現代日本の安全保障とマス・メディア90小泉政権2

2001年9月11日、ニュー・ヨーク市の超高層ビル、ワールド・トレード・センターにボストン発ロサンゼルス行アメリカン航空11便ボーイング767機と、ボストン発ロサンゼルス行ユナイテッド航空175便ボーイング767機が突入した。

ワールド・トレード・センターは激しく炎上し、崩落した。

同時にワシントンD.C.近郊の国防省(ペンタゴン)にワシントンDC発ロサンゼルス行アメリカン航空77便ボーイング757機が突入し、ペンタゴンの一部が破壊、炎上した。

ピッツバーグ近郊ではニュー・ヨーク発サン・フランシスコ行ユナイテッド航空93便ボーイング757機が墜落した。

ほぼ同時に4件のハイジャックが発生し、乗っ取られた燃料満載の旅客機はスーサイド・アタック・テロに使われた。これら事件で2973人が死亡した。

 

 犯人はサウジ・アラビアの財閥の子息で、1979年のソ連のアフガニスタン侵攻に立ち上がり戦ったイスラム聖戦士(ムジャヒディン)のオサマ・ビン・ラディンと、オサマ・ビン・ラディン率いるテロ・ネットワーク組織「アル・カイダ」と断定された。

 

オサマ・ビン・ラディンと「アル・カイダ」は、1993年2月のニュー・ヨーク市ワールド・トレード・センター地下駐車場爆破テロ事件、1998年8月のケニアの首都ナイロビのアメリカ大使館とタンザニアの首都ダルエスサラームのアメリカ大使館に対する連続爆破テロ事件、2000年10月のイエメン・アデン港に停泊中の合衆国海軍駆逐艦「コール」への小型ボートでのスーサイド・アタック・テロ事件の犯人と断定されていた。

 

 ジョージ・ウォーカー・ブッシュ大統領は2001年9月11日、「連邦非常事態対応計画」の発動を指示、9月12日には一連のテロ事件を「戦争行為」であるとの声明を発表した。9月14日にはブッシュ大統領が「国家緊急事態」を宣言し、連邦議会上院、下院は対テロ軍事力行使を授権する決議を採択した。9月15日、ブッシュ大統領は「戦争状態」にあると宣言した。

 

 9月19日、小泉純一郎内閣総理大臣は、テロとの闘いを日本自らの安全確保の問題と認識して主体的に取り組む、同盟国であるアメリカ合衆国を強く支持し、アメリカ合衆国をはじめとする世界の国々と一致結束して対応する、日本の断固たる決意を内外に明示することができる具体的かつ効果的な措置をとり、これを迅速かつ総合的に展開していくとした。

 

さらに7項目の「当面の措置」を発表した。「当面の措置」は、

 

1、安保理決議1368号において国際の平和及び安全に対する脅威と認められた今回のテロに関連して措置をとる米軍等に対して、医療、輸送・補給等の支援活動を実施する目的で、自衛隊を派遣する目的で所要の措置を早急に講ずる。

 

2、日本における米軍施設・区域及び日本の重要施設警備を更に強化するため所要の措置を早急に講ずる

 

3、情報収集のための自衛隊艦艇を速やかに派遣する。

 

4、出入国管理等に関し、情報交換等の国際的な協力を更に強化する。

 

5、周辺及び関係諸国に対して人道的・経済的その他の必要な支援を行う。その一環として、今回の非常事態に際し、米国に協力するパキスタン及びインドに対して緊急の経済支援を行う。

 

6、避難民の発生に応じ、自衛隊による人道支援の可能性を含め、避難民支援を行う。

 

7、世界および日本の経済システムに混乱が生じないよう、各国と協調し、状況の変化に対応し適切な措置を講じる。

 

の以上である。

 

9月20日、ブッシュ大統領は上院、下院両院合同会議で演説をおこない、アフガニスタン・タリバン政権に対し、「アル・カイダ」指導者全員の引き渡し、すべての外国人の解放と保護、テロリスト訓練キャンプの閉鎖、すべてのテロリストの引き渡し、訓練キャンプへのアクセスの確保、を要求した。また、この要求には交渉の余地はなく、テロ組織を支援する国にはアメリカ合衆国に敵対する国と位置づけると述べた。

 

国連安全保障理事会は「米国におけるテロ攻撃に対する非難決議」第1368号を採択した。これによって個別自衛、集団自衛の固有の権利が認められた。

 

 北大西洋条約機構は緊急理事会を開催、北大西洋条約第5条に規定された集団自衛権の発動対象になるとの見解で一致した。

 

また、9月28日には国連安全保障理事会で「対テロ資金供与防止・資産凍結等に関する決議」第1373号が決議された。この決議では、テロ行為のための資金供与等の犯罪化、テロリストの資産凍結、テロリストへの金融資産等への提供の禁止、テロ資金供与防止条約等のテロ防止関連諸条約の締結促進が国連加盟国に求められた。

 

アフガニスタン・タリバン政権はアメリカ合衆国の要求を拒否したため、アメリカ合衆国は武力行使の準備を進め、パキスタンに領空使用や支援を求めた。ムシャラフ大統領は協力を表明した。

 

2001年10月7日、アメリカ合衆国軍、イギリス軍は「不朽の自由」作戦を発動、アフガニスタン・タリバン政権に対して攻撃を開始した。爆撃機、戦闘爆撃機、戦闘機による爆撃、特殊部隊による作戦、反タリバン・北部同盟との共同作戦によって12月7日、タリバン政権は崩壊した。しかし、タリバンや「アル・カイダ」を殲滅したわけでなく、対テロ戦争は続くこととなる。

 

2001年9月27日に召集された第153回国会において、小泉純一郎内閣総理大臣は9月11日の同時多発テロ事件への対応を所信表明演説で述べた。衆議院、参議院では「米国における同時多発テロ事件に関する決議案」が採択された。

 

 10月5日には、「平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法」、テロ対策特別措置法が内閣から提出された。同時に内閣から、「自衛隊法の一部を改正する法律案」、「海上保安庁法の一部を改正する法律案」も提出された。また、「国の防衛及び自衛隊による国際協力に関する基本法案」が衆議院に提出された。16日には衆議院で自由民主党、公明党、保守党による3会派共同提出による修正を加えた修正議決が行われ、付帯決議が付された。29日には参議員本会議で可決され、成立した。

 

 内閣から提出されたテロ対策特別措置法は、

 

1、          政府は、この法律に基づく協力支援活動、捜索救助活動、被災民救援活動、その他必要な措置(対応措置)を適切かつ迅速に実施することとし、対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力行使に当たるものであってはならず、我が国領域並びに戦闘行為が行われていない公海(その上空を含む)及び外国の領域(当該外国の同意がある場合に限る)において実施するものとすること。

 

2、          内閣総理大臣は、協力支援活動、捜索救助活動又は被災民救助活動のいずれかを実施することが必要であると認めるときは、当該対応措置を実施すること及び対応措置に関する基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならず、また、対応措置を外国の領域で実施する場合には、当該国政府と協議して、実施する区域の範囲を定めるものとすること。

 

3、          内閣総理大臣等は、その所管に属する物品(武器、弾薬を除く)につき、諸外国の軍隊等又は国際連合等から当該物品の無償貸付又は譲与を求める旨の申出があった場合において、当該活動の円滑な実施に必要であると認めるときは、無償で貸し付け、又は譲与することができるものとすること。

 

4、          内閣総理大臣は、基本計画の決定又は変更があったときは、その内容を、基本計画に定める対応措置が終了したときは、その結果を、遅滞なく、国会に報告しなければならないこととすること。

 

5、          協力支援活動等の活動の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の自衛官は、自己等又はその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命等の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、武器を使用することができることとすること。

 

6、          なお、この法律は、公布の日から施工するものとし、施工の日から起算しtr2年を経過した日に、その効力を失うこと。ただし、2年を経過後においても必要があるときは、別の法律により、2年以内の期間を定めて、効力を延長できるものとすること。

 

が概要である。自由民主党、公明党、保守党の3会派共同提出修正案によって、20日以内の国会への付議、国会で不承認の議決があった場合の速やかな終了、物品輸送に外国における武器・弾薬の陸上輸送を含まないものとすること、というように修正され議決された。

 

 

 2001年10月29日、テロ対策特別措置法が成立、11月2日に公布、施行され海上自衛隊の護衛艦「くらま」、「きりさめ」、補給艦「はまな」が11月9日、インド洋方面に派遣された。11月25日にはさらに護衛艦「さわぎり」、補給艦「とわだ」、掃海母艦「うらが」が派遣された。