲システムを主装備とするストライカー旅団戦闘団に変更された。

しかし第2歩兵師団の第2旅団戦闘団、第3旅団戦闘団はワシントン州フォート・ルイスに配備されることになった。

第6騎兵旅団はマクドネル・ダグラス AH-64Aアパッチ攻撃ヘリコプター、ボーイング AH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターを主装備とする部隊である。

2005年、第6騎兵旅団は解隊される。

第17航空旅団はユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー UH-60Lブラック・ホーク汎用ヘリコプター、ボーイング CH-47Dチヌーク輸送ヘリコプターを配備した。

2005年、第17航空旅団は解隊される。

在韓アメリカ軍は陸軍中心だったので、在韓アメリカ軍は大幅な縮小となった。

 

 韓国には第160特殊戦航空連隊「ナイト・ストーカーズ」の中隊が駐屯している。

ユナイテッド・テクノロジーズシコルスキー MH-60L特殊作戦ヘリコプター、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキーMH-60M特殊作戦ヘリコプター、マクドネル・ダグラス MH-6リトル・バード特殊作戦ヘリコプター マクドネル・ダグラス AH-6キラー・エッグ攻撃ヘリコプターを配備している。

北朝鮮・朝鮮人民軍正規部隊、北朝鮮・朝鮮人民軍コマンド部隊、北朝鮮・朝鮮人民軍特殊部隊や、北朝鮮・朝鮮労働党35室海外担当課の工作員、北朝鮮・朝鮮労働党35室外郭団体課の工作員、北朝鮮・朝鮮労働党対外連絡部の工作員、北朝鮮・朝鮮労働党作戦部の工作員、北朝鮮・朝鮮労働党統一戦線部の工作員と北朝鮮の工作員が指導する主体思想派の韓国人で構成されるゲリラ部隊、北朝鮮の工作員が指導する親北朝鮮の韓国人で構成されるゲリラ部隊、に迅速に対応できるような態勢においている。(注2)

 

第2節     合衆国海兵隊

 

 合衆国海兵隊の人員は17万人で、太平洋海兵隊部隊は人員約6万人、主に合衆国海軍のワスプ級強襲揚陸艦、タラワ級強襲揚陸艦、ホイットビー・アイランド級ドック型揚陸艦、オースティン級ドック型揚陸艦、サン・アントニオ級ドック型揚陸艦によって輸送される。

 

合衆国海軍ワスプ級強襲揚陸艦は満載排水量40532トン、1番艦LHD-1ワスプ就役1989年、蒸気タービン推進である。兵装はMk29発射機2基(RIM-7シー・スパロー短距離艦対空ミサイル/RIM-162発展型シー・スパロー・ミサイル艦対空ミサイル)、Mk49発射機2基(RIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイル42発)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基である。搭載航空機は垂直離着陸航空機10機、ヘリコプター30機、搭載艦艇はエアー・クッション揚陸艇LCAC3隻、収容する海兵隊隊員は1870人である。

太平洋艦隊には3隻配備されている。(注14)

 

合衆国海軍タラワ級強襲揚陸艦は1番艦LHA-1タラワ1976年就役で、満載排水量はワスプ級強襲揚陸艦39000トン、兵装は、Mk49発射機2基(RIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイル42発)、Mk15ファランクス20mm近接防御武器システム2基である。搭載航空機は垂直離着陸航空機10機、ヘリコプター30機、搭載艦艇はエアー・クッション揚陸艇LCAC1隻、収容する海兵隊隊員はワスプ級強襲揚陸艦とほぼ同じ1900人前後である。

合衆国海軍タラワ級強襲揚陸艦は太平洋艦隊に3隻配備されていた。(注14)

 

合衆国海軍タラワ級強襲揚陸艦1番艦LHA-1「タラワ」は2007年、ワスプ級強襲揚陸艦8番艦LHD-8「マキン・アイランド」に代替された。

合衆国海軍タラワ級強襲揚陸艦2番艦LHA-2「サイパン」は、2012年に「LHA(R)」(Rはリプレイスメント)アメリカ級強襲揚陸艦に代替された。

アメリカ級強襲揚陸艦の1番艦、2番艦は航空機運用重視でLCAC、LCUを運用するためのウェル・デッキがなかったが、不評のため3番艦から復活することになった。(注15)

 

合衆国海軍ホイッドビー・アイランド級ドッグ型揚陸艦は、満載排水量15726トン、1番艦LSD-41ホイッドビー・アイランド就役1986年、ディーゼル推進、兵装はMk49射機2基(RIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイル42発)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基で、搭載艦艇はエアー・クッション揚陸艇LCAC4隻、収容する海兵隊隊員は500人である。

 

合衆国海軍ホイッドビー・アイランド級ドック型揚陸艦は太平洋艦隊に6隻配備されている。

合衆国海軍オースティン級ドッグ型輸送揚陸艦は満載排水量16500トン、1番艦LPD-4オースティン就役1965年、兵装はMk15ファランクス20mmバルカン機関砲近接防御武器システム2基、搭載航空機はヘリコプター6機、収容する海兵隊隊員は840人である。

合衆国海軍オースティン級ドッグ型輸送揚陸艦は太平洋艦隊に6隻配備されていた。(注16)

 

 合衆国海軍オースティン級ドック型輸送揚陸艦に代わり配備されたのは、サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦である。

 

合衆国海軍サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦は満載排水量25300トン、ディーゼル推進である。兵装はMk41垂直発射システム(16セルにRIM-162発展型シー・スパロー個艦防空短距離艦対空ミサイル64発、後日装備予定)、Mk49発射機2基(RIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイル42発)、Mk46 30mm機関砲2基、である。搭載航空機はMV-22ティルト・ローター航空機1機、ヘリコプター1機である。搭載艦艇はエアー・クッション揚陸艇LCAC2隻、収容車両は水陸両用装甲車14両など、収容する海兵隊隊員は720人である。(注17)

 

合衆国海兵隊は近接航空支援のため、マクドネル・ダグラス F/A-18A/C/Dホーネット戦闘攻撃機(原型YF-17初飛行1974年、F/A-18A/B初飛行1978年、機体空虚重量10455kg、エンジン:ゼネラル・エレクトリックF404-GE-400、推力78,3kN×2)(注1)とマクドネル・ダグラス AV-8BハリアーⅡ攻撃機(初飛行1978年、機体重量5670kg、エンジン:ロールスロイスF402-RR-406、推力95,kN×1)(注2)を装備する。

 

マクドネル・ダグラス F/A-18A/C/Dホーネット戦闘攻撃機とマクドネル・ダグラス AV-8BハリアーⅡ攻撃機は、ロッキード・マーティン F-35CライトニングⅡ戦闘機(空母運用艦載戦闘機)とロッキード・マーティン F-35BライトニングⅡ短距離離陸垂直着陸戦闘機に代替され、航続距離の延伸とステルス性が確保され、作戦能力が向上される。

 

合衆国海兵隊の航空輸送はユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー CH-53Dシー・スタリオン輸送ヘリコプター(定員37人)、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー CH-53Eスーパー・スタリオン輸送ヘリコプター(定員65人)、ボーイング・ヴァートル CH-46シー・ナイト中型輸送ヘリコプター(定員26人)、ベル・ヘリコプター・テキストロン UH-1Nツイン・ヒューイ汎用ヘリコプター(定員11人)、ロッキード KC-130Tハーキュリーズ空中給油機、ロッキード・マーティン KC-130Jハーキュリーズ空中給油機がある。

 

ボーイング・ヴァートル CH-46シー・ナイト中型輸送ヘリコプター、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー CH-53Dシー・スタリオン輸送ヘリコプターは、2016会計年度までにヘリコプターと固定翼航空機の利点を併せ持つティルト・ローター航空機ボーイング/ベル MV-22Bオスプレイ垂直離着陸輸送機360機、16個現役飛行隊、2個予備役飛行隊となる。

ティルト・ローター航空機ボーイング/ベルMV-22Bオスプレイ垂直離着陸輸送機の導入によって飛躍的に航続距離が伸び、揚陸作戦が容易、安全になる。

 

合衆国海兵隊の地上戦装備には、ゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ M1A1戦車、GMカナダ/GDLSカナダ LAV-25 25mm機関砲搭載軽強襲車、GMカナダ/GDLSカナダ LAV-AT 対戦車ミサイル搭載軽強襲車、フード・マシナリー・アンド・ケミカル・コーポレーション AAV7水陸両用強襲車がある。

 

合衆国陸軍が早期にM4A1カービンを採用したのに対し、合衆国海兵隊はM16A4ライフルを使い続けた。しかし2000年代後半、合衆国海兵隊もM4A1カービンに切り替えることになる。

 

合衆国陸軍がM249 SAW(Squad Automatic Weapon、FN MINIMI軽機関銃)のみを使用しているのに対し、合衆国海兵隊はM249 SAWとともにM27 IAR(Infantry Automatic Rifle、H&K HK416カービン・ヘビーバレル)を併用するようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注1  エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P89

 

注2  同上P27

 

第3節     合衆国海軍

 

 アメリカ合衆国海軍は、現役兵力約33万人で、艦艇は300隻近く有する世界最大の海軍である。そのうち、東アジアを責任地域とするアメリカ太平洋艦隊(ハワイ州パール・ハーバー-ヒッカム統合基地)は、東太平洋の第3艦隊(カリフォルニア州サン・ディエゴ基地)と西太平洋の第7艦隊(神奈川県横須賀基地)の2個艦隊が実戦配備、訓練、休養、整備、補修などローテーションを組みながら共通運用されている。太平洋艦隊の人員は現役兵力15万人で、艦艇は200隻近くが配備されている。

 

ニミッツ級原子力空母は、満載排水量91847トン、1番艦ニミッツ就役1975年、原子力蒸気タービン推進、収容機材は空母艦載機70機、ヘリコプター10機搭載である。兵装はMk29発射機2基(RIM-7シー・スパロー短距離艦対空ミサイル/RIM-162発展型シー・スパロー・ミサイル短距離艦対空ミサイル)、Mk49発射機2基(RIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイル42発)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基である。ニミッツ級原子力空母は太平洋艦隊に5隻配備されている。

 

空母キティ・ホークと空母コンステレーションは満載排水量83960トン、蒸気タービン推進で、空母艦載機70機/ヘリコプター10機搭載、兵装はMk29発射機2基(RIM-7シー・スパロー短距離艦対空ミサイル/RIM-162発展型シー・スパロー・ミサイル短距離艦対空ミサイル)、Mk49発射機2基(RIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイル42発)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基である。

 

タイコンデロガ級巡洋艦は、満載排水量9500トン、1番艦CG-47タイコンデロガ就役1983年、ガス・タービン推進、艦隊防空にイージス・システム搭載している。

 

 CG-47タイコンデロガの兵装は、Mk26連装発射機(RIM-67スタンダードER艦対空ミサイル88発)、Mk141発射機2基(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk32 324mm3連装短魚雷発射管2基(Mk46魚雷6発)、Mk45 127mm砲2門、Mk15ファランクス20mmバルカン機関砲近接防御システム2基である。搭載ヘリコプターはユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー SH-60Bシー・ホーク哨戒ヘリコプター2機である。

 

CG-52バンカー・ヒルより、Mk26ミサイル連装発射機からMk41垂直発射システムに変更された。CG-52バンカー・ヒルはMk41垂直発射システム122セル(RIM-67スタンダードERミサイル艦対空ミサイル/RIM-156SM2艦対空ミサイル96発、RGM-109トマホークTLAM艦対地ミサイル26発)、ミサイル装填用クレーン6基、を装備した。その他の兵装はMk141発射機2基(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk32 324mm3連装短魚雷発射管2基(Mk46魚雷6発)、Mk45 127mm砲2門、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御システム2基、である。搭載ヘリコプターはユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー SH-60Bシー・ホーク哨戒ヘリコプター2機である。

 

その後、Mk41垂直発射システムにRIM-162発展型シー・スパロー・ミサイル短距離艦対空ミサイルを搭載するようになった。

 

タイコンデロガ級巡洋艦は太平洋艦隊に13隻配備されている。(注6)

 

アーレイ・バーク級駆逐艦は、満載排水量8500トン、1番艦DDG-51アーレイ・バーク就役1988年、ガス・タービン推進、艦隊防空にイージス・システムを搭載している。兵装は、Mk41垂直発射システム96セル(RIM-66スタンダードMRミサイル艦対空ミサイル、RIM-156SM2艦対空ミサイル、RGM-109トマホーク艦対地ミサイル、RIM-162発展型シー・スパロー・ミサイル短距離艦対空ミサイル、RUM-139垂直発射対潜ロケット)、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk32 324mm短魚雷発射管2基(Mk46魚雷6発)、Mk45 127mm単装砲1門、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム2基である。アーレイ・バーク級駆逐艦はステルス性を意識した船体である。太平洋艦隊には14隻配備され、現在も増備が続く。(注7)後期に建造され現在も建造が続くフライトⅡA型はヘリコプター格納庫を増備している。

 

スプルーアンス級駆逐艦は、満載排水量8040トン、1番艦DD-963スプルーアンス就役1975年、ガス・タービン推進、である。

 

スプルーアンス級駆逐艦の非改修型の兵装はMk112発射機1基(Mk46魚雷搭載対潜ロケット8発、予備弾8発)、Mk29発射機1基(RIM-7Mシー・スパロー短距離艦対空ミサイル8発)、Mk143発射機2基(RGM-109トマホーク陸上攻撃ミサイル8発)、Mk141発射機2基(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk32 324mm短魚雷発射管2基(Mk46魚雷6発)、Mk45 127mm砲2門、Mk15ファランクス20mm近接防御武器システム2基である。

 

スプルーアンス級駆逐艦の改修型の兵装はMk41垂直発射システム64セル(RGM-109トマホーク陸上攻撃ミサイル48発、RUM-139垂直発射対潜ロケット16発)、Mk141発射機2基(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk32 324mm短魚雷発射管2基(Mk46魚雷6発)、Mk45 127mm砲2門、Mk29発射機1基(RIM-7Mシー・スパロー短距離艦対空ミサイル8発)、Mk15ファランクス20mm近接防御武器システム2基である。

 

 

搭載ヘリコプターはユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー SH-60Bシー・ホーク哨戒ヘリコプター2機である。(注8)

 

 

スプルーアンス級駆逐艦は太平洋艦隊に10隻配備されていた。 

 

 スプルーアンス級駆逐艦は2006年までに全艦退役した。

 

 

 

 

 次世代駆逐艦DD(X)ズムウォルト級駆逐艦は満載排水量14000トン級、建造費3000億円で、2009年に建造工事を開始した。

ズムウォルト級護衛艦は複合材も使用したステルス船型で、Mk57垂直発射システム80セル(RGM-109トマホーク陸上攻撃ミサイル、RGM-162 ESSM発展型シー・スパロー・ミサイル短距離艦対空ミサイル)、などを装備する。

Mk57垂直発射システムには艦隊防空用のRIM-156 SM2艦対空ミサイル、対潜水艦用にRUM-139垂直発射対潜ロケットも装備する予定だったが中止された。

砲は、対地対艦に155mmAGS(先進砲システム、GPS誘導砲弾)、対空対艦にMk110 57mm砲(ボフォース SAK Mk3ステルス砲塔)が搭載される予定だった。

Mk110 57mm砲の搭載は中止され、対艦にMk46 30mm機関砲に変更された。   

変更が重なり計画は遅れ、1番艦DDG-1000ズムウォルトは2014年に竣工した。

 

オリヴァー・ハザード・ペリー級フリゲートは、満載排水量4100トン、1番艦FFG-7オリヴァー・ハザード・ペリー1982年就役、ガス・タービン推進である。兵装はMk13単装ミサイル発射機1基(RIM-66スタンダードMRミサイル艦対空ミサイル、RGM-84ハープーン艦対艦ミサイルなど40発)、Mk32 324mm短魚雷発射管2基(Mk46魚雷6発)、Mk75 76mm単装砲1門(OTOメララ・コンパクト砲)、Mk15ファランクス20mm機関砲近接防御武器システム1基である。搭載ヘリコプターはユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー SH-60Bシー・ホーク哨戒ヘリコプター2機である。太平洋艦隊には15隻配備されていた。

 

近年は密輸取り締まり、対テロのためMk13ミサイル発射機に代えてMk38 25mm機関砲に装備を変更している艦も多い。しかし、就役から時間がたち、退役、予備艦隊移転、海外売却が進み、合衆国海軍に残るオリヴァー・ハザード・ペリー級フリゲートも2014年会計年度いっぱいで全艦退役することになった。(注9)

 

 オリヴァー・ハザード・ペリー級フリゲートの事実上の後継は、LCS(沿岸戦闘艦)である。

ロッキード・マーティン提案マリネット・マリーン造船所建造のフリーダム級LCS(1番艦LCS-1フリーダム)と、オースタルUSA提案ゼネラル・ダイナミクス・バス・アイアン・ワークス建造のインディペンデンス級LCS(1番艦LCS-2インディペンデンス)が採用されている。

 

フリーダム級沿岸戦闘艦は、満載排水量3354トン、1番艦LCS-1フリーダムは2008年就役、ガス・タービン/ディーゼル推進、兵装はMk110 57mm砲(ボフォース SAK Mk3ステルス砲塔)1基、Mk46 30mm機関砲2基、Mk31発射機1基(RIM-116C シーRAM回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイル11発)で、搭載航空機はヘリコプター2機もしくはヘリコプター1機および無人航空機3機である。

 

インディペンデンス級沿岸戦闘艦は、満載排水量2841トン、1番艦LCS-2インディペンデンスは2010年就役、ガス・タービン/ディーゼル推進、兵装はMk110 57mm砲1基(ボフォース SAK Mk3ステルス砲塔)、Mk31発射機1基(RIM-116C シーRAM回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイル11発)で、搭載航空機はヘリコプター1機またはヘリコプター2機および無人航空機3機、である。

 

潜水艦の主力はロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦である。

 

水中排水量6982トン、1番艦SSN-668ロサンゼルス就役1976年、原子力蒸気タービン推進、533mm魚雷発射管4門(Mk48魚雷、UGM-84ハープーン潜対艦ミサイル、UGM-109陸上攻撃ミサイル)を装備する。

後期建造型はMk45垂直発射システムを備え、UGM-109トマホーク陸上攻撃ミサイル12発を装備するようになった。

太平洋艦隊には25隻配備されていた。

静粛性に優れ、同時期の原子力潜水艦ではトップクラスの静粛性である。(注10)

 

 シー・ウルフ級攻撃型原子力潜水艦は水中排水量9100トン、1番艦SSN-21シー・ウルフ就役1996年、原子力蒸気タービン推進、660mm魚雷発射管8門(Mk48ADCAP魚雷、UGM-84ハープーン潜対艦ミサイル、UGM-109トマホーク陸上攻撃ミサイル)を装備する。

1隻4500億円と高価で配備は3隻に終わった。

静粛性、大深度航行、高速航行、戦闘システム、すべてにおいて優れたが、1隻4500億円と高価で配備が進まなかった。(注11)

 

 シー・ウルフ級攻撃型原子力潜水艦は、米ソ冷戦時代のソ連原子力潜水艦探知、追跡を主任務に建造された潜水艦だったため、大深度行動能力、高速航行、高い運動能力をもつ「世界最強」の潜水艦だったが、ロシア潜水艦勢力の弱体化、1隻4500億円という高価格だったため、3隻で建造が打ち切られた。

そしてシー・ウルフ級攻撃型原子力潜水艦3番艦SSN-23「ジミー・カーター」は大幅な設計変更がなされた。船体を30メートル延長、それにともなって水中排水量は12100トンとなった。船体大型化の原因は特殊部隊隊員収容設備を設置したことにある。

 

 シー・ウルフ級攻撃型原子力潜水艦に代わり建造されることとなった攻撃型原子力潜水艦は、大量配備が可能なように低価格に抑えるため民間技術を多用することになった。NAS計画、NSSN計画、センチュリオン級攻撃型原子力潜水艦計画と計画は紆余曲折した。

最終的には音響のステルス性に優れ、捜索索敵能力に重点が置かれ、総合的にはシー・ウルフ級攻撃型原子力潜水艦と同等の能力で、コスト・ダウンが図られたヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦が採用され、2004年に進水した。

しかし当初予定していた低価格・大量配備から、要求水準の多様化、高性能化によって大型化し、1隻3000億円という高価格になった。(注13)

 

 ヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦は、1番艦SSN-774ヴァージニア就役2004年、水中排水量7800トン、533mm魚雷発射管4門(Mk48魚雷、UGM-84ハープーン潜対艦ミサイル)とMk45垂直発射システム(UGM-109トマホーク陸上攻撃ミサイル12発)を装備する。

 

18隻配備されているオハイオ級弾道ミサイル搭載戦略原子力潜水艦は水中排水量18750トン、1番艦SSBN-726オハイオ就役1981年、原子力蒸気タービン推進、533mm魚雷発射管にMk48魚雷を搭載する。前期型はUGM-96Aトライデント(C4)潜水艦発射弾道ミサイル24発搭載し、後期型はUGM-133AトライデントⅡ(D5)潜水艦発射弾道ミサイル24発搭載する。(注12)

 

オハイオ級弾道ミサイル搭載戦略原子力潜水艦の1番艦から4番艦までの4隻はSTART(戦略兵器削減条約)により、トライデントC4潜水艦発射弾道ミサイル24発の装備から、UGM-109トマホーク陸上攻撃ミサイル154発ほど搭載する巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)に改造された。

 

 

 アヴェンジャー級掃海艦は満載排水量1312トンで、太平洋艦隊に6隻配備されている。機雷掃海についてはLCS沿岸戦闘艦に機雷戦モジュールを搭載し、機雷掃海を行う予定である。

 

2000年代、太平洋艦隊の海軍航空機部隊の主力は、マクドネル・ダグラス F/A-18A/B/C/Dホーネット戦闘攻撃機(原型YF-17初飛行1974年、F/A-18A/B初飛行1978年、機体空虚重量10455kg、エンジン:ゼネラル・エ

レクトリックF404-GE-402、推力78,3kN×2)である。

 マクドネル・ダグラス F/A-18A/B/C/Dホーネット戦闘攻撃機は世界初のグラス・コックピット採用、世界2番目のフライ・バイ・ワイヤ採用で、軽戦闘機で空対空ミサイル8発搭載/セミ・アクティヴ・レーダー誘導空対空ミサイル運用可能、と画期的な戦闘機であった。

グラマン F-14Aトムキャット戦闘機(初飛行1970年、自重18191kg、エンジン:ユナイテッド・テクノロジーズ・プラット・アンド・ホイットニーTF30-P-412A、推力93kN×2)は(注18)2006年までに全機退役した。

グラマン F-14Aトムキャット戦闘機の事実上の代替としてボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機(初飛行1995年、自重14009kg、エンジン:ゼネラル・エレクトリックF414-GE-400、推力97,86kN×2)が配備されている(注19)。

ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は対地・対艦攻撃能力が重視され、合衆国海軍の航空機搭載ミサイル、航空機搭載爆弾のすべてを搭載できる。   

ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は、AIM-120C/D AMRAAM先進中距離空対空ミサイル(アクティヴ・レーダー誘導)、AIM-7Mスパロー空対空ミサイル(セミ・アクティヴ・レーダー誘導)、AIM―9Xサイドワインダー2000空対空ミサイル(赤外線画像誘導)、AIM-9Mサイドワインダー空対空ミサイル(赤外線誘導)、AGM-84ハープーン空対艦ミサイル(アクティヴ・レーダー誘導)、AGM-84E SLAMスタンド・オフ陸上攻撃ミサイル(GPS誘導+赤外線画像誘導)、AGM-84H SLAM-ERスタンド・オフ陸上攻撃ミサイル・射程距離延伸型(GPS誘導+赤外線画像誘導)、AGM-65マーヴェリック空対地ミサイル(TV画像誘導/赤外線画像誘導)、AGM-114Mヘルファイア対戦車ミサイル爆風破砕型(レーザー誘導)、GBU-31 2000ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS誘導+INS誘導、半数必中界13m)、GBU-32 1000ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS誘導+INS誘導、半数必中界13m)、GBU-38 500ポンドJDAM統合直接攻撃爆弾(GPS誘導+INS誘導、半数必中界13m、)、GBU-39 250ポンドSDM小直径爆弾(GPS誘導+INS誘導、半数必中界5m、)、GBU-54 500ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー誘導+GPS誘導+INS誘導)、GBU-55 1000ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー誘導+GPS誘導+INS誘導)、GBU-56 2000ポンドLJDAMレーザー統合直接攻撃爆弾(レーザー誘導+GPS誘導+INS誘導)、GBU-12 500ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー誘導)、GBU-10 1000ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー誘導)、GBU-16 2000ポンドPAVEWAY誘導爆弾(レーザー誘導)、GBU-28 バンカー・バスター5000ポンド貫徹型爆弾、AGM-154 JSOW統合スタンド・オフ兵器(GPS誘導+INS誘導、滑空爆弾)、AGM-88C/D HARM高速対電波源ミサイル(パッシヴ・レーダー誘導、対レーダー・ミサイル)、AGM-88E AARGM先進対電波源誘導ミサイル(パッシヴ・レーダー誘導+GPS誘導+INS誘導、対レーダー兵器)、AGM-158 JASSM統合空対地スタンド・オフ・ミサイル(GPS誘導+INS誘導+赤外線画像誘導)など海軍が使用するすべての航空機搭載兵器を搭載可能で、航続距離もマクドネル・ダグラス F/A-18A/B/C/Dホーネット戦闘機に比べ大幅に向上し、ディープ・ストライク能力を獲得するにいたった。

部分的にではあるがステルス性も考慮され、空中電子攻撃機能のあるAN/APG-79アクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーを搭載し、空対空戦闘でもF-14Aトムャット戦闘機を大幅に上回る能力となった。

要撃専門で艦隊防空が任務であるグラマン F-14Aトムキャット戦闘機と比較して、ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は対地攻撃能力、空対空戦闘能力の両方がある。搭載スペースに限りがある空母でグラマン F-14Aトムキャット戦闘機、グラマン A-6イントルーダー攻撃機の両方を搭載していた時代と比べ、戦力が倍増となりボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は重宝されることになる。

ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は2030年代に配備されるF/A-XXの登場まで海軍航空機部隊の主力となる。

ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機は2014会計年度までに556機の配備が決まっていた。

 

マクドネル・ダグラス F/A-18A/B/C/Dホーネット戦闘攻撃機はステルス戦闘機のロッキード・マーティン F-35CライトニングⅡ戦闘機260機に代替される。

 

ボーイング F/A-18E/Fスーパー・ホーネット戦闘攻撃機をベースとしたボーイング EA-18グラウラー電子戦機は、ノースロップ・グラマン EA―6Bプラウラー電子戦機に代わり、電子戦の主力として海軍、海兵隊、空軍と統合運用される。搭載ジャマーはAN/ALQ-99であるが、将来的には開発中のNGJ(次世代型ジャマー)となる予定である。

ノースロップ・グラマン E-2Cホーク・アイ早期警戒機は、ステルス航空機発見に効果的といわれるUHF帯レーダーのAN/APY-9レーダーを搭載するノースロップ・グラマン E-2Dアドヴァンスド・ホーク・アイ早期警戒機に代替される。

ノースロップ・グラマン E-2Cホーク・アイ早期警戒機は空母1隻に4機搭載であったが、ノースロップ・グラマン E-2Dアドヴァンスド・ホーク・アイ早期警戒機は空母1隻に5機搭載され、艦隊の捜索警戒監視能力が強化される。

また、ノースロップ・グラマン E-2Dアドヴァンスド・ホーク・アイ早期警戒機はネットワーク戦NIFC-CA(海軍統合火力統制―対空)構想の一役を担い、艦隊防空の強化につながることが期待されている。

合衆国海軍の哨戒機であるロッキード・マーティン P-3Cオライオン哨戒機は、MMA(海洋多任務航空機)として開発されたボーイング P-8Aポセイドン哨戒機109機とノースロップ・グラマン MQ-4CトライトンBAMS(広域洋上監視)無人機66機に代替される。

 

 哨戒ヘリコプターはユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー SH-60Bシー・ホーク哨戒ヘリコプター、ユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー SH-60Fオーシャン・ホーク哨戒ヘリコプターから、対潜水艦戦、機雷処理・発見、小型戦闘艇への攻撃、小型民間船舶によるテロ対処など多任務に対応するよう最新のアヴィオニクス、センサーを搭載するユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー MH-60Sナイト・ホーク多任務ヘリコプターと、機雷処理や輸送を主任務とするユナイテッド・テクノロジーズ・シコルスキー MH-60Rストライク・ホーク多任務ヘリコプターに代替される計画だった。

救難機にはティルト・ローター航空機であるベル/ボーイング HV-22オスプレイ垂直離着陸救難機が採用され、さらにベル/ボーイング V-22オスプレイ垂直離着陸機はノースロップ・グラマン C-2Aグレイハウンド空母・地上間航空輸送機の後継にも採用された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4節     合衆国空軍

 

 合衆国空軍は「グローバル・パワー、グローバル・リーチ」がスローガンで、装備の数、質ともに世界最高水準の空軍である。

 合衆国空軍の爆撃航空団は、戦略爆撃だけでなく戦術爆撃もおこなうようになった。1992年に戦略航空軍団(SAC)と戦術航空軍団(TAC)が廃止され、航空戦闘軍団(ACC)に統合されてから、それは進んだ。

レーダーで捉えることは非常に困難であるノースロップ・グラマンB-2Aスピリット爆撃機を21機(TAI20機、PAI16機、総生産機数21機)保有している。AGM-86巡航ミサイル、AGM-129巡航ミサイルの運用が可能なロックウェル・インターナショナルB-1Bランサー爆撃機を100機生産、66機保有している。

500ポンドJDAM(統合直接攻撃爆弾、GPS誘導爆弾)を80発ほど機内に搭載できるボーイングB-52H爆撃機を58機保有する。

 ただ杜撰な核管理が原因で、戦略核運用を担当するグローバル・ストライク軍団(全地球攻撃軍団)が創設され、爆撃航空団は航空戦闘軍団から分離された。

 制空戦闘機には20世紀最強の戦闘機であるマクドネル・ダグラスF-15A/B/C/Dイーグル戦闘機を249機保有、213機運用している(合衆国空軍/空軍州兵向け総生産機894機、1989年調達終了)。1974年の実戦配備から数々の紛争に投入されてきたが、敵に撃墜されたことはない。E-3セントリー空中警戒管制システム機の支援を受け行動する。大半が退役、または空軍州兵、空軍予備軍団など二線級部隊に移籍している。177機はレーダーをAN/APG-63からアクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーのAN/APG-63(V)3に換装し、AIM-120C/D空対空ミサイル、AIM-9X空対空ミサイルを運用可能にした「ゴールデン・イーグル」として合衆国空軍の一線級部隊として2020年代まで現役に残り、F-22Aラプター戦闘機とともに制空任務に就く予定である。

 F-15イーグル戦闘機の後継の制空戦闘機として開発されたのがF-22Aラプター戦闘機である。1989年のパナマ侵攻を初陣に、アメリカの係わる戦闘においてなくてはならない存在となったロッキード・マーティンF-117ナイト・ホーク戦闘爆撃機から導入されたステルス技術は、ロシア、ヨーロッパ、日本より大幅に先を行っていった。そのステルス技術を導入、世界初の本格的ステルス制空戦闘機ロッキード・マーティンF-22Aラプター戦闘機(原型YF-22初飛行1990年、実戦配備型初飛行1997年、空虚重量19700kg、推力156kN×2)は、ステルス技術以外にも高推力エンジンによるアフター・バーナーを使用せずにマッハ1,58という超音速巡航が可能で、推力偏向制御(TVC)装置による画期的な機動、長距離捜索・多目標同時処理が可能なAN/APG-77アクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダー火器管制装置、統合電子戦システムなどを導入、F-15戦闘機の「航空優勢戦闘機」からF-22戦闘機は「航空支配戦闘機」となった。(注22)当初、750機が生産される予定であったが、187機の生産にとどまった。

 制空任務、戦術爆撃任務をこなすデュアル・ロール・戦闘機として開発されたボーイング(旧マクドネル・ダグラス)F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機(初飛行1986年、実戦配備1988年、自重14379kg、推力129kN×2)。F-15C/Dイーグル戦闘機は制空戦闘機のため1000ポンド爆弾の搭載のみであるが、F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機は2000ポンド爆弾や5000ポンド貫徹型爆弾「バンカー・バスター」を搭載できるように機体フレームが大幅に強化され、対地爆撃を可能とする合成開口レーダー機能のあるAN/APG-70レーダー火器管制装置を装備する。F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機は221機保有している。(注20)F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機もレーダーをAN/APG-70からアクティヴ電子スキャンド・アレイ・レーダーで対地モードが強化されたAN/APG-82(V)1に換装する予定である。

同様にデュアル・ロール戦闘機にロッキード・マーティンF-16A/B/C/Dブロック15/25/30/32/40/42/50/52ファイティング・ファルコン戦闘機(初飛行1974年、実戦配備1979年、F-16Cブロック40自重8627kg、推力129kN×1)がある。合衆国空軍、空軍州兵向け2231機製造、2005年調達終了。F-16ファイティング・ファルコン戦闘機はコスト抑制と小型な機体ゆえに、当初はレーダー非搭載の昼間限定戦闘機として安価・大量配備を目指して開発されたが、小型でそれなりの性能のAN/APG-66レーダー火器管制装置の装備によって全天候型戦闘機となり、また機体の持つ潜在的能力が開花し制空、領域防空、本土防空、戦術爆撃、敵防空制圧など何でもこなす主力戦闘機として活躍することとなった。(注21)現在も輸出向けにF-16C/Dブロック50/52戦闘機、F-16C/Dブロック50/52アドヴァンスド戦闘機の生産ラインが残されている。(注21)

一方で、対テロ戦争、イラク戦争の影響でF-16C/Dファイティング・ファルコン戦闘機を配備する航空団が、小型で対戦車、対車両、対人攻撃と能力の限られるゼネラル・アトミックスMQ-1プレデター無人多任務(軽攻撃・偵察)機、ゼネラル・アトミクスMQ-9リーパー無人多任務(軽攻撃・偵察)機の配備に機種転換され、東アジアの正規戦に不安を残す結果となっている。

 航空機動軍団(AMC)の隷下には、ペイロード108トンを誇る大型輸送機ロッキード・マーティンC-5Bギャラクシー輸送機とC-5Bギャラクシー輸送機の改良型C-5Mスーパー・ギャラクシー輸送機を120機生産した。C-5Bギャラクシー輸送機はC-5Mスーパー・ギャラクシー輸送機に改修される。

C-130輸送機と同程度の短距離離着陸(900m)で戦略輸送、戦術輸送の両方もこなし、ペイロード78トンと戦車も輸送可能なボーイングC-17Aグローブ・マスターⅢ輸送機を212機生産している。そしてペイロード18トンで戦術輸送機の代名詞となっているロッキード・マーティンC-130E/Hハーキュリーズ輸送機とロッキード・マーティンC-130Jスーパー・ハーキュリーズを約600機保有する。

 救難ヘリコプターにはHH-60Gぺイヴ・ホーク救難ヘリコプター99機が充てられていたが今後はHH-60M救難ヘリコプターに代替されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中給油機は、ボーイング717をベースとしたボーイングKC-135R/T空中給油機を414機(減少中、1956年生産開始、総生産機数730機)、KC-135空中給油機の2倍の給油能力を持つダグラスDC-10をベースにしたマクドネル・ダグラスKC-10エクステンダー空中給油機を59機保有している。しかし、これら空中給油機は老朽化のためボーイング767旅客機をベースにしたボーイングKC-46Aペガサス空中給油機が代替導入される。そのほかHC-130J空中給油機、HC-130N空中給油機、HC-130P空中給油機がある。

合衆国空軍太平洋空軍は東西には東太平洋から西太平洋、インド洋、そして南北には北極から南極まで担当する。太平洋空軍(司令部・ヒッカム空軍基地、現パール・ハーバー-ヒッカム統合基地)には、戦闘航空団、混成航空団、輸送航空団で構成される第5空軍(東京都横田基地)、2個戦闘航空団がある第7空軍(韓国・烏山基地)、1個戦闘航空団と1個混成航空団で構成される第11空軍(アラスカ州エルメンドルフ空軍基地)、ボーイングB-52ストラトフォートレス爆撃機が配備され、1989年まで戦略航空軍団の基地として重責を担い、現在もその流れをくみ合衆国国家の前進基地として機能する第13空軍(グアム島アンダーセン空軍基地)があった。

 第5空軍の主力は沖縄県嘉手納基地の第18航空団で、F-15C/Dイーグル戦闘機を主力装備とし、制空戦闘を重視している。第44戦闘飛行隊、第67戦闘飛行隊にF-15C/Dイーグル戦闘機が配備され、支援戦力として第961空中指揮管制飛行隊のボーイングE-3セントリー空中警戒管制システム機、第909空中給油飛行隊のボーイングKC-135ストラトタンカー空中給油機、HH-60Gぺイヴ・ホーク救難ヘリコプターを装備し、F-15C/Dイーグル戦闘機を補佐する。

第35戦闘航空団は第13戦闘飛行隊、第14戦闘飛行隊から成り、F-16C/Dブロック50ファイティング・ファルコン戦闘機を装備する。第35戦闘航空団のF-16C/Dブロック50ファイティング・ファルコン戦闘機には、敵防空制圧(SEAD)任務が課せられており、有事の際はF-15C戦闘機護衛のもと、先んじて敵防空網制圧・破壊に投じられる。第374輸送航空団は横田基地にロッキード・マーティンC-130H輸送機を配備していた。

 第7空軍は韓国防衛が主任務であり、仮想敵は北朝鮮である。F-16C/Dブロック40ファイティング・ファルコン戦闘機を装備する第8戦闘航空団(韓国・群山基地)は対地、対空の両方の戦闘に対応する。第51戦闘航空団(韓国・烏山基地)は、F-16C/Dブロック40ファイティング・ファルコン戦闘機が主装備である。また対地攻撃、特に近接航空支援能力を重視した設計のフェアチャイルドA-10A/OA-10AサンダーボルトⅡ攻撃機も装備し、押し寄せる北朝鮮地上兵力の機械化部隊、機甲部隊への攻撃(近接航空支援)が主要な任務であった。第5空軍が日本を基盤とし、広く西太平洋、インド洋をカバーするのに対し、第7空軍は韓国防衛に特化している。

 第11空軍の第3航空団(アラスカ州エルメンドルフ空軍基地)はF-22Aラプター戦闘機、F-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機、F-15C/Dイーグル戦闘機、E-3セントリー空中警戒管制システム機、C-130Hハーキュリーズ輸送機を装備する大規模航空団で、有事の際は各地に展開する。第354戦闘航空団(アラスカ州アイルソン空軍基地)はF-16C/Dファイティング・ファルコン戦闘機とOA-10CサンダーボルトⅡ攻撃機を装備する対地攻撃任務を主任務とする部隊で、アラスカ州に配備されている空中給油機とともに、各地に展開することが可能である。

 第13空軍は隷下に部隊をもっていない。第13空軍のグアム島アンダーセン空軍基地にはB-2スピリット爆撃機が展開し、東アジアの危機に対応していた。第13空軍は2012年に解隊された。

  支援任務にはボーイングE-3セントリー空中警戒管制システム機が32機、ボーイングE-4国家空中作戦センター機が4機、E-8A/C統合捜索目標攻撃レーダー・システム機が18機、RC-135リベット・ジョイント情報収集機が22機、などがある。

 特殊作戦機にはAC-130Hガンシップ攻撃機、AC-130Uガンシップ攻撃機、E/M-130E特殊作戦・電子戦機、MC-130H特殊作戦機、MC-130P特殊作戦機、MC-130W特殊作戦機がある。

合衆国の核戦略を担うのは合衆国戦略軍(U.S.STRATCOM:United States STRATegic COMmand)である。合衆国戦略軍は陸軍、海軍、空軍、海兵隊の4軍の戦略部門を統合するものである。合衆国の核戦略の基本はトライアド(三本槍)、地上発射大陸間弾道ミサイルによる攻撃、爆撃機による核爆弾投下、核弾頭搭載巡航ミサイル、核弾頭搭載短距離攻撃ミサイル攻撃、そして弾道ミサイル搭載戦略原子力潜水艦による攻撃の3つである。

 B-1Bランサー爆撃機は核爆弾をはじめ、空中発射巡航ミサイルAGM-86(射程距離2500km、弾頭200KT)を大量に搭載、発射可能である(B-1B爆撃機は現在、戦術任務のみ)。

B-52Hストラトフォートレス爆撃機はAGM-86空中発射対地巡航ミサイルと核爆弾を搭載する。

B-2スピリット爆撃機はステルス性が高く、レーダーなどで捉えるのは困難である。

核爆弾を搭載する。

 地上発射弾道ミサイルには、LGM-30GミニットマンⅢ大陸間弾道ミサイル(射程距離13000km、弾頭3335KT×3)を450基、MGM-118ピース・キーパー大陸間弾道ミサイル(射程距離9600km、弾頭550KT×3)を50基配備していた。MGM-118ピース・キーパーは早期に退役することになった。合衆国空軍のICBMはいずれも命中精度は極めて高いとされる(半数必中界100m以内)。

潜水艦発射弾道ミサイルは、UGM-96AトライデントC4潜水艦発射弾道ミサイル(射程距離7400km、弾頭100KT×8)、UGM-133AトライデントⅡD5潜水艦発射弾道ミサイル(射程距離12000km、弾頭475KT×8)をオハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(水中排水量18750トン)10隻に搭載している。

 

UGM-133AトライデントⅡD5弾道ミサイルは半数必中界90メートルと、潜水艦発射弾道ミサイルでありながら地上発射型大陸間弾道ミサイルと同等の命中精度という飛躍的に精度の高いものとなっており、合衆国の核戦略の信頼性を向上させるものとなっている。(注23)

 

 

 

 

 

 

 

注1  防衛庁『平成15年版防衛白書』

注2  同上

注3  エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P89

注4  同上P27

注5  国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

    『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注6  同上

注7  同上

注8  国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

    『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注9,10,11,12  国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

            『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注13『JANE‘S FIGHTING SHIPS』10-11

注14,15,16 『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注17 『JANE‘S FIGHTING SHIPS』10-11

注18 エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P71

注19  同上P90

注20  同上P87

注21  同上P75

注22 ロッキード・マーティン・ホームページ

注23  防衛庁『平成15年版防衛白書』P319,320

     防衛庁『平成26年度版防衛白書』資料1

 

 

 

 

 

 

 第2章 東アジア各国の戦力 中国   2000年代

 

 

 

 

 中国の軍事力は、人民解放軍、人民武装警察、民兵からなり、人民解放軍は中国共産党が指導する軍隊となっている。人民武装警察は人民解放軍陸軍の効率化によって生じた余剰人員を平時には治安維持任務にあたらせるというもので、実質的には陸軍の歩兵部隊であり、装備もアサルト・ライフル、機関銃、重機関銃など歩兵装備と同様である。人民武装警察は66万人ほどいる。民兵は輸送部隊、工兵部隊、兵站部隊、後方支援部隊の色彩が濃く、有事の際には人民解放軍の補佐にあたることになる。

 中国の陸上戦力は総兵力160万人、主として旧ソ連軍の装備をコピーしたものが配備されている。7個軍区、28個省軍区、21集団軍(軍団)、59個師団、35個旅団、10個ヘリコプター連隊からなり、戦車7000両、歩兵戦闘車5500両、野砲/多連装ロケット発射システム15000門、ヘリコプター300機以上を有する。

 また、快速反応部隊と呼ばれる緊急展開部隊が創設され、機動力を高めるため中国国内で生産された民間用航空機なども軍事転用しているようである。陸軍の各種特殊部隊や空軍第15空挺軍と呼ばれる特殊部隊も創設され、総数は2万人以上に登るとている。

 渡洋能力は本格的大型揚陸艦、輸送艦が少ないことから限られたものになっている。しかし、1996年の台湾総選挙の際の威嚇的軍事演習においては民間船舶に多連装ロケット発射システムを搭載し実弾演習をしている映像があることから、有事の際は中国に存在する民間用船舶、民間航空機を総動員することが予想される。特殊部隊によるゲリラ・コマンド作戦とともに、その能力は侮ることは出来ないといえるだろう。(注1)

人民解放軍海軍は北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊からなり、兵力26万人、水上戦闘艦670隻、潜水艦70隻を有する。

 ロシアから輸入したソブレメンヌイ級艦隊防空ミサイル駆逐艦は1996年9月に購入、1999年12月に1番艦「杭州 HANGZHOU」、2001年1月に2番艦「福州 FUZHOU」が引き渡された。さらにその後1隻が配備された。ソブレメンヌイ級艦隊防空ミサイル駆逐艦は満載排水量7940トン、蒸気タービン推進、兵装は130mm連装砲2基、SS-N-22艦対艦ミサイル8発、SA-N-7艦隊防空用艦対空ミサイル発射機2基、RBU-1000 6連装対潜ロケット発射機2基、533mm連装魚雷発射管、30mm近接防御武器システム4基である。搭載航空機はカモフKa-28哨戒ヘリコプターを2機である。SS-N-22艦対艦ミサイル(NATOコード:サンバーン)はマッハ2の速度で超低空をS字状に飛来するミサイルで、発見、迎撃することが非常に困難である。また、SA-N-7艦対空ミサイルによって本格的艦隊防空能力を保持するにいたった。しかし、基本設計が1970年代後半であり、情報処理能力、防空能力、電子戦能力、ステルス性、各種センサーは西側陣営の最新鋭艦に比べ劣っているようである。

 052B型駆逐艦の1番艦「広州 GUANGZHOU」は2002年6月に起工、2003年3月に進水、2004年7月に就役した。2番艦の「武漢 WUHAN」も2004年に就役している。052B型駆逐艦は満載排水量6500トン、ディーゼル・ガスタービン推進、100mm単装砲1基、SA-N-12艦対空ミサイル発射機2基、YJ-83艦対艦ミサイル16発、30mm近接防御武器システム2基、324mm3連装短魚雷発射管2基、対潜ロケット発射機4基、搭載航空機はハルビンZ-9Aヘリコプター1機である。ガス・タービンはウクライナ製である。ステルス性を意識した船体であるが、その他設計は保守的で電子装備も古いままである。(注2)

 052C型駆逐艦の1番艦「蘭州 LANZHOU」は2002年7月起工、2003年4月進水、2004年に就役している。2番艦の「海口 HAIKOU」は2005年に就役している。052C型の満載排水量は6500トン、ディーゼル・ガスタービン推進、100mm単装砲1基、HQ-9艦対空ミサイル用垂直発射システム48セル、YJ-83艦対艦ミサイル8発、30mm近接防御武器システム2基、324mm3連装短魚雷発射管2基で、搭載航空機はハルビンZ-9A哨戒ヘリコプター2機である。フェーズド・アレイ・レーダー4基を装備し、イージス・システムを意識した先進的な装備である。(注3)

  旅州型駆逐艦は、1番艦「瀋陽」は2006年10月就役、満載排水量7112トン、SA-N-20艦対空ミサイル8連装回転式垂直発射システム6基、YJ-83艦対艦ミサイル4連装発射筒2基、100mm単装砲1基、30mm近接防御武器システム2基、324mm3連装短魚雷発射管2基を装備する。2番艦「石家荘」は2007年3月に就役している。(注4)

 旅海 LUHAI級駆逐艦はいまのところ1隻のみである。1999年就役、満載排水量6000トン、ディーゼル・ガスタービン推進、兵装は100mm連装砲1基、37mm連装機銃4基、YJ-83艦対艦ミサイル16発、短距離艦対空ミサイル8発、3連装魚雷発射管2基で、搭載航空機はハルビンZ-9Aヘリコプター2機である。ステルス性を考慮した船体となっている。船体の大きさの割には搭載兵器が多いという共産国の伝統を引き継いでいる。(注5)

 ルーフ- LUHU級駆逐艦は天安門事件前に計画された艦で、西側陣営が中国に幻影を見ていた時期であるため多くの西側陣営の技術が導入されている。ガス・タービンはアメリカのゼネラル・エレクトリックのベスト・セラー商品であるLM2500で、短距離艦対空ミサイルHQ-7はフランスのクロタル・ミサイルをライセンス生産したものである。現在のところ2隻が就役している。1994年就役、満載排水量4600トン、ディーゼル・ガスタービン推進、HQ-7艦対空ミサイル8発、3連装魚雷発射管2基、搭載航空機はハルビンZ-9Aヘリコプター2機である。(注6)

 ルーター LUDA級駆逐艦は中国初の国産駆逐艦で、人民解放軍海軍の主力で16隻が就役している。1971年から1991年までの長きにわたって建造され続け、そのためバリエーションが多くある。満載排水量3670トン、蒸気タービン推進、兵装は130mm連装砲2基、57mm連装砲2基、25mm連装機銃4基、HY-2艦対艦ミサイル6発、HQ-7短距離艦対空ミサイル8発で、搭載航空機はハルビンZhi-9Aヘリコプター2機である。排水量に対して兵装が多く、バランスが悪いと思われる。また、中国国産とはいえ旧ソ連艦艇のコピーで、1番艦就役が1971年という古さからも、戦力としては低いものとなっている。(注7)

 最新のフリゲートはチャンカイⅡ JIANGKAI江凱Ⅱ型フリゲートである。1番艦「530 徐州」が2008年11月に就役した。満載排水量3963トン、HHQ-16短距離艦対空ミサイル32発、YJ-83艦対艦ミサイル4連装発射機2基、76mm単装砲1門、30mm近接防御武器システム2基、6連装対潜ロケット2基、324mm3連装短魚雷発射管2基を装備している。16隻の建造が認められ中国の外洋進出の柱である。(注8)

 054型フリゲート、チャンカイⅠ JIANGKAIⅠ江凱Ⅰ型フリゲートは、1番艦「馬鞍山 MAANSHAN」が2001年12月に起工、2003年9月に進水、2005年2月に就役した。満載排水量3900トン、ディーゼル推進、兵装は100mm単装砲1門、RBU1000 6連装対潜ロケット発射機2基、HQ-7短距離艦対空ミサイル8発、YJ-83艦対艦ミサイル8発、30mm近接防御武器システム2基、324mm3連装魚雷発射管2基で、搭載航空機はハルビンZhi-9Cヘリコプター1機である。HQ-7短距離艦対空ミサイルはフランスのクロタル・ミサイルをライセンス生産したもので、ディーゼル機関もフランス製である。射撃統制装置、情報処理システムもフランス製が基になっている。フランスのラファイエット級フリゲートを意識した船体で相当なステルス性を意識した作りになっている。(注9)

 チャンウェイⅡ JIANGWEI Ⅱ型フリゲートは1番艦が1998年に就役し、10隻が建造されている。満載排水量2250トン、ディーゼル推進、兵装は100mm単装砲1基、37mm連装機銃4基、YJ-1艦対艦ミサイル8発、HQ-1短距離艦対空ミサイル8発、RBU1200対潜ロケット発射機2基で、搭載航空機はハルビンZ-9Aヘリコプター1機である。船体の大きさに比べ、多大な兵装でありバランスが悪いと思われる。(注10)

 チャンウェイⅡ型フリゲートのベースとなったチャンウェイⅠ型フリゲートは1番艦が1991年に就役し、チャンウェイⅡ型のHQ-7短距離艦対空ミサイルがHQ-61短距離艦対空ミサイルとなっている以外の兵装は全く同じで、満載排水量も同じである。各種センサー、電子戦システム、情報処理装置などが変更されたと思われる。両艦あわせて14隻建造された。(注11)

 チャンフ- JIANGHU型フリゲートは1970年代から1989年までの長きにわたり建造された中国の主力フリゲートである。満載排水量が1700トンであるにもかかわらず、乗員が200人と多く、兵装も多大である。自動化が遅れていると推測される。長きにわたって建造されたこともあって30隻あり、Ⅰ型からⅣ型まであり、各型によって各種センサー、電子戦システムは変更されていると思われる。兵装は攻撃力重視で、短距離での水上戦闘においては威力を発揮すると思われるが、近代水上戦闘には不向きだと思われる。(注12)

 攻撃型原子力潜水艦には091型ハン級がある。1974年に1番艦が就役し、以後5隻が就役している。水中排水量5550トン、原子力ターボ・エレクトリック推進、兵装は533mm魚雷発射管6門で、水中速力25ノット、潜航深度300メートルと一流の能力を持っている。(注13)

093型攻撃原子力潜水艦は1994年からロシアの専門家の協力で開発された。静粛性に優れ、合衆国海軍、ロシア海軍に追いついたともいわれる。水中排水量6096トン、原子力蒸気タービン推進、全長107m、幅11m、533mm魚雷発射管6門を有する。1番艦407が2006年12月に就役している。(注14)

 094型戦略原子力潜水艦は潜水艦発射弾道ミサイルJL-2を12基搭載する。1番艦411が2007年に就役している。水中排水量8000トン、原子力蒸気タービン推進、兵装はJL-2を12基、533mm魚雷発射管6門である。4隻が就役した。

 キロ級潜水艦は1993年に発注、1995年に回航された。12隻が就役している。水中排水量3076トン、水中速度17ノット、ディーゼル・エレクトリック推進、533mm魚雷発射管6門を装備している。静粛性に優れ、発見が困難である。浅海での作戦に適しており、中国近海の環境に適している。(注15)

 中国国産の新鋭潜水艦にはユアン YUAN級潜水艦がある。水上排水量2400トン、水中排水量3000トン、ディーゼル・エレクトリック推進、533mm魚雷発射管6門と一流のものとなっている。(注16)

ソン SONG級潜水艦は、中排水量2250トン、水中速力22ノット、ディーゼル・エレクトリック推進、533mm魚雷発射管6門と一流の能力を誇っている。(注17)

 人民解放軍海軍の主力潜水艦はミン MING級潜水艦である。中国が独力で開発した通常推進型潜水艦で、1971年に1番艦が就役している。現在のところ16隻が就役しているが、1970年代においても時代遅れなデザインであったため、現在の潜水艦として一流とは言い難い。水中静粛性は悪いと思われる。水中排水量2113トン、ディーゼル・エレクトリック推進、水中速力18ノット、533mm魚雷発射管8門という攻撃力重視の潜水艦である。同じく主力潜水艦にソ連のロメオ級のコピーが40隻あった。あまりに古臭いその外観から察するに性能は現代の戦闘に耐えうるものではないと思われる。(注18)

 

 水陸両用作戦に使われる艦艇に071型(エアー・クッション揚陸艇4隻、ヘリコプター4機、兵員800名、大型車両20両搭載)3隻、072Ⅲ型(兵員250名、戦車10両搭載)10隻、072Ⅱ型(兵員250名、戦車10両搭載)10隻、072型(兵員200名、戦車10両搭載)7隻、074型(兵員250名、戦車2両搭載)12隻がある。

 中国人民解放軍海軍の航空部隊は戦闘機、攻撃機が主力であり、日本のように対潜哨戒機を重視している国とは傾向が違う。最新鋭の装備は西側陣営のF-15イーグル戦闘機に対抗するために旧ソ連が開発したスホーイSu-27戦闘機(初飛行1981年、自重17700kg、推力122,6kN×2、注19)で、高推力エンジンと高い運動性能でレーダーも高出力で優秀なものを搭載している。また、スホーイSu-27戦闘機の中国向け発展型スホーイSu-30MKK戦闘爆撃機、さらに発展させたスホーイSu-30MK2戦闘爆撃機の導入も始まっている。あわせて100機ほど調達している。また中国がロシアに無断でSu-27戦闘機をコピー生産した殲撃11BH J-11BH戦闘機、殲撃16 J-16戦闘機も配備され始めた。

 空母「遼寧」に搭載する戦闘機として、Su-27戦闘機の艦載機版Su-33戦闘機をウクライナから導入、Su-33戦闘機を模倣研究した中国国産版Su-33戦闘機である殲撃15 J-15戦闘機を開発、配備した。

1998年から人民解放軍海軍航空隊への配備が始まったのがJH-7戦闘攻撃機で、C-801空対艦ミサイル2発搭載可能である。(注20)

 殲撃8Ⅱ J-8Ⅱ(F-8Ⅱ)戦闘機は1990年に配備が始まった戦闘機である。天安門事件前の米中蜜月時代に「ピース・パール」計画として、グラマン、リットン、ウェスティングハウス・エレクトリックなどが開発に関与している。殲撃8Ⅱ J-8Ⅱ(F-8Ⅱ)戦闘機はF-16A/Bファイティング・ファルコン戦闘機が搭載しているAN/APG-66レーダー火器管制装置、慣性航法装置、その他アヴィオニクスなどアメリカ製を導入する予定であったが、天安門事件によって頓挫している。初飛行は1994年と新しいが、ベースとなった殲撃8 J-8(F-8)戦闘機が新しいものでないために運動性能は良いものではないと思われる。自重は14300kg、推力は65,9kN×2である。(注21)

 殲撃8 J-8(F-8)戦闘機(自重15000kg、推力59,82kN×1)も海軍航空隊は保有しているが15機しか保有しておらず、今後の増備も少数にとどまると予想される(注22)。殲撃8戦闘機のベースとなった殲撃7 J-7(F-7)戦闘機(自重5275kg、推力59,82kN×1)も老朽化が進み、100機程度まで保有数が低下している(注23)。数の上で主力となっているのは旧ソ連のミコヤンMiG-19戦闘機/殲撃6 J-6(F-6)戦闘機で320機保有しているが、あまりにも古く空戦では活躍できず、対艦攻撃支援などに限られるだろう。またミコヤンMiG-19戦闘機/殲撃6 J-6戦闘機を改造した強撃5 Q-5(A-5)攻撃機を93機保有している。空戦ではなく対艦攻撃に重きを置いており、ある程度の実用性は認められる。(注24)

 

 爆撃機はイリューシンIl-28爆撃機をコピーしたH-5爆撃機が50機、ツポレフTu-16爆撃機をコピーしたH-6爆撃機が51機ある。(注25)

 人民解放軍海軍航空隊の航空機による対潜哨戒の中心は艦載ヘリコプターで、フランスのアエロスパシアル(現・ユーロコプター)のドーファン2の中国国内ライセンス生産品であるハルビンZ-9Aヘリコプターと、ロシアから輸入するカモフKa-28ヘリコプターが主力であり、今後とも両方が増備されていく模様である。

中国の航空戦力は、人民解放軍海軍航空隊とともに、人民解放軍空軍が担っている。人民解放軍空軍はスホーイSu-27戦闘機(NATOコード:フランカー)を1993年にロシアから26機を輸入したのを皮切りに、着実に輸入し続け機数を増やした。さらに1996年にはSu-27戦闘機の生産ライン輸入協定を調印し、1998年末からノック・ダウン生産を始めた。その後、中国国内でのライセンス生産も開始し、殲撃11 J-11戦闘機と名付けられ100機を保有している。また、Su-27を無断コピー製造した殲撃11Bの生産を開始した。中国国産のアヴィオ二クスを搭載し、生産数は多い。

Su-30MK2戦闘機を模倣開発した殲撃16 J-16戦闘機は戦闘爆撃機で中国国産のエンジン、アヴィオ二クスを搭載している。

さらにスホーイSu-30MKK戦闘爆撃機、Su-30MK2戦闘爆撃機をロシアから輸入しており、購入を続ける予定である。

 主力は殲撃8Ⅱ J-8Ⅱ(F-8Ⅱ)戦闘機を50機、殲撃8 J-8(F-8)戦闘機(初飛行1970年代半ば、自重15000kg、推力59,82kN×1)を100機以上(注26)、殲撃7 J-7(F-7)戦闘機(原型MiG-21戦闘機初飛行1956年、中国国内生産初飛行1970年代前半、自重5257kg、推力59,62kN×1)を400機保有、殲撃6 J-6(F-6)戦闘機を1000機保有、強撃5 Q-5(A-5)攻撃機(初飛行1965年、自重6654kg、推力36,52kN×2)を750機保有している。(注27)

 かつて少数であった第4世代戦闘機は300機以上となり、さらに旧世代戦闘機を数千機保有しているため周辺諸国の脅威となっている。ただ、殲撃6 J-6戦闘機はあまりにも古いので、デコイ(囮)や保管状態である。

 また、アメリカのエンジン輸出拒否によって計画が頓挫したイスラエルのラビ戦闘機を開発したイスラエル人技術者が農業技術者の名目で中国入りし、協力したことにより、殲撃10 J-10(F-10)戦闘機の開発がされた。殲撃10 J-10戦闘機は、アメリカ中央情報庁(CIA)の発表によると、イスラエルに輸出されたF-16ファイティング・ファルコン戦闘機の技術が流用されている模様で、周辺諸国にとって脅威となる。(注28)また、ダイバーターレス・インレットの殲撃10B J-10Bも開発され、配備され始めている。

 

 戦略爆撃機としてH-6を140機保有し、核戦略の一つとして重要視されている。また航空機発射巡航ミサイルCJ-10の発射母機として活用されている。

中国の核戦略の中で最も大きな比重を占めているのは地上発射の弾道ミサイルである。地上発射大陸間弾道ミサイルDF-5(CSS-4)(射程距離13000km、弾頭4MT)を20基、DF-3(CSS-2)中距離弾道ミサイル(射程距離2800km、弾頭3MT)、DF-4(CSS-3)中距離弾道ミサイル(射程距離4750~5400km、弾頭2Mt)、DF-21(CSS-5)中距離弾道ミサイル(射程距離2500km、弾頭250Kt)116基以上、DF-31(射程距離7200km以上)、DF-31A(射程距離1万2000km)36基以上を保有している。また夏 XIA級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(水中排水量6500トン、弾道ミサイル12基搭載)1隻、ゴルフ級弾道ミサイル搭載潜水艦(水中排水量2950トン、弾道ミサイル1基搭載)1隻にJL-1(CSS-N-3)潜水艦発射弾道ミサイル(射程距離2150km、弾頭250KT)を搭載している。JL-2潜水艦発射弾道ミサイルも配備中である。(注29)

また、核弾頭搭載可能な地対地巡航ミサイルも多く保有している。DH-10地対地巡航ミサイルは300基以上配備されていると思われる。

 空母保有は人民解放軍創設以来の念願だったが、その真意は隠し通してきた。1980年に艦隊世界一周を成功させたことによって空母保有の実現へ走り出した。

2008年12月23日、中国・国防省の黄雪平報道官は「空母は国家の総合力の表れだ。中国政府は各方面の要素を総合し、関係する問題を研究、考慮する。」と述べ、遂に制式に空母保有を宣言した。

空母保有の理由として「中国領海の主権と権益を守ることは軍の神聖な職域だ。」と強調した。

 

 

 

注1  防衛庁『平成15年版防衛白書』  同上 P62、63,64

国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

    『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

宇垣大成「中国/台湾の兵力比較」海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2

版』

国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』1995-1996

注2  国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

    『JANE‘S FIGHTING SHIP』92-93

海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P64

注3   海人社『世界の艦船』2011年9月号

注4   同上

 

注5   海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P66

注6   海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P70

国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注7   海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P72

国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

  『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注8   海人社『世界の艦船』2011年9月号

注9   海人社『世界の艦船』2011年9月号

注10  海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P80

注11  海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P78

国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

     『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注12  海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P82

注13  海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P54

     国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

    『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注14  海人社『世界の艦船』2011年9月号

注15  海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P56

     国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

     『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注16  海人社『世界の艦船』2011年9月号

注17  海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P58

国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注18  海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P60

国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注19  エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P57

注20  海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P114

注21  同上P115、エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P14

注22  同上P115、エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P13

注23  同上P116、エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P11

注24  同上P116、エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P12

注25  エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P253

注26  エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P15

注27  同上P11

注28  同上P16、『東アジア戦略概観2003』P149

注29  防衛庁『平成15年版防衛白書』P319、P320

     防衛省『平成26年度版防衛白書』資料1

 

 

 

第3章 東アジアの戦力 台湾   2000年代

 

 中国の軍事的圧力、脅威に絶えずさらされ続けている台湾は、近年まで1982年の米中コミュニケや、中国の圧力により近代兵器の購入が滞っていたが、1990年代以降ようやく近代化が可能になってきた。陸軍は12個師団、海軍陸戦隊2個師団とあわせて地上兵力27万人で、M60A3パットン戦車など旧式戦車を配備している。

 海上戦力の近代化は進んでおり、世界有数の強力な海軍となっている。現役兵力は6万8000人、水上戦闘艦は40隻、潜水艦は4隻、18隻の揚陸艦を保有、海軍陸戦隊の上陸作戦も可能である。

 最新鋭艦は康定(カンディン)級フリゲートである。これはフランスのラファイエット級フリゲートを輸入したものである。ラファイエット級フリゲートは本格的にステルス機能を取り入れた船体で、レーダー捜索は困難である。康定級フリゲートはフランスで船体を建造したが、電子装備、兵装は台湾において艤装が行われ、台湾オリジナルの兵装となっている。ラファイエット級フリゲートにはない対潜兵装が加えられたため、ステルス性が損なわれていると思われる。(注1)

康定(カンディン)級フリゲートは満載排水量3800トン、ディーゼル推進で、兵装はOTOメララ 76mm単装砲1門、40mm単装機銃2基、Mk32 324mm3連装短魚雷発射管2基、雄風Ⅱ艦対艦ミサイル8発、シー・チャパラル短距離艦対空ミサイル4発、Mk15ファランクス20mmバルカン近接防御武器システム1基である。搭載航空機はSH-60シー・ホーク哨戒ヘリコプターの民間バージョンであるシコルスキーS-70C(M)で、アメリカ製の対潜哨戒機器が装備されたものを1機搭載している。康定級フリゲートは1996年から1998年までに6隻が就役した。(注1)

 台湾の艦隊防空を担うのは成功(チェンクン)級艦隊防空ミサイル・フリゲートである。これはアメリカのオリヴァー・ハザード・ペリー級艦隊防空ミサイル・フリゲートを台湾でライセンス生産したものである。1993年から8隻が就役している。満載排水量4105トン、ガス・タービン推進、兵装はMk13発射機(RIM-66スタンダードMR艦対空ミサイルなどミサイル44発)、OTOメララ 76mm単装砲1門、40mm単装機銃2基、雄風Ⅱ艦対艦ミサイル8発、Mk32 324mm3連装短魚雷発射管2基、Mk15ファランクス20mmバルカン近接防御武器システム1基である。搭載航空機はシコルスキーS-70Cヘリコプター2機である。(注2)

 対潜戦で主力となるのは合衆国海軍の中古艦船を購入したノックス級フリゲートである。満載排水量4260トン、蒸気タービン推進、兵装はMk42 127mm単装砲1門、20mm単装機銃4基、Mk32 324mm短魚雷発射管2基、8連装対潜ロケット発射機1基である。搭載航空機はマクドネル・ダグラスMD500小型ヘリコプターで、小型なためその能力は限られたものになるだろう。1972年に合衆国海軍で就役し、1993年に台湾が購入、就役させている。台湾はノックス級フリゲートを8隻配備している。(注3)

 ギアリング級駆逐艦は、合衆国海軍の中古艦船で1946年に建造された非常に古い艦で、1980年代に近代化工事を実施、RIM-66スタンダードMR艦対空ミサイルを発射可能にしていた。満載排水量は3540トン、蒸気タービン推進、兵装は76mm単装砲1門、40mm単装機銃2基、12,7mm機関銃6基、RIM-66スタンダードMR艦対空ミサイル10発、雄風Ⅱ艦対艦ミサイル4発、8連装対潜ロケット発射機1基、Mk32 324mm3連装短魚雷発射管2基である。搭載航空機はマクドネル・ダグラスMD500ヘリコプターである。台湾海軍はギアリング級駆逐艦を最近まで7隻保有していた。(注4)

 キッド級艦隊防空ミサイル駆逐艦は、1970年代半ば王政イランがアメリカに発注した駆逐艦である。イラン・イスラム革命でイランは購入断念を余儀なくされ、合衆国海軍が購入することになった艦船である。1981年から1982年に竣工している。満載排水量は9547トン、ガス・タービン推進、兵装はMk42 127mm単装砲2門、Mk26発射機(RIM-66スタンダードMR艦対空ミサイルなどミサイル88発)、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk32 324mm短魚雷発射管2基、Mk15ファランクス20mmバルカン近接防御武器システム2基、搭載航空機はシコルスキーSH-60Bシー・ホークの民間版であるシコルスキーS-70Cヘリコプターである。台湾海軍はキッド級艦隊防空ミサイル駆逐艦を4隻導入し、飛躍的な戦力向上となった。(注5)

 潜水艦は4隻配備されている。1987年と1988年に就役した海龍(ハイルン)級潜水艦は、オランダのウィルトン・フィエノルド社が建造し、台湾が初めて購入した近代的潜水艦である。水中排水量2660トン、ディーゼル・エレクトリック推進、533mm魚雷発射管6門と、先進国の潜水艦として遜色のないものとなっている。海龍級潜水艦導入以前に台湾が保有していた潜水艦は1945年に合衆国海軍が建造したガピーⅡ級潜水艦のみであったので、台湾の潜水艦作戦能力は大幅に向上した。(注5)

 台湾空軍も1990年代以前は旧型戦闘機を配備するだけであり。その戦力は非常に弱いものであった。しかし、中国が着実に空軍力を向上させていった事態に対して、まず1992年前半にフランスからダッソ-・ミラージュ2000-5戦闘機(初飛行1978年、自重7490kg、推力95,1kN×1)を60機導入し(注6)、1992年秋にはアメリカのブッシュ大統領がテキサス州フォート・ワースのロッキードの戦闘機工場においてF-16戦闘機の売却を認め、台湾空軍はF-16A/Bブロック20ファイティング・ファルコン戦闘機を150機導入することになった。第4世代戦闘機を210機導入した2005年の台湾の空軍力は一流のものとなった。台湾空軍はこれら輸入した第4世代戦闘機210機に加え、アメリカの支援を得て開発された国産のF-CK-1経国戦闘機(自重6386kg、推力41,1kN×2)130機、ノースロップF-5EタイガーⅡ戦闘機(初飛行1972年、自重4410kg、推力22,2kN×2)も150機配備しており(注7)、中国軍の攻勢に対抗しているが、中国の大幅な軍拡の前に依然苦境に立たされている。また台湾の防空システムはレーダーによる警戒網、高度な情報通信システム、グラマンE-2Tホーク・アイ早期警戒機などで構成される。

 

注1  海人社『中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版』P126,127

注2  同上P124,125

注3  同上P128,129

注3  同上P122,123

注4  同上P121

注5  『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注6  エア・ワールド『世界軍用機年鑑1993-94』P19

注7  同上P92

 

 

 

 

 

 第4章 東アジア各国の戦力 韓国   2000年代

 

 北朝鮮の侵攻から防衛するため、世界有数の戦力を保有する韓国は、陸上戦力を中心にした態勢から海軍力、空軍力を重視したものへと変貌を遂げつつある。陸軍は3個軍、22個師団、海兵隊は2個師団で陸上戦力は60万人、さらに予備役27個師団、400万人を揃えている。装備面では韓国国産のK-2戦車、K-1戦車シリーズ、M48A5パットン戦車などを約2200両、K-9 155mm自走砲、ゼネラル・ダイナミクスM110 203mm自走砲、ローラル・ヴォート・システムズM270多連装ロケット発射システムなどからの多数の火砲、ベルAH-1J/Fヒューイ・コブラ攻撃ヘリコプターが空から敵機甲部隊、歩兵部隊を攻撃する態勢となっており、その近代化された装備と、兵士の高い士気、世界有数の陸軍力で北朝鮮に対抗する。また、レンジャー部隊や陸軍特殊部隊(ブラック・ベレー)、警察特殊部隊(KNP-SWAT)など、テロ・ゲリラ・コマンド対処部隊も充実している。(注1)

 韓国海軍は現役3万3000人、徴兵1万7000人、予備役9000人で、艦艇は約200隻、15万トンである。(注2)

 クアンゲトデワン級駆逐艦は満載排水量3855トン、ディーゼル・ガスタービン推進、兵装は127mm単装砲1門、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk32 324mm3連装短魚雷発射管2基、ゴール・キーパー30mm近接防御武器システム2基である。1998年から2000年までに3隻が就役した。これはKDXと名付けられた駆逐艦建造計画である。クアンゲトデワン級は、日本が同時期に導入した汎用護衛艦の「むらさめ」級よりも満載排水量がかなり小さいにもかかわらず、「むらさめ」級護衛艦よりも重装備である。そのため上部構造物が大きくなっていてバランスが悪い。(注2)

 チュンムゴン・イ・スンシン級駆逐艦はKDX-2計画の艦船である。満載排水量4800トン、ディーゼル・ガスタービン推進、兵装はMk41発射機32セル(RIM-66スタンダードMR艦対空ミサイル)、Mk141発射機(RGM-86ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk45 127mm単装砲1門、Mk32 324mm3連装短魚雷発射管2基、Mk49発射機2基(RIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御艦対空ミサイル42発)、ゴール・キーパー30mm近接防御武器システム1基である。搭載航空機はスーパー・リンクス哨戒ヘリコプター2機である。1番艦チュンムゴン・イ・スンシンが2002年5月に進水して、2003年に就役した。以後、6番艦まで建造されている。(注3)

 ウルサン級フリゲートは韓国初の国産水上戦闘艦で、満載排水量2180トン、ディーゼル・ガスタービン推進、Mk141発射機(RGM-84ハープーン艦対艦ミサイル8発)、Mk32 324mm3連装魚雷発射管2基、30mm連装機銃4基で、おもに水上戦闘を想定しているとみられる。ウルサン級フリゲートは1981年から1993年までに9隻が建造された。排水量に比較して、兵装が多いため上部構造物が大きくなっており、また上部構造物もアルミニウム合金でできておりダメージ・コントロールに問題がある。しかし、問題は残しつつも本格的水上戦闘艦を国産したことは韓国海軍にとって大きな意義があったと思われる。(注2)

 KDX-3、セジョン・デワン級駆逐艦は、合衆国海軍のアーレイ・バーク級イージス駆逐艦フライトⅡAをベースに韓国で生産したものである。近接防御武器システムはアーレイ・バーク級駆逐艦のMk15ファランクス20mmバルカン機関砲近接防御武器システムから、RIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御武器ミサイルシステムに変更されている。電子戦システムは韓国国産システムを搭載している。満載排水量10290トン、ガス・タービン推進、兵装はスタンダードSM2艦対空ミサイル用Mk41垂直発射システム80セル、天竜巡航ミサイル/赤鮫対潜ロケット用垂直発射システム48セル、海星艦対艦ミサイル8発、RIM-116回転飛翔体ミサイル近接防御武器ミサイルシステム2基である。

 チャンボコ級潜水艦はドイツHDW社の209型潜水艦を韓国でライセンス生産したものである。1番艦はドイツで建造され、2番艦と3番艦は韓国でノック・ダウン生産した。4番艦からは韓国で建造している。1993年から2001年までに9隻が就役した。ディーゼル・エレクトリック推進で、水中排水量は1285トン、水中速力22ノット、兵装は533mm魚雷発射管8門である。短期間に大量の潜水艦を装備したため、まだ潜水艦作戦は成熟してないとみられる。チャンボコ級潜水艦は533mm魚雷発射管からUGM-84ハープーン潜対艦ミサイルを発射可能にする改良工事と、近代化計画を進めている。(注3)

 ソン・ウォンイル級潜水艦はドイツのHDW社が開発した214型がベースとなっている。ディーゼル・エレクトリックと大気独立推進で、水中排水量1860トン、兵装は533mm魚雷発射管8門である。

1番艦ソン・ウォンイルは2006年に就役している。9番艦までの建造が認められている。

 このほかに韓国海軍は小型艦艇を多数装備している。小型なため単能艦が多い。1000トン・クラスのコルベットが28隻、満載排水量183トンの高速戦闘艦シー・ドルフィン級を83隻、などを保有しており、沿岸警備を主な任務としている。また、ロッキード・マーティンP-3C対潜哨戒機は8機のみ導入、対潜能力強化にまったくなっていない。

 韓国空軍の主力装備はアメリカの資金援助で導入されたロッキード・マーティンF-16C/Dファイティング・ファルコン戦闘機(KF-16)180機、アメリカの中古を無償譲渡してもらったマクドネル・ダグラスF-4D/EファントムⅡ戦闘機130機、アメリカの援助品であるノースロップF-5E/FタイガーⅡ戦闘機である。(注6)

F-4D/EファントムⅡ戦闘機の後継としてボーイングF-15Eストライク・イーグルの韓国仕様で、射程距離300kmのAGM-84H SLAM-ER空対地ミサイル2発を装備可能なボーイングF-15Kスラム・イーグル戦闘爆撃機を2002年4月19日に採用決定し、とりあえず40機導入した。その後も増備された。

F-5E/FタイガーⅡ戦闘機の後継としては、韓国がロッキード・マーティンに設計を依頼し、韓国KAIが生産するFA-50ゴールデン・イーグル戦闘攻撃機がある。練習機T-50から発展させたもので能力は限られるが、北朝鮮の空軍力にはじゅうぶん対応できるだろう。

地上防空警戒システムが脆弱な韓国は早期警戒機の導入を目指し、ボーイングE-737ピース・アイ(ボーイング737AEW&Cウェッジ・テイル)空中早期警戒機を導入した。

また、韓国の保有できる対地ミサイルは射程距離180kmまでだったアメリカとのガイドライン(米韓ミサイル指針)を無視し、なし崩しで距離射程300kmの小型巡航ミサイルを多数装備した。さらに韓国は射程距離800kmから1000kmの小型巡航ミサイル開発を進め、射程距離800kmの弾道ミサイルの開発している。日本にも照準があわされることが表明されている。

 

注1  国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

    『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注2  国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

    『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

海人社編集部「韓国海軍の現況と将来」

海人社『世界の艦船』2003年3月号P104

注3  『JANE‘S FIGHTING SHIPS』10-11

注4  海人社『世界の艦船』2003年3月号P105

注6  エア・ワールド『世界軍用機年鑑 1993-94』P254

 

 

 

 

第5節 東アジア各国の戦力 北朝鮮 2000年代 

 

 

 

 

北朝鮮の総兵力は110万人、そのうち陸軍が100万人、27個師団である。主な装備は旧ソ連の戦車がベースの「暴風号」戦車、「天馬号」戦車、旧ソ連のT-62戦車、T-54/55戦車が3500両、歩兵戦闘車4000両、自走砲4500門、野砲7000門、多連装ロケット発射システム2400両、重迫撃砲9000門で、機甲化、機械化、装甲化はある程度進んでいるとみられるが、稼働率に問題がある。陸軍の配備状況は非武装地帯DMZ周辺に全戦力の70%以上を配置している。

 北朝鮮は正規戦力では数的に圧倒しているものの、近代化された韓国軍、合衆国軍、自衛隊には対抗できないため、特殊部隊によるゲリラ作戦、撹乱、陽動作戦、心理戦をとる。人民武力省総参謀部のもとに特殊軍団(旧・第8軍団)、偵察局(8個特殊部隊)がおかれ、指揮は軽歩兵教導指導局、労働党35室(対外調査部)がとると思われる。特殊軍団は敵地における破壊工作を遂行する6個狙撃旅団、敵軍事施設、社会基盤の占拠をおこなう2個水陸両用狙撃旅団、敵航空基地、レーダーの破壊を目的とする2個空軍狙撃旅団、敵主要施設の占領を任務とする3個軽歩兵空挺旅団、敵地潜入情報収集をおこなう17個偵察大隊、要人拉致・暗殺、主要産業基盤破壊、テロ工作、長期敵地潜入・革命地下組織育成をおこなう偵察局8個特殊部隊が主要な部隊で、装備は60mm迫撃砲、RPG-7 対戦車ロケットてき弾砲、AT-3 対戦車ミサイル、SA-16携帯地対空ミサイル、AK-47 7,62mm×39自動小銃、AKS-74 5,45mm自動小銃、VZ61サブ・マシンガン、FNブローニング・ハイパワー 9mm×19自動拳銃、手榴弾、携帯用化学兵器、GPS受信機、無線装置、暗号通信装置などである。

2004年、防衛庁は北朝鮮特殊部隊2500人が日本で作戦行動する、と予算折衝において表明している。

労働党統一戦線部は資金調達、労働党対外連絡部は朝鮮総連など外国朝鮮人組織への指導、労働党作戦部は工作員派遣、要人拉致・暗殺を目的とし、対韓国に3000人、対日本に500人が配備されている。労働党35室(対外情報調査部)は情報収集とともに、拉致活動、テロリズム作戦、長期潜入工作活動をおこなう。隷下に偽造パスポートを利用して日本・韓国に潜入する直接浸透課、南北間の交流においての工作活動をおこなう南北会談課、海外出張・海外留学の日本人、韓国人への接触、浸透、工作をおこなう海外担当課、韓国、日本の国情の情報収集、調査、評価、研究を行う南朝鮮研究所、北朝鮮の工作活動を支援する団体を管理する外郭団体課がある。

労働党35室(旧・対外情報調査部)は日本、韓国以外の国で外交官の身分を利用して、北朝鮮大使館を拠点に日本人、韓国人の拉致、情報収集、工作を展開する。35室の上部機関として労働党作戦部があり、工作員の育成、工作員、ゲリラ・コマンド部隊の敵地への投入、金正日政治軍事大学での工作員育成教育、在日朝鮮人ゲリラ部隊の育成をおこなっている。

労働党対外連絡部は工作員を長期にわたり日本、韓国に潜入させ、工作活動、情報収集を実施している。また朝鮮総連への指導や、工作のためのダミー会社設立を担当していると思われる。

北朝鮮の海軍力は、近代戦に耐えうるものではないと思われるが、工作員、ゲリラ、コマンドの敵地浸透のための特殊装備、違法装備は数多く装備しているようである。サンオ級小型潜水艦21隻、半潜水艇50隻、小型ガス・タービン搭載高速巡航偽装漁船、偽装漁船や貨物船に搭載されている小型高速ボート、小型潜水艇、水中スクーターを装備し、レーダー、ソナーでの捜索が困難で、目視による発見も困難、港湾での審査も難しい。

空軍力はロシア製MiG-29戦闘機、MiG-23戦闘機、スホーイSu-25攻撃機などを保有している。主力はアントノフAn-2輸送機300機で、ゲリラ・コマンド部隊の輸送である。ほかに木製グライダー、気球などレーダーでの捜索が困難な航空機でゲリラ・コマンド部隊を輸送すると考えられる。

1980年代半ばまでに、ソ連の開発したスカッド弾道ミサイルを改良したスカッドBミサイル、スカッドCミサイルを配備、韓国と日本の本州西部、九州北部の脅威となってきた。1992年には射程距離1300kmのノドン1号弾道ミサイルの開発に成功し、1993年には日本海・能登半島沖にノドン1号弾道ミサイルの試射をおこない成功、日本に対する脅威は非常に強まった。ノドン1号弾道ミサイルはすでに200基は配備されている模様である。さらに1998年には日本国土を超えるかたちでテポドンを試射した。テポドン2弾道ミサイル、ムスダン弾道ミサイルなどより射程の長い弾道ミサイルもある。

また、化学兵器、生物兵器、核兵器の配備にも力がそそがれ、すでに保有、配備したものと考えられる。

 1983年、北朝鮮は西ドイツの商社を利用して、マクドネル・ダグラスMD500ヘリコプターを87機購入した。MD500は合衆国陸軍MH-6リトル・バード、韓国陸軍OH-6カイユースと同じ形で、北朝鮮はMD500を韓国陸軍OH-6の塗装と同じ塗装にして運用している。

 

 

 

 

注1  防衛庁『平成15年版防衛白書』P50

注2  合衆国太平洋軍作戦計画5055に関する各種情報、報道による

コウ・ヨンチョル「工作船に見る北の対日工作」        

    ジャパン・ミリタリー・レビュー『軍事研究』2002年12月号

    コウ・ヨンチョル『北朝鮮特殊部隊 白頭山3号作戦』講談社

    恵谷治『対日潜入工作』宝島社

    ジョゼフ・S・バーミューデッツ『北朝鮮特殊部隊』並木書房

    片山さつき「自衛隊にも構造改革が必要だ」『中央公論』中央公論社2005年1月号P69

    警察庁『焦点 第269号 警備警察50年 現行警察法50周年記念特別号』

 

 

 

 

 第6章 東アジア各国の戦力 ロシア軍   2000年代

 

 ロシア軍は極東地域に、シベリア軍管区、極東軍管区を置き、地上軍11万人を配備している。ハバロフスクに3個師団、ソビエツカヤガワニに4個師団、ペトロハヴロフスクに1個師団、サハリンに1個師団、日本の北方領土に1個旅団を配置しており、さらにウラジオストクに海軍歩兵師団を1個師団配置している。主な装備はT-14アルマータ戦車、T-95戦車、T-80戦車、T-72戦車、各種歩兵戦闘車、各種装甲兵員輸送車で、機械化、機甲化が進んでおり、旧ソ連時代と比較して戦力は減少しているものの、いまだ潜在的な能力は侮れないものとなっている。(注1)

 ロシア海軍は兵力17万5000人で、北洋艦隊、バルチック艦隊、黒海艦隊、太平洋艦隊の4個艦隊を有しており、太平洋艦隊は北洋艦隊とともに主力艦隊である。

 空母アドミラル・グズネツォフは満載排水量59439トン、蒸気タービン推進、兵装はSA-N-9短距離艦対空ミサイル32発、SS-N-19艦対艦ミサイル12基、CADS-N-1近接防御システム8基、30mm近接防御武器システム6基、RBU12000 10連装対潜ロケット発射機2基で、艦載航空機はスホーイSu-33戦闘機、ミコヤンMiG-29K/KUB戦闘機、スホーイSu-25UTG練習機など固定翼機22機、カモフKa-31早期警戒ヘリコプターなどヘリコプター17機である。

 キーロフ級原子力巡洋艦は満載排水量24690トン、原子力蒸気タービン推進、兵装はSA-N-20艦対空ミサイル96発、SA-N-9短距離艦対空ミサイル16発、SA-N-4短距離艦対空ミサイル連装発射機2基、SS-N-19艦対艦ミサイル20発、CADS-N-1近接防御システム6基、RBU1000 6連装対潜ロケット発射機2基、RBU12000 10連装対潜ロケット発射機1基、533mm5連装魚雷発射管2基である。艦載航空機はカモフKa-27ヘリコプター3機である。

 スラヴァ級艦隊防空ミサイル巡洋艦は1番艦が1982年に就役し、太平洋艦隊には、011「ワリヤーグ」が配備されている。スラヴァ級艦隊防空ミサイル巡洋艦は満載排水量11490トン、ガス・タービン推進、130mm連装砲2門、SA-N-6艦対空ミサイル64発、SA-N-4短距離艦対空ミサイル4発、SS-N-12艦対艦ミサイル16発、30mm近接防御武器システム6基、533mm5連装魚雷発射管2基、12連装対潜ロケット発射機2基、搭載航空機はカモフKa-50ヘリコプター(NATOコード:へリックス)で、対空戦能力とともに、対艦戦能力が非常に重視されている。(注2)

 ソブレメンヌイ級艦隊防空ミサイル駆逐艦は1番艦が1980年に就役し、18隻が就役したが、12隻が退役した。満載排水量8067トン、蒸気タービン推進、兵装は130mm連装砲2門、SA-7艦対空ミサイル単装発射機2基またはSA-N-12艦対艦ミサイル単装発射機2基、SS-N-22艦対艦ミサイル8発、30mm近接防御武器システム4基、533mm5連装魚雷発射管2基、搭載航空機はカモフKa-27ヘリコプター1機である。SS-N-22艦対艦ミサイル(NATOコード:サンバーン)は、マッハ2のスピードで巡航し、迎撃されにくいよう超低空をS字状に飛行するもので、西側諸国の最新鋭迎撃システムでも迎撃困難である。ソブレメンヌイ級艦隊防空ミサイル駆逐艦の攻撃能力は高いが、基本設計は1970年代のもので、電子戦装置など電子装備は古い。(注3)

 ウダロイ級駆逐艦は、1980年に1番艦が就役し、13隻が就役したが、現役は8隻であり、そのうち半数が太平洋艦隊の所属である。満載排水量は8500トン、ガス・タービン推進、兵装は100mm単装砲2門、SS-N-12艦対潜ロケット16発、SA-N-9短距離艦対空ミサイル64発、30mm近接防御武器システム4基、12連装対潜ロケット発射機2基、533mm4連装魚雷発射管2基、搭載航空機はKa-27ヘリコプター2機である。対潜戦に重きを置いた艦で、個艦防空に非常に力が注がれている。

 カシン級駆逐艦は満載排水量4826トン、ガス・タービン推進、兵装はSA-N-1艦対空ミサイル連装発射機2基、SS-N-25艦対艦ミサイル4連装発射機2基、76mm連装砲1基、RBU6000 12連装対潜ロケット発射機2基、533mm5連装魚雷発射管1基で、搭載航空機は無い。20隻が建造された。

 クリヴァック級フリゲートは1970年に1番艦が就役し、41隻が建造された。満載排水量は3560トン、ガス・タービン推進、兵装は100mm単装砲1門、SA-N-4短距離艦対空ミサイル連装発射機1基、12連装対潜ロケット発射機2基、533mm4連装魚雷発射管2基、30mm近接防御武器システム2基である。小型艦ながら対潜装備と個艦防空は充実している。

 ステレグシュチイ級フリゲートは2007年に就役がはじまった新世代フリゲートで、満載排水量2235トン、ディーゼル推進、兵装は9M96艦対空ミサイル16セル、SS-N-25艦対艦ミサイル8発、100mm単装砲1基、CADS-N-1近接防御システム1基、30mm近接防御システム2基で、搭載航空機はカモフKa-27ヘリコプター1機である。8隻が配備中である。

 ネウストラシムイ級フリゲートは、満載排水量4318トン、ガス・タービン推進、兵装はSA-N-9短距離艦対空ミサイル32発、SS-N-25艦対艦ミサイル8発、100mm単装砲1基、CADS-N-1近接防御システム2基、RBU12000 10連装対潜ロケット発射機1基、533mm5連装魚雷発射管4基、搭載航空機はカモフKa-27ヘリコプター1機である。2隻が現役である。

 グリシャ級フリゲートは満載排水量1219トン、ディーゼル推進、兵装はSA-N-9短距離艦対空ミサイル発射機1基、57mm連装砲1基または76mm単装砲1基、30mm近接防御武器システム1基、533mm4連装魚雷発射管2基、RBU6000 12連装対潜ロケット発射機2基である。94隻が建造された。

 ゲパルド級フリゲートは満載排水量1961トン、ディーゼル・ガスタービン推進、兵装はSA-N-4短距離艦対空ミサイル連装発射機1基、SS-N-25艦対艦ミサイル8発、SS-N-30巡航ミサイル8発、76mm単装砲1基、CADS-N-1近接防御システムまたは30mm近接防御武器システム2基である。搭載航空機は無い。

  オスカーⅡ級巡航ミサイル搭載原子力潜水艦は、1980年に1番艦が就役し、1997年までに11隻が就役したが、現役は6隻で、太平洋艦隊には4隻が配備されている。搭載巡航ミサイルは、西側諸国の艦隊攻撃を想定した対艦巡航ミサイルである。水中排水量は18300トン、原子力蒸気タービン推進、水中速力28ノット、兵装はSS-N-19潜対艦ミサイル24発、650mm魚雷発射管2門、533mm魚雷発射管4門である。

 アクラ級攻撃型原子力潜水艦は、1988年に1番艦が就役し、18隻が就役した。水中排水量9100トン、原子力蒸気タービン推進、水中速力28ノット、兵装は533mm魚雷発射管2門、650mm魚雷発射管4門である。特徴的なことは音響のステルス性を追求したことで、静粛性にも優れている。

 ヴィクター級攻撃型原子力潜水艦は、1960年代に1番艦が就役し、26隻建造されたが、現役はヴィクターⅢ級攻撃型原子力潜水艦4隻のみである。ヴィクターⅢ級攻撃型原子力潜水艦の1番艦は1988年に就役し、水中排水量は6401トン、原子力蒸気タービン推進、水中速力30ノット、650mm魚雷発射管2基、533mm魚雷発射管4基、である。

 シエラⅠ級攻撃型原子力潜水艦は、1984年に1番艦が就役し、2隻が建造され、1隻が現役で、1隻が改修作業中である。水中排水量8230トン、原子力蒸気タービン推進、水中速力34ノット、兵装は650mm魚雷発射管4基、533mm魚雷発射管4基である。特徴はチタニウム製であることである。

 シエラⅡ級攻撃型原子力潜水艦は、1990年に1番艦が就役し、1隻が現役、1隻が修理中である。水中排水量9246トン、原子力蒸気タービン推進、水中速力32ノット、兵装は650mm魚雷発射管4基、533mm魚雷発射管4基、である。特徴はチタニウム製であることである。

 キロ級攻撃型ディーゼル・エレクトリック推進潜水艦は、非常に静粛性に優れ、発見が困難である。1982年に1番艦が就役し、26隻建造されたが、15隻が退役し、4隻が建造中、太平洋艦隊には4隻が配備されている。水中排水量は3076トン、ディーゼル・エレクトリック推進、水中速力17ノット、533mm魚雷発射管6門を装備する。

 ラダ級攻撃型ディーゼル・エレクトリック推進潜水艦は、1番艦「サンクトペテルブルグ」が就役し、2隻が建造中である。水中排水量は2693トン、水中速力21ノット、533mm魚雷発射管6基を装備する。

 ロシアの航空戦力は、空軍、防空軍、海軍であったが、防空軍は空軍に吸収された。最盛期の1980年代中盤と比較して、半数以下の大幅な減少である。主力はスホーイSu-27戦闘機、スホーイSu-30戦闘爆撃機、ミコヤンMiG-31戦闘機(初飛行1979年、自重21825kg、運用重量41000kg、推力151,9kN×2)、ミコヤンMiG-29戦闘機(初飛行1977年、自重8175kg、推力81,4kN×2)など、第4世代機が大部分を占める。ミコヤンMiG-29戦闘機 220機ミコヤンMiG-31戦闘機 240機スホーイSu-27戦闘機 159機スホーイSu-30戦闘爆撃機 不明スホーイSu-35戦闘爆撃機 不明スホーイSu-34戦闘爆撃機 少数スホーイSu-24戦闘爆撃機 413機スホーイSu-25攻撃機 202機、ISR(情報収集)機(戦闘機型・爆撃機型・輸送機型) 192機輸送機 523機ツポレフTu-22M-3バック・ファイアー爆撃機 66機、ツポレフTu-95ベア爆撃機 71機ツポレフTu-160ブラックジャック爆撃機 17機である。

 ロシアの核戦略は大陸間弾道ミサイルが中心である。特にロシアの大陸間弾道ミサイルは移動式で、早期発見は困難である。大陸間弾道ミサイルはSS-18(射程距離16000km、各個誘導多核弾頭500KT×10)が54基、SS-19(射程距離9000、各個誘導多核弾頭750×6)、が40基、SS-24(射程距離10000km、各個誘導多核弾頭550KT×10)が46基、SS-25(射程距離10500km、弾頭550KT)が160基、SS-27(射程距離10500km、弾頭550kt)が28基である。RS-24が24基である。

潜水艦発射弾道ミサイルは667BDRデルタⅢ級弾道ミサイル搭載潜水艦4隻、667BDRMデルタⅣ級弾道ミサイル搭載潜水艦7隻、941タイフーン級弾道ミサイル搭載潜水艦1隻、955/955Aボレイ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦3隻、885/885Mヤーセン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦1隻に、SS-N-8(射程距離9100km、弾頭1MT)、SS-N-18(射程距離8000km、各個誘導多核弾頭100KT×7)が48基、SS-N-20(射程距離8300km、各個誘導多核弾頭100KT×4)、SS-N-23(射程距離8300km、各個誘導多核弾頭100KT×4)が96基である。核弾頭搭載巡航ミサイルSS-N-21(射程距離3000km、弾頭200KT)もある。

  戦略爆撃機はツポレフTu-160爆撃機が11機、ツポレフTu-95MSが55機で、核爆弾は約200基である。後継爆撃機にPAK-DA未来型長距離航空機を開発中である。

 

注1 国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』95-96

注2 『JANE‘S FIGHTING SHIPS』92-93

注1 海人社『世界の艦船』2003年3月号「ロシア太平洋艦隊」P36

注2 同上P36

注3 同上P37

注4 同上P37

注5 同上P34

注6 同上P35

注7 同上P35

注8 『平成15年版防衛白書』P69

注9 エア・ワールド」『世界軍用機年鑑1993-94』P49

注10 同上P47

注11 『平成15年版防衛白書』P319、『平成26年版防衛白書』資料1

注12 同上P320

注13 同上P319


 

 

 第7章 日本の危機 

 

第1節 日本の危機 北朝鮮

 

 北朝鮮は、1990年の福井県での工作潜入ボート発見事件、1999年の工作船事件などで明らかになったように、日本に常時、工作員、ゲリラ・コマンド部隊を潜入させ、自動小銃、機関銃、重機関銃、対戦車ロケット弾、小型迫撃砲、携帯地対空ミサイル、手榴弾、高性能爆薬、化学兵器などを武器に、朝鮮半島有事の際の在日アメリカ軍基地、自衛隊基地・駐屯地、重要防護施設、要人・社会基盤(空港、港湾施設、道路、鉄道、水道施設、発電所、ガス施設、変電所、高圧線、ダムなど)、人口密集地に対する攻撃、心理戦を準備している。さらに朝鮮総連の非公然分子にたいしての教育、指導によって育成されたゲリラ・テロ戦の用意、日本国内に存在する反政府過激派との連動作戦、便乗攻撃が予想される。そして、日本の政界、官界、学界、マス・メディア、財界への浸透工作や、非合法の資金調達手段としての偽造通貨流通、麻薬・覚醒剤売買、軍事関連機器購入を続けている。

 1992年には射程距離1000kmのノドン1号弾道ミサイルを完成させ、日本の大半を射程に収めた。1993年3月には能登半島沖にノドン1号を試射し、日本に脅威を与える弾道ミサイルの完成に成功した。ノドン1号は核弾頭、化学兵器弾頭、生物兵器弾頭が搭載可能で、落下速度は非常に速く、迎撃は困難である。また移動可能で早期発見は困難である。ノドン1号は200基を超える数が実戦配備された模様である。

 1999年8月31日には、日本全土を射程におさめるテポドン1号が日本国土を通過するかたちで試射され、日本だけでなく同盟国アメリカにも脅威となった。さらに北朝鮮はテポドン2号、ムスダンを開発中で、脅威の広範囲化をはかっている。

 北朝鮮は早い時期から化学兵器、生物兵器を保有していたが、1994年の国際原子力機関(IAEA)の原子力施設への特別査察を拒否、妨害し、核兵器開発への疑念は深まった。カーター元大統領の訪朝と、クリントン大統領の米朝合意によって北朝鮮は本来、核開発を中断すべきであったが、カーターとクリントンの北朝鮮への甘い態度は、北朝鮮の核開発継続を許し、北朝鮮は黒鉛減速炉の燃料棒からプルトニウムを抽出し、核爆弾の製造をおこなったと思われる。


 

 

 

 

 第2節 日本の危機 中国

 

 中国は1989年以来、国防費を対前年度比10%以上増加させ続けている。さらに、この国防費の中には装備導入費、研究開発費などは含まれていない。ロシアからの輸入兵器であるスホーイSu-27戦闘機、スホーイSu-30MKK戦闘爆撃機、ソブレメンヌイ級駆逐艦、キロ級ディーゼル・エレクトリック推進潜水艦の購入費は国務院予算に計上され、核兵器の予算は科学技術予算や電力開発予算に計上されている。このことから中国の実際の国防費は公表されているものの3倍から8倍であると推測される。(SIPRI、ISIS、合衆国中央情報庁、合衆国国防省、合衆国軍備管理軍縮庁など調査報告)

 1989年の天安門事件によって西側陣営からの軍事技術移転・導入が困難になった中国は、東西冷戦が崩壊し、経済的に困窮するロシアに接近した。中国は1992年にスホーイSu-27戦闘機の中国への輸出をとりまとめ、翌1993年に第一陣として26機のスホーイSu-27戦闘機を受領し、現在に至るまで輸入を続けている。さらに中国はスホーイSu-27戦闘機の中国国内でのライセンス生産をおこなうようになり、保有数は150機を突破するにいたっている。これによって中国人民解放軍航空軍・海軍航空隊の大幅な近代化と戦力増強を実現しつつある。また、中国はスホーイSu-30MKK戦闘爆撃機、スホーイSu-30MK2戦闘爆撃機の導入を開始し、近隣諸国の脅威となっている。

 海軍においても中国国産の駆逐艦、フリゲート、潜水艦の着実な配備をはじめ、ロシアからソブレメンヌイ級駆逐艦、キロ級潜水艦を輸入し、今後も大幅に増強される。また、これら戦力を有効に活用するために早期警戒管制システムの導入につとめている。

 ソブレメンヌイ級駆逐艦に装備されているマッハ2の速度で、超低空スキミング飛行するSS-N-22艦対空ミサイルは、高高度脅威を目的に開発されたイージス・システムを艦隊防空の主軸に据える日本の脅威となった。

 中国と日本の直接的懸案事項は尖閣諸島の防衛問題である。尖閣諸島は明治政府による先占の実効性により我が国固有の領土である。中国は、日本の第二次世界大戦敗戦後には尖閣諸島の領有権を主張しておらず、1968年の国連アジア極東経済委員会(ECAFE)による尖閣諸島、東アジアにおける石油埋蔵の可能性が報告された直後の1970年から領有権を主張し始めた。

 中国は1992年に領海法を制定し、その領海法では尖閣諸島の、南沙諸島、西沙諸島、中沙諸島を中国の領土であると主張している。これらの島々は日本、ベトナム、フィリピンなどに不当に占拠されているとして、武力による奪還も明記されている。1978年には中国政府の扇動により尖閣諸島に中国船籍の漁船大集団を派遣、1995年から1996年には海洋調査、そしてその後も継続的に海洋調査船や海軍艦船を尖閣諸島付近、南西諸島付近の日本領海および日本領海ぎりぎりのところまで接近させ、調査活動、威力偵察をおこなっている。

1996年9月には尖閣諸島近辺56kmの海域で中国人民解放軍海軍東海艦隊、南京軍区人民解放軍空軍が参加し、尖閣諸島奪取訓練を実施している。駆逐艦2隻、フリゲート2隻、スホーイSu-27戦闘機が参加する本格的なものだった。(注2)

 尖閣諸島周辺では人民解放軍の海洋調査船「東調232」、「大地」、「海氷723」、人民解放軍の影響下にある国家海洋局、国務院国土資源部の海洋調査船「化学1号」、「海洋4号」、「奮闘4号」、「奮闘7号」、「中国海監18」、「大洋1号」、「東方紅2」、「濱海511」がソナー調査、ソノブイ投下など潜水艦戦に必要な潮流調査、海底地質調査、海流温度調査などの軍事調査を行っている。(注2)

 1995年4月と5月には沖縄トラフで中国国務院地質鉱山局「向陽紅9号」が海洋調査し、同年12月には久米島と大正島にある日本の排他的経済水域で「勘探3号」が日本の海上保安庁の制止を無視し海洋調査を続けた。1997年には「奮闘7号」が大正島、尖閣諸島の領海を侵犯しながら海洋調査をおこなった。1998年には宮古海峡で「海洋13号」がソナーを使用した調査をおこなっている。(注2)

 1995年から1996年にかけては尖閣諸島周辺で中国情報収集艦船が日本領海を侵犯し、2000年5月にはヤンビン級情報収集兼砕氷艦「海氷723」が対馬海峡において複数回の往復航行、ジグザグ航行を実施、さらに津軽海峡においても複数回の往復航行、ジグザグ航行、アンテナの回転、ソナーブイの海洋投下を実施、その後、房総半島、紀伊半島沖の日本領海すれすれの場所においてアンテナを回転させるなどの行動をとった。また、7月には、同じく「海氷723」が愛知県沖日本領海すれすれのところで情報収集活動をおこなった後、大隈海峡において情報収集活動をおこないながら通過していった。(注3)

 日本政府が2012年9月11日に尖閣諸島を国有化してからは、9月14日に中国国家海洋局の監視船6隻が領海侵犯し、18日、19日には漁業監視船、海洋監視船16隻が領海侵犯した。2013年9月10日までに63日、216隻が領海侵犯し、接続水域には1051隻が侵入した。

また、中国は日本の排他的経済水域での海洋調査活動や、南西諸島、琉球諸島周辺での海洋調査活動など、日本の経済的な権益に対しての侵害、日本の国防に対しての脅威となるような調査活動を続けている。

経済発展し、シー・レーンの確保が必要となった中国にとって日本列島は天然の要塞で、日本を籠絡させることが国家安全保障、経済安全保障にとって重要になっている。

 中国政府は大陸棚を、大陸の延長部であるとする「自然延長論」を根拠に、東シナ海を中国の海と認識している。日本などがとる「中間線論」と折り合う気はないようである。

 一方で南シナ海では「中間線論」をとり、東南アジア諸国の大陸棚を侵食している。

 エネルギー輸入国、通商国家となった中国は、シー・レーン防衛の必要が出てきたことから、外洋海軍(ブルー・ウォーター・ネイヴィー)建設がはじまり、日本列島も中国の外洋海軍の活動域・防衛ラインに入る。まず第2列島線まで封鎖(接近阻止・領域拒否戦略)、最終的には、最小限でもハワイ以西の西太平洋を防衛ラインにしたい模様である。

 2004年11月10日には漢級攻撃型原子力潜水艦が日本の領海を侵犯し、2004年4月23日には沖ノ鳥島を「岩」と主張、日本の排他的経済水域を認めないと表明、2008年11月8日と2010年3月、2010年4月には中国艦隊が沖縄と宮古島の間を抜け太平洋に進出、2009年6月19日からは沖ノ鳥島から260km付近で軍事演習するなど、中国は太平洋の覇権を表明し始めた。

 

注1 防衛庁防衛研究所『東アジア戦略概観2003』P149

注2 平松茂雄氏の調査・分析・研究による

注3 『平成15年版防衛白書』P65、毎日新聞朝刊2000年8月20日

 

 

 

 

第3節 日本の危機 南シナ海

 

南シナ海での近年の戦争、紛争は、中国とベトナムの西沙諸島(パラセル諸島)での戦争(1974年1月)、中越戦争(1979年2月)、南沙諸島(スプラトリー諸島)での中国とベトナムの戦争(1988年3月)、ナトゥナ諸島での中国とマレーシアの係争、南沙諸島・ミスチーフ礁での中国とフィリピンの戦争(1995年2月)などがあり、中国と東南アジア諸国との対立は深刻である。さらに南シナ海では強力な武装の残忍な海賊集団の存在、地形的な面からテロリストによる襲撃が容易など、危険地帯であり、日本のシー・レーンは脆弱である。

南シナ海には石油や天然ガスなどが埋蔵されていることが確実視されており、さらに海上交通の要衝であるため、この地域の実効支配は非常に重要である。そのなかで、中国のこの地域での実効支配強化のための軍事力の強化には目に余るものがある。

中国が実効支配しているミスチーフ礁(美済礁)、ジョンソン・サウス礁(赤爪礁)、ヒューズ礁(東門礁)、スビ礁(渚碧礁)、クアルテロン礁(華陽礁)、ファイアリー・クロス礁(永暑礁)、ガベン礁(南薫礁)における岩礁、暗礁(低潮高地)を違法に埋立て、滑走路と航空基地、港湾、潜水艦基地を建設し、戦闘機など軍用機と地対空ミサイルを配備し、周辺諸国を威圧している。

 南シナ海においても中国は「領海法」を適用しており、この海域に点在する島々の武力奪取、実効支配を進めており、現在も中国とベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシアとは一触即発の緊迫した状況が続いている。

 2001年4月1日には合衆国海軍のEP-3E電子偵察機が中国人民解放軍空軍の殲撃8Ⅱ戦闘機の挑発によって接触し、2009年3月には合衆国海軍の音響測定艦インペッカブルを公海上で進路妨害し、同年4月にも公海上の合衆国海軍の音響測定艦ヴィクトリアスに対して中国漁船が妨害危険行為を行った。

 ベトナムはミコヤンMIG-29戦闘機、フィリピンは昼間限定のノースロップF-5Aフリーダム・ファイターを極少数、マレーシアはボーイングF/A―18ホーネット戦闘攻撃機とスホーイSu―27戦闘機、インドネシアはロッキード・マーティンF-16ファイティング・ファルコン戦闘機をそれぞれ少数保有しているが、海軍力は沿岸警備程度で総じて弱体であり、中国との紛争が生じやすい状況となっている。

 

 

 

 

 

第4節 日本の危機 インド洋

 

 インド洋においては、中国とインドの覇権争いが熾烈になってきている。中国はミャンマーの軍事独裁政権と協力、ミャンマー、スリランカ、パキスタンのインド洋沿岸に海軍基地を建設、中国人民解放軍海軍の艦船が寄港、覇権への布石を打っている。インドもブリティッシュ・エアロスペース(BAEシステムズ)のシー・ハリアー垂直離着陸戦闘機を艦載機とした軽空母を有する艦隊を保有しており、将来の正規空母保有に動いている。中印の対立は避けられそうに無い。

 日本政府は、1998年にインドとパキスタンが実施した核実験に対し、政府開発援助を全面的に停止してしまった。重要な戦略的パートナーに対するこの非行は日本、インド双方にとって重大な損害である。しかも、1995年に敵国の中国がおこなった核実験に対して日本は、無償資金援助を停止したのみであった。敵国には援助するのに戦略的パートナーには援助を停止するという、日本政府の奇行は日本国民に大きな損害を与えた。

 

 


 

 

第5節 日本の危機 台湾

 

 国共内戦に破れ、台湾に逃れてきた国民党、蒋介石、蒋経国政権は国内では独裁政治体制を敷き、中華民国の大陸復権を目指していた。中国(中華人民共和国)は、1954年から金門島、馬祖島への砲撃を始め、全力を挙げて台湾侵攻の機会をうかがってきた。1996年、独裁政治に終わりをつげるべく実行されようとしていた総統の民主選挙に対し、中国は3発のミサイルと、台湾上陸を前提とした大規模な軍事演習を実施、自由と民主主義に対する脅迫・恫喝をおこなった。しかし、台湾は恫喝に屈することなく、総統選挙を実施し、その結果、李登輝氏が総統に選ばれ、台湾は新たなる一歩を確実に進めることになった。

 しかし、中国は台湾の対岸に大量の地対地ミサイルを配備、スホーイSu―27戦闘機、スホーイSu―30MKK戦闘爆撃機を300機以上、ミコヤンMIG-21ベースの旧型戦闘機、旧型攻撃機を3000機近く配備し、人民解放軍海軍艦船とともに台湾封鎖や台湾侵攻を実行する態勢を敷いている。 

台湾は、ロッキード・マーティンF-16Aブロック20ファイティング・ファルコン戦闘機150機、ダッソー ミラージュ2000-5戦闘機60機、IDF経国戦闘機150機、ノースロップF-5E/Fタイガー戦闘機215機と、レーダー、情報通信網、PATRIOT地対空ミサイル防空システムなどによる高度の防空システムで空からの脅威に対抗し、オリヴァー・ハザード・ペリー級フリゲート、フランスのラファイエット級フリゲートの台湾版・成功(チェンクン)級フリゲートを保有し、中国による海上封鎖に対抗しているが苦境に立たされている。

劣勢挽回のためのわずかな望みであったF-16C/Dファイティング・ファルコン戦闘機ブロック50の66機の購入はアメリカのオバマ政権に拒否されてしまった。

 

 

 

第6節 日本の危機 韓国

 

韓国は、日本固有の領土である竹島を不法に占拠し続けている。韓国は国際司法裁判所での解決を拒み続けている。

 

沿岸海軍(ブラウン・ウォーター・ネイヴィー)だった韓国海軍は、外洋海軍(ブルー・ウォーター・ネイヴィー)に変貌を遂げつつある。

 

駆逐艦増備計画であるKDX-1、KDX-2、KDX-3により海軍力の大幅な増強がなされた。

 

日本のシー・レーンに対する脅威になりつつある。また、潜水艦勢力の増強も計画されている。

 

 空軍力も増強されている。

 

マクドネル・ダグラスF-4D/EファントムⅡ戦闘機に代わり、ボーイングF-15Eストライク・イーグル戦闘爆撃機の韓国版であるボーイングF-15Kスラム・イーグル戦闘爆撃機が配備され、さらに増強される。

 

F-15Kスラム・イーグル戦闘爆撃機は長距離射程の空中発射巡航ミサイルAGM-84E SLAM-ER空対地ミサイルを搭載し、対地攻撃能力が優れている。F-15Kスラム・イーグル戦闘爆撃機とAGM-84E空対地ミサイル導入の前提は竹島問題であると公表されている。

 

地上発射/水上発射の韓国国産巡航ミサイルや弾道ミサイルも開発・配備され、北朝鮮とともに日本にも照準が合わされ、日本の脅威となりつつある。

 

 

 

 

 

 

第7節 日本の危機 アメリカ

 

 アメリカは政府要人、高官の登用にポリティカル・アポイントメント制をとっており、政権によって外交・防衛政策が違ってくる。

 

1981年から1992年まで続いた共和党政権での対日本政策担当の中心はジェームズ・アワー国防省日本部長であった。ドイツ系カトリック教徒のアワー氏(現バンダービルド大学教授)は、マーケット大学在学中、予備士官訓練制度(ROTC)によって軍事訓練を受け、1963年に海軍少尉で任官、ベトナムで掃海艇に配備された後、タフツ大学大学院フレッチャー・スクールに進学、1970年に日本に留学した。日本留学で「よみがえる日本海軍」を執筆、日本の海上自衛隊を的確に評価した。1979年に国防省日本部長に着任、日本の重要性を説き、冷戦激化の中の日米同盟強化に尽力した。アワー氏は日本の防衛力の着実な整備と、日米同盟の強化、日本の集団自衛権行使をすすめている。(注1)

同じく、1980年代の共和党政権で、国防省東アジア担当国防次官補をつとめ、日米関係に大きな影響力を持つリチャード・アーミテージ氏(2001年から2004年までジョージ・W・ブッシュ政権で国務副長官)である。アーミテージ氏は、1967年に海軍士官学校を卒業、海軍少尉としてベトナム戦争に従軍後退役する。直後に、海軍、中央情報庁(CIA)、アメリカ軍駐在武官本部スタッフ、民間人の身分で特殊作戦任務に従事した。その後、国防情報庁(DIA)、ボブ・ドール上院議員事務所スタッフ、レーガン大統領選挙キャンペーン・スタッフを経て、1981年国防省東アジア担当国防次官補に着任する。

 レーガン政権の東アジアの安全保障政策は、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官の主張する中国重視と、リチャード・アーミテージ国務次官補、ジェームズ・アワー国防省日本部長らの主張する日本重視の考えが対立した。キャスパー・ワインバーガー国防長官、ジョージ・シュルツ国務長官、ジョージ・ブッシュ副大統領らは、アーミテージ国防次官補、アワー国防省日本部長の日本重視の主張を採用した(注2)。

アーミテージ国防次官補は、日米同盟の強化、自衛隊の着実な整備と強化を求めたが、日本のFSX(次期支援戦闘機)計画において、日本の単独開発には反対した。その理由として、日本単独ではその技術の低さから満足な性能を得る支援戦闘機は開発できない、悪化する日米貿易摩擦を緩和するために航空機分野はアメリカが主導するのが得策である、というものだった。その結果、FSXはゼネラル・ダイナミクスF-16ファイティング・ファルコン戦闘機をベースに、日本とアメリカが共同開発することになった。(注2)

 アーミテージ氏は日本の防衛力強化・整備、日米同盟の強化、日本の集団自衛権行使をもとめているが、アワー氏と同様に、日本の核兵器保有には否定的で、そのまえに通常戦力の大幅な増強を求めている。(注3)

 アメリカ右派の自由主義思想であるリバータリアニズムと、リバータリアニズムを代表するシンクタンクのケイトー研究所の外交・防衛政策の責任者で、ケイトー研究所の副所長でもあるテッド・カーペンター氏は、日本は地上発射大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、長距離飛行可能な戦略爆撃機を保有し、核のトライアドを構築し、日本は独自で核の抑止力を持つべきだとしている。通常兵力では、空母を保有し、航空戦力を大幅に強化し、日本独自でシー・レーン防衛すべきであるとしている。さらにアメリカ合衆国軍は日本から撤退し、そのうえで日本とアメリカは友好関係を築くべきとしている。(注4)

同様の立場に、ダグ・バンドウ氏がいる。ダグ・バンドウ氏もリバータリアンで、合衆国のアジア太平洋への介入、地域紛争への介入に否定的見解を表明している。 

ニクソン大統領のスピーチライターをつとめ、1992年の共和党大統領予備選挙のニュー・ハンプシャー州予備選挙でトップとなり、その後は政治評論家、ポリティカル・ディスク・ジョッキーなどを正業としているアイルランド系カトリック教徒のパット・ブキャナン氏は、自らを「ネオ・アイソレーショニスト」と名乗るアイソレーショニスト(鎖国主義者)である。「アメリカ・ファースト」、「バイ・アメリカン」を訴え、アメリカ企業製品の購入、アメリカ国内での生産、輸入製品への高関税付加をもとめる経済・通商の保護主義者である。外交・防衛政策では海外駐留のアメリカ合衆国軍の全面撤退と、大幅な軍縮政策を主張している。

 1993年からクリントン政権で東アジア担当国務次官補を務めていたジョセフ・ナイ氏(ハーバード大学ケネディ行政学大学院長)は、1970年代後半のカーター政権では、ズビグニュー・ブレジンスキー大統領特別補佐官とともに日本封じ込め・弱体化に賛同していたが、クリントン政権では日本国憲法の枠内での極東における日米防衛協力推進を主張し、2000年のアーミテージ・レポートでは日本国憲法改正と集団自衛権強化、日本の防衛力強化を主張するに至っている。

 1977年から1980年までカーター大統領の特別補佐官をつとめたポーランド出身のユダヤ教徒であるコロンビア大学教授のズビグニュー・ブレジンスキー氏は、アメリカの外交・防衛政策および世界の政治に大きな影響力を持つ。ブレジンスキー氏は、世界有数の外交論文集である「フォーリン・アフェアーズ」誌の1997年9/10月号に、「ユーラシアの地政学」という論文を発表している。そこでは、「とりわけ重要なのが、NATO,米国とさらには中国とのパートナーシップの形成であり、これを軸にロシア、中央アジア、日本との安定的共存を図っていかなければならない。」(注5)、「核戦力を別とすれば、中国が自らの地域を越えてその軍事的影響力を行使する能力をもつことは当面ありえない。」(注81)、「日本は極東における米国の不沈空母であってはならない。日本はアジアでの米国の主要パートナーであってはならない。」(注6)、「(日本を)地域大国になろうとする試みを回避させる方向へ向かわせる。」(注7)、「日本がグローバルな影響力を手にすることができるのは、地域大国になりたいという望みをおさえた場合だけである。」(注8)と主張、日本の大国化に反対し、日米同盟も否定するなど反日、嫌日の姿勢を強調し、中国をNATOと同列のパートナーとする構想を主張している。

 ブレジンスキー氏はアル・ゴア民主党大統領候補、ジョン・ケリー民主党大統領候補、バラク・オバマ大統領の外交顧問、外交ブレーンとして中国との関係強化を主張した。

 1969年から1976年まで、ニクソン・フォード政権において大統領補佐官や国務長官をつとめ、ハーバード大学の教授でもあり、アメリカ政界、学界、財界のみならず、全世界に影響を行使しえるドイツ出身のユダヤ教徒であるヘンリー・キッシンジャー氏。コンドリーザ・ライス前国務長官が親北朝鮮、親中国外交を推進したのもキッシンジャー氏の全面的なアドバイスに盲従したためである。

キッシンジャー氏は1997年8月25日の読売新聞「地球を読む」において、「米中関係 共存の道探る好機」と題し、そこで「少なくとも今後十年間、日本の軍備はますます恐るべきものとなろう。」(注9)と国際政治学者にしては的外れな見解を表明した後、「さらに、北京の立案者たちは、インドや韓国、ロシア、ベトナム、さらに台湾の軍事能力を無視することはできない。」(注10)、「中国にとって米国と日本の関係は、依然として懸念のもとである。」(注11)と、中国の立場のみを強調している。

1999年10月25日の読売新聞「地球を読む」において、「薄れた国家独裁色」と題し、「インドから日本、ロシアに至るまで、軍事的に相当な隣人と向き合っている」(注12)と中国の軍事力を擁護している。

1999年5月10日の読売新聞「地球を読む」においては、「軍事的挑戦をおこなったのは台湾を巡る国家統一の懸念や、南沙諸島などの伝統的な領土主張の擁護のためだった。中国の戦略能力は20基そこそこの戦略核を擁するに過ぎない。」(注13)と主張、中国の軍事的恫喝を支持している。

また、天安門事件ではABCテレビ「ABCワールド・ニュース・トゥナイト・ウィズ・ピーター・ジェニングス」において、マスター・オブ・セレモニーのピーター・ジェニングスのインタビューに対し、「私ならどのような制裁もしない。」と語っている。

1995年7月にはワシントン・ポストで「アメリカも中国もそれぞれ理由は異なるが、一つの覇権国家によってアジアが支配されることに反対している」と意味深な文言を残し、「中国はアメリカに強力な近隣諸国との関係を均衡させる手助けをして欲しいのだ。」、「少なくとも中国が自らそれができるほど力をつけるまでは」と、中国の将来のアジア覇権を認めている。(注14)

 国家安全保障会議のアジア上級部長などを歴任した戦略国際問題研究所のマイケル・グリーン氏は、日本の偵察衛星保有にすら反対していた。

1993年から2000年まで続いたクリントン政権では、ウォルター・モンデール駐日大使(1977年から1980年まで副大統領)は、尖閣諸島紛争にアメリカは関与しないと発言、サンディ・バーガー国家安全保障担当大統領補佐官、バウチャー国務省報道官もこのことを追認した。日本での怒りの声を考慮したカート・キャンベル国防次官補代理は、日本の施政権下にある尖閣諸島は日米安全保障条約によって守られると、政府高官の前言を撤回した。しかし、クリントン民主党政権は中国を「戦略的パートナーシップ」と位置づけ、中国を重視していた。

その後、ジョージ・W・ブッシュ政権は、ディック・チェイニー副大統領、コリン・パウエル国務長官、ドナルド・ラムズフェルド国防長官、リチャード・アーミテージ国務副長官、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官、トーケル・パターソン国家安全保障会議東アジア上級部長、ジョン・ボルトン国連大使の助言で、中国を「戦略的競争相手」と位置づけ、中国に対する警戒感を高めた。

ジョージ・W・ブッシュ政権後期はコンドリーザ・ライス国務長官が主導権を握り、中国、北朝鮮に融和し譲歩する政策がとられた。ヘンリー・キッシンジャー氏に助言を求めた結果である。しかし中国、北朝鮮は一切、アメリカの国益に与しなかった。

オバマ政権は「G2」と表現し中国との関係を重視していたが、中国側にその意思は低く、東アジア政策は迷走を続けた。スーザン・ライス国家安全保障問題担当補佐官は中国を称える姿勢を示し、チャック・ヘーゲル元国防長官は中国の暴挙的行為を批判していた。

 

 

注1   ジェームズ・アワー「日米安保協力体制への三つの提言」

中央公論社『中央公論』1994年1月号  

注2   リチャード・アーミテージ氏の証言 読売新聞朝刊1995年11月25日

注3   リチャード・アーミテージ「米国と日本 成熟したパートナーシップにむけて」2000年10月11日

     リチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイ

文芸春秋 文春新書『日米同盟VS中国・北朝鮮』

注4   田久保忠衛氏の証言

テッド・カーペンター「日本は『大国の義務』と自立のために米国の安全保障の毛布から出よ」小学館『SAPIO』1999年8/25・9/8合併号

注5   ズビグニュー・ブレジンスキー「ユーラシアの地政学」

     外交問題評議会『フォーリン・アフェアーズ』97年9/10月号

     中央公論社『中央公論』1997年1月号P395

注6   同上P395

注7   同上P401

注9   同上P403

注10  読売新聞朝刊「地球を読む」1997年8月25日月曜日

注11  同上

注12  同上

注13  読売新聞朝刊「地球を読む」1997年10月25日月曜日

 

注14  読売新聞朝刊「地球を読む」1999年5月10日月曜日

 

 

 

 

第8節 日本の危機 ロシア

 

 ソ連時代は極東に多大な戦力を割き、南下政策、日本侵攻を実現する可能性もあったが、ソ連崩壊後の経済的困窮によってロシアの軍事力は急速に低下した。艦艇の半数近くが退役し、軍内の士気も低下した。また、ベトナムのカムラン湾においていた海軍基地からも撤退し、ロシア海軍艦船の日本海縦断、日本接近の回数も減った。しかしながら、威嚇偵察と思われる航空機の領空侵犯や、樺太千島交換条約に記されている「北方領土は北海道の一部である」との文言を無視して、ロシアは北方領土を不法占拠しているのみならず、択捉島、国後島には冷戦激化の1979年から継続的に旅団(5000人)規模の地上軍部隊、戦闘機部隊を配置していた。

 現在は、限られた資源を有効に活用すべく、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦、地上発射大陸間弾道ミサイルの二本槍による核戦力、高い運動性能を誇るスホーイSu―27戦闘、スホーイSu―30戦闘爆撃機、スホーイSu―35戦闘機の配備を進めている。また、経済的困窮から逃れるために、中国にたいし、大量に戦闘機、駆逐艦、潜水艦を輸出するなど、地域の軍事バランスを乱す行為を続けている。

 経済は一時の困窮を脱し、上向きつつある。70年代後半の軍拡と外交攻勢、拡張主義のときのように石油資源の高騰など状況が整えば再び覇権大国をめざし、軍事力を行使して東アジア、日本を影響下におさめようとする可能性がある。(注1)

 2014年にはウクライナのクリミア半島に自警団を展開させ、住民投票を実施しロシアに編入した。さらドネツク州、ルガンスク州、ハリコフ州にもロシア諜報機関、ロシア軍特殊作戦部隊、ロシア人民兵を派遣し親ロシア派住民にドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国を樹立させ、武器を供与しウクライナと戦闘させた。

 

注1  防衛庁防衛研究所『東アジア戦略概観』1993~2003 

    新井弘一氏の証言

 


 

 

第9章 日本のテロ・ゲリラ・コマンド対処

 

第1節 インテリジェンス 2000年代

 

 日本に対する直接、間接の侵略がおこなわれるとき、特殊部隊、非正規部隊による陽動作戦、自衛隊、アメリカ軍基地に対する攻撃、重要防護施設、社会基盤に対する攻撃、要人、自衛隊幹部、警察・情報機関幹部の暗殺、拉致、テロリズムによる心理戦などが予想される。こうした危機に対処するには平時からの監視・情報調査活動、警備政策が必要である。

 日本においてこうした活動をおこなっているのは、警察庁警備局、内閣情報調査室、公安調査庁、防衛庁情報本部、三自衛隊幕僚監部などである。

 そのなかでも警察庁警備局は各省庁、各機関に人員を派遣し、情報収集につとめている。内閣情報調査室の大半の人員、公安調査庁調査第一部長、防衛庁情報本部電波部長、内閣危機管理監、内閣安全保障・危機管理室長とその後継の内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)、内閣秘書官主要5人のうちの1人、ほか、情報担当部署に人員を送り込んでおり、日本の防諜は実質的には警察庁警備局が握っている。

 内閣情報調査室は総務部、国内一部、国内二部、国際部、経済部、資料部、内閣情報集約センター、内閣衛星情報センターがあるが、人員は200人程度の少所帯である。少し前までは80人しかいなかった。内閣調査官は15人で、警察庁から4人、外務省、財務省、経済産業省、厚生労働省、総務省から1人ずつ派遣されている。事務官も各省庁から派遣されており、警察庁から40人、公安調査庁から20人、防衛庁から10人、他の省庁から数人ずつ出向しており、内閣情報調査室プロパーは70人前後である。情報収集の委託団体にはラヂオ・プレス、財団法人・世界政経調査会、社団法人・国際情勢研究会、社団法人・国民出版協会、社団法人・民主主義研究会、社団法人・東南アジア調査会、時事通信社、共同通信社があった。(注1)

 公安調査庁は1500人で、行政改革により1800人から300人削減された。公安調査庁長官と次長は検察庁から派遣される検事で、幹部には法務省の官僚も派遣される。公安調査庁には北海道公安調査局、東北公安調査局、関東公安調査局、中部公安調査局、近畿公安調査局、中国公安調査局、四国公安調査局、九州公安調査局と公安調査事務所が14ある。しかしかつて公安調査事務所は43あり、公安調査庁の調査力は行政改革と言う名で安全保障を軽視し減らされた。

公安調査庁長官の下には次長があり、総務部には総務課、人事課、工作推進室がある。総務部長は検事で、人事課長は公安調査庁第Ⅰ種国家公務員、工作推進室長は参事官である。総務部には審理室(旧・法規課)、企画調整室、広報連絡室があり、審理室長は検事である。調査第一部には市民団体調査、選挙情報の調査、企画調整をおこなう第一課、中核派、革労協の調査をおこなう第二課、日本共産党の調査をおこなう第三部門、右翼団体の調査をおこなう第四部門、革マル派、共産主義者同盟諸派の調査をおこなう第5部門、オウム真理教と後継団体の調査をおこなうオウム特別調査室がある。調査第一部長は警察庁第Ⅰ種国家公務員で、調査第一部第一課長は検事である。調査第二部には企画調整、日本赤軍、よど号ハイジャック犯の追跡、国際テロリズムの調査をおこなう第一課、外国情報機関との連絡調整をおこなう第二課、朝鮮総連と北朝鮮の調査をおこなう第三部門、中国、東南アジア、ロシア、欧米を幅広く調査する第四部門がある。調査第二部長は公安調査庁第Ⅰ種国家公務員で、第二部第一課長は検事である。(注2)

海上保安庁長官は国土交通省の官僚で、主要ポストにも配置される。防衛庁においては、防衛参事官をはじめとして主要ポストに警察庁、外務省、財務省、経済産業省、厚生労働省の官僚が派遣される。

国防情報の中枢に安全保障・防衛・軍事の素人がおかれるという事態が長年続いてきたが、今後も当分かわりそうにない。

 警察庁警備局は、全国の都道府県警察の警備部公安課、外事課、警備課を指揮下に置き、情報収集活動、防諜活動をおこなっている。警察庁警備局の隷下には、全部門を担当する警備企画課、左翼勢力を調査する公安第一課、右翼勢力、皇室警衛、要人警護を担当する公安第二課、防諜、外国勢力の不穏活動や国際テロリズムを調査する外事課、機動隊、銃器対策部隊、特殊急襲部隊の運用を担当する警備課をおく。2001年1月には中核派(革命的共産主義者同盟全国委員会)、革労協(革命的労働者協会)、社青同解放派(社会主義者同盟解放派)を担当する公安第三課が廃止され、公安第一課が吸収し、極左対策室という部門として活動することとなった。外事課の隷下には、日本赤軍を中心とし、その他世界のテロリスト集団を調査する国際テロリズム対策室がおかれていたが、反米イスラム過激派や北朝鮮の非合法工作、中国の諜報活動に対応するため、2004年4月に警備局直属機関として国際テロ対策課、外事情報部が設置された。(注3)

 実働部門は、全国の都道府県警察が担当する。全国の中でも首都であり、官公庁が集中し、外国大使館が集中する東京を管轄する警視庁は、公安部を全国で唯一おいている。警視庁公安部の隷下には、総務や日本共産党を調査する公安総務課、新左翼勢力を調査担当する公安第一課、革マル派(革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義者)と革マル内の主要グループ、主要資金源のJR東労組を調査する公安第二課、右翼勢力を調査する公安第三課、資料の管理を担当する公安第四課がある。ロシア、東ヨーロッパ諸国の諜報活動、ワッセナー取極違反を調査する外事第一課、北朝鮮、中国、台湾、韓国の諜報活動、不法活動を調査する外事第二課、イスラム過激派などを担当する外事第三課、国際テロ対策室から昇格した国際テロ対策課がある。また、公安警察の管轄する事件や、テロ事件発生時に捜査する公安機動捜査隊、NBC(核、化学兵器、生物兵器)テロリズム発生時に現場に急行し、対処活動するNBC防護隊がある。1980年代は公安第一課だけで700人以上いた反面、公安第二課は100人未満とバランスを欠いていたが、中核派の弱体化と革マル派の組織強化と資金源確保、それによるテロ戦闘力強化により、人員は均等化された。(注4)

 領事館が集中し、企業本社が集中する大阪府警察には、警備部のもとに、機動隊、警備課、警護警衛課という警備警察と、警備総務課、公安第一課、公安第二課、公安第三課、外事課、国際テロ対策課という公安警察、公安機動捜査隊、NBC防護隊の8課2隊がおかれる。

 神奈川県警察、兵庫県警察、福岡県警察、広島県警察、愛知県警察、北海道警察などの主要県警察本部には、警備部の隷下に公安第一課、公安第二課、公安第三課、外事課、警備課の5課と機動隊がおかれる。そのほか、人口の少ない県では警備部の隷下に、公安課、外事課、警備課と機動隊がおかれるだけである。(注4)

公安警察では、刑事警察と同じような捜査活動とともに、事件が発生する前からの調査活動、事件発生を防ぐ活動に重点が置かれる。刑事警察の捜査活動は、捜査本部長に都道府県警察刑事部長が就任し、捜査副本部長に刑事部捜査課長と所轄警察署長が就任、捜査主任官に刑事部捜査課管理官、副捜査主任官に所轄刑事課長があたり、本部刑事部と所轄の合同捜査という形をとる。捜査に使用される車両は大量受注された車両が主で、TLアンテナ、TAアンテナ(TVダイバーシティ・アンテナ)などを装備し、公表されている。

一方で、公安警察の場合、警察庁警備局長を頂点に、各都道府県警察本部警備部長から、公安課、所轄警備課へとトップ・ダウンで司令が通達される。使用される車で公表されているのは、観閲式、年頭視閲式で公開されている公安機動捜査隊の車両のみで、刑事警察に比べ秘匿性を徹底させている。また、KGB(国家保安委員会、現・SVR対外情報庁)、GRU(軍参謀本部情報総局)、イタル・タス通信、プラウダや中国国家安全部、中国人民解放軍総参謀部第2部、中国共産党中央宣伝部、中国共産党中央対外宣伝弁公室、新華社通信、人民日報、解放軍報、北朝鮮の朝鮮労働党対外連絡部、朝鮮労働党作戦部、朝鮮労働党35室、朝鮮労働党統一戦線部、北朝鮮政務院外交部、北朝鮮政務院国家保衛部、北朝鮮政務院社会安全部、北朝鮮人民武力省総参謀部、北朝鮮人民武力省偵察局、北朝鮮人民武力省保衛司令部、北朝鮮人民武力省軽歩兵教導指導局、朝鮮総連、日本赤軍と支援組織(人民革命党)、日本共産党、日本共産党中央委員会第2事務部、革マル派、中核派、革労協、社青同解放派など危険・凶暴で洗練された軍事的諜報・工作機関、テロリストを調査対象としているため捜査活動も徹底して秘匿されている。また、公開資料や文章の解析もさることながら、調査対象組織内にスパイを設定し、情報を収集することに力をおいている。いわゆるHUMINTが重視されている。このことは公安調査庁にもあてはまり、公安調査庁においても公開資料や文章の解析・分析よりも、HUMINTが重視され、評価される。内閣情報調査室では200人前後と非常に少ない人員の制約があるため、公開情報・文書解析に重きがおかれるが、実際のところ重きが置かれるというよりもHUMINTしたくても金銭的、人的余裕がない、というのが真実であろう。室長はHUMINTを重視する警察庁警備局からの派遣人員であるということからも、本来はHUMINT重視と思われる。

 

注1 宝島社『公安アンダーワールド』P198

注2 同上P214

注3 同上P226

注4 同上P235

 

 

第2節 警察の対テロ作戦 2000年代

 

非正規戦やテロリズム事件発生時、初動対処(2時間)にあたるのは地域部自動車警ら隊、機動警ら隊、刑事部機動捜査隊である。地域部隊員の主装備は、最近はアルミ・フレームで非常に軽いスミス&ウェッソン(S&W)M37エアー・ウェイト38スペシャル口径回転式拳銃(5発装弾)、S&W M3913「LADY SMITH」9mm×19口径自動拳銃(8+1発装弾)が導入され始めた。刑事部機動捜査隊捜査員の装備はシュバイツイッシュ・インダストリー・ゲゼルシャフト(SIG)P230 32ACP口径(7,65mm×17)自動拳銃(7+1発装填)であり、非正規戦や銃乱射などのテロリズム発生時には対応は困難と思われる。

1997年2月28日にロサンゼルス市ノース・ハリウッドのローレル・キャニオン通りにあるバンク・オブ・アメリカで銀行強盗事件が発生した。犯人はごく普通の凶悪犯罪者ラリー・フィリップス・ジュニアとエミール・マタサレムの二人だけである。二人は全身をアラミド繊維製の防弾装備で固め、ノリンコAK-47突撃銃、H&K HK91ライフル、ブッシュマスターAR-15ライフルなどの自動小銃、ベレッタM92F拳銃を乱射し、周囲を警察官50人以上で完全に包囲したロサンゼルス警察と銃撃戦を展開した。拳銃とショット・ガンしか装備しないロサンゼルス警察のパトロール警官と刑事はなすすべもなく、一方的に銃撃された。アラミド繊維製防弾装備には効果が無い拳銃、ショット・ガンによる反撃は全くの無力だった。アラミド繊維製防弾装備を貫通する能力を持つM16A1自動小銃を装備するSWAT部隊は渋滞で到着が遅れ、SWAT隊員がM16A1自動小銃で犯人を射殺するまでに重傷者が多数発生、死者が出なかったのは奇跡であった。この事件以後、M16A1自動小銃が普通のパトロール車両に配備されるようになったことから、初動対処にあたる警察官の重装備化および能力、資質の飛躍的な向上が重要である。銃犯罪に精通したロサンゼルス警察ですらごく少数の素人重武装犯罪者にすら対処するは至難の業であった。日本赤軍のロッド空港での無差別銃乱射テロ事件もあったことであり、専門の高度な訓練を受けた北朝鮮のゲリラ部隊、特殊部隊の無差別テロ作戦や、国際テロリストに対処するには相当の準備、訓練、警察官人員の入れ替え、ドクトリンの抜本的改革、と装備が要る。(注1)

立て籠もり、人質事件、誘拐・拉致事件、銃器犯罪などのテロリズムの発生時、最初に対処するのは各都道府県警察本部刑事部捜査第一課におかれる特殊犯捜査係である。テロ事件が長期化することが見込まれる場合は、特に能力が高い警視庁刑事部捜査第一課特殊犯罪捜査係・特殊捜査班SIT(東日本)、大阪府警察刑事部捜査第一課特殊事件係・制圧攻撃班MAAT(西日本)が犯行現場に派遣され、武力行使によらない解決に尽力がそそがれる。SITとMAATは他の県警察とは比較にならないほどの人員、予算が与えられており、訓練や実戦経験も豊富である。

一方で、武力行使も含めた強行解決にむけた準備がすすめられる。各警察本部警備部機動隊による現状調査、警備がすすめられ、機動隊銃器対策班、特殊急襲部隊SAT(Special Assault Team)による突入準備が進められる。突入にはSATがあたり、銃器対策部隊はその支援にあたる。特殊捜査犯捜査係とSATは、レーザー測距機、指向性高感度マイク、超小型カメラ、コンクリート透過レーダー、骨伝導デジタル無線装備などを使用し、状況把握に全力を注ぐ。突入の際はスタン・グレネード(特殊音響閃光弾)が使用される。SATは89式小銃、H&K MP5(機関拳銃、サブ・マシンガン、9mm×19)、H&K USP 9mm×19口径自動拳銃(8+1発装弾)、レミントンM700狙撃ライフル(7,62mm×51)、豊和工業M1500ライフル(7,62mm×51)、H&K PSG-1狙撃ライフル(7,62mm×51)を使用(注92)、テロリストを無力化する。

特殊急襲部隊SATは1977年10月に発足した。

1977年9月、日本航空ダグラスDC-8機が日本赤軍にハイジャックされた。政府は福田赳夫首相は日本赤軍テロリストに屈服し、超法規的措置により囚人である日本赤軍や連合赤軍、東アジア反日武装戦線のテロリストを釈放した。   さらに身代金600万ドル(約16億円)まで支払い、テロリストを野に放ったことで世界から批判されたことに対する反省から生まれた。諸外国からは「テロリストまで輸出する」と非難されるのは如何ともしがたかった。

一方で1977年10月にルフトハンザ・ボーイング737機がPFLP(パレスチナ解放人民戦線)にハイジャックされた。犯人のPFLPテロリストは、ヨーロッパ各国に収監されている西ドイツ赤軍派(RAF)とPFLPのメンバーの釈放、身代金900万ドル(約24億円)を要求した。こうしたPFLPテロリストの要求に対し、西ドイツ政府は拒否を決断した。パイロットを殺害したテロリストが陣取るソマリア・モガディシオ空港に指揮を執る総務長官と、対テロ特殊部隊である内務省国境警備隊第9部隊(GSG-9、現・連邦警察庁GSG-9)を派遣する。

イギリス陸軍特殊空挺部隊(SAS)の支援のもと、スタン・グレネードを使用、H&K MP5機関拳銃で犯人の無力化に成功、3人を射殺、1人を逮捕した。日本の警察庁首脳は事態を重視、西ドイツに幹部を派遣、GSG-9設立の経緯と運用を調査した。

GSG-9は1972年のミュンヘン・オリンピックでイラク・バグダッドを拠点とするパレスチナ・ゲリラ「黒い9月」によるイスラエル選手団人質、殺害事件の反省から発足した。当時の西ドイツでは、基本法(憲法)により、北大西洋条約機構域外に連邦軍を派遣できなかったことから、全世界に隊員を派遣できる国境警備隊に対テロ特殊部隊を設立することになった。このことは憲法なども政治的制約により、自衛隊の運用が厳しく制限されている日本において、非常に参考になった。

GSG-9は、第二次世界大戦からコマンド部隊を運用し、マラヤ、ギリシアでの共産主義ゲリラ掃討、北アイルランドでの暴徒鎮圧とIRA(アイルランド共和軍)への対テロ戦、家屋強襲群設置を実施した経験のあるイギリスSAS(特殊空挺部隊)に国境警備隊のヴェーゲナー中佐を派遣、対テロ戦闘のノウハウを学んだ。

1977年10月末、警察庁は警視庁警備部第6機動隊に極秘裏に「第7中隊」(「特科中隊」)を編成、機動隊を中心に優秀な警察官60人を選定し、対テロ特殊部隊を編成した。また、1977年12月には大阪府警察警備部第2機動隊に「零中隊」を編成、警視庁と同様に優秀な人員40人を選抜し対テロ特殊部隊を編成した。これら対テロ特殊部隊は、GSG-9、SASなどから対テロ作戦を学び、徐々に実力をつけていった。(注3)

1979年1月26日、猟銃で武装した30歳の男、梅川昭美が大阪市住吉区にある三菱銀行北畠支店を襲撃、銀行員2人を射殺、駆けつけた阿倍野署警ら係長警部補と住吉署警ら課巡査の2人も射殺、さらに第2方面機動警ら隊員に発砲、負傷させた。さらに人質に猟奇的、残忍な危害を加え、香川県から連れて来た母親の説得も聞かなかった。

大阪府警察警備部(三井一正警備部長)は機動隊とともに、「特別狙撃隊」と偽装して、対テロ特殊部隊「零中隊」を派遣する。新田勇刑事部長と坂本房敏刑事部捜査第一課長の進言で、吉田六郎大阪府警察本部長が強攻突入と犯人射殺を決断する。1月28日午前8時に第2機動隊の松原和彦警部指揮の下、「特別狙撃隊」32人を投入、犯人・梅川昭美を射殺した。(注4)その後、「第7中隊」「零中隊」は、SAP(SPECIAL ARMED POLICE)と称され羽田空港や伊丹空港で、日本航空、全日本空輸、東亜国内航空と協力しハイジャック対処訓練を繰り返し、ハイジャック対処では世界有数の力を持つにいたった。また、訪日した外国の要人や、日本政府の閣僚の警護などにも投入され、実績を積んでいった。

1995年、札幌近郊・新千歳空港で心神喪失状態の東洋信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)行員が全日空ボーイング747機をハイジャックした。北海道警察機動隊、銃器対策部隊とともに、警視庁SAPが派遣された。報道においては、特殊梯子による突入が喧伝された。特殊梯子による突入が衆人の目にさらされたことによって、対テロ特殊部隊の存在が明らかになった。

このことから、警察庁は対テロ特殊部隊の存在を正式に認め、特殊急襲部隊SATと名づけた。さらにSATは、神奈川県警察、千葉県警察、北海道警察、福岡県警察、愛知県警察の5県警察にもそれぞれ20人ずつで設立した。特殊急襲部隊SATはハイジャックなどのテロリズム対処とともに、非正規戦、ゲリラ・コマンド対処においても重要な役割を果たす。治安出動、防衛出動が発動されるまでには時間を要すると思われ、自衛隊の出動は困難と思われる。また、治安出動、防衛出動が発令され、自衛隊が出動するにいたっても、重要防護施設警備、要人警護、遊撃対処など任務はあまりにも多すぎ、自衛隊の人員だけでは不足する。そういう事態に対し、警察の特殊急襲部隊SAT、銃器対策部隊、機動隊、自動車警ら隊、機動捜査隊はフル動員せざるを得ない。

1996年予算において、SAT訓練費10億円を要求した警察庁であったが、大蔵省はそれを不要として認めなかった。しかし、同年12月に、ペルーの日本大使公邸占拠・人質事件発生するにいたって、大蔵省もテロリズムの危険を認めざる得なくなり、予算は通ることになった。また、ペルー日本大使公邸占拠・人質事件に特殊急襲部隊を派遣すべきとの声が与党内からあがったがが、内閣法制局は憲法で禁止されている「海外での武力行使」に相当すると否定したため、断念された。

各種凶悪刑事事件、テロリズム、ゲリラ事件、コマンド対処に幅広く投入されるのは警察の機動隊である。機動隊はSAT隊員の選抜母体にもなっており、さらにSAT出身者が特殊犯捜査係、総理大臣官邸警備隊に転属し、技術を伝承していく。

機動隊は、警視庁に9個機動隊(第1機動隊:千代田区、第2機動隊:墨田区、第3機動隊:目黒区、第4機動隊:立川市、第5機動隊:新宿区、第6機動隊:品川区、第7機動隊:調布市、第8機動隊:新宿区、第9機動隊:江東区)と1個特車隊(新宿区)の10個隊、3000人と特殊急襲部隊(SAT)3個隊60人がおかれる。大阪府府警には3個機動隊900人と特殊急襲部隊2個隊40人がおかれる。千葉県警察には3個機動隊900人と特殊急襲部隊1個隊20人、成田国際空港警備隊1500人がおかれる。神奈川県警察と福岡県警察には、2個機動隊600人と特殊急襲部隊1個隊20人がおかれる。他の府県警察には1個機動隊が定数なくおかれる場合と、または常勤の第1機動隊とパートタイムの第2機動隊がおかれる。

車両は三菱重工業によって防弾鋼板で防弾化された三菱ふそうキャンター特型警備車・小型警備車、日野ガーラ大型バスがベースの輸送警備車や三菱ふそうファイター遊撃放水車、三菱ふそうスーパー・グレート銃器対策特型警備車、三菱ふそう、日野自動車/いすゞ自動車/Jバス、UDトラックスが製造する大型輸送車、日産シビリアン、三菱ローサ、いすゞジャーニー、トヨタ・コースターなどマイクロバスのⅠ型遊撃車、紺色または白色のトヨタ・ハイエース、日産キャラバン/ホーミー、トヨタ・ランドクルーザーのⅡ型遊撃車、SUVがベースのゲリラ対策車が配備されている。偵察・斥候用や移動用にはセダンの覆面パトカーが使われる。

指揮のために用いられる多重無線車にはトヨタ・ハイエース、日産キャラバン、日産シビリアン、バス型大型輸送車改造多重無線車、遊撃車Ⅰ型多重無線車、遊撃車Ⅱ型多重無線車、捜査指揮車が使われる。SATには隊長車には三菱パジェロ、トヨタ・ランドクルーザーなどの防弾SUV、移動車に日野リエッセ小型バス、装備搬送車には三菱ふそうキャンター・ガッツ、三菱ふそうファイター、三菱ふそうスーパー・グレートが用いられる。

警視庁警備部警護課、警備部警衛課、大阪府警警備部と京都府警の警護警衛課、各県警の警備部警護課の警護任務にはシボレー・エクスプレス、シボレー・アストロにTLアンテナ2本以上を装備したものや、高い座席位置からの視野確保のためと突撃阻止・防止のために重量が重く車高の高いシボレー・タホ、いすゞビッグホーン、トヨタ・ランドクルーザー、三菱パジェロなど中型、大型のSUVが使用される。

日本の警察の装備は凶悪犯罪者、大規模デモ、暴動、少数のテロリズムには有効ではあるが、大規模テロリズム、重武装ゲリラ、重武装テロリズム、特殊部隊・コマンド対処は困難と思われる。銃やボディ・アーマーなどは日常の使い勝手、動きやすさを重視しているため、有事の際の最悪の事態に対処しにくい。また、ノルマとマニュアルによる行動やずさんな捜査、マス・メディアや弁護士と一部の世論に気を配りすぎるなど、仮想敵につけこまれると大惨事になる恐れが高い。

 

 

注1  コロンビア・ブロードキャスティング・システム

「CBSイヴニング・ニュース・ウィズ・ダン・ラザー」

    アメリカン・ブロードキャスティング・カンパニーズ

「ABCディス・ウィーク・ニュース・ウィズ・デヴィッド・ブリンクリー」

    ケーブル・ニュース・ネットワーク「CNNニュース」

    ディスカバリー・チャンネル「ゼロ・アワー」

注2  警察庁『焦点 第265号 警備警察50年 現行警察法施行50周年記念特別号』

注3  警察庁『平成16年版警察白書』

伊藤鋼一『警視庁特殊部隊の真実』大日本絵画

伊藤鋼一「SAT最強伝説」『ラジオライフ』三才ブックス2005年2月号

注4  読売新聞夕刊2002年12月4日写真 

注5  2002年5月10日警察庁SATビデオ、『平成16年版警察白書』P236

注6  読売新聞大阪社会部『三菱銀行事件の42時間』読売新聞社  

注7  2002年警察庁観閲式(神宮外苑絵画館前)

注8  2003年大阪府警察観閲式(大阪城公園太陽の広場)

注9  三推社『パトカー デラックス NEW』P99

注10  朝日新聞2002年5月30日

注11  朝日新聞2002年5月16日


 

 

 

第3節  自衛隊の対テロ作戦 2000年代

 

東西冷戦時代にもゲリラ・コマンドの危機は存在していたのだが、ゲリラ・コマンド対処には治安の要素があるため警察庁の反対や、自衛隊の活動に対してのマス・メディア、世論、政治家の反対があるため、自衛隊のゲリラ・コマンド対処は控えられた。しかし、ソ連が崩壊し、機甲部隊の衝突の可能性が低くなったため、相対的にゲリラ・コマンド対処の比重は高まった。また、1992年からはじまった北朝鮮による大量破壊兵器保有に対する制裁問題で、北朝鮮の暴発・崩壊の可能性が高まり、世界有数のゲリラ戦・テロリズム能力を有する北朝鮮の脅威が切迫したものとなった。

以前からソ連の日本進攻時に真っ先に投入されるソ連軍参謀総局特殊任務部隊(スペツナズ)を考慮はしていたが、こうした経緯で防衛庁、自衛隊のなかでもゲリラ・コマンド対処の重要性が再認識された。陸上自衛隊は第一空挺団内にゲリラ・コマンド対処研究班を設立、合衆国陸軍特殊作戦コマンドの合衆国陸軍特殊部隊コマンドの特殊部隊群(グリーン・ベレー)や第1特殊部隊作戦分遣隊D(デルタ・フォース)に隊員を派遣し、運用、作戦や訓練ノウハウを学んだ。

そして空挺レンジャー資格保有者、部隊レンジャー有資格者から隊員を選抜、300人(戦闘部隊200人、支援部隊100人)からなるゲリラ・コマンド対処特殊部隊「特殊作戦群」の創設を決定し、2004年3月に発足した。

海上自衛隊においては、1999年3月の北朝鮮工作船事件をきっかけに、対テロ特殊部隊「特別警備隊」を設立した。海上自衛隊特別警備隊は部隊の訓練をアメリカ海軍特殊部隊SEALやDEVGRU(合衆国海軍特殊戦開発群、旧称SEAL TEAM6)に要請したが断られたため、かわってイギリス海軍特殊部隊SBS(特殊舟艇部隊)の協力を得て訓練された70人の部隊である。航空自衛隊も基地を敵ゲリラ・コマンド部隊から防衛するための対ゲリラ・コマンド特殊部隊「基地防衛教導隊」を設立した。


 

 

 

 

第4節  海上の対テロ作戦 2000年代

 

海上保安庁は法執行機関であるが、軍事的観点から見れば準軍事組織である。

海上保安庁は国土交通省の外局で、海上の治安維持を任務とする。定員は1万2000人である。内局には総務部、装備技術部、警備救難部、海洋情報部、交通部がある。

第1管区海上保安本部(本部:北海道小樽市)は北海道を担当する。第2管区海上保安本部(本部:宮城県塩竃市)は東北沿岸と東北の太平洋側沖合いを担当する。第3管区海上保安本部(本部:神奈川県横浜市)は関東を担当する。第4管区海上保安本部(本部:愛知県名古屋市)は中部地方太平洋側を担当する。第5管区海上保安本部(本部:兵庫県神戸市)は近畿南部、四国太平洋側を担当する。第6管区海上保安本部(本部:広島県広島市)は瀬戸内海を担当する。第7管区海上保安本部(本部:福岡県北九州市)は九州北部と山口県日本海側を担当する。第8管区海上保安本部(本部:京都府舞鶴市)は近畿・中部の日本海側、山陰を担当する。第9管区海上保安本部(本部:新潟県新潟市)は中部地方日本海側と東北の日本海側沖合いを担当する。第10管区海上保安本部(本部:鹿児島県鹿児島市)は九州南部を担当する。第11管区海上保安本部(本部:沖縄県那覇市)は沖縄県を担当する。

海上保安庁最大の艦船はヘリコプター2機搭載型、巡視船「しきしま」型である。平成元年度補正計画船で、平成4年4月8日に竣工した。総トン数7175トン、鋼製、ディーゼル推進である。兵装はエリコンKDC 35mm連装機関砲、JM61 20mm機関砲である。搭載ヘリコプターはアエロスパシアルAS332L1ヘリコプター2機である。フランスからのプルトニウム輸送を警護するために建造され、日本-フランス間を無補給で往復できる。日米原子力協定に基づきアメリカから対空レーダーを搭載するよう求められた。

 ヘリコプター2機搭載型、巡視船「みずほ」型の1番船PLH-21「みずほ」は、昭和58年度計画船で、昭和61年3月19日に竣工した。巡視船「みずほ」型は総トン数5229トン、常備排水量5317トン、鋼製、ディーゼル推進である。兵装はエリコンKDC 35mm機関砲1基、JM61 20mm機関砲1基である。搭載ヘリコプターはベル212ヘリコプター2機である。昭和54年の海上における捜索および救助に関する国際条約に対応するために建造された。巡視船「みずほ」型は2隻建造された。

 3500トン型、巡視船「いず」型は、平成7年度第1次補正計画船で、平成9年9月25日に竣工した。総トン数3768トン、排水量3683トン、鋼製、ディーゼル推進である兵装はJM61 20mm機関砲1基である。阪神・淡路大震災で第5管区海上保安本部が被害を受けたのを受け、指揮所機能を強化するために建造された。

 3000トン型、巡視船「みうら」型は、平成8年度計画艦で、平成10年10月28日に竣工した。総トン数3167トン、鋼製、ディーゼル推進である。兵装はJM61 20mm機関砲1基である。海上保安学校の練習船兼巡視船で、被災者・非難民移送能力、医療設備などが充実し、災害に対応できる。

 3000トン型、巡視船「こじま」は、平成2年度計画船で、平成5年3月11日に竣工した。総トン数3136トン、鋼製、ディーゼル推進である。兵装はエリコンKDC 35mm機関砲1基、JM61 20mm機関砲1基、FNブローニングM2 12,7mm機関銃1基である。海上保安大学校の練習船兼巡視船で、7メートル型高速警備救難艇を装備する。

 ヘリコプター1機搭載型、巡視船「つがる」型は、1番船PLH-02「つがる」が昭和52年度補正計画船で、昭和54年4月17日に竣工した。総トン数3221トン、満載排水量4037トン、鋼製、ディーゼル推進である。兵装はボフォースL70 40mm機関砲1基である。搭載ヘリコプターはベル212ヘリコプターである。「つがる」型巡視船は9隻建造された。

 ヘリコプター1機搭載型、巡視船「そうや」は昭和52年度計画船で、昭和53年11月22日に竣工した。総トン数3139トン、満載排水量4089トン、鋼製、ディーゼル推進である。兵装はボフォースL70 40mm機関砲1基である。搭載ヘリコプターはベル212ヘリコプターである。

 2000トン型、巡視船「ひだ」型は、1番船PL-51「ひだ」が平成15年度計画船で「ヘリ甲板付き高速高機能大型巡視船」として予算要求され、平成18年4月18日に竣工した。総トン数1800トン、軽合金製、ディーゼル、ウォータージェット推進である。兵装はボフォースL70 40mm機関砲1基、JM61 20mm機関砲1基である。7メートル型高速警備救難艇と複合型警備艇を搭載する。平成13年12月「九州南西海域工作船事件」を受けて建造された。巡視船「ひだ」型は3隻建造された。

 1000トン型、巡視船「はてるま」型は、1番船PL-61「はてるま」が平成17年度計画船で、平成20年3月31日に竣工した。総トン数1300トン、軽合金製、ディーゼル、ウォータージェット推進である。兵装はMk44ブッシュマスターⅡ 30mm機関砲1基である。巡視船「はてるま」型は9隻建造された。

  1000トン型、巡視船「えりも」型は、1番船PL-02「おじか」(現「えりも」)が平成元年度計画船で、平成3年10月31日に竣工した。総トン数1268トン、満載排水量2006トン、鋼製、ディーゼル推進である。兵装はJM61 20mm機関砲1基である。2番船PL-03「くだか」からはエリコンKDC 35mm機関砲1基も装備している。巡視船「えりも」型は7隻建造された。

 1000トン型、巡視船「おき」は、昭和62年度計画船で、平成元年9月21日に竣工した。総トン数993トン、常備排水量1500トン、鋼製、ディーゼル推進である。兵装はJM61 20mm機関砲1基である。

 1000トン型、巡視船「しれとこ」型は、1番船PL-101「しれとこ」が昭和52年度補正計画船で、昭和53年11月8日に竣工した。総トン数965,3トン、常備排水量1200トン、鋼製、ディーゼル推進である。兵装はJM61 20mm機関砲1基である。巡視船「しれとこ」型は28隻建造された。

 1000トン型、巡視船「あそ」型は、1番船PL-41「あそ」が平成14年度計画船で、平成17年3月15日に竣工した。総トン数770トン、軽合金製、ディーゼル、ウォータージェット推進である。兵装はボフォースL70 40mm機関砲1基である。平成11年「能登半島沖不審船事件」を受け建造された。巡視船「あそ」型は3隻建造された。

 500トン型巡視船には「なつい」型14隻、「てしお」型1隻が建造された。500トン型新PM(PATOROL VESSEL MEDIUM)が3平成26年度計画船として予算化されている。50トン型巡視船には「とから」型19隻、「びぼろ」型20隻、「あまみ」型4隻が建造された。特350トン型巡視船、「たかとり」型は2隻が建造された。180トン型巡視船は「しんざん」型4隻、「らいざん」型13隻、がある。特130トン型巡視船は「あかぎ」型が5隻、「たかつき」型が2隻ある。

 高速特殊警備船、巡視船「つるぎ」型は、1番船PS-201「つるぎ」が平成11年度第2次補正計画船として、平成13年2月15日に竣工した。総トン数220トン、軽合金製、ディーゼル、ウォータージェット推進である。兵装はJM61 20mm機関砲1基である。平成11年「能登半島沖不審船事件」を受け、巡視船「つるぎ」は6隻建造された。

 巡視艇は35メートル型「はやなみ」型巡視艇11隻、35メートル型「まつなみ」型巡視艇1隻、35メートル型「はまぐも」型巡視艇4隻、35メートル型「よど」型巡視艇9隻、30メートル型「あそぎり」型巡視艇4隻、30メートル型「はやぐも」型巡視艇19隻、30メートル型「むらくも」型巡視艇23隻、23メートル型「しきなみ」型巡視艇17隻、23メートル型「しまぎり」型巡視艇3隻、特23メートル型「なつぎり」型巡視艇2隻、23メートル型巡視艇「ことなみ」型巡視艇7隻、特23メートル型「あきづき」型巡視艇12隻が建造された。

20メートル型は「ひめぎく」型巡視艇、「しらうめ」型巡視艇、「はやぎく」型巡視艇がある。18メートル型は「やまゆり」型巡視艇が64隻建造されている。15メートル型は高張力鋼製の「いそかぜ」型2隻と、「なだかぜ」型2隻がある。

監視取締艇は「さざんくろす」型、「りんくす」型、「おりおん」型、「ぽらりす」型、「ぽおらすたあ」型、「おりおん」型がある。いずれも総トン数5トン程度の小型船である。

海上保安庁の航空機は73機ある。

 固定翼機は8タイプ27機である。

 日本航空機製造式YS-11A型は、最大搭乗者数28名、最高速力257ノット、巡航速力230ノットである。昭和44年度から5機取得されたが、退役した。

ガルフストリーム・エアロスペース式G-V型は、最大搭乗者数22名、最高速力510ノット、巡航速力488ノットである。ドップラー・レーダー、自動追尾機能付き赤外線カメラ、自動船舶識別装置を装備する。平成17年度から2機取得された。

ダッソ-・ブレゲー式ミステール・ファルコン900型は、最大搭乗者数18名、最高速力502ノット、巡航速力428ノットである。捜索レーダー、自動方向探知機を装備する。昭和62年度から2機取得された。

ボンバルディア式DHC-8-315型は、最大搭乗者数32名、最高速力266ノットである。全周捜索レーダー、赤外線暗視装置を装備する。平成21年度から9機が取得される。

サーブ・スカニア式SAAB340B型/サーブ式SAAB340B型は、最大搭乗者数27名、最高速力250ノット、巡航速力198ノットである。合成開口レーダーを装備する。平成7年度から4機取得された。

ビーチクラフト式B350型は、最大搭乗者数14名、最高速力263ノット、巡航速力224ノットである。全周捜索レーダーに代えて赤外線カメラが装備された。平成11年度から10機取得された。しかし、東日本大震災で1機喪失した。

ビーチクラフト式B200T型は、最大搭乗者数10名、最高速力235ノット、巡航速力192ノットである。ビーチクラフト社のスーパー・キング・エアがベースである。昭和54年度から17機取得された。

セスナ式U206G型は、最大搭乗者数6名、最高速力151ノット、巡航速力130ノットである。テキストロン・カンパニー・セスナ・エアクラフトのステイショネアがベースである。昭和52年度に1機取得した。

回転翼機は7タイプ46機である。

ユーロコプター式EC225LP型は最大搭乗者数29名、最高速力175ノット、巡航速力149ノットである。特殊警備隊SST専用機として導入された。平成20年度から2機が取得された。巡視船「あきつしま」搭載用と、東日本大震災で喪失したAS332L1型の代替に平成23年度計画で3機が予算化されている。

アエロスパシアル式AS332L1型は、最大搭乗者数18名、最高速力140ノット、巡航速力125ノットである。巡視船「しきしま」搭載機として導入された。平成4年度から4機が取得された。東日本大震災で1機喪失した。

ベル式412型/ベル式412EP型は、最大搭乗者数15名、最高速力140ノット、巡航速力126ノットである。ベル・ヘリコプター・テクストロン・カンパニーの4枚ブレード機ベル412で、赤外線暗視装置を装備する。平成5年から7機が取得された。2機を喪失している。

アグスタ式AW139型は、最大搭乗者数15名、最高速力167ノットである。アグスタ・ウェストランドAW139で、17機が配備された。

シコルスキー式S76C型はシコルスキーS-76Cで、最大搭乗者数14名、最高速力155ノット、巡航速力135ノットである。平成7年から4機取得しているが2機を事故で失っている。

シコルスキー76D型はシコルスキーS-76で、平成23年度第3次補正計画から11機が予算化されている。

ベル式212型は、ベル・ヘリコプター・テクストロン・カンパニーのヘリコプター、ベル212で、最大搭乗者数11名、最高速力110ノット、巡航速力103ノットである。昭和48年度から38機が取得された。現在は12機である。

ベル式206型は、最大搭乗者数5名、最高速力130ノット、巡航速力113ノットである。ベル206ジェットレンジャーとして1967年から生産が開始された。海上保安庁では昭和48年度に4機購入した。その4機はすでに退役し、平成3年度から新たに4機導入している。

海上保安庁におけるテロリズム対処、ゲリラ・コマンド対処は海上保安庁の機動隊にあたる特別警備隊、特別警備隊から優秀な人員が選ばれて編成される特殊警備隊SST(Special Security Team)がある。特殊警備隊SSTは、成田空港開港後、闘争目標を関西空港開港阻止への爆弾テロ闘争とソウル五輪開催阻止へのシー・ジャック・テロ敢行へと動いた左翼過激派の1983年の連続ゲリラ事件、自衛隊駐屯地への時限発火装置による同時多発車両破壊事件、1984年の大阪での軽ワゴン車爆破事件などのゲリラ事件が多発、関西空港建設反対テロが予想された。

またソウル・オリンピックを控え日韓フェリーのシー・ジャックが懸念された。これらの脅威に対処するため、全国の管区特別警備隊隊員から25人が選定され関西空港警備隊として、第5海上保安本部大阪特殊警備基地が関西空港対岸地区に設けられた。(注11)     

また1987年には、あまりにも危険なプルトニウム海上輸送任務を軍隊による警備にするように世界各国から圧力がかけられた。しかし、内務省官僚出身で反軍・反自衛隊を主張する後藤田正晴副総理は海上自衛隊による警備を反対した。

よってプルトニウム輸送船・あかつき丸の警備は海上保安庁が担当することになった。アメリカ政府から日米原子力協定に基づき、アメリカ海軍特殊部隊SEALによる訓練を要求されたため、プルトニウム輸送の特別警備隊を設立し、アメリカ海軍特殊部隊SEALに隊員を訓練のため派遣した。(注12)

1996年、関西空港警備隊とプルトニウム輸送特別警備隊が統合され特殊警備隊SSTが40人で発足した。特殊警備隊SSTはSEALなどの指導の下、対テロリズム戦・対ゲリラ戦・対コマンド戦に励んだ。(注13)             

1989年に東シナ海で発生したイギリスの海運会社の保有するパナマ船籍の貨物船「アランドラ・レインボー」の船員暴動事件にイギリス政府から鎮圧要請を受け、ヘリコプターから船内に突入、人質となっていたイギリス人船長を救出、暴動を鎮圧した。また1992年、のシンガポールの貨物船「アセアン・エクスプレス」の船員暴動事件にも投入され暴動を鎮圧、人質の船長などを救出した。(注14)

警察の機動隊にあたる暴動対処部隊の海上保安庁特別警備隊SRS(Special Riot Service)は、海上デモの鎮圧、洋上警戒などが主任務であるが、豊和工業89式小銃、レミントンM870ショット・ガン、S&W M5906ミリタリー 9mm×19口径自動拳銃と、ボディ・アーマー、対NBC防護服で装備し(注13)、ヘリコプターからの強行乗船もおこなえる実力を有し、対テロ・ゲリラ戦に対処できる能力をある程度有している。(注15)

 

注1~注22

 2004年「海上保安庁観閲式」

組織|海上保安庁 (mlit.go.jp)

船艇|海上保安庁 (mlit.go.jp)

航空機|海上保安庁 (mlit.go.jp)

    海人社『世界の艦船』2010年7月号、2014年7月号

    ワールドフォトプレス『コンバットマガジン』2004年8月号

注23~注27

読売新聞朝刊1998年4月11日、2001年10月17日

 

 

 

 

 

 

 

 マス・メディアにおける論議

 

第1章 マス・メディアにおける論議

 

第1節 マス・メディアの状況

 

 1990年代後半のマス・メディアを広告費で検証する。1990年代後半の総広告費の平均は、5兆9901億円である。そのうち、新聞が1兆2636億円、雑誌が4395億円、ラジオが2247億円、テレビが2兆79億円、となっている。(注1)

 新聞の1997年における状況を検証してみる。日本ABC協会による公差レポートによる公差部数では、1997年の平均で第1位が読売新聞で1020万部、第2位が朝日新聞で832万部、第3位が毎日新聞で396万部、第4位が日本経済新聞で299万部、第5位が産経新聞で194万部、第6位が北海道新聞で121万部、第7位が西日本新聞で85万部となっている。(注2)また、日本ABC協会から脱退した中日新聞は公称254万部となっている。

 2013年度後期の日本ABC協会による公差レポートによる公差部数では第1位が読売新聞で926万部、第2位が朝日新聞で710万部、第3位が毎日新聞で330万部、第4位が日本経済新聞で275万部、第5位が産経新聞で162万部となっている。

 2015年度後期の日本ABC協会による公差レポートによる公差部数では第1位が読売新聞で914万部、第2位が朝日新聞で671万部、第3位が毎日新聞で329万部、第4位が日本経済新聞で273万部、第5位が産経新聞で160万部となっている。

 各地域における世帯普及率で各新聞が1997年と2007年においてどう扱われていたかを検証してみる。

 まずは1997年からである。

北海道での世帯普及率は、北海道新聞が52,1%、読売新聞が11,0%、朝日新聞が7,1%、毎日新聞が3,0%、日本経済新聞が2,4%、産経新聞が0,0%となっている。半数以上が北海道新聞を購読しており、読売新聞と朝日新聞がある程度読まれている。産経新聞はほぼ読まれていない状態である。

東北の太平洋沿岸部の中心である宮城県での世帯普及率は、河北新報が59,9%、朝日新聞が12,9%、読売新聞が10,5%、日本経済新聞が4,5%、毎日新聞が2,6%、産経新聞が1,3%となっている。宮城県においても地域紙(ブロック紙)である河北新報の独占状態で、残りを大手2社が分け合っている状態である。

東北の日本海沿岸の秋田県の世帯普及率は、秋田魁が66,6%、読売新聞が12,3%、朝日新聞が11,4%、毎日新聞が4,6%、日本経済新聞が2,6%、産経新聞が0,7%となっている。秋田県も他の地方部と同様、地域紙が非常に強い状態である。

首都圏のベッドタウンとして、1950年の230万人、1985年の人口550万強から2000年には人口700万人へと急速に人口を増やし、発展した埼玉県の世帯普及率は、読売新聞が43,0%、朝日新聞が24,6%、毎日新聞が10,5%、日本経済新聞が6,7%、埼玉新聞が6,8%、産経新聞が3,8%となっている。都市化の進む埼玉県では、全国紙である読売新聞が健闘、朝日新聞がダントツの2位、毎日新聞が3位と続くが、全国紙である産経新聞は苦戦を強いられている。

首都として、1211万人の人口を抱える東京都の世帯普及率は、読売新聞が30,4%、朝日新聞が24,6%、日本経済新聞が11,1%、毎日新聞が7,7%、東京新聞が5,8%、産経新聞が5,2%となっている。東京では読売新聞と朝日新聞の2強の戦いが続いているが、近年は読売新聞が優勢である。産経新聞は、地方紙である東京新聞にも破れており、全国紙としての資格、影響力が問われる。

中部地方の中心、愛知県の世帯普及率は、中日新聞が68,2%、朝日新聞が12,4%、日本経済新聞が5,7%、読売新聞が5,0%、毎日新聞が4,0%、産経新聞が0,1%である。大都市・名古屋を中心に都市化の進んだ愛知県であるが、新聞世帯普及率から見ると、完全に地方型の様相を呈する。

日本第2の都市圏の中心で、881万人の人口を抱える大阪府の世帯普及率は、読売新聞が28,9%、朝日新聞が23,3%、産経新聞が20,4%、毎日新聞が16,9%、日本経済新聞が8,1%である。地域新聞が存在しない大阪府では、全国紙が激戦を展開しており、産経新聞が唯一、健闘している地域である。

大阪のベッドタウンともなっている兵庫県の世帯普及率は、神戸新聞が26,2%、読売新聞が24,7%、朝日新聞が23,5%、毎日新聞が11,6%、産経新聞が6,6%、日本経済新聞が6,2%である。兵庫県は全国紙に加え、地方紙である神戸新聞を巻き込んだ激戦地となっている。

山陽の広島県での世帯普及率は、中国新聞が59,6%、読売新聞が14,7%、朝日新聞が12,7%、日本経済新聞が5,5%、毎日新聞が4,6%、産経新聞が1,8%となっている。広島県も典型的な地方型の展開である。

山陰の鳥取県での世帯普及率は、日本海新聞が77,3%、読売新聞が16,7%、朝日新聞が11,8%、毎日新聞が8,7%、日本経済新聞が3,8%、産経新聞が2,1%となっている。

九州の中心として発展する福岡県の世帯普及率は、西日本新聞が34,1%、読売新聞が22,5%、朝日新聞が19,1%、毎日新聞が16,8%、日本経済新聞が4,6%、産経新聞が0,1%である。福岡県は強い地方紙と均衡する全国紙といった状態で、都市型と地方型の中間の様相である。

1972年に日本に返還された沖縄県での世帯普及率は、琉球新報が43,4%、沖縄タイムス44,2%、日本経済新聞が1,0%、朝日新聞が0,5%である。沖縄県は沖縄型といっても過言ではない特殊な状況である。(注3)

次に2007年である。

北海道の世帯普及率は北海道新聞が46,9%、読売新聞が9,0%、朝日新聞が6,0%、毎日新聞が2,8%、日本経済新聞が2,2%、産経新聞が0,0%となっている。

宮城県では河北新報が55,3%、読売新聞が8,4%、朝日新聞が10,2%、毎日新聞が2,0%、日本経済新聞が4,1%、産経新聞が1,3%となっている。

秋田県では秋田魁が62,9%、読売新聞が9,5%、朝日新聞が9,3%、毎日新聞が3,7%、日本経済新聞が2,3%、産経新聞が0,8%となっている。

埼玉県では読売新聞が39,1%、朝日新聞が22,5%、毎日新聞が10,4%、日本経済新聞が5,9%、産経新聞が3,8%となっている。

東京都では読売新聞が24,3%、朝日新聞が20,1%、毎日新聞が7,0%、日本経済新聞が10,3%、産経新聞が6,0%、東京新聞が4,3%となっている。

愛知県では読売新聞が3,3%、朝日新聞が9,6%、毎日新聞が3,5%、日本経済新聞が5,3%、産経新聞が0,1%、中日新聞が64,2%となっている。

大阪府では読売新聞が24,7%、朝日新聞が21,2%、毎日新聞が15,6%、日本経済新聞が6,9%、産経新聞が20,2%となっている。

兵庫県では読売新聞が24,1%、朝日新聞が22,7%、毎日新聞が10,7%、日本経済新聞が5,9%、産経新聞が6,3%、神戸新聞が25,0%となっている。

広島県では読売新聞が12,6%、朝日新聞が11,2%、毎日新聞が3,2%、日本経済新聞が5,1%、産経新聞が1,6%、中国新聞が54,3%となっている。

鳥取県では読売新聞が13,6%、朝日新聞が8,1%、毎日新聞が5,0%、日本経済新聞が3,1%、産経新聞が1,4%、日本海新聞が75,9%となっている。

福岡県では読売新聞が19,8%、朝日新聞が16,7%、毎日新聞が15,8%、日本経済新聞が4,2%、産経新聞が0,1%、西日本新聞が31,2%となっている。

沖縄県では読売新聞が0,1%、朝日新聞が0,3%、毎日新聞が0,1%、日本経済新聞が0,8%、産経新聞が0,0%、沖縄タイムズが41,3%、琉球新報が38,6%となっている。

産経新聞は全国紙でありながら、大阪府以外ではまったく振るわず、大手広告代理店の博報堂DYホールディングス大広の梅本春夫氏は、産経新聞を「大阪の地域紙」にすぎないと述べている。

購読者の世帯主職業でみる新聞の到達度を検討する。

読売新聞では、給料事務18,2%、給料労務33,1%、役員・管理職16,0%、自由業8,6%、商工自営15,4%、無職・その他8,8%である。読売新聞は可処分所得の少ない給料労務が主力であるため、1020万部の部数を誇りながら広告料は1段あたり266万8000円に甘んじている。(注4)

朝日新聞の場合、給料事務26,1%、給料労務23,0%、役員・管理職24,2%、自由業7,2%、商工自営11,0%、無職・その他8,6%となっている。朝日新聞は可処分所得の大きい給料事務、役員・管理職が主力のため、発行部数は第2位の832万部でありながら広告料は1段当たり277万7000円と、読売新聞より高くなっている。

毎日新聞では給料事務18,8%、給料労務19,9%、役員・管理職19,1%、自由業13,2%、商工自営18,8%、無職・その他10,3%となっている。毎日新聞は各層にまんべんなく浸透しているおり、発行部数は朝日新聞の半分以下でありながら広告料は1段当たり153万1000円となっている。(注5)

産経新聞は、給料事務16,0%、給料労務24,5%、役員・管理職16,3%、自由業10,1%、商工自営26,0%、無職・その他12,1%となっている。産経新聞の場合、発行部数が少なく、高齢者に購読が多い(無職・その他)ため、広告料も非常に低いものとなっている。(注6)

 

注1、2、3、4、5、6

日本ABC協会『公差レポート』日本ABC協会 1996

                                    1997

                                    1998

                                    1999

                                    2000

                                    2014

                                    2016

 

 

 

 

 

 

第2章 読売新聞における論議

 

 発行部数日本最大の読売新聞における安全保障の論議・提言を検証する。

 

 

 

2000年の論調

 

 

 2000年7月26日朝刊の社説で、民主党において「安全保障、防衛をめぐる意見の隔たりが大きい」と指摘し「特に憲法問題は改憲派と護憲派が対立」と主張、「党の方針は、立場を鮮明にしない『論憲』にとどまっている」と指摘している。「二十一世紀の国家像を描くには憲法問題を避けて通ることはできない。」と民主党の体質を描いている。(注1)

2000年7月30日朝刊の社説では、日本の排他的経済水域に中国の調査船が急増している問題について書くと同時に、新たなる国家の脅威について「防衛庁は、来年度からの次期防衛力整備計画にサイバー・テロ対策などを取り込む考えだが、なおこの問題についての認識が薄いと言わざるを得ない」と、サイバー・テロの脅威に対しての対策を求めている。(注2)

2000年9月28日朝刊の社説では、「有事法制のすみやかな整備も日米安保の円滑な運用に不可欠だ」と指摘、有事法制の制定を求めている。(注3)

2000年12月16日朝刊の社説では、RMAが「日本は大幅に遅れ」、「自衛隊の能力向上だけなく、日米安保の効果的運用の面からも危機感をもって取り組まなければならない」と日本の防衛の弱点を指摘、公明党の反対で来年度予算に空中給油機が組み込まれなかったことを「防衛の重要事項を後回しにして、選挙対策を優先したのだとしたら、責任ある与党だと言えない」と批判している。(注4)

 

 

 

2001年の論調

 

 2001年3月5日朝刊の社説で、「領域警備 早期の法整備へ政治の見識示せ」とし、「警察官職務執行法準用に無理がある」と、現在の状況が自衛隊が警察官職務執行法に縛られまともに動けないことに警鐘を鳴らしている。また、「各国は、領域警備を軍隊本来の任務に付随する任務と位置付けている。日本も、自衛隊の任務と明記するべきだ。」と提言している。(注5)

2001年8月31日朝刊の社説では、「これまで警察は短銃の使用に抑制的であり過ぎたように見える。それが警察官に歯向かう凶悪犯を助長した一面は否定できない。」と日本の警察が銃の使用を遠慮させられてきたことを指摘し、「戦後の日本は、何であれ『力』の行使はすべて罪悪視する傾向が長く続いてきた。」と、戦後日本の誤った思考回路を批判している。(注6)

2001年9月14日朝刊の社説で、「国際テロ対策 平和と秩序を守る日本の責任」と題し、「急がなければならないのは、テロに関する情報の収集と分析の体制強化だ。日本は国際テロ組織に関する海外の情報を米国などから全面的に頼っている。」とし、「警察庁はもちろん、外務省、防衛庁も各国情報機関との連携を強めるなど情報収集体制を強めるべきだ」と主張している。また日本には、「『スパイ防止法』がない。」と指摘、「その種の法整備の必要性の論議する必要がある」と説いている。そして、「緊急事態に迅速、機動的に対応するには、首相官邸に情報を集約し、首相が一元的に指揮することが欠かせない」と提言している。(注7)

 

 

 

 

2002年の論調

 

 2002年5月11日朝刊の社説で、「有事法制審議 不毛な神学論争を繰り返すな」と主張、左翼勢力による自衛隊批判論などを牽制している・(注8)

2002年8月3日朝刊の社説では、「防衛白書 軍事情勢の大変化に対応せよ」と述べ、「『テロとの戦い』国際社会の新たな脅威」とし、「安保政策を見直す必要がある。防衛力整備の分野では、情報通信などの先端分野技術の導入に力を入れるべきだ」と主張している。(注9)

2002年9月7日朝刊の社説では、「不審船問題 なぜ、そんなに及び腰なのか」とし、「無用な配慮を働かせていては、引き出せるものもひきだせない」、「毅然とした姿勢こそ、大事なメッセージである」と、与野党にある中国、北朝鮮を意識した主張を批判している。(注10)

 

 

 

 

2003年の論調

 

 2003年3月29日朝刊の社説で、「情報収集衛星 『宇宙の目』生かす体制拡充急げ」とし、「専守防衛に徹する利用であっても、安全保障にかかわることになると、一部野党の反対で、政府は自らの手足を厳しく縛ってきた。安全保障に衛星を利用するには、その衛星が『民生分野で一般化されていることが条件』とする従来の政府解釈に拘束されて今回の衛生の解像度も商用の観測衛星レベルに抑えられた」と、日本における偵察衛星論議の不毛さを指摘している。(注11)

2003年4月3日朝刊の社説では、「日本の防衛 『北』ミサイルへの対応を考えよ」と主張し、「当面必要なのはミサイル防衛だ」と主張している。(注12)

2003年5月26日朝刊の社説では、「専守防衛 『北』の脅威への見直し論議深めよ」とし、「他国に脅威を与えず、自衛のための必要最小限の防衛力しか持たない、という専守防衛の基本理念は、国民の間に定着している。その基本を維持しつつ、時代と情勢の変化に応じた合理的な防衛力整備を進めるというのが政治の責務だ」と主張している。(注13)

 

 

 

 

2004年の論調

 

 2004年6月28日朝刊の社説では、「自衛隊50年 組織や装備を大改革する時だ」と主張し、「厳しい財政上の制約がある以上、不要な装備や人員を削減しなければならない。自衛隊には、現在もなお古い組織、装備が残存している。例えば戦車は980両あり、うち470両が北海道に配備されている」と軍事的にはお粗末な考えである戦車不要論に近い主張を展開、「自衛隊の組織のスリム化を図るべきだ。大型ヘリを使って部隊を機動的に展開させることなどを検討するなど、組織や運用を根本から見直せば陸自は十五万人体制を維持する必要がなくなる」と、理想論の机上の空論を展開している。(注14)

2004年11月10日朝刊の社説では、「防衛計画の大綱で安全保障戦略は示されるべき。安全保障戦略が定まらないまま、防衛力整備構想を各省庁間で論議するのは順序が逆なのではないか。防衛計画の大綱を急ぎ、そのうえで整備構想をつめるのが筋」としたうえで、「財務省の(言う)削減は当然だろう」と東アジア情勢を考えない主張を展開し、「三自衛隊の統合運用、装備のハイテク化、情報収集・分析能力の向上などで。組織や装備の削減は補えるはずだ。」と人員的、金銭的に一番手間がかかる方法を代案に唱えている。(注15)

2004年12月11日朝刊の社説では、「スリムで筋肉質な自衛隊にすべきだ。」とすでに実行されていることを主張し、「財政上の理由だけで、国民の生命や国の安全を守る防衛力を補ってはならない」と、2004年11月10日朝刊社説の前言を翻している。(注16)

 

 

 

 

2005年の論調

 

 2005年2月16日朝刊の社説で、「自衛隊法改正 ミサイル防衛強化への一歩だ」と、自衛隊法改正を評価している。(注17)

 

 

 

 

2006年の論調

 

 2006年3月27日朝刊の社説で、「自衛隊統合運用 陸海空一体へ体制作り急げ」と三自衛隊の統合運用を勧めている。(注18)

 

 

 

 

 

2007年の論調

 

 2007年1月1日朝刊の社説「タブーなき安全保障論議を 集団自衛権『行使』決断せよ」において、「米国、中国、ロシアの3国は、北の核に対する圧倒的な核報復力、つまり核抑止力を保持している。日本が置かれている状況ほどの深刻な脅威ではない。」、「現在の国際環境下で、日本が核保有するという選択肢は、現実的でない。」、「核保有が選択肢にならないとすれば、現実的には米国の核の傘に依存するしかない。」、「同盟の実効性、危機対応能力を強めるため、日本も十分な責任を果たせるよう、集団自衛権を『行使』できるようにすることが肝要だ。」、「また、非核三原則のうち『持ち込ませず』について議論しなおしていいだろう。」と主張している。現実的防衛力増強となる日米同盟強化のために集団自衛権行使容認を勧めている。(注19)

 2007年2月28日朝刊の社説「日本版NSC 国家戦略の司令塔作りを急げ」において、「外交・安全保障には、資源・エネルギー政策や、政府開発援助も含まれる。その時々の政策案件によっては、少人数閣僚会議に、財務相、経済産業相、国土交通相ら関係閣僚や統合幕僚長が参加することも必要だろう。」、「閣僚会議が機能するためには、情報分析や各省庁間の調整を行う事務局がしっかりとしてなくてはならない。」と主張している。日本版NSCに具体的提言を行っている。(注20)

 2007年7月7日朝刊の社説「防衛白書 中国との安保対話を深めよ」において、「国際社会の一員として責任ある行動をとる。軍事分野の透明性を高める。」、「こうした点を中国に粘り強く求めることが地域の平和と繁栄につながる。」と主張している。日本の対中外交の弱腰姿勢からまっとうな方向への転換を促している。対話だけでなく力の均衡が必要なことも主張すべきである。(注21)2007年8月21日朝刊の社説「平和協力活動 自衛隊の武器使用を国際標準に」において、「武器使用基準を緩和し、国連平和活動(PKO)で認められている国際基準に合わせて、任務遂行のための使用を認めるべきだ。」と主張している。(注22)

 2007年8月26日朝刊の社説「次期戦闘機 日米同盟踏まえた機種選定を」において、「東アジアでは中国の空軍力の近代化が著しい。20~30年後の日本の安全保障環境を見据えれば、防衛省が最も高性能なF22の導入を追求するのは理解できる。」、「ただ価格、機体整備の利便性など、様々な条件を吟味し、総合的に判断すべきだ。F22を導入できないときに備えて、米英などが共同開発中のF35など、代替案を検討する作業も不可欠だ。」、「日米両政府は軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結した。情報漏えいには政府全体で取り組むべきだ。」と1980年代後半の次期支援戦闘機(FSX)をめぐる防衛摩擦の再来のよう情報漏洩に甘い日本に注意を促している。そして、「1980年代後半の次期支援戦闘機(FSX)をめぐる防衛摩擦の再来のようなことがあってはならない。」と主張している。FSX事件は日米双方の相互不信が両国家に大きな影響を与えたため、再検証の必要がある。(注23)

 

 

 

 

2008年の主張

 

 2008年1月7日朝刊の社説「新たな秩序へ やはり日米同盟が基軸だ 自衛隊派遣恒久法を」において、「日本単独では対処できない」、「超大国・米国が保持する軍事抑止力をはじめとする強大な力を、日本は安全は無論、世界の平和と繁栄の支えとするために、今日日米同盟の重要性は一層強まっている。」、「防衛協力の進展が重要」、と日米同盟の重要さを強調、「集団自衛権は『保有しているが、行使できない』という矛盾した憲法解釈の見直しも必要」と日米同盟の正常化を提言し、「安保理に委ねるのは国家主権の放棄に等しい。安保理決議が無くても、国会の承認があれば、自衛隊を派遣できる枠組みを定めるべきだ。」と国連重視の姿勢を批判し、さらに「武器使用基準を見直すべき」として、海外における自衛隊運用の非合理性を正そうとしている。(注24)

 2008年6月1日朝刊の社説「クラスター禁止 安全保障上の代替策を探れ」では、「日本が同意を決断したのは、妥当な判断だろう」と政府の決定を支持し、「米軍との防衛協力も含め、戦術面の見直しなども検討する必要があるかもしれない。」とクラスター爆弾禁止後の対応を模索している。(注25)

 2008年6月19日朝刊の社説「日中ガス田合意『戦略的互恵』へ第一歩だ」において、「海洋国家日本として、主権と権益を守る体制を一層強化していかなければならない」と日中合意を評価しながらも、一定の注意を促している。(注26)

 2008年9月22日朝刊の社説、「ミサイル防衛 空自も迎撃に成功した」において、「ミサイル防衛は、単に迎撃ミサイルを配備するだけでは有効に機能しない。ミサイルを探知する警戒管制レーダーFPS5や、防空情報を一元管理する空自の自動警戒管制組織(BADGE)システムとの適切な連結が不可欠だ。ミサイル発射の事前情報や早期警戒情報を持つ米軍との情報共有や連携強化も重要となる」として、防空体制の強化とアメリカ軍との関係強化を主張している。(注27)

 2008年8月18日朝刊の社説、「防衛大綱改定 陸海空の予算配分見直せ」において、「現在の陸海空の予算配分が、冷戦時とほぼ同じというのはおかしい。当面は陸自の予算を減らし、海自と空自を増やす方向で議論を進めるべきだろう。現在の大綱では、陸自の定員は15万5000人、戦車と火砲は各600門に減らされたが、一層の削減を検討する必要がある。」と主張している。陸海空の予算配分の見直しは当然であるが、東アジア情勢の緊迫化に伴う防衛力拡大の必要性にはまったく言及していない。また、陸戦の基本である兵士の頭数や火力をまったく考慮していない提言である。(注28) 

 

 

 

 

2009年の主張

 

2009年1月20日朝刊の社説「防衛大綱改定 国際平和活動の拡充目指せ」において、「自衛隊には依然冷戦時代の名残がある。旧ソ連の着上陸侵攻を想定した北方重視の部隊編成や装備体系だ。」と批判しているが、ロシアの脅威や広大な演習場が北海道以外にない現実を無視している。また、「陸自の定数や戦車・火砲などの一層の削減に取り組まなければならない」と主張、既成概念にとらわれた国防思想から踏み出せていない。(注29)

2009年6月10日朝刊の社説、「武器輸出 3原則の緩和に踏み出す時だ」において、「自国の防衛のために武器を調達すること自体は、本来否定されるべきではない。」と戦後日本の左翼勢力を中心とした国防否定、軍事否定の考えを批判している。また「忘れてはならないのは、防衛費の減少が続く中で、武器を輸出できない日本の防衛産業の経営が悪化していることだ」と、日本の防衛の根幹を揺るがす事態に警鐘を鳴らしている。(注30)

 2009年8月5日朝刊の社説「大胆な提言を新大綱に生かせ」において、「国際的な安全保障環境が変化する中、日本の平和と安全を確保し続けるには、従来のタブーを排し、防衛政策や自衛隊の部隊編成・装備を見直すことが肝要だ。」と主張している。(注31)

 2009年7月23日朝刊の社説「防衛白書 脅威を直視し防衛力を高めよ」において、「装備調達の効率化は当然としても、そろそろ防衛費の漸減に歯止めをかけるべきではないか。」と、提言している。(注32)

 2009年8月23日朝刊の社説「日米同盟 責任分かち信頼強化せよ」において、「北朝鮮の核とミサイルの脅威が顕在化した今、日米同盟を強化し、防衛協力の実効性ト抑止力を高める必要性がある」と主張している。(注33)

 2009年8月26日朝刊の社説「アジア外交 膨張する中国とどう向き合う」において、「中国軍の増強も、この地域にとって懸念材料だ」と指摘している。(注34)

 2009年9月30日朝刊の社説「東アジア共同体 経済連携の強化で環境整備を」において、「『東アジア共同体』という言葉だけが先走ってはいないか。」、「だが欧州連合(EU)をモデルにするのは無理がある。東アジアは、政治体制の異なる多様な国からなる。北朝鮮の核ミサイルの脅威や中国の軍事的台頭などがあり、冷戦終結後の欧州のような安全保障環境が整っていない。」と指摘している。(注35)

 

 

 

 

 

注1         2000年7月26日

注2        2000年7月30日

 

 

 

注3        2000年9月28日

注4        2000年12月16日

注5        2001年3月5日

注6        2001年8月31日

注7        2001年9月14日

注8        2002年5月11日

注9        2002年8月3日

注10        2002年9月7日

注11        2003年3月29日

注12        2003年4月3日

注13        2003年5月26日

注14        2004年6月28日

注15        2004年11月10日

注16        2004年12月11日

注17        2005年2月16日

注18        2006年3月27日

注19        2007年1月1日

注20        2007年2月28日

注21        2007年7月7日

注22        2007年8月21日

注23        2007年8月26日

注24        2008年1月7日

注25        2008年6月1日

注26        2008年6月19日

注27        2008年9月22日

注28        2008年1月18日

注29        2009年1月20日

注30        2009年6月10日

注31        2009年8月5日

注32        2009年7月23日

注33        2009年8月23日

注34        2009年8月26日

注35        2009年8月30日

 

 

 

 

 

第3章 朝日新聞における論議

 

 

 

2000年の論調

 

2000年5月17日朝刊の社説で、「夢想は疑心暗鬼を呼ぶ ミサイル防衛」と題し、「この構想は、いわば米国のひとりよがりではないか。あまりにも素朴な技術振興は根底にありはしないか。冷戦の終了で断ち切ったはずの軍拡が、また始まることになる。警戒しつつも、外交的な手段を尽くして、こうした国々を国際社会に受け入れる。その努力こそが安全保障の王道であろう。」と主張している。(注1)

2000年8月11日朝刊の社説では「新潮流の備えこそ 自衛隊50年」と題し、「OECDがまとめた主要国の購買力平価(データのない中露は除く)で比較すると、日本の防衛費は米、英に次ぐ規模に達している。先の南北首脳会議を機にようやく緊張緩和の兆しが見える朝鮮半島を、冷戦状態に引き戻すような敵視政策は許されまい。」と主張している。一番敵対的で拡張主義の軍事大国である中国、ロシアを無視し日本が軍事大国だと唱え、さらに朝鮮半島情勢の判断を間違える朝日新聞の安全保障感覚のなさには呆れるしかない。さらに「TMDは中朝などの警戒感が強く、技術面、コスト面での難点も多い。開発を断念すべきである。」と続け、具体的安全保障政策がまったくみえてこない。(注2)

2000年12月16日朝刊の社説では、「『買い物』は何のため」と題し、「次期防衛力整備計画の総額はもっと絞り込むべきだった。周辺諸国に働きかけ、ともに軍縮を進めることは財政上も必要ではないか。さらに思い切った縮小が必要でないか。いったい、どこのハイテク戦車が攻めてくるのか、解せない話だ。」と主張している。中国の軍拡など東アジア情勢を無視した夢想ばかりの主張である。(注3)

 

第7項  2001年の論調

 

 2001年1月7日朝刊の社説「同盟の虚と実と」では、「核の脅しをたてにした安保がいつまでも続くとは思えない。」と理想論を述べている。(注4)

2001年5月10日朝刊の社説「はっきりNOと言え ミサイル防衛」では、「集団自衛権との関係でも、論議を引き起こすことになるのではないか。米国の新ミサイル防衛構想に対抗して中国が核戦力増強に走る-これほど愚かで危険なシナリオはない。同盟国として日本が米国に正面から意義を唱える。いまなすべきはそれだ。」と主張している。(注5)

2001年6月29日朝刊の社説「対地訓練は必要なのか 空自誤発射」では、「対地攻撃訓練を続ける必要性を根本から考え直してみるべきではなかろうか。専守防衛の日本で対地攻撃支援射撃が必要になるのは、日本の領土に対しての大規模な侵攻があった場合であろう。冷戦の終わった今、そんな想定にどれほど現実性があるのだろう。」と主張している。防衛には冗長性が必要ということを全く理解していない主張である。(注6)

2001年7月15日朝刊の社説では「北朝鮮や中国の軍事動向には、確かに不透明な部分も多い。だからと言ってその脅威を必要以上に言い立て両国の警戒心をたきつけ、より大きな脅威を招く。それほど愚かなことはない。両国を国際社会の責任あるパートナーとして迎える努力こそが最良の防衛政策だと肝に銘じるべきだ。」と理想論だけを展開している。(注7)

2001年11月19日朝刊の社説「市民の目による検証を 拳銃使用」では、「『けん銃取り扱い規範』改正。39年ぶりの本格的見直しである。発砲が適正だったかどうか、警察内部だけでなく、市民の目による検証が必要だ」と主張している。(注8)

 

 

 

 

2002年の論調

 

 2002年1月30日朝刊の社説「同盟を吟味する時だ 英米と日米」では、「英国ほどの距離感を日本は保てるのか。米国に直言する気概のないまま英米のような緊密な軍事協力関係が将来のお手本だというのなら、願い下げである。」、「どんな同盟にも寿命がある。帝国主義時代や冷戦期とは異なる新たなる脅威への対応に、2国間同盟はどこまで有効か。くもりのない目で吟味すべきだ。だからといって、日本が日米安保や専守防衛の枠組みを離れ、自主防衛に踏み出すことは賢明な選択ではあるまい。より普遍的な集団安保の仕組みを考えたい。」と主張している。(注9)

2002年4月28日朝刊の社説「米国にもの申してこそ 独立50年」では、「一歩一歩深まる日米の防衛協力。ソ連が崩壊したとはいえ、東アジアを含む不安な国際情勢にあって、安保条約を維持する価値はある。もちろんそれはアジアの安定のためであり、日本国民の安心のためでなければならない。だが、もし米国自身が世界の安心を、安定を乱す存在になってしまったらどうなのか。」と主張している。(注10)

2002年8月4日朝刊の社説「脅威の列記はいいが 防衛白書」で、「しかし極東ロシア軍の変化については、脅威の圧倒的な削減による防衛政策の見直しに踏み出さない。必要なのは、北海道に手厚い冷戦時代の部隊配置をやめ、警察などとともに、テロやゲリラ上陸に機敏に備える態勢を早急に整えることだ。」と主張している。(注11)

2002年12月30日朝刊の社説「自衛隊の統制者は誰か 統合運用」では、「文民統制には三つの段階がある。防衛庁内部の文官による自衛隊管理、首相による防衛庁、自衛隊に対する指揮統制、自衛隊の行動に対する国会の監督と承認である。」と誤った認識をさらけ出している。本来、文官(軍政)と自衛隊(軍令)とは対等な立場であり、指揮統制する首相が絶対的立場である。(注12)

 

 

 

 

2003年の論調

 

 2003年2月5日朝刊の社説「軍事費突出を憂う 米国予算」において、「今回の04年度予算案でも、国防費は4,4%、国防費を除く米本土の安全保障費は7,6%増加させるという。あまりにもぬきんでた軍事力を持つと、国際的な協調や外交での解決軽視につながりかねない」とアメリカの軍事費だけを主張、中国やロシアに関しては口をつぐんでいる。(注13)

2003年3月29日朝刊の社説では「専守防衛に徹せよ 偵察衛星」という的外れな主張を展開している。(注14)

 

 

 

 

  2004年の論調

 

 2004年1月11日朝刊の社説「平和のため肩組もう カナダ」では、「カナダが大事にしてきた多国間外交の伝統をぜひ守ってほしい。日本とカナダが役割を分担して平和を築くための戦略を練る。そんなソフトな同盟を形づくっていきたい。」と主張している。日本とカナダのおかれている地政学的な環境も考慮すべきである。(注15)

2004年1月15日朝刊の社説「困った防衛庁長官だ 武器輸出」では、「ともすると見過ごされがちなのは、日本にとってこの政策が外交上の大きな『武器』になっていることだ。いや、何より、アジアの国々に無用の警戒心を与えず、信頼を得るための大きな財産になっている。」と主張している。東南アジア各国からは日本の武器、自衛隊の中古兵器の引き合いが多い。(注16)

2004年5月8日朝刊の社説「重し失う小泉政権 福田長官辞任」では、「しかし、自衛隊の派遣には慎重な姿勢をにじませることもあった。米軍を支援する自衛隊の活動範囲や内容を広げることにも批判的だった。」、「防衛庁の予算の増額を求めたときだ。福田氏が石破長官を厳しく批判し、逆に戦車や護衛艦などの正面装備を削減する結果となった。福田氏は、海外での自衛隊の活動はあくまでも非軍事的であり、抑制的あるという考えを貫こうとしていた」と主張し、左翼的な心情を持つ福田官房長官にシンパシーを表明している。(注17)

2004年6月30日朝刊の社説、「『軍隊でない』を誇りに 自衛隊50年」では、「自衛隊は他国で戦争をしない。それが日本にとって国益の源泉であり、誇りであることをあらためて刻みたい。」と主張、国際情勢の変化に対応できない考えを示している。(注18)

2004年10月5日朝刊の社説「防衛懇報告 期待はずれだった」では、「気掛かりは、武器輸出3原則の緩和をはっきりと打ち出したことだ。」と懸念を表明している。(注19)

2004年12月5日朝刊の社説「防衛大綱 あれもこれもは通らぬ。」では、「次期防には射程数百キロの地対地ミサイルの研究が盛り込まれている。敵基地攻撃力を高めることにつなごうというのなら、専守防衛の原則をゆるがすばかりか、日本周辺の緊張を高める恐れがある。」と主張している。(注20)

 

 

 

 

 

2005年の論調

 

 2005年12月11日朝刊の社説「前原発言 外交センスを疑う」では、「もうひとつ気になる発言がある。中国の軍事力は『現実的脅威』であり、『毅然とした対応で中国の膨張を抑える』などと語ったことだ」と、中国の軍事力急増の事実を認めようとしていない。(注21)

 

 

 

 

 

2006年の論調

 

 2006年7月12日朝刊の社説「先制攻撃論 短兵急に対応するな」では、「専守防衛を変更すれば、北朝鮮だけでなく、中国、韓国などの周辺国を刺激するのも避けられない」と主張している。(注22)

2006年11月11日朝刊の社説「核を持つ 日本を危うくするだけだ」では、「この地球上に核を増やすのではなく、なくす方向で世界と自分自身の安全を考える。それが日本の役割であることを忘れてはならない。」と理想論を述べている。(注23)

2006年11月30日朝刊の社説では、「防衛『省』 あらためて昇格に反対する。」、「『不戦60年』と言うべきではないのか。軍事に重い価値を置かない、新しい日本のあり方の象徴であった。国防省や防衛省でなく『防衛庁』としたのも同じメッセージである。」と述べている。(注24)

 

 

 

 

2007年の論調

 

 2007年2月28日朝刊の社説「日本版NSC まだ生煮えでないか」において、「今日の安全保障にはエネルギー、環境、さらには人権の問題など幅広い視野が求められる。そうした複雑化した現代の『安全』への目配りはあまり感じられない。」、「軍事面ばかり突出してはバランスを欠くことになる。」と主張している。朝日新聞はNSCがどういう組織かまったく理解してないようである。NSCによって政治主導の国家戦略をおこなおうとしているのに、これを否定すればまた官僚主導になってしまう。(注25)

 2007年5月3日朝刊の社説「日本の新戦略 提言 社説21 地球と人間」において、「核軍縮、核実験禁止などでインドから明確な約束がない限り、日本はインドへの原子力協力に賛同すべきではない。」、「(自衛隊を)軍隊とはせず、集団自衛権は行使しない」、「国連安保理決議にもとづく平和構築活動に参加していく」、「非核を徹底して貫き、文民統制をきちんと機能させる」、「再び軍隊を持たないと誓った戦後の出発点をゆるがせにしたくないと思う。」、「憲法の理念のもとに必要最小限の防衛力として自衛隊を持つこと。」、「非核の原則を盛り込む」、「国連による平和維持活動(PKO)に積極的に参加する方針と原則を書く」、「自衛隊の規模と装備については、国際環境を見ながら、過大にならないよう見直していくべきである。」、「必要最小限の防衛力の行使を認めた憲法9条から逸脱し、際限なく自衛隊の役割が広まってしまうからだ。」と主張している。対中国政策にとって重要なインドを蔑にし、理想論と日本だけが軍事抑制するというマゾヒズムに満ちた主張である。(注26)

 2007年12月4日朝刊の社説、「防衛省改革 解体的出直し考えよ」では、「『省』にふさわしい組織や人材を備えていなかった。『庁』に戻して出直しさせるくらいの覚悟で、改革に取り組む必要がある。」と主張している。不祥事があれば格下げする、という発想を持っていれば国家規模の組織は何もできなくなる。(注27)

 

 

 

 

 

2008年の論調

 

 2008年5月10日朝刊の社説「宇宙基本法 あまりに安易な大転換」において、「日本が新たな軍事利用に乗り出すことは周辺の国々への緊張を高めないか」と、主張している。朝日新聞は中国の宇宙の軍事利用にはあまり言及していない。(注28)

 2008年5月13日朝刊の社説「クラスター爆弾 鮮やかな首相の決断」において、「人道面と安全保障面のバランスを考えることが必要だ。これが従来の日本の立場だった。」、「反対を押し切っての福田首相の決断である。」と、福田首相を称賛している。日本の安全保障を考えない安易な人気取りを称賛している。(注29)

 

 

 

 

2009年の論調

 

 2009年5月25日朝刊の社説「日本の宇宙開発 技術は軍より民で磨け」において、「軍事ばかりに目が向いていると、日本の宇宙開発は先細りになりかねない、」と主張している。日本の宇宙開発の現状がほとんど民間であるという事実にまったく目をむけていない。(注30)

 2009年6月6日朝刊の社説「『北の核』と日本 味方増やす防衛論議を」では、「だが、だから日本独自の軍事的備えを強めよという主張は、同盟の基盤である相互信頼をひび割れさせる。」と主張している。日本の防衛力増強が日米同盟に悪影響をあたえるという、意味不明な主張である。対等な関係になるには対等な軍事力、努力が必要である。朝日新聞は日本の対アメリカ従属という関係を是認している。普段の対米従属批判とまったく反対の認識、深層心理をさらけ出している。(注31)

 2009年10月26日朝刊の社説「東アジア 共同体をともに磨こう」において、「その姿はまだ見えないが、欧州連合(EU)とは別の道をたどることは共通理解と言えるのではないか。」と主張、自由と民主主義を追求するEUとは異なる、独裁を是認するアジアを認めている。(注32)

 2009年12月10日朝刊の社説「普天間問題 日米関係の危機にするな」において、「日米関係の基盤は安保条約であり、日本が基地を提供するのは不可欠の要件である。」と主張している。しかしその割には合意があった普天間基地移転をこじらせた鳩山政権には一切言及がなく、朝日新聞の今までの反米姿勢に対して反省がまったくない。(注33)

 

 

 

 

 

 

注1        2000年5月17日

注2        2000年8月17日

注3        2000年12月16日

注4        2001年1月7日

注5        2001年5月10日

注6        2001年6月29日

注7        2001年7月15日

注8        2001年11月19日

注9        2002年1月30日

注10        2002年4月28日

注11        2002年8月4日

注12        2002年12月30日

注13        2003年2月5日

注14        2003年3月29日

注15        2004年1月11日

注16        2004年1月15日

注17        2004年5月8日

注18        2004年6月30日

注19        2004年10月5日

注20        2004年12月5日

注21        2005年12月11日

注22        2006年7月12日

注23        2006年11月11日

注24        2006年11月30日

注25        2007年2月28日

注26        2007年5月3日

注27        2007年12月4日

注28        2008年5月10日

注29        2008年5月13日

注30        2009年5月25日

注31        2009年6月6日

注32        2009年10月26日

注33        2009年12月10日

 

 

 

 

 

第4章 毎日新聞における論議

 

 

 

     2000年の論調

 

 2000年6月23日朝刊の社説で「安保条約40周年 平和のための構想示せ」と主張(注1)、2000年11月25日朝刊の社説で「防衛庁、自衛隊 意義あるNGOとの連携」を提言している。(注2)

2000年12月16日の社説では、「次期防『コンパクト』化反する」、「空中給油機を4機導入を決めてしまった。」、「海自が導入する新型護衛艦2隻は1万3500トンと、これまでの護衛艦より3倍近いおおきさのものだ。『軽空母』なみと評されているが、これほど巨大な艦艇がなぜ必要なのか。」、「今回の次期防を見ると、これに逆行しているのは明らかだ。『大綱』策定から5年が過ぎたが、この間、アジア太平洋の軍事情勢は大きく変わった。」と左翼平和主義に基づく主張を展開、現実を見ていない。(注3)

 

    2001年の論調

 

 2001年9月1日朝刊の社説では「警察官 短銃使用の条件は整っているか」と題し、「現状のまま使用要件を緩和すれば、第三者を巻き添えにしたり、無用な事故を招くことは必至ではないか。射撃術の総体的なレベルアップを進めることが先決と言わざるを得ない。」と主張、凶悪犯罪の存在する実情を考えていない。(注4)

 

第3項     2002年の論調

 

 2002年3月21日朝刊の社説「有事法制 憲法の原則踏まえ検討を」では、「憲法18条が『何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない』とし、19条が『思想及び良心の自由は、これを侵してはならない』と想定していることに反してないと言えるだろうか。」、「憲法上疑義がある強制力を伴う法制化は再考を求めたい」と主張している。(注5)

2002年4月22日朝刊の社説「考えよう憲法36 自衛隊」では、「埋め続けた9条とのミゾ、憲法の規範性から見れば問題がある。」と、自衛隊の存在を解いている。(注6)

2002年5月3日朝刊の社説「タブーなき論議の空気を歓迎」では、「守るべきは守り、改めるべきは改めるという『原点』に立って」と、憲法論議は評価している。(注7)

 

 

 

 

     2003年の論調

 

 2003年3月29日朝刊の社説「偵察衛星 宇宙の平和利用に新決議を」では、「『防衛目的』に徹し、近隣諸国や国民に誤解を与えないよう」と主張している。(注8)

 2003年8月18日の社説、「文民統制 軍事コントロールの見識磨け」では、「論議の質を高めるには、安全保障の知識を持つ政策担当スタッフを充実させなければならない。」と提言している。(注9)

2003年9月8日朝刊の社説、「ミサイル防衛 防衛政策の根本から議論を」では、「中国や韓国には十分な説明が必要である。他の防衛予算削減は不可避だ。」と主張、日本のおかれた軍事的環境をまったく理解していない。(注10)

2003年12月22日朝刊の社説「防衛力の見直し 国民の意見に耳傾けよ」では、「防衛力の見直しは、軍事のリストラが大きな課題となる」と主張、リストラ本来の意味、再構築が理解できているのかが気になるところである。(注11)

 

 

 

 

 

   2004年の論調

 

 2004年4月28日朝刊の社説「防衛大綱見直し 慎重かつ厳格な論議を」では、「前回の見直しでも装備の縮小などが行われたが、戦車や哨戒機など冷戦時代の装備は大胆に削減しなければならない。平和憲法の順守と軍事大国にならないとの決意は大綱の基本理念である。」と主張している。冷戦時代や中国との新・冷戦、ポスト冷戦時代も装備はそれほど変わらない。毎日新聞は冷戦激化時代も軍事力削減のみを主張してきた。軍事力削減しか主張できず、現実的代案がまったくない。(注12)

2004年7月1日朝刊の社説で「自衛隊50年 『専守防衛』で国民の信頼を得た」と主張しているが、毎日新聞は専守防衛にも否定的な姿勢であった。(注13)

2004年7月9日朝刊の社説「防衛のあり方 『規模の縮小』は時代の要請だ」では、「陸は『戦車及び火砲』、海は『護衛艦、固定翼哨戒機』、空は『作戦用航空機』をあげた。いずれも冷戦時代の主力装備である。主力の90式戦車は1両八億円するが、車体が大きすぎて通行できる道路や橋が限られ、とても機動力に優れているとはいえない。各地に即応性の高い部隊を配置し、核や生物兵器、化学兵器に対応できる部隊も必要だ。」と主張している。冷戦時代も冷戦後の時代も装備はたいして変わっておらず、戦車の有効性が再認識される軍事の実情とかけ離れた主張を展開するなど軍事的知識のなさをさらけ出している。(注14)

2004年11月29日朝刊の社説、「新防衛大綱 自衛隊も変革、再編が必要だ」では、「米軍のトランスフォーメーションは、自衛隊にとって他人ごとではない。」と述べているが、トランスフォーメーションによって大幅に増強される戦力も多く、このことは毎日新聞とって許容できるのか。(注15)

2004年12月11日朝刊の社説「新防衛計画大綱 多機能防衛に厳格な節度を」では、「日中の緊張が高まらないよう外交努力が必要なのは言うまでもない。専守防衛が基本理念であり、多機能防衛もおのずから節度あるものでなければならない。」と主張している。(注16)

 

 

 

 

 

    2005年の論調

 

 2005年1月6日朝刊の社説「戦後60年で考える 外交安全保障  トータル志向の外交を」では、「『軽武装、経済重視』政策をとり、国民も受け入れてきた。米戦略の一翼を担おうとしている。安保面での日米一体化は着々と進んでいる。ところが逆にアジアとの関係は停滞している。」と主張している。東南アジアと日本の良好な関係はいっさい無視されている。(注17)

2005年8月3日朝刊の社説「安保環境 アジアとの防衛対話広げよ」では、「中露や韓国などアジア各国との防衛対話の話を積極的に広げていかねばならない。」と、特定国ばかり偏った主張をしている。(注18)

 

 

 

 

 

     2006年の主張

 

 2006年7月12日朝刊の社説「敵地攻撃論 冷静かつ丁寧な論議が必要だ」では、「攻撃は米軍に任せるというのが日本の防衛戦略だ。『敵地攻撃論』に基づいて攻撃兵器を導入するのであれば、専守防衛の防衛政策を大きく転換しなければならない。行きつく先は自主防衛論になるのではないか。そうなれば防衛力を大幅に増強し『平和国家』の看板は下ろさねばならない。」と主張している。米軍との一体化を非難しておきながら、攻撃という危険で難しい任務を米軍に任せるという虫のいい発想である。また、オーストラリアなどは軍事力を小さくするために攻撃力重視の戦略をとっている。毎日新聞は知識がなさすぎる。(注19)

2006年8月13日朝刊の社説「防衛白書 同盟強化に国民の理解深めよ」では、「平和を維持するためにまず必要なのは外交努力である。」、「日米同盟の強化の実態だけを先行させるべきではない」と主張している。外交とは力の誇示であるという現実を全く認識していない。(注20)

 

 

 

 

 

 

     2007年の論調

 

 2007年1月28日朝刊の社説「衛生撃墜実験 中国に宇宙の非軍事化迫れ」において、「中国が偵察衛星を撃墜する能力を持つことがはっきりと証明された以上、ミサイル防衛へどのような影響があるのか、政府はまず国民に明確に説明すべきではないか。破片はその次だ。」と主張している。中国の衛星撃墜実験による宇宙ゴミの発生は蔑にされている。(注21)

 2007年2月28日朝刊の社説「日本版NSC 器だけでは機能しない」では、「官邸機能を強化し、省庁間の縦割りの弊害を除去して、速やかに立案するという、報告書が目指す方向は正しい。」、「事務局長には経験豊かで官僚ににらみがきく人材が必要だ。報告書は自衛官の活用も提言しているが、事務局スタッフは外交、安全保障の専門家を配置すべきだ。」と主張している。(注22)

 2007年5月4日朝刊の社説「安全保障政策 国民への情報提供が必要だ」では、「機密情報の管理は当然としても、一方で安保政策は情報公開による国民理解が前提であることを改めて確認しておきたい。」と、主張している。(注23)

 2007年6月12日朝刊の社説、「日豪 戦略的な意図知りたい」において、「一昨年の東アジアサミットでは将来の『東アジア共同体構想』の基盤を東南アジア諸国連合プラス3(日中韓)にするのか、さらにインド、豪州、ニュージーランドまで広げるのか、参加国の考え方の違いが生じた。日本は後者の立場だが、日本の意図が不鮮明だと中国をはじめアジア諸国に余計な不安をもたらすことになりかねない。」と、主張している。日本とオーストラリアの協力は安全保障的、経済的に当然だが、中国にお伺いをたてなければならないというのなら、日本は中国の属国ということになる。(注24)

 2007年7月7日朝刊の社説「防衛白書 信頼回復に緊張感を持て」において、「政策官庁を強調するのはその裏返しでもあり、白書からは省になり外務省と対等になったという『気負い』も読み取れる。」、「しかし、50年にわたって庁だったのは、戦前、軍部の独走を許した反省から内閣府の外局として首相の目の行き届く組織にしておこうという歴史があったことも忘れてはならない」と、主張している。防衛庁を支配下に置き、権益にさずかろうとした多くの他省庁官僚の腐敗も忘れてはならない。(注25)

 2007年8月15日朝刊の社説「暮らしの安全保障が必要だ 『民の現実』をみつめよ」において、「『愛国心』や『伝統』を憲法に書きこめば、それで立派な国ができると錯覚したのではないか。『国のかたち』への過剰な思い入れを捨て、『民の現実』を優先していかなければならない」と、主張している。(注26)

 

 

注3         2000年6月23日

注4         2000年11月25日

注5         2000年12月16日

注6         2001年9月1日

注7         2002年3月21日

注6         2002年4月22日

注7         2002年5月3日

注8         2003年3月29日

注9         2003年8月18日

注10        2003年9月8日

注11        2003年12月22日

注12        2004年4月28日

注13        2004年7月1日

注14        2004年7月9日

注15        2004年11月29日

注16        2004年12月11日

注17        2005年1月5日

注18        2005年8月3日

注19        2006年7月12日

注20        2006年8月13日

注21        2007年1月28日

注22        2007年2月28日

注23        2007年5月4日

注24        2007年6月12日

注25        2007年7月7日

注26        2007年8月15日

 

 

 

 

 

第5章 日本経済新聞での論議

 

 

 

 

     2000年の論調

 

 2000年3月8日朝刊の社説「中国の軍備拡大への疑問」では、「日本からの対中援助に疑問の声が起こらないようにしてもらいたい。」と、日本として当然のことを主張している。(注1)

 

 

 

 

   2001年の論調

 

 2001年3月18日朝刊の社説「中国人民解放軍の透明度向上を」において、「隣国としては懸念を抱かざるを得ない」と主張している。(注2)

2001年9月4日朝刊の社説「米の対中核政策見直しに反対する」において、「中国のIRBMの射程内にある日本は、その近代化に安閑とはしてられない。MDに対する理解と引き換えに、中国の核戦力を認める。米の対中核政策見直しに反対する。」と、日本への核の脅しと、それと取引するアメリカを批判している。(注3)

2001年12月24日朝刊の社説「海の警備には強い対応も選択肢に」において、「国際犯罪に対応するには毅然とした手段を選択肢にいれるべき」と主張している。(注4)

 

 

 

 

 

   2003年の論調

 

 2003年3月29日朝刊の社説「偵察衛星の眼力は十分か」では、日本の偵察衛星の性能に疑義を唱えている。(注5)

 

 

 

 

 

     2004年の論調

 

 2004年1月14日朝刊の社説「民主党の国連待機部隊構想への疑問」において、「広い意味での防衛費増大につながる。」、「日本としての自主的な判断の放棄につながる」、「安保理決議だけを判断基準にすれば対米ロ中仏英のいずれかの追随する結果になる」と、民主党の浅い政策に反対している。(注6)

 2004年5月2日朝刊の社説「動き出した『防衛計画大綱』の改訂」において、「厳しい財政状況の中で防衛費は増やせない」、「三自衛隊の装備には冷戦型の色彩が強い」、「ミサイル防衛、テロ、国際協力活動など、あらたな課題として一層重視される」と主張している。アジアでは大軍拡、新冷戦が始まっているのに見識を疑われる主張をしている。(注7)

 2004年7月1日朝刊の社説「50歳にして発想の転換をかえられるか」において、「安全保障を財政の理由だけで考えるわけにはいかない。防衛庁・自衛隊内部に発想の転換が十分に浸透しているだろうか。」と主張している。(注8)

 2004年10月5日朝刊の社説「『弾力的防衛力』は自衛隊の構造改革だ」において、「『多機能弾力的防衛力』、陸は戦車などの重武装部隊の思い切った縮減、効率化、各種事態に対応できる普通科要員の移動、海は対潜戦中心の路線を改め、弾道ミサイル監視、不審船対応などへ重点を移動する。空は航空部隊を縮減し、ミサイル防衛能力を強化する。イラク戦争に参加した英国陸軍は陸自より人員が少ない。財政の現実をみても効率化は避けられない。」と主張している。軍事的見識のなさ、国際情勢への理解力のなさがよくわかる主張である。イギリスは国土面積、国力、地政学的にも日本より陸軍力が少なくて当然であるのに、環境の違う日本にそれを当てはめる暴挙にでている。(注9)

 2004年11月9日朝刊の社説、「防衛庁はさすが抵抗勢力か」において、「冷戦型装備の縮減は当然」、「戦車から普通科に要員を移動」、「中国原子力潜水艦への対応もソ連原子力潜水艦への対処とは別の発想がいるはず」と主張、財務省と財務省主計官・片山さつき氏、小泉純一郎首相の主張の言いなりになっている。(注10)

 2004年12月11日朝刊の社説「戦略環境の変化で自衛隊は変われるか」において、「戦車、十分な削減ではない」、「空、多機能型戦闘機を装備する」と空理空論の主張を展開している。(注11)

 

 

 

 

 

     2007年の論調

 

 2007年7月8日朝刊の社説「防衛白書で再生誓った重み」において、「中国の軍備拡大に対し、これまでより強い警戒感を示した」と、評価している。(注12)

 2007年2月28日朝刊の社説「NSC生かすも殺すも首相の力」において、「大統領制の米国モデルをそのまま輸入するのではなく、議院内閣制の実情に合った組織に向けた試行錯誤がいる」と、日本型NSC組織を提言している。(注13)

 2007年3月2日朝刊の社説「クラスター爆弾禁止に動け」において、「一般市民、特に子供に大きな被害を及ぼす非人道的兵器クラスター爆弾は禁止すべきである。」、「日本も禁止に動くべきだ。」、「締約国会議で米ロなどを含めた交渉が始まる場合には、禁止の方向で交渉を主導すべきではないのか。」と主張している。感情的な主張であり軍事的合理性が低い。(注14)

 2007年6月23日朝刊の社説「現実見据えた宇宙基本法に」において、「『平和利用』を『非軍事』としたことから、自衛隊の宇宙利用にも制約がかかっている。」、「今後、防衛省が高性能の偵察衛星を保有しようとしても、拡大解釈には限界がある。」、「国際情勢を考えれば、安全保障に絡む宇宙利用をいつまでもタブー視できない。」、「平和利用を定義しなおすにしても、利用の範囲は明確にせざるを得まい。」、「定義にあいまいさを残すと宇宙軍拡に巻き込まれる恐れがあるからだ。」と、主張している。自衛隊の適切な宇宙利用を提言している。(注15)

 

 

 

 

 

   2008年の論調

 

 2008年5月16日朝刊の社説「宇宙基本法、具体化への課題」では、「宇宙軍拡への歯止めは何らかの形で必要だろう。」と主張している。(注16)

 2008年5月31日朝刊の社説「米中ロもクラスター爆弾廃止を」において、「今回、防衛評論家らの消極論をふまえつつも条約案への同意を提示した首相の決断を評価したい。」と主張している。日本の安全保障を全く考えず、世間に媚びを売り人気獲得に走る福田首相の安易な考えを評価している。(注17)

 2008年6月26日朝刊の社説「柳井報告を軽んじるな」では、集団自衛権見直しに関する報告書である安全保障の法的基盤の再構築に関する座談会について言及、「集団自衛権は保有するが、その行使は憲法上できないとする歴代政府の解釈は、自衛隊が国際協力活動をする際の制約となっている。福田首相が報告書に食わず嫌いであっては困る。それは日本の安定にとって困るからだ。」と主張、6月24日に柳井氏が首相に報告書を提出し、前日には段取りが決まっていたにもかかわらず、直前まで公表しなかった首相官邸、福田首相の安全保障への無理解、不誠実を批判している。(注18)

 

 

 

 

     2009年の論調

 

 2009年3月1日朝刊の社説「小沢政権に不安を感じる」では、「鳩山由紀夫幹事長は『日本の軍事力を増強するのではない』とする一方で、米国に頼らずに、ミサイルに対する『レーザー防衛網をつくる』などと釈明するが、意味不明に近い。」と批判している。安全保障や軍事、防衛を全く理解しない民主党であったが、政権を取ることになった。(注19)

 2009年7月19日朝刊の社説「対中警戒強めた防衛白書」では、「中国が軍事費を増やし、軍の近代化を進めているのは、国際的常識であり、実態が透明性を欠く点も知られる」と現状を報告している。(注20)

 2009年7月27日朝刊の社説「日米同盟の信頼向上こそ拡大抑止の要」において、「集団自衛権の解釈変更も信頼向上に欠かせない」と日米同盟の実質的強化をするように主張している。(注21)

 2009年7月29日朝刊の社説「09衆院選政策を問う 民主党の外交・安全保障政策はあいまいすぎる」において、「外交・安全保障政策に関する限り、政権公約や政策集の記述は文字羅列にすぎない。」と激しく非難している。(注22)

 2009年10月11日の社説「日中韓は東アジア共同体を語ったが」において、「日韓、日中の間には未解決の領土問題がある。特に中国は海軍力を軸に急ピッチで増強している。日本の安全保障には米国との同盟が決定的に重要だ。対米関係を一段と強固にする姿勢が無ければ、対アジア外交はおぼつかない。」と、アメリカとの同盟強化を訴えている。(注23)

 

 

 

 

 

注1          2000年3月8日

注2          2001年3月18日

注3          2001年9月4日         

注4          2001年12月24日

注5          2003年3月29日

注6          2004年1月14日

注7          2004年5月2日

注8          2004年7月1日

注9          2004年10月5日

注10          2004年11月9日

注11          2004年12月11日

注12          2007年7月8日

注13          2007年2月28日

注14          2007年3月2日

注15          2007年6月23日

注16          2008年5月16日

注17          2008年5月13日

注18          2008年6月26日

注19          2009年3月1日

注20          2009年7月19日

注21          2009年7月27日

注22          2009年7月29日

注23          2009年10月11日

 

 

 

 

 

第6章 オピニオン・リーダーたちの安全保障論

 

 

 

 

 

田久保忠衛 杏林大学教授の主張

 

 自衛隊を国軍と位置づけ、日米同盟を双務化する、具体的には憲法改正、集団自衛権の行使をすることで普通の独立国として国際発言力も増すとしている。これは「普通の民主主義国」であり、「親米ナショナリスト」こそが、日本の安全と誇りを保つ唯一の道だと主張している。(注1)

 

 

 

 

北岡伸一氏の主張

 

 北岡伸一・東京大学教授は2001年1月5日の読売新聞朝刊において、日本の今後を「『普通の国』化をさらに進めることだろう。安全保障政策についてみてみると、いかなる国も、自国の防衛を第一に、地域の安定を第二に、世界の安定を第三の課題とする。ところが日本では世界安定のためのPKOや、地域の安定のためのガイドラインができたものの、自国の防衛のための準備が意外に欠けている。」と主張している。(注2)

 

 

 

 

秋山昌廣氏の主張

 

 秋山昌廣(大蔵省主計官、東京税関長、防衛庁防衛局長、防衛庁事務次官)氏は読売新聞2000年2月24日朝刊で「安保、自立戦略持つ責任」と題し、「米は常に正しい判断すると言えない。特にアジアの特性といったものをどこまで理解しているのか。西洋流の白黒の方針をすぐ持ち込む可能性もある。日米安保の一翼たる日本はこの体制の半分の責任を持っている。米国とは異なる。自立したアジアの視点にたった安全保障戦略を確立して米国と実のある論議をしてこそ、日米安保はその機能を良く発揮すると考える」と、考えている。(注3)

 

 

 

 

富沢暉氏の主張

 

 元・陸上自衛隊陸上幕僚長の富沢暉氏は2001年9月19日の読売新聞朝刊において、「自衛隊が国内で武器を使用できるのは防衛出動と治安出動、それに弾薬庫警備にあたる場合だけだ。つまり、武器使用を伴って基地や駐屯地周辺を部隊警備にあたるという任務は、奇妙なことに認められていないのである。例えば防衛庁のある市ヶ谷駐屯地の警備は、施設管理権によって防衛庁会計課の責任で実施されている。」と、日本の奇妙な防衛政策・法体制に言及、また「軍事協力の本質はお互いの軍隊が流血の可能性というリスクを分担するところにある。」と言及、同盟の本質を突いている。そして「現在の日本がなすべきことは一つしかない。それは『集団安全保障』(集団自衛権を含む)にかかわる武力行使を認めるよう憲法解釈を改める、と政府が内外に宣言し、直ちに国会で議論し、その了解を得ることである。」と、主張している。(注4)

 

 

 

 

松岡宇直氏の主張

 

 松岡宇直(防衛研究所客員研究員、元読売新聞記者)氏は2001年11月15日の読売新聞朝刊において、「内閣法第6条の閣議にかけて決定した方針に基づいて、首相は初めて行政各部を指揮監督できることになっている。だが、これではテロに対処できない。機動的な指揮権が首相に与えられるべきだ」と、「首相権限強化不可欠」を主張している。(注5)

 

 

 

 

 

佐瀬昌盛氏の主張

 

 佐瀬昌盛・拓殖大学教授は2002年1月23日の読売新聞朝刊において、「相互確証破壊理論の再来はあり得ない。」、「この理論はソ連消滅で役割を終えた」、「MDの信頼性の高まりは、間違いなく攻撃用ミサイル兵器の価値下落に通じるからだ」と主張、「ミサイル防衛前提の時代」になる、としている。(注6)

 

 

 

 

 

猪口孝氏の主張

 

 猪口孝・東京大学教授は2002年4月18日の読売新聞朝刊において、「日本は国際紛争解決のための力の行使を専守防衛以外に自己抑制してきた。これは20世紀後半に、かつてない長い平和を日本にもたらす一つの大きな力だった。」、「日本外交は、人間の業とでもいうべき軍備を縮小し、軍備管理していくことを全面的に突出させなければならない。」、「いくつかの国がミサイル防衛で軍備競争を激化させる一方、安全保障を求めて多くの国家が核ミサイルを保有・拡大に走るというシナリオも懸念される。このシナリオを阻止する方向が日本の軍縮外交の基本でなければならないだろう。」と主張している。情勢判断が甘く、理想論である。(注7)

 

 

 

 

 

新井弘一氏の主張

 

 新井弘一・杏林大学教授(元外務省情報調査局長、元ソ連公使、元東ドイツ大使)は2002年9月12日の読売新聞朝刊で「戦略ある外交、再生の道は」と題し、「わが国では外交、国防の知識は政治家になる必要条件となっていない。官僚側が『政治主導』に甘んじて、プロ集団としての自覚と使命感を放棄し、時の政治家に迎合して自己防衛をはかるとしたら、双方共倒れとなり、日本には明日はないだろう。」、「外務省に求められるのは信頼の回復だが、そのためには高いモラルとともに機略豊かな外交戦略を磨き、国益にこたえなければならない。」、「政治も、また国民の意識も経済唯一主義につかった積年の惰性から脱皮し、外交に目を開かなければならない。」と主張している。(注8)

 

 

 

 

 

松村昌広氏の主張

 

 松村昌広・桃山学院大学教授は2003年4月2日の読売新聞朝刊において、「空爆能力保有、選択肢の一つ」と題し、「現時点で(MDを)配備を目指すにしても、技術、予算、運用の各面で課題が山積している。」、「MDは中国の核戦力に対して配備するのがいいのではないか。いま考えておかなければいけないのは北朝鮮にミサイルを撃たせない戦略である。そのために必要な軍事的選択肢は、対地攻撃能力の保有だろう。」と、当然の主張をしている。(注9)

 

 

 

 

 

 

栗山尚一氏の主張

 

 栗山尚一(元外務省事務次官)氏は2003年5月29日の読売新聞朝刊において、「憲法9条と常識、両立探れ」と題し、「改憲論者ではない。しかし、政府の憲法解釈は、わが国が自らの安全を確保し、世界平和に貢献していく上で大きな障害になっている。」と主張している。(注10)

 

 

 

 

 

 

江畑謙介氏の主張

 

 江畑謙介(軍事評論家)氏は2003年12月29日の読売新聞朝刊において、「自衛隊派遣は軍事常識で」と題し、「派遣の規模をある程度設定するのは必要だが、基本計画に示した数値を金貨玉条として、それを超えるのは絶対に許さないというような論議をするなら、状況によっては、派遣された自衛隊が極めて危険な状況に直面する可能性もある。」と主張している。(注11)

 

 

 

 

 

 

兵藤長雄氏の主張

 

 兵藤長雄・東京経済大学教授(元ベルギー大使)は、2000年7月18日の朝日新聞朝刊において、「NMDの実用化は中国を核兵器近代化計画の抜本的な見直しに追い詰め、核増強の口実を与えることにならないか。日本にとって、沈黙するにはあまりにも重大な問題である。少なくとも懸念の表明が必要でないか。」と述べている。(注12)

数十年前から中国派核兵器近代化、核戦力に力を入れておりNMDは関係が無い。

 

 

 

 

 

 

田中明彦氏の主張

 

 田中明夫・東京大学教授は2000年5月2日の朝日新聞朝刊において「改憲し実質的な安保論議を」と題し、「私の改憲論はきわめて簡明なものである。つまり憲法第9条2項の削除のみ、である。全くの偽善的文章である。」と、主張している。また、2006年1月9日の読売新聞朝刊においては、「9・11小泉外交 近隣重視の『見逃し三振』」と題し、靖国神社問題などの変更で「近隣外交重視を打ち出していればよかった。」と主張している。(注13)

 近隣諸国である中国、韓国、北朝鮮は国家戦略として日本封じ込め戦略を取っているので近隣諸国に対する無駄な配慮はやめた方が賢明である。

 

 

 

 

 

 

小川伸一氏の主張

 

 小川伸一・防衛研究所研究員は2003年6月11日の朝日新聞朝刊において、「核不拡散『非保有国』の安全強化を」と主張している。(注14)

 できるものなら既にやっていることである。

 

 

 

 

 

 

川勝千可子氏の主張

 

 川勝千可子・防衛研究所研究員は2003年6月20日の朝日新聞朝刊において、「イラク戦争『攻撃優位時代』の危うさ」を主張している。(注15)

 攻撃優位はいつの時代も変わらず、それに対応するのが国家の勤めである。

 

 

 

 

 

 

小池百合子氏の主張

 

 小池百合子・自民党代議士は2003年7月18日の朝日新聞朝刊において、「自衛隊派遣 迷彩服脱ぎ、まず白衣で」と主張している。(注16)

 

 

 

 

 

 

山田宏弥氏の主張

 

 山田宏弥・日本航空機長組合渉外部長は2004年2月24日の朝日新聞朝刊において、「民間航空 軍事利用は認められない」、「陸海空港湾組合20が(軍事利用を)反対(している)」と主張している。(注17)

 労働組合が反対しても戦争は防げず、戦争が起こった以上は早期に終結させる必要があるので、数少ない自衛隊基地以外にも税金を投じて数多く作った民間空港を利用するのが当然である。

 

 

 

 

 

 

水島朝穂氏の主張

 

 水島朝穂・早稲田大学教授は2004年8月14日の朝日新聞朝刊において「武器輸出見直し論 本音に屈せず禁輸継続を」と題し、「軍事に関する『本音の突出』を抑えてきたこの国の半世紀は、憲法9条に基づく厳格な平和主義の規制を緩和し続けた国である。」、「MD開発を円滑にするために3原則を見直し、米国に武器技術を移転してもいいものだろうか。そもそもMDは冷戦後の軍需産業に巨大な需要を生み出す『打ち出の小づち』なのである。」と主張している。(注18)

 

 

 

 

 

 

伊藤博氏の主張

 

 伊藤博・陸上自衛隊3等陸佐は2004年10月16日の朝日新聞朝刊において「防衛大綱 陸自は増員でなく減員を」と題し、「重大危機でもないのに、『国際貢献』を名目にした増員は疑問だ。テロ対策にしても訓練に加えるか、対テロ専門部隊を設け、現有兵力で対処すべきだ。専守防衛という国是を考慮すれば減員こそが必要である。他国をみると、陸軍はカナダが二万人弱、ニュージーランドが5千人弱で国際貢献している。英国でも11万人強、イスラエルにしても13万人弱だ。陸自が有効な抑止力になるとは思えない。自衛隊の前身の警察予備隊が創設された時の定員7万5千人がいれば、兵器や装備も改善されているので国内警備も国際貢献も十分果たせるはずだ。防衛庁には予算を削減し英国病を克服したサッチャー元首相のような洞察力と勇断が求められている。」と主張している。

 同盟国に囲まれた安全な国と日本を同列に語る愚を犯している。イスラエルは敵国に囲まれているがわずか数百万の人口しかない、面積の極めて小さい国である。

 サッチャーは保守政治家で、夜警国家に戻そうとした。英国病とはリベラル政策による肥大化した一般公務員天国のことであり、軍事は関係ない。(注19)

 

 

 

 

 

 

畠山襄氏の主張

 

 畠山襄(通産省航空機武器課長、通産省貿易局長、通産省審議官、国際経済交流財団会長)氏は、2004年12月11日の朝日新聞朝刊において「武器輸出 緩和はMD以外認めるな」と題し、「平和国家として高い志掲げ、武器輸出を禁止してきたのだ。国際的に平和国家日本の旗印を高く掲げ続けていくためにも、緩和はMD関連に絞り、他は拡大しないことが肝要だ。」と、主張している。(注20)

 

 

 

 

 

 

大林稔氏の主張

 

 大林稔・龍谷大学教授は、2006年2月8日の朝日新聞朝刊において「ODA戦略『国益』で援助論じるな」と、主張している。(注21)

 税金でODAを実施する以上、国益を考えるのが国民の為である。

 

 

 

 

 

 

布施広氏の主張

 

 布施広・毎日新聞北米総局記者は2000年7月7日の毎日新聞朝刊において「NMD配備 勇気もって決定延期を」と主張している。(注22)

 

 

 

 

 

 

前田博之氏の主張

 

 前田博之・毎日新聞社会部記者は2000年8月9日の毎日新聞朝刊において「発足50年 岐路に立つ自衛隊」と題し、「米国の要請に流されつつあるのが実情」と主張している。(注23)

 

 

 

 

 

 

松本杏氏の主張

 

 松本杏・毎日新聞鳥取支局記者は2006年12月12日の毎日新聞朝刊において「今、なぜ愛国心」と題し、「広がる『格差』から目をそらさせるため、『国と郷土』を愛するというソフトな言い回しで国民をまとめあげようとしているのでは。」と、主張している。(注24)

 

 

 

 

 

 

勝股秀通氏の主張

 

 勝股秀通・読売新聞記者は2004年11月18日の読売新聞朝刊において「日本の防衛力『数』が先行する新大綱論議」と題し、「一方、消滅した脅威は、極東ロシア軍による北海道への本格的な上陸侵攻の可能性だろう。」とする一方で、「江陵事件」をはじめとした「新たな脅威であるテロやゲリラへの対応も、ものいうのは人の力だ。窮迫した国家財政から防衛費の削減も例外ではない。しかし、それは大幅な人員削減ではなく、時代遅れとなった90式戦車を小型の装輪タイプに転換するなど、装備の新規導入や見直しこそ知恵を絞るべきだろう。」と主張している。また、2009年12月12日の読売新聞朝刊では「普天間漂流 平和の均衡崩す恐れ」と題し、「中国は海空軍とミサイル戦力を中心に軍事力を増強、今年の国防費は2000年の4倍に達し、北朝鮮は核兵器とミサイル開発で地域の火種となっている。中国が領有権を主張する尖閣諸島もあり、沖縄は、地政学的にも戦略的にも枢要な場所であることが鮮明になっている。」とし、「本来なら、海兵隊の削減やグアム移転を論議するのに合わせ、沖縄への自衛隊の配備も検討しなければおかしい。沖縄に駐屯する陸自の兵力は2000人足らず、海自には満足な港湾もない。民航機と那覇空港を共用する空自は、約20機のF15が常駐するだけ。この現状を放置したまま沖縄海兵隊の主要部隊がグアムに下がれば、周辺国に力の空白というシグナルを送るだけだ」と、指摘している。(注25)

 

 

 

 

 

 

岡本行夫氏の主張

 

 岡本行夫・岡本アソシエイツ代表(元外務省北米第1課長)は2009年8月22日の読売新聞朝刊「09衆院選」において、「安保政策の選択の幅は非常に狭い。ありうるのは非武装中立、武装中立、同盟路線の三つだ。理論的には集団安全保障もあるが、現在の東アジアのように体制、軍事力、基本的価値観が異なる国家間では成り立ちえない。では三つの選択肢のうち、どれを取るのか。非武装中立は国民の数%しか支持していない。武装中立のためには自衛隊を飛躍的に増強させ、さらに核武装しないと、周りの国に対抗できない。となると同盟路線しかない。組む相手は、消去法で行くと、自由と民主主義という価値観を共有するアメリカしかない。」と主張している。(注26)

 

 

 

 

 

 

注1 田久保忠衛『新しい日米同盟』PHP研究所

注2 読売新聞朝刊 2001年1月5日

注3 読売新聞朝刊 2000年2月24日

注4 読売新聞朝刊 2001年9月18日

注5 読売新聞朝刊 2001年11月15日

注6 読売新聞朝刊 2001年1月23日

注7 読売新聞朝刊 2002年4月18日

注8 読売新聞朝刊 2002年9月12日

注9 読売新聞朝刊 2003年4月2日

注10 読売新聞朝刊 2003年5月29日

注11 読売新聞朝刊 2003年12月29日

注12 朝日新聞朝刊 2000年7月18日

注13 朝日新聞朝刊 2000年5月2日

注14 朝日新聞朝刊 2003年6月11日

注15 朝日新聞朝刊 2003年6月20日

注16 朝日新聞朝刊 2003年7月18日

注17 朝日新聞朝刊 2004年2月24日

注18 朝日新聞朝刊 2004年8月14日

注19 朝日新聞朝刊 2004年10月16日

注20 朝日新聞朝刊 2004年12月11日

注21 朝日新聞朝刊 2006年2月8日

注22 毎日新聞朝刊 2000年7月7日

注23 毎日新聞朝刊 2000年8月9日

注24 毎日新聞朝刊 2006年12月12日

注25 読売新聞朝刊 2004年11月18日

注26 読売新聞朝刊 2009年2月28日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世論への影響

 

 内閣府大臣官房政府広報室による自衛隊・防衛問題に関する世論調査では、自衛隊の防衛力について、平成5年度(1993年)では、「増強したほうがよい」が6,3%、「今の程度でよい」が66,2%、「縮小したほうがよい」が15,3%、「わからない」が12,1%となっている。大半が現状維持を望んでいるということになる。平成8年(1996年)では、「増強したほうがよい」が7,5%、「今の程度でよい」が64,3%、「縮小したほうがよい」が15,5%、「わからない」が12,8%である。この調査からわかるのは、この時期の世論は自衛隊の防衛力に関心が薄いということである。

 平成11年(1999年)の調査では、「増強したほうがよい」が13,5%、「今のままでよい」が66,1%、「縮小したほうがよい」が8,7%、「わからない」が11,6%となっている。北朝鮮情勢が影響して、「増強」が増加し、「縮小」が減少しているが、大半は関心がないようである。

 防衛費の規模については、平成5年度では「増額したほうがよい」が6,2%、「今の程度でよい」が58,5%、「減額したほうがよい」19,7%、「わからない」が15,6%となっている。平成8年度では「増額したほうがよい」が7,4%、「今の程度でよい」が56,0%、「減額したほうがよい」が21,9%、「わからない」が14,7%となっている。それほどの変化はないが、「増額したほうがよい」と、「減額したほうがよい」の二極分化のはじまりが垣間見える。平成11年度では、「増額したほうがよい」10,7%、「今の程度でよい」が61,7%、「減額したほうがよい」が13,9%、「わからない」が13,7%となっている。やはり、北朝鮮情勢が影響してか、「増額したほうがよい」が増加し、「減額したほうがよい」が減少している。しかし、「今の程度でよい」が61,7%とは、無関心が強いことを痛感させられる。

 世論は一部の関心の強い層と、大半の無関心層に分化され、新聞、オピニオンは、関心のある人間にしか作用していないことがあるといえる。

 

 

 

 

 

参考文献

 

田中明彦『安全保障』読売新聞社

田久保忠衛『新しい日米同盟』PHP研究所

国際戦略研究所『ミリタリー・バランス』1995-1996

警察庁『焦点 第269号  警備警察50年 現行警察法施行50周年記念号』

読売新聞社大阪社会部『三菱銀行事件の42時間』読売新聞社

岡崎久彦『国家は誰が守るのか』徳間書店

志方俊之『極東有事』クレスト社

伊藤鋼一『警視庁特殊部隊の真実』大日本絵画

安全保障研究会『新仮想敵国』安全保障研究所・出版部

野木恵一『艦載兵器ハンドブック 改訂第2版』海人社

首相官邸『安全保障と防衛力に関する懇談会報告書』(平成25年)

防衛省『戦闘機の生産技術基盤の在り方に関する懇談会 中間取りまとめ』

『日本の防衛 防衛白書』昭和51年-平成25年

『東アジア戦略概観』2003-2013

『ANNUAL REPORT TO THE PRESIDENT AND THE CONGRESS 2003』DONALD H.RUMSFELD SECRETARY OF DEFENSE

『ANNUAL REPORT TO THE PRESIDENT AND THE CONGRESS 2000』WILLIAM S.COHEN SECRETARY OF DEFENSE

『THE COMING CONFLICT WITH CHINA』RICHARD BERNSTEIN AND ROTH H. MUNRO